記事の紹介

「消費税の還付を受けたい」——。その一心で行った取引が、税務署から「実態のない名義だけの取引」と断じられたらどうなるでしょうか。

今回ご紹介する大阪地裁令和6年11月28日判決は、下宿業を営む法人が、多額の消費税還付を受けたものの、後の税務調査でそのほとんどが否定された事案です。争点は大きく分けて3つ。下宿営業の主導権は誰にあったのか、金地金取引の利益(および還付金)は誰のものか、そして「還付金」はいつの時点で法人税の利益(益金)としてカウントすべきかです。

特に、金地金の売買を法人の名義で行いながら、原資は代表者個人が出していたケースなどは、現在の税務当局が最も厳しくチェックしているポイントの一つです。裁判所がどのような「実態」をみて判断を下したのでしょうか。

事案の概要

本件は、下宿業等を営む原告法人が、消費税及び地方消費税に係る各課税期間について更正処分等を受けたことから、これらの処分の取消しを求めた事案である。

具体的には、原告が行っていた下宿営業に係る収益の帰属主体や、金地金の購入取引の法律効果の帰属、さらに、過去の課税期間に係る消費税等の還付金を法人税の益金に算入すべきか否かが争われた。

主文

原告の訴えのうち、別紙却下部分目録記載の部分をいずれも却下する。
原告のその余の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。

請求

原告は、姫路税務署長が行った、

  • 平成29年課税期間
  • 平成30年課税期間
  • 平成31年課税期間(令和元年)
  • 令和2年各課税期間

に係る消費税及び地方消費税の各更正処分並びに過少申告加算税の賦課決定処分の取消しを求めた。

前提事実

当事者等

原告は、一を商号変更して株式会社???に移行した法人であり、定款記載の目的を、下宿、ホテル、旅館等の宿泊施設の経営並びに不動産の売買、賃貸及びその仲介、管理等とする法人である。
原告の代表取締役は???であり、これ以外に役員はいない。

原告代表者の母である???は、生前、一の屋号で旅館業を営んでいた者であり、?年?月?日に死亡した。

宿泊施設及び許可関係

本件に係る宿泊施設は、???に所在する宿泊施設であり、本件各期においては、本館、2号館及び3号館が存在していた。
ただし、本館の一部は原告の自宅として使用されていた。

また、平成30年8月27日に「???」という建物が建設され、同年9月29日、2号館は取り壊された。

原告代表者は、本件各期当時、個人として旅館業許可及び飲食店営業許可を受けていた。
これらの許可の対象となる土地及び建物(本件許可施設)は、本館の一部(帳場、厨房、食堂に係る1階部分)及び3号館並びに敷地の一部に限られていた。

本件の争点1は、
本件各期において、???の名称又は屋号で、本件許可施設以外の施設(本件許可外施設)において行われた下宿営業(本件下宿営業)の売上げに係る収益が、原告に帰属するか否か
すなわち、本件下宿営業の経営者が原告であったか否かである。

金地金の購入等

原告及び???は、

  • 令和元年12月課税期間
  • 令和2年6月課税期間

において、外形上、

  • 原告が購入先業者から金地金を購入し(先物取引に係る買い注文の受渡決済を含む)、
  • 原告が購入した金地金を???に引き渡し
  • ???が、引渡しを受けた金地金を売却先業者に売却し、売却代金を取得する

