記事の紹介

保育所が園児に対して夕食を提供した場合、
その対価に係る消費税の適用税率は軽減税率(8%)なのか、それとも標準税率(10%)なのか
この点は、保育事業者や税務実務家の間でも判断に迷いやすい論点です。

本記事では、名古屋国税局の文書照会事案として取り上げられた
保育所において行う夕食の提供等に係る適用税率について」の口頭回答内容を紹介し、
調理した夕食の提供、購入した飲食料品の提供、保護者向け試食会等について、
なぜ軽減税率ではなく標準税率が適用されると整理されたのかを、
消費税法・施行令・軽減税率制度の構造に即して紹介します。

特に、

  • 「飲食料品の譲渡」と「飲食させる役務の提供」の区別
  • 保育所が飲食店営業等を営む者に該当するか否か
  • 学校給食や高齢者施設との取扱いの違い

といった点は、実務上の誤りが生じやすい重要ポイントです。

軽減税率の適用可否を形式だけで判断する危険性や、
社会福祉事業であっても当然に軽減税率が適用されるわけではないことを示す事例として、
実務上の示唆に富む内容となっています。

名古屋国税局の文書照会事案「保育所において行う夕食の提供等に係る適用税率について」において、以下のとおり口頭で回答していたので紹介します。文書での回答はなされていません。

1 照会概要
社会福祉法上の社会福祉事業として、複数の保育所(いわゆる認可保育園又は認可外保育園である。以下「本件保育所」という。)の経営を行う事業者は、本件保育所において次の資産の譲渡等を行っている。
1 本件保育所で調理を行い、乳幼児に夕食を提供する(以下「本件調理夕食提供」という。)。
2 本件保育所が購入した飲食料品に加熱、調理等を行わずに、そのままの状態で乳幼児へ夕食として提供する(以下「本件購入夕食提供」という。)。
3 本件保育所における給食の試食会及び行事において、保護者等に食事を提供する(以下「本件試食提供等」という。)。


2 照会要旨
本件調理夕食提供、本件購入夕食提供及び本件試食提供等(これらを併せて、以下「本件食事提供等」という。)が、消費税法上の課税資産の譲渡等に該当することを前提とすると、適用税率は、次のとおりと解して差し支えないか。
1 本件調理夕食提供は、「飲食料品の譲渡」に該当し、軽減税率が適用される。
2 本件購入夕食提供は、「飲食料品の譲渡」に該当し、軽減税率が適用される。
3 本件試食提供等は、役務の提供であるため、「飲食料品の譲渡」には該当せず、標準税率が適用される。

3  法令等
(1) 軽減対象課税資産の譲渡等

平成28年法律第15号による改正後の消費税法第2条第1項第9号の2は、「軽減対象課税資産の譲渡等」とは、課税資産の譲渡等のうち同法別表第一(第2 条関係)に掲げるものをいう旨、また、同別表第1号において、飲食料品の譲渡を掲げている(平成28年法律第15号附則第34条第1項に規定する「31年軽減対象費産の譲渡等J同旨)。
なお、飲食料品の譲渡には、次に掲げる課税賓産の譲渡等は、含まないものとされている。
イ食品衛生法施行令に規定する飲食店営業、喫茶店営業その他の飲食料品をその場で飲食させる事業を営む者が行う食事の提供(テープル、椅子、カウンターその他の飲食に用いられる設備のある場所において飲食料品を飲食させる役務の提供をいい、当該飲食料品を持帰りのための容器に入れ、又は包装を施して行う譲渡は、含まないものとする。)
ロ課税資産の該渡等の相手方が指定した場所において行う加熱、調理又は給仕等の役務を伴う飲食料品の提供(いわゆるケータリング。下記(2) イないし卜に掲げる飲食料品の提供を除く。)
(2) 飲食料品の譲渡に含まれない食事の提供を行う事業の範囲(いわゆる「ケータリングから除かれる飲食料品の提供」)
平成30年政令第135号による改正後の消費税法施行令第2条の4第2項は、次のイないし卜に掲げる飲食料品の提供のうち一定の基準を満たすもの※を、上記(1)の飲食料品の譲渡等に含まれないものから除く(軽減税率の適用対象となる)と規定している。
イ老人福祉法第29条第1項の規定による届出が行われている同項に規定する有料老人ホームにおいて、当該有料老人ホームの設置者又は運営者が、当該有料老人ホームの一定の入居者に対して行う飲食料品の提供
ロ「高齢者の居住の安定確保に関する法律」第6条第1項に規定する登録を受けたサービス付き高齢者向け住宅において、当該サーピス付き高齢者向け住宅の設置者又は運常者が、当該サーピス付き高齢者向け住宅の入居者に対して行う飲食料品の提供
ハ学校給食法第3条第2項に規定する義務教育諸学校の施設において、当該義務教育諸学校の設置者が、その児童又は生徒の全てに対して学校給食として行う飲食料品の提供
二「夜問課程を置く高等学校における学校給食に関する法律」第2条に規定する夜間課程を置く高等学校の施設において、当該高等学校の設置者が、当該夜間過程において、生徒の全てに対して夜間学校給食として行う飲食料品の提供
ホ「特別支援学校の幼稚部及び高等部における学校給食に関する法律」第2条に規定する特別支援学校の幼稚部又は高等部の施設において、当該特別支援学校の設置者が、幼児又は生徒の全てに対して学校給食として行う飲食料品の提供
ヘ学校教育法第1条に規定する幼稚園の施設において、当該幼稚園の設置者が、教育を受ける幼児の全てに対して学校給食に準じて行う飲食料品の提供
ト学校教育法第1条に規定する特別支援学校に設置される寄宿舎において、当該寄宿舎の設置者が寄宿する幼児、児童又は生徒に対して行う飲食料品の提供
※ 上記イないし卜の施設の設置者等が同一のHに同一の者に対して行う飲食料品の提供の対価の額(税抜き)が一食につき640円以下であるもののうち、その累計額が1,920円に達するまでの飲食料品の提供であることとされている。また、累計額の計算方法につきあらかじめ害面で定めている場合にはその方法によることとされている(平成28年財務省告示第100号)。

