東京国税局が作成している「個人課税部門における書面添付制度の運用に当たっての基本的な考え方及び事務手続き等」は、税理士法に定められた書面添付制度の実務運用を理解するうえで極めて重要な事務運営指針です。
本記事では、平成21年4月24日付(最終改正:令和6年4月26日)の同指針について、
制度趣旨から、書面添付制度適用者の管理、意見聴取の実施方法、調査移行判断の考え方に至るまで紹介します。
特に、
- 書面添付がどのように調査選定や調査省略に影響するのか
- 意見聴取はいつ・どのように行われ、何が問われるのか
- 「記載が不十分な添付書面」が実務上どのように扱われるのか
といった点は、税務調査対応や書面添付の実践に直結する重要論点です。
書面添付制度を「形式的な制度」にとどめず、
税務執行の簡素化・円滑化という本来の趣旨に沿って活用するための実務的視点を提供します。
税理士の方はもちろん、将来税理士を目指す方にとっても必読の内容です。
以下、平成21年4月24日付の東京国税局個人課税課「個人課税部門における書面添付制度の運用に当たっての基本的な考え方及び事務手続き等について」(事務運営指針。東局課一個5-19、最終改正令和6年4月26日東局課一個2-37)の紹介です。
第1章 書面添付制度の運用に当たっての基本的な考え方
1 制度の適正・円滑な運用及び普及・定着の推進
書面添付制度は、税務代理する税理士等に限らず、広く税理士等が作成した申告書について、それが税務の専門家の立場からどのように調製されたかを明らかにすることにより正確な申告書の作成及び提出に資するとともに、税務当局が税務の専門家である税理士等の立場をより尊重し、税務執行の一層の円滑化・簡素化に資するとの趣旨によるものであるから、本制度の執行に当たっては、制度の理解を更に深め、その趣旨を踏まえた適正・円滑な運用を行い、制度の普及・定着を図る。
2 書面添付制度適用者の的確な管理
申告書(所得税及び復興特別所得税の確定申告書又は消費税及び地方消贄税の確定申告書をいう。以下同じ。)に添付書面の添付がある納税者については、過去の申告事績及び調査事績並びに資料情報に加え、添付書面の記載事項も踏まえて的確な管理を行う。
3 書面添付制度を活用した調査事務の効率的運営
添付書面は、申告審理や準備調査に積栖的に活用するほか、添付書面の記載事項のうち確認を要する部分については、意見聴取の際に十分聴取するよう努める。
なお、書面添付制度は、税務当局が税務の専門家である税理士等の立場をより尊重し、税務執行の一層の円滑化・簡素化に資するとの趣旨によるものであることから、添付書面の記載事項がその趣旨にかなったものと認められる場合には、じ後の調査の要否の判断において積梃的に活用し、調査事務の効率的な運営を図る。
第2章 書面添付制度に係る事務手続及び留意事項
第1節 書面の保管
税務代理権限証書及び添付書面(以下「書面等]という。)については、原本を申告書に添付して課税台帳に編てつするとともに、収支内訳書又は青色申告決算書に、書面の提出があることを示すゴム印を押印することなどにより、書面添付制度に係る事務処理が的確に実施できるよう配意する。
第2節 意見聴取の実施
1 調査通知前の意見聴取の実施
統括官等(個人課税部門の特別国税調査官、統括国税調査官、情報技術専門官、国際税務専門官、審理専門官又は特別記帳指導官をいう。以下同じ。)は、申告書に添付書面の添付がある納税者に対し実地の調査等を行おうとする場合には、国税通則法第74条の9に規定する事前通知などを行わないこととしたときを除き、同法第65条第6項に規定する調査通知(以下「調査通知」という。)を行う前に税務代理権限証書に記載された税理士等に対し添付書面の記載事項について意見聴取を行う。
なお、「申告書の作成に関する計算事項等記載書面」の第1面「1 提示を受けた帳簿書類に関する事項」欄から第3面「5 総合所見」欄又は「申告書に関する審査事項等記載書面」の第1面「1相談を受けた事項」欄から第3面「5総合所見」欄に全く記載がないものは、税理士法第33条の2第1項又は第2項に規定する記載事項が記載されていないものであり、添付書面に該当しないものであることから、そのような添付書面が添付されていたとしても補正依頼、意見聴取等を行う必要はないことに留意する。
おって、当該添付書面に該当しない事案について実地の調査等を実施する場合には、調査通知を行う際(調査通知を行わない場合は、税理士との接触の際)に添付書面に該当しない旨を説明し、じ後の適切な記載等が図られるよう指導する。
(注)譲渡所得又は山林所得を有する納税者に係る調査通知前の意見聴取を行う場合には、必要に応じて資産課税担当職員の同席を求めるなど、効率的な実施に配意する。
2 意見聴取の時期、方法
統括官等は、調査通知予定日の1週間から2週間前までに税務代理権限証書に記載された税理士等に対し意見聴取を行う旨を口頭(電話)で連絡し、意見聴取の日時、方法を取り決める。この場合、意見聴取は調査通知予定日の前日までに了することとし、原則として税理士等に来署依頼する方法により行う。また、添付書面の「事務処理欄」に意見聴取を行う旨を通知した日及び調査通知予定日を記入する。
(注) 1 税理士等が遠隔地に所在している場合など来署が困難な場合には、電話による意見の聴き取り又は文書による意見の提出によっても差し支えない。
