以下は、特定非営利活動法人(NPO法人)である納税者(照会法人)からの「収益事業以外の事業から得た資金及び寄附により得た資金を暗号資産(ビットコイン等)に投資した場合の運用益には、法人税が課されないと考えてよいか。」という照会に対する広島国税局の口頭回答の決裁資料からの抜粋です。
1 前提条件
照会法人は、非収益事業(収益事業以外の事業をいう。)から生じた資金及び寄附により得た資金を、暗号資産(ビットコイン等)に投資(以下「本件取引」という。) している。
2 質問事項
本件取引で得た利益については、法人税法施行令第5条に規定する34の事業に該当しない(非収益事業に該当する)から、法人税が課されないと考えてよいか。
照会内容は、非収益事業から生じた資金と寄附により得た資金を暗号資産に投資する取引(本件取引)から得た利益に対して、法人税を課税されるかというものです。
照会法は、特定非営利活動法人など、「収益事業」から得た所得にしか法人税を課税されない団体であることが推察されます。そこで、本件取引から得た利益が「収益事業」に該当すれば法人税が課税され、該当しなければ課税されないということになります。
収益事業は、物品販売業、請負業など、以下に示している法令に定められた34業種に係る事業(その性質上その事業に付随して行われる行為を含む)で、継続して事業場を設けて行われるものに限定されています(法人税法2条13号、同法施行令5条)。
①物品販売業、②不動産販売業、③金銭貸付業、④物品貸付業、⑤不動産貸付業、⑥製造業、⑦通信業、⑧運送業、⑨倉庫業、⑩請負業、⑪印刷業、⑫出版業、⑬写真業、⑭席貸業、⑮旅館業、⑯料理店業その他の飲食店業、⑰周旋業、⑱代理業、⑲仲立業、⑳問屋業、㉑鉱業、㉒土石採取業、㉓浴場業、㉔理容業、㉕美容業、㉖興行業、㉗遊技所業、㉘遊覧所業、㉙医療保健業、㉚技芸教授業、㉛駐車場業、㉜信用保証業、㉝無体財産権の提供等業、㉞労働者派遣業
★収益事業のQ&Aについては、「関東信越国税局「収益事業Q&A」(法人税)」をご参照ください。★
照会の内容
本件取引から得た利益については、法人税法第2条13号、法人税法施行令5条に規定する収益事業に該当しないため、課税所得を構成しないことから、法人税が課税されないと考えてよいか。
回答要旨
前提条件からすれば、①本件取引は、非収益事業から生じた資金及び寄附により得た資金が原資であることから、②法人税法施行令第5条に規定する34の事業(付随事業を含む。)のいずれにも該当しないため、法人税は課されない。
なお、上記の回答は、照会法人が申し立てる各事実を前提とするものであり、前提となる事実関係が
異なることとなった場合には、上記回答と異なる課税関係となる可能性がある旨申し添える。
※ 照会法人が行っている事業が、収益事業に該当するか否かの判断は行っていない。
関係法令等
1 特定非営利活動促進法
(1) 特定非営利活動促進法(以下「促進法」という。)第1条(目的)は、「特定非営利活動を行う団体に法人格を付与すること並びに運営組織及び事業活動が適正であって公益の増進に資する特定非営利活動法人の認定に係る制度を設けること等により、ボランティア活動をはじめとする市民が行う自由な社会貢献活動としての特定非営利活動の健全な発展を促進し、もって公益の増進に寄与することを目的とする。」と規定している。
(2) 促進法第2条(定義)第2項は、「この法律において「特定非営利活動法人」とは、特定非営利活動を行ーことを主たる目的とし1の各号のいずれにも該当する、体であって、この法律の定めるところにより設立された法人をいう。」と規定している。
イ次のいずれにも該当する団体であって、営利を目的としないものであること。(1号該当)
(イ)社員の資格の得喪に関して、不当な条件を付さないこと。
(ロ) 役員のうち報酬を受ける者の数が、役員総数の三分の一以下であること。
ロその行う活動が次のいずれにも該当する団体であること。(2号該当)
(イ) 宗教の教義を広め、儀式行事を行い、及び信者を教化育成することを主たる目的とするものでないこと。
(ロ) 政治上の主義を推進し、支持し、又はこれに反対することを主たる目的とするものでないこと。
(ハ) 特定の公職(中略)の候補者(中略)若しくは公職にある者又は政党を推應し、支持し、又はこれらに反対することを目的とするものでないこと。
(3) 促進法第5条(その他の事業)第1項は、「特定非営利活動法人は、その行う特定非営利活動に係る事業に支障がない限り、当該特定非営利活動に係る事業以外の事業(以下「その他の事業」という。)を行うことができる。この場合において、利益を生じたときは、これを当該特定非営利活動に係る事業のために使用しなければならない。」と、また、同条第2項は、「その他の事業に関する会計は、当該特定非営利活動法人の行う特定非営利活動に係る事業に関する会計から区分し、特別の会計として経理しなければならない。」と規定している。
(4) 促進法第70条は、特定非営利活動法人は、法人税法その他法人税に関する法令の規定の適用については、同法第2条第6号に規定する公益法人等とみなす旨規定していることから、特定非営利活動法人は、収益事業を行う場合に限り、法人税の納税義務を負うことになる。
