相続税の財産評価をめぐって、評価通達によらない鑑定評価が許されるのはどのような場合か
この点について、国税不服審判所裁決令和7年1月10日は、最高裁令和4年4月19日判決の枠組みを踏襲しつつ、総則6項の適用が肯定される事案を追加しました。

納税者(請求人ら)が、相続により取得した不動産の価額を財産評価基本通達の定める方法により評価して相続税の申告をしたところ、原処分庁が、一部の不動産の価額は同通達の定めによって評価することが著しく不適当と詔められるとして、別途実施した鑑定による評価額に基づいて相続税の各更正処分等をしたのに対し、請求人らが原処分の全部の取消しを求めた事案で、納税者の請求が棄却されました。

国税不服審判所裁決令和7年1月10日は、評価通達によらない財産評価に基づく課税処分について、次のとおり、最高裁令和 4 年 4 月 19 日第三小法廷判決の判示を踏襲しています。

評価対象の財産に適用される評価通達の定める評価方法が適正な時価を算定する方法として一般的な合理性を有する場合においては、評価通達の定める評価方法が形式的に全ての納税者に係る全ての財産の価額の評価において用いられることによって、基本的には、実質的な租税負担の公平を実現することができるものと解されるのであつて、相続税法第22条の規定も租税法上の一般原則としての平等原則を当然の前提としていることに照らせば、特定の納税者あるいは特定の財産についてのみ、評価通達の定める評価方法以外の評価方法によってその価額を評価することは、原則として許されないものというべきである。

すなわち、課税庁が、特定の者の相続財産の価額についてのみ評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることは、たとえ当該価額が客観的な交換価値としての時価を上回らないとしても、合理的な理由がない限り、上記の平等原則に違反するものとして違法というべきである。

もっとも、相続税の課税価格に算入される財産の価額について、評価通達の定める方法による画ー的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がある場合には、合理的な理由があると認められるから、当該財産の価額を評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることが上記の平等原則に違反するものではないと解するのが相当である。

最終的には、次のとおり判断しました。

本件各取得・本件各借入れが行われたことにより、請求人らの本件相続税の負担は著しく軽減されているところ・・・本件各取得・本件各借入れは、請求人らの租税負担の軽減をも意図して行われたものといえることからすると、本件各不動産について、評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことは、本件各取得・本件各借入れのような行為をせず、又はすることのできない他の納税者と請求人らとの間に看過し難い不均衡を生じさせており、実質的な租税負担の公平に反するというべき事情があると認められる。


本件各鑑定評価額は、いずれも国家資格を有する不動産鑑定士により不動産鑑定評価基準に準拠した方法に基づいて算出されており、本件各不動産の本件相続開始日における客観的な交換価値としての時価を合理的に算定しているものと認められるから、本件各不動産の価額を本件各鑑定評価額により評価することは相続税法第22条に違反するものではない

そして・・・本件各不動産について、評価通達の定める方法による画ー的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事惰があるからく本件各不動産の価額を評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることには合理的な理由があると認められ、本件各不動産の価額を本件各鑑定評価額により評価することが租税法上の一般原則としての平等原則に違反するということはできない


これに基づき、当審判所において、請求人らの本件相続税の課税価格及び納付すべき税額を計算すると、本件各更正処分の各金額といずれも同額であると認められる。


また、本件各更正処分のその他の部分については、請求人らは争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。したがって、本件各更正処分はいずれも適法である。

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国税不服審判所裁決令和7年1月10日 総則6項 東裁(諸)令6第103号