2 意見聴取は、統括官等が行い、原則として調査担当者が同席する。
3 意見聴取に際しては、税理士等に対して、帳簿等の持参及び提示を求めない。
3 意見聴取の内容
意見聴取は、税務の専門家としての立場を尊重して付与された税理士等の権利の一つとして位置付けられ、添付書面を添付した税理士等が申告に当たって計算等を行った事項に関することや、意見聴取前に生じた疑問点を解明することを目的として行われるものである。
したがって、こうした制度の趣旨・目的を踏まえつつ、意見聴取により疑間点が解明した場合には、結果的に調査に至らないこともあり得ることを認識した上で、意見聴取の機会を積極的に活用し、例えば顕著な増減事項・増減理由や会計処理方法に変更があった事項・変更の理由などについて個別・具体的に質疑を行うなどして疑間点の解消等を行い、その結果を踏まえ調査を行うかどうかを的確に判断する。
なお、意見聴取における質疑等は、調査を行うかどうかを判断する前に行うものであり、特定の納税義務者の課税標準等又は税額等を認定する目的で行う行為に至らないものであることから、意見聴取における質疑等にのみ基因して修正申告書が提出されたとしても、当該修正申告書の提出は更正があるべきことを予知してされたものには当たらないことに留意する。
おって、意見聴取の過程において、じ後の申告や帳簿書類の備付け、記録及び保存に関して指導すべき事項が認められた場合には、意見聴取の際に、その内容等についてじ後の改善を図るよう税理士等に十分説明する。
4 意見聴取後の事務
調査担当者は、意見聴取が終了した後において、速やかに次の事項を別紙1 「応接簿(意見聴取用)」(以下「応接簿」という。)に記載して統括官等の決裁を了した後、着眼事項等兼チェックシートとともに個人調査関係書類つづりに編てつする又は着眼調査・事後処理事績票つづりに編てつすることにより適切に保管するとともに、応接簿の写しを個人課税第1部門統括官へ渡す。
なお、個人課税第1部門統括官は、応接簿の写しによりべ別紙2 「意見聴取事案総括表」を作成し、応接簿の写しとともに適切に保管する。
① 相手方、応接者、調査対象者、応接方法、応接日時
② 意見聴取した内容
③ 意見聴取した結果、税理士等に対して指導した事項
④ 調査への移行の有無及び理由
⑤ 別紙3 「意見聴取結果についてのお知らせ」の送付要否及び理由
⑥ その他参考となる事項
おって、行政文書ファイル名等は、次のとおりである。

5 意見聴取結果の税理士等への連絡
(1) 調査に移行しない場合
意見聴取を行った結果、調査の必要がないと認められた場合には、税理士等に対し「現時点では調査に移行しない」旨の連絡を、原則としで「意見聴取結果についてのお知らせ」により行う。ただし、次に掲げる場合に該当するときは口頭(電話)により行う。
なお、口頭(電話)により意見聴取結果を税理士等へ連絡する場合には、「意見聴取結果についてのお知らせ」を送付しない理由を併せて説明し、じ後の添付書面の適切な記載等が図られるよう指導することに留意する。
① 意見聴取を行ったことに基因して自主的に修正申告書が提出された場合又はじ後の申告や帳簿書類の備付け、記録及び保存に関して指導した事項がある場合
② 「申告書の作成に関する計算事項等記載書面」の第2面「3 計算し、整理した主な事項J欄及び第3面「5総合所見」欄又は「申告書に関する審査事項等記載書面Jの第2面「3審査した主な事項」欄及び第3面「4審査結果」欄に記載がない場合
③ ②に掲げる各欄の記載はあるが、明らかに記載に不備がある又は内容が具体性に欠けるなど、②に準ずると認められる場合
(注) 1 税理士等に対し「現時点では調査に移行しない旨」を連絡した場合であっても、その後申告書の内容等に対する新たな疑義が生じたときには、調査することを妨げるものではない。
その際、調査通知を行う場合には改めて意見聴取を行う。
2 「意見聴取結果についてのお知らせ」を送付した場合は、その事績を応接簿及び意見聴取事案総括表に記載するとともに、当該「意見聴取結果についてのお知らせ」(税務署控え)を応接簿の写し及び意見聴取事案総括表と併せて保管し、個人調査ファイルのある納税者は、じ後における処理の参考とするため、税務署控えの写しを個人調査ファイルに挿入する。
なお、口頭(電話)により意見聴取結果を連絡した場合においても、その事績を応接簿及び意見聴取事案総括表に記載することとするが、その際、じ後において連絡事項等が特定できるよう応接簿の適用欄に、連絡した相手方、連絡内容等を記載する。
(2) 調査に移行する場合
意見聴取を行った結果、調査の必要があると認められた場合には、納税者に対する調査通知を行う前に、税理士等に対し意見聴取結果とI調査に移行する」旨の連絡を口頭(電話)により行う。
なお、この場合において、税理士等に対する意見聴取結果の連絡と併せて税理士等に対する調査通知を行うこととしても差し支えない。
6 更正前の意見聴取
添付書面が添付された申告書について更正をすべき場合においては、税理士法第35条第2項に基づき、当該添付書面に記載されたところにより当該更正の基因となる事実について税理士等が計算し、整理し、若しくは相談に応じ、又は審査していると認められるときは、国税通則法第74条の11第2項に規定する調査結果の内容の説明を行う前までに、当該税理士等に対し、意見を述べる機会を与えなければならないことに留意する。