2 法人税法等
(1) 法人税法第4条は、「内国法人は、この法律により法人税を納める義務がある。ただし、公益法人等(中略)については、収益事業を行う場合(中略)に限る。」とし、法人税の納税義務者について規定している。
そして、法人税法第2条《定義》第6号において、公益法人等とは、別表第二に掲げる法人をいう旨、また、同条第13号において、収益事業とは、販売業、製造業その他の政令で定める事業で、継続して事業場を設けて行われるものをいう旨規定している。
(2) 法人税法施行令第5条《収益事業の範囲》第1項は、上記(1)に規定する政令で定める事業としては、物品販売業等の34の事業(その性質上その事業に付随して行われる行為を含む。)を限定列挙している。
(3) 法人税法施行令第6条《収益事業を行う法人の経理の区分》は、公益法人等及び人格のない社団等は、収益事業から生ずる所得に関する経理と収益事業以外の事業から生ずる所得に関する経理とを区分して行わなければならない。
3 法人税基本通達
法人税基本通達(以下「基本通達」という。)は、収益事業の範囲に関し、特に留意すべき事項について、その取扱いを定めている。
(1) 基本通達15-1-1 (公益法人等の本来の事業が収益事業に該当する場合)
公益法人等(中略)が令第5条第1項各号(収益事業の範囲)に掲げる事業のいずれかに該当する事業を行う場合には、たとえその行う事業が当該公益法人等の本来の目的たる事業であるときであっても、当該事業から生ずる所得については法人税が課されることに留意する。
(2) 基本通達15-1 -4 (事業場を設けて行われるもの)
法第2条第13号(収益事業の意義) の「事業場を設けて行われるもの」には、常時店舗、事務所等事業活動の拠点となる一定の場所を設けてその事業を行うもののほか、必要に応じて随時その事業活動のための場所を設け、又は既存の施設を利用してその事業活動を行うものが含まれる。したがって、移動販売、移動演劇興行等のようにその事業活動を行う場所が転々と移動するものであっても、「事業場を設けて行われるもの」に該当する。
(3) 基本通達15-1 -5 (継続して行われるもの)
法第2条第13号(収益事業の意義)の「継続して(中略)行われるもの」には、各事業年度の全期間を通じて継続して事業活動を行うもののほか、次のようなものが含まれることに留意する。
イ 例えば土地の造成及び分譲、全集又は事典の出版等のように、通常ーの事業計画に基づく事業の遂行に相当期間を要するもの
ロ 例えば海水浴場における席貸し等又は縁日における物品販売のように、通常相当期間にわたって継続して行われるもの又は定期的に、若しくは不定期に反復して行われるもの
(4) 基本通達15-1 -6 (付随行為)
令第5条第1項(収益事業の範囲)に規定する「その性質上その事業に附随して行われる行為」とは、例えば、公益法人等が収益事業から生じた所得を預金、有価証券等に運用する行為のように、通常その収益事業に係る事業活動の一環として、又はこれに関連して行われる行為をいう。
(5) 基本通達15-1 -7 (収益事業の所得の運用)
公益法人等が、収益事業から生じた所得を預金、有価証券等に運用する場合においても、当該預金、有価証券等のうち当該収益事業の運営のために通常必要と認められる金額に見合うもの以外のものにつき、収益事業以外の事業に属する資産として区分経理をしたときは、その区分経理に係る資産を運用する行為は、15-1 -6にかかわらず、収益事業に付随して行われる行為に含めないことができる。
(注) この場合、公益法人等(人格のない社団等並びに非営利型法人及び規則第22条の4各号に掲げる法人を除く。)のその区分経理をした金額については、法第37条第5項(公益法人等のみなし寄附金)の規定の適用がある。
(6) 基本通達15-1 -27 (請負業の範囲)
令第5条第1項第10号の請負業には、事務処理の委託を受ける業が含まれるから、他の者の委託に基づいて行う調査、研究、情報の収集及び提供、為替業務、検査、検定等の事業は請負業に該当する。
(7) 基本通達15-1-44 (周旋業の範囲)
令第5条第1項第17号の周旋業とは、他の者のために商行為以外の行為の媒介、代理、取次ぎ等を行う事業をいい、例えば不動産仲介業、債権取立業、職業紹介所、結婚相談所等に係る事業がこれに該当する。
(8) 基本通達15-2 -3 (収益事業に属するものとして区分された資産等の処理)
収益事業を開始した日において、令第6条(収益事業を行う法人の経理の区分)の規定により収益事業以外の事業に属する資産及び外部負債につき収益事業に属するものとして区分経理した場合における当該資産の額の合計額から当該外部負債の額の合計額を減算した金額を元入金として経理したとしても、当該金額は、資本金等の額及び利益積立金額のいずれにも該当しないことに留意する。
その後において、収益事業以外の事業に属する金銭その他資産につき収益事業に属するものとして区分経理した場合における当該金銭その他の資産の価額についても、同様とする。
(注) 収益事業に属するものとして区分経理した金額を、他会計振替額等の勘定科目により収益又は費用として経理した場合には、当該金額は益金の額又は損金の額に算入されない。