(2) 参考事例
庁消贅税軽減税率制度対応室は、札幌局からの照会に対し次のとおり回答した。
イ 照会事項
助産院が院内で行う食事の提供(課税取引に該当)は軽減税率の対象となるか。
ロ 庁軽減対応室回答
(イ) 結論
照会の助産院は、軽減税率の対象となる飲食料品の提供を行う施設である有料老人ホーム等に該当しない。また、同院が行う院内での食事の提供は、軽減税率の適用対象とならない
(口)理由
軽減税率の適用対象となる「飲食料品の譲渡」には、「課税賓産の譲渡等の相手方が指定した場所において行う加熱、調理又は給仕等の役務を伴う飲食料品の提供」(以下「ケータリング等」という。)は、含まれないこととされているが、消費税法施行令等の一部を改正する政令(平成28年政令第148号。以下「改正令」という。)附則第3条第2項各号に掲げる施設において行う同項各号に規定する飲食料品の提供はケータリング等から除かれている(所得税法等の一部を改正する法律(平成28年法律第15号。以下「改正法」という。) 附則34①ーロ、改正令附則3②、平成28年財務省告示第100号)。
照会の助産院は、「産後ケア」と称して母親の疲労回復や育児相談等のサーピスを行う施設であり、同項各号に掲げていないことから、ケータリング等から除かれる施設に該当しない。また、軽減税率の適用対象とならない飲食店業等を営む者が行う食事の提供とは、テープル、椅子、カウンターその他の飲食に用いられる設備(以下「飲食設備」という。)のある場所において飲食料品を飲食させる役務の提供をいい、飲食店業等を営む者とは、食品衛生法施行令に規定する飲食店営業、喫茶店営業その他の飲食料品をその場で飲食させる事業を営む者をいうことから、飲食設備のある場所において飲食料品を飲食させる役務の提供を行う全ての事業者がこれに該当する(改正法附則34①ーイ、改正令3①、軽減通達7)。
したがって、飲食設備のある場所において飲食料品を飲食させる役務の提供を行う事業あれば、飲食店営業等の許可の有無に関係なく、飲食店業等を営む者に該当する。
照会の助産院は、飲食店営業等の許可を受けていないものの、院内において食事の提供を行っていることから、飲食店業等を営む者に該当するとともに、'その院内での食事の提供は、飲食設備のある場所において飲食料品を飲食させる役務の提供に該当することから軽減税率の適用対象とならない。


4 本件への当てはめ
(1)本件調理夕食提供について
本件保育所は、児童福祉法に規定する保育所であり、上記3 (2) イないし卜に掲げられた施設に該当しない。
また、上記3 (1) イ及び( 3) 口(口)のとおり、軽減税率の適用対象とならない飲食店業等を営む者が行う食事の提供とは、テープル、椅子、カウンターその他の飲食に用いられる設備(飲食設備)のある場所において飲食料品を飲食させる役務の提供をいい、飲食店業等を営む者とは、食品衛生法施行令に規定する飲食店営業、喫茶店営業その他の飲食料品をその場で飲食させる事業を営む者をいうことから、・飲食設備のある場所において飲食料品を飲食させる役務の提供を行う全ての事業者がこれに該当する。
したがって、飲食設備のある場所において飲食料品を飲食させる役務の提供を行う事業者であれば、飲食店営業等の許可の有無に関係なく、飲食店業等を営む者に該当する。
本件保育所は、飲食店営業等の許可を受けていないものの、本件保育所内において食事の提供を行っていることから、飲食店業等を営む者に該当するとともに、本件保育所での食事の提供は、飲食設備(テープル及び椅子)のある場所において飲食料品を飲食させる役務の提供に該当することから軽減税率の適用対象とならない


(2) 本件購入夕食提供について
本件保育所は、飲食店営業等の許可を受けていないものの、保育所内において食事の提供を行つていることから、飲食店業等を営む者に該当するとともに、本件保育所での食事の提供は、飲食設備(テープル及び椅子)のある場所において飲食料品を飲食させる役務の提供に該当することから軽減税率の適用対象とならない。


(3)本件試食提供等について
本件保育所は、飲食店営業等の許可を受けていないものの、保育所内において食事の提供を行っていることから、飲食店業等を営む者に該当するとともに、本件保育所での食事の提供は、飲食設備(テープル及び椅子)のある場所において飲食料品を飲食させる役務の提供に該当することから涯減税率の適用対象とならない。


5 結論
本件食事提供等のいずれにも標準税率が適用される。

ダウンロード資料

保育所が夕食の提供等を行った場合、消費税の適用税率は?軽減税率?標準税率?