という一連の取引を行った。

これらの金地金の購入取引は、それぞれ本件仕入れ1~4、当該取引により取得された金地金は本件金地金1~4と称されている。

本件の争点2は、
本件各仕入れに係る法律効果が、実質的に???に帰属するか否かである。

原告の確定申告等

法人税等の申告

原告は、

  • 平成27年12月期
  • 平成28年12月期

について、売上高をそれぞれ約???円及び???円とする法人事業概況説明書を添付して、法人税等の確定申告書を提出した。

その後、平成31年2月18日、原告は、本件各期について法人税等の修正申告書を提出し、修正後の売上高は、それぞれ約???円及び約???円と記載されていた。

また、令和元年12月期についても、法人税等の確定申告書を提出したが、
この申告においては、

  • 消費税等の還付金を益金に算入していなかったこと
  • 本件金地金1に係る出庫料を損金に算入していたこと

が後に問題とされた(それぞれ争点3及び争点2に関係)。

消費税等の申告

原告は、修正申告により課税売上高が1000万円を超えることとなったとして、消費税課税事業者届出書を提出した。

その後、各課税期間について消費税等の確定申告書を提出し、

  • 建物や設備の取得価額
  • 金地金の購入金額

を、課税仕入れとして仕入税額控除の対象として申告していた。

さらに、原告は、自己建設高額特定資産の建設等に該当するとして、課税期間の特例選択を行い、課税期間を3か月ごとに短縮していた。

消費税等の還付

姫路税務署長は、原告に対し、各課税期間の確定申告に基づき、合計で数千万円規模の消費税等の還付金を還付した。

本件各処分

姫路税務署長は、これらの申告内容について調査を行った結果、本件各課税期間に係る消費税及び法人税について更正処分並びに過少申告加算税の賦課決定処分を行った。

争点

本件の争点は、主として次の点である。

争点1:下宿営業に係る収益の帰属各課税期間における下宿営業から生ずる収益が、原告に帰属するか否か

平成29年12月課税期間及び平成30年12月課税期間において、原告が消費税等の免税事業者(前々事業年度の課税売上高が1000万円以下)であるか否か、具体的には、平成27年12月期及び平成28年12月期(本件各期)の本件下宿営業の売上に係る収益が実質的に原告に帰属しているか否か。

争点2金地金購入取引の帰属原告名義で行われた金地金の購入取引の法律効果が、原告に帰属するか否か


和元年12月課税期間及び令和2年6月課税期間における原告名義の本件各金地金の購入(本件各仕入れ)の法律効果が原告に帰属しているか否か。

争点3:消費税還付金の益金算入過去の課税期間に係る消費税等の還付金を、後の事業年度の法人税計算上、益金に算入すべきか否か

平成29年12月課税期間及び平成30年12月課税期間に係る消費税等の還付金(本件各還付金)が、令和元年12月期の法人税の課税所得金額の計算上、益金の額に算入されるか否か。

争点に関する当事者の主張

原告の主張

原告は、下宿営業から生じる収益は原告に帰属しており、また、金地金の購入についても、原告自身の事業資金によって行われたものであると主張した。

さらに、消費税等の還付金については、過去の課税期間に対応するものであり、後の事業年度の益金に算入するのは不当であると主張した。

被告の主張

被告は、下宿営業の実態や資金の流れ等からすると、収益は実質的に???個人に帰属しており、原告に帰属するものではないと主張した。

また、金地金の購入についても、原告名義で行われているものの、購入資金の原資は???個人によるものであり、法律効果は原告に帰属しないと主張した。

消費税等の還付金については、更正処分が行われた事業年度において益金に算入すべきであると主張した。

裁判所の判断

下宿営業に係る収益の帰属について

裁判所は、下宿営業の実態、資金の流れ、契約関係等を総合的に考慮し、本件各課税期間における下宿営業から生ずる収益は、原告に帰属するものではないと判断した。

「原告は、本件各期において、本件下宿営業を適法に営むことができる地位になく(上記ア)、本件下宿営業に従事する従業員を有しておらず(上記イ)、本件下宿営業を営むための資産やその利用権を有しておらず(上記ウ)、本件下宿営業に係る利用料金の支払を受ける地位にもなかったと認められ(上記エ)、また、原告が修正申告に至った目的 等(上記オ)も踏まえると、原告は、本件各期において、本件下宿営業の経営者(営業主体)ではなかったと認めるのが相当である。
よって、本件各期における本件下宿営業から生ずる収益は、原告に帰属しないというべきである。」