(9) 基本通達15-2 -4 (公益法人等のみなし寄附金)
公益法人等(非営利型法人及び規則第22条の4各号に掲げる法人を除く。)が収益事業に属する金銭その他の資産につき収益事業以外の事業に属するものとして区分経理をした場合においても、その一方において収益事業以外の事業から収益事業へその金銭等の額に見合う金額に相当する元入れがあったものとして経理するなど実質的に収益事業から収益事業以外の事業への金銭等の支出がなかったと認められるときは、当該区分経理をした金額については法第37条第5項(公益法人等のみなし寄附金)の規定の適用がないものとする。
国税局の回答は、本件取引は、寄附金及び非収益事業により獲得した資金の一部が原資であり、当該資金を暗号資産(ビットコイン等)に投資したとしても、収益事業に該当しないため、本件取引から得た利益は、収益事業に該当せず、法人税は課税されないというものです。
照会法人は、「事業場を設けて行われるもの」及び「継続して行われるもの」のいずれにも該当しないという見解のようですが、この2つの要件は字面ほど厳格に求められるものではないため、国税局も照会法人の見解を採用していません。
本件取引への当てはめ
1 特定非営利活動法人に対する課税について
公益法人等は、収益事業を行う場合に、当該事業に係る収益について納税義務が生じ、収益事業以外の部分については課税されないこととされている(法法4) 。
そして、特定非営利活動法人は、法人税法その他法人税に関する法令の規定の適用については、公益法人等とみなされるから、特定非営利活動法人は、収益事業を行う場合に限り、法人税の納税義務を負うことになる(促進法第70条)。
また、この場合の収益事業とは、販売業、製造業その他一定の事業で、継続して事業場を設けて営まれるものをいうとされている(法2十三)。
2 照会法人が行う取引の収益事業の該当性
(1) 照会法人の前提条件からすれば、本件取引は、寄附金及び非収益事業により獲得した資金の一部が原資であり、当該資金を暗号資産(ビットコイン等)に投資したとしても、法人税法施行令第5条第1項が規定する物品販売業等の34の事業に該当しない(収益事業に付随して行われるものでもない。) 。
したがって、照会法人が、本件取引から得た利益は、収益事業に該当せず、法人税は課税されない。
(2) なお、照会法人が行う事業が収益事業であるか収益事業以外の事業であるかについては、詳細な事実認定等が必要であるため、本案では検討できていない。
仮に、照会法人が行う事業が収益事業である場合〔筆者注:詳細はわかりませんが、照会法人は複数の事業を行っていることが推察されます。〕には、それを原資とした部分については、収益事業の付随事業であるとして、収益事業に該当し、法人税が課されることとなる。
3 その他
上記のとおり、照会法人が行う取引により得た利益は、収益事業に該当せず、法人税は課税されないが、照会法人は、「事業場を設けて行われるもの」及び「継続して行われるもの」のいずれにも該当しないとしているため、この点について補足する。
(1) 「事業場を設けて行われるもの」について
基本通達15-1 -4は、常時店舗、事務所等事業活動の拠点となる一定の場所を設けてその事業を行うもののほか、必要に応じて随時その事業活動のための場所を設け、又は既存の施設を利用してその事業活動を行うものが含まれるとの解釈を示している。
このことからすると、およそその事業の性質に応じて、事業活動上の拠点としての機能を持つものであればよく、通常、継続的に行われる事業であれば、よほどの事情がない限り「事業場を設けて行われるもの」に該当する。(コメ解説)
本件取引についてみると、暗号資産の投資のためのみに事務所等を設けてはいないが、照会法人はそもそも事業所を有しており、かつ、本件取引は単発ではなく、下記のとおり継続して行われるのであるから、「事業場を設けて行われるもの」に該当する。
(2) 「継続して行われるもの」について
基本通達15-1 -5は、法第2条第13号(収益事業の意義) の「継続して(中略)行われるもの」には、各事業年度の全期間を通じて継続して事業活動を行うもののほか、通常ーの事業計画に基づく事業の遂行に相当期間を要するもの、通常相当期間にわたって継続して行われるもの又は定期的に、若しくは不定期に反復して行われるものが含まれるとの解釈を示している。
暗号資産への投資は、通常、短期間・一回の取引であることはなく、本件取引についても、照会法人は、今後、暗号資産への投資を行っていくとのことであるから、「継続して行われるもの」に該当する。
以下の点に注意が必要です。
- 収益事業の資金を原資とする場合は課税対象になる
- 事実関係が変わると、課税関係も変わる可能性がある
- 暗号資産の種類によっては収益事業に該当する可能性を更に検討する必要がある
少なくとも、暗号資産の売買は「物品販売業」には該当しないという理解が国税側にあると考えてよいのでしょうか?
参考資料(ダウンロード可)
国税局決裁資料「収益事業以外の事業から得た資金及び寄附により得た資金を暗号資産(ビットコイン等)に投資した場合の運用益には、法人税が課されないと考えてよいか。」