公益法人等の新たな資産運用や活動として、暗号資産の「マイニング」や「ステーキング」が注目を集めています。しかし、これらから得られる報酬が、法人税の対象となる「収益事業」に該当するのかどうか、頭を悩ませている実務担当者の方も多いのではないでしょうか。
現行の税制では、収益事業は「34業種」に限定されています。しかし、国税庁が公表した「令和8年度税制改正意見」の中で、マイニング等による暗号資産の取得について「34事業のいずれに該当するかは定かではない」という、実務に波紋を広げる一節が盛り込まれました。
本記事では、この最新の改正意見を踏まえ、マイニングやステーキングがなぜ既存の「34業種」判定で迷うのか、そして「非課税」と判断する前に必ず確認しておくべき課税リスクについて、専門的な視点から分かりやすく解説します。
公益法人等の「暗号資産マイニング」は収益事業に当たるのか
国税庁の「令和8年度税制改正意見」に、「公益法人等がマイニング等により暗号資産を取得した場合について34事業のいずれに該当するかは定かではない」という趣旨の記載が置かれました。これは、公益法人等の収益事業課税が「34業種の限定列挙」を前提としている以上、新しいビジネス(マイニング等)が制度の“外側”に落ちる可能性を、当局自身が強く意識しているサインでもあります。
実務上は、公益法人等がマイニング等により暗号資産を取得した場合は「課税されない(可能性がある)」として思考停止するのが最も危険です。収益事業該当性の判断・区分経理・暗号資産の管理と評価まで含めて、最初に設計しておかないと、後で説明コストが跳ね上がります。
公益法人等の収益事業課税の基本
収益事業課税とは何か(なぜ公益法人に法人税がかかるのか)
公益法人等(法人税法別表第二の法人(※))は、原則として公益目的の活動を行っているため、あるいは営利目的ではないため、全面的に法人税がかかる設計とはなっていません。一方で、営利法人と同じ市場で競合しうる活動まで非課税だと不公平になるため、「収益事業」から生じた所得に限って法人税を課す仕組みが採られています(いわゆるイコールフッティング)。
(※)公益財団法人・公益社団法人、学校法人、宗教法人、税理士会、非営利型一般社団法人、非営利型一般財団法人。なお、同窓会、サークル、同業者団体のような一定の人格のない社団等についても同様の税制が適用されます。
「34業種」の限定列挙(法人税法施行令5条)
収益事業は、法人税法上「販売業、製造業その他の政令で定める事業で、継続して事業場を設けて行われるもの」と定義され、具体的な「政令で定める事業」が施行令5条(いわゆる34事業)で列挙されています。
このため、実務ではまず、対象の事業が34業種のどれかに当たるかが入口になります。
政令に特掲されている34の収益事業
①物品販売業、②不動産販売業、③金銭貸付業、④物品貸付業、⑤不動産貸付業、⑥製造業、⑦通信業、(放送業含みます)、⑧運送業(運送取扱業含む)、⑨倉庫業(寄託を受けた物品を保管する業を含む)、⑩請負業(事務処理の委託を受ける業を含みます)、⑪印刷業、⑫ 出版業、⑬写真業、⑭席貸業、⑮旅館業、⑯料理店業その他の飲食店業、⑰周旋業、⑱代理業、⑲仲立業、⑳問屋業、㉑鉱業、㉒土石採取業、㉓浴場業、㉔理容業、㉕美容業、㉖興行業、㉗遊技所業、㉘遊覧所業、㉙医療保健業、㉚技芸教授業、㉛駐車場業、㉜信用保証業、㉝無体財産権の提供業、㉞労働者派遣業
なぜ「マイニング等」は収益事業に当たらない(かもしれない)のか
典型的な落とし穴:「34業種のどれにも綺麗に入らない」
マイニング(PoW)や、(広い意味での)ノード運用・バリデータ参加(PoS)等は、取引形態が独特です。
- 「誰に何を売ったのか(対価関係)」が見えにくい
- 「役務提供」だとしても、契約の相手方が明確でない形態がありうる
- 設備投資(マシン・電力)と成果(ブロック報酬等)が直結するが、伝統的な業種概念に馴染まない
この結果、34業種のどれに当たるかを、検討する際に一定の困難があります。もちろん、単に、いずれにも「該当しない」という結論もありえます。
「収益事業に当たらない」=「法人税がゼロで確定」ではない
ここが一番重要です。マイニング等が34業種に当たらないと評価されると、その活動から生じる所得が法人税の課税所得に入らない(=法人税がかからない)構造になりえます。
ただし、次の論点で「想定外に課税・否認・説明負担」が生じます。
マイニング“周辺取引”が収益事業化するリスク
マイニングそれ自体がグレーでも、周辺の取引が明確に収益事業になってしまうケースがあります。
- 取得した暗号資産を反復継続して売却(換金・トレードを業として行う)
- マイニング設備や電力・場所を外部に提供し、ホスティング/運用受託として対価を得る
- マイニング関連のノウハウ提供がコンサル・役務提供として対価化する
つまり、実態として「業としての役務提供/取引」になっていれば、税務署は34業種のどこか(例:請負業等)に寄せて評価しに来ます。
ステーキングも同様の論点になりうる
今回、国税庁の改正意見で例示されたのは「マイニング等」であるが、実務上はステーキング(PoS)についても、公益法人等の収益事業課税(特掲34業種)との関係で同様の議論が生じうる点に留意したい。
収益事業該当性(34業種)という入口は同じ
公益法人等に法人税が課されるのは、原則として法人税法施行令5条の「収益事業(34事業)」から生じた所得に限られるため、ステーキング報酬が生じる場合でも、まず問題となるのは「その行為が34業種のどれに当たるか」である。
しかし、ステーキングは
- 取引相手方や契約関係が見えにくい(プロトコル上の検証参加)
- 役務提供・対価関係の把握が難しい形態がある
- 設備投下(ノード運用、委任等)と成果(報酬)が直結するが、伝統的な業種概念に馴染みにくい
といった点で、34業種のいずれに位置付けるべきかが“きれいに決まりにくい”ケースがありうる。したがって、マイニングと同様、法人がステーキングで収益を稼いでも収益事業に当たらない(=法人税の課税所得に入らない可能性がある)という構造になりうる。
改正意見が示すメッセージ
国税庁が「定かではない」と書く背景は、ざっくり言えば次の2点です。
- 新しいサービス形態が増え、34業種判定が困難(組合せ型・デジタル型)
- 結果として、営利法人と同様の活動が、形式的に「収益事業でない」と評価されると、課税の公平が崩れる
したがって、改正が進むとすれば、方向性は概ね次のどちらかです。
- 34業種の見直し(追加・再編)
- 34業種の枠外でも課税できるような規定整備(ただし立法技術的な難所)
「マイニング等」が名指しされたこと自体、実務的には“当局の問題意識が乗った”と見てよいです。
今後の実務上の取扱いや、税制改正に注目しておきましょう。
国税庁の「令和8年度税制改正意見」は以下の記事をご確認ください。