金地金購入取引について

裁判所は、本件契約書や覚書の内容、購入資金の出捐状況等を踏まえ、本件各金地金の購入取引は、原告に法律効果が帰属するものとはいえないと判断した。

また、これらの取引について、消費寄託に類似するものと評価することは困難であるとした。

「法人税法11条は、資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であって、その収益を享受せず、その者以外の法人がその収益を享受する場合には、その収益は、これを享受する法人に帰属するものとして、法人税法の規定を適用する旨定め(実質所得者課税の原則。所得税法12条も同旨)、消費税法13条1項は、法律上資産の譲渡等を行ったとみられる者が単なる名義人であって、その資産の譲渡等に係る対価を享受せず、その者以外の者がその資産の譲渡等に係る対価を享受する場合には、当該資産の譲渡等は、当該対価を享受する者が行ったものとして、消費税法の規定を適用する旨定めている(実質行為者課税の原則)。
これらの規定の趣旨は、課税物件等の法律上(私法上)の帰属につき、その形式と実質が相違している場合には、実質に即して帰属を判断すべきとするものと解され、本件各仕入れに係る法律効果が実質的に誰に帰属するかは、一連の取引に係る経済的損益の帰属先へその取引全体の仕組みや目的など、諸般の事情を総合的に考慮して判断すべきものと解される」

「これらの事実からすれば、本件各金地金に係る一連の取引は、???の資金を原資として本件各金地金を購入し、???がこれを売却して売却利益(キャピタルゲイン)を取得する取引というべきであり、???自身ではなく原告が本件各金地金を購入することによる実質的な違いは、原告が本件各金地金の購入代金に係る消費税等の還付を受け得ることにある。
そうすると、本件各金地金に係る一連の取引は、???が、原告に本件各金地金の消費税等の還付金を獲得させる目的で、形式上、原告を本件各金地金の購入者として介在させたものであり、その実質は、???が、自己の資金をもって本件各金地金を購入し、時機を見てこれを売却し、その差額に係る売却利益を得ていたものとみるほかはない。
したがって、本件各仕入れにおいて原告は単なる名義入にすぎず、本件各金地金から生ずる収益の法律上帰属する主体は、???個人であると認めるのが相当である。」

消費税還付金の益金算入について

裁判所は、更正処分により納付すべき消費税等が確定した事業年度において、当該還付金を法人税の課税所得金額の計算上、益金に算入することは不当とはいえないと判断した。

(1) 法人が消費税等の経理処理につき税込経理方式を採用している場合、法人税の課税所得金額の計算上、還付を受ける消費税等は益金の額に算入される。また、消費税等は、申告納税制度を採用しており、還付されるべき消費税額は、消費税等の納税申告書を提出したときに確定する。したがって、還付を受ける消費税等は、納税申告書が提出された日の属する事業年度の益金の額に算入することとなる。


(2)原告の法人税等の確定申告書に添付された法人事業概況説明書には、平成2 9年12月期については「経理」襴の「税込」に印が付けられ、平成30年12月期については「経理方式」禰に「税込経理方式」に印が付けられており・・・ 、原告は、平成29年12月期及び平成30年12月期の消費税等の経理処理につき、税込経理方式を採用していたと認められる。そして、原告は、平成29年12月課税期間及び平成30年12月課税期間に係る消費税等の還付申告書を、それぞれ平成31年2月23日及び同月25日に提出しており、これらはいずれも令和元年12月期に属する。よって、平成29年12月課税期間及び平成30年12月課税期間に係る消費税等の還付金(本件各還付金)は、令和元年12月期の法人税の課税所得金額の計算上、益金の額に算入されるべきである。」

結論

以上によれば、原告の主張はいずれも採用することができず、本件各更正処分等は適法であるとして、原告の請求は却下又は棄却された。

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