令和6年7月・国税庁課税総括課「税務調査手続等研修(共通)」

以下は上記資料の抜粋です。「???」は情報公開された資料の黒塗り部分です。



事務手続の一覧

検査忌避等があった場合の留意事項


〇税務調査等の際に、検査忌避等(調査官等による質問・検査を拒否等する行為をいう。なお、納税者自身の行為に限らない。)があった場合は、その後の課税処理等に必要な直接証拠の収集・保全に努めるほか、検査忌避等の詳細(日時、場所、相手方、当局からの要請内容、納税者の主張等)について、調査経過記録
書等に確実に記録を残すことに留意する。
〇一定の検査忌避等があった場合は、令和5年6月30日付課総4-31他8課共通「『検査忌避等事案調査票』の提出等について」(指示)により、「検査忌避等事案調査票」の作成・報告を行う。


~ 調査忌避等への対応時の留意事項~
1 過去の調査状況等から、今回の調査において検査忌避等を行う可能性がある事案においては、必要に応じて記録役を同行させる等の対応を講ずる。
※ ???付資料等として保存する。
2 質問検査権の相手方はこれを受忍すべき義務を一般的に負うと解されており、質問・検査を拒む等の行為をした場合の罰則も規定されていること等を確実に説明した上で、改めて調査への理解と協力を要請する。
上記指示に基づく「検査忌避等事案調査票」を作成する事案において、税理士が関与している場合には、「税理土等情報せん」を作成する。

(説明)
続いて、検査忌避等があった場合の留意事項について説明します。
税務調査等の際に検査忌避等があった場合には、税務調査等が納税者等の理解と協力に基づき行われるものであることに鑑み、これまでも、納税者等に対して税務調査等への協力を繰り返し求めるなど適切な対応に努めていますが、しかしながら、依然として税務調査等において検査忌避等は発生しており、こうした事例の中には、① 当局からの再三にわたる協力要請にもかかわらず、正当な理由なく調査への協力を一切拒否する、②取引先や従業員に対して税務調査等に協力しないよう働きかける、③税理士が積極的に検査忌避等に関与するなど、悪質性が高いと認められる事案も少なからず存在しているところです。
検査忌避等に対しては毅然とした対応をとるとともに、その後の課税処理(更正・決定等)に必要な直接証拠の収集・保全に努めるほか、検査忌避等の詳細(日時、場所、相手方、当局からの要請内容、納税者の主張等)について確実に記録を残すことに留意願います。なお、記載にあたっては、行われた検査忌避等の具体的かつ客観的事実をありのままに記載することが必要であり、行為を受けた調査担当者の主観的内容のみの記載に終始することの無いよう努めてください。また、その際、検査忌避等の内容について???当該文書の添付資料等として保存します。
また、国税通則法、国税徴収法その他の税法における罰則規定の適用や税理士法上の対応も視野に入れた所要の対応を検討する必要があることから、???虚偽と思われる多忙・来客・体調不良等を理由として検査を忌避」するなど、一定の検査忌避等に該当する行為があった事案については、令和5年6月30日付課総4-31他8課共通「『検査忌避等事案調査票』の提出等について」(指示)により、「検査忌避等事案調査票」の作成・報告を行うことになります。
なお、検査忌避等に税理士が関与してる場合は、税理士等情報せんを作成する必要があることに留意願います。

再調査の適否判定

(説朗)
次に、準備調査の際の手続のうち、「再調査の適否判定」について説明します。
再調査規定とは、一定の場合を除いて過去に調査した税目・課税期間について、再び調査を行うことができないことを言います。
過去の調査事績を確認した結果、再調査に該当する場合においては、「再調査の適否検討表」を作成し、再調査を実施することが適当か否か、具体的には、新たな情報に照らし非違があると認められるかどうかについて検討し、決裁を了することになります。
次に、再調査の適否判定における事務処理の流れを説明します。
① 統括官等が調査指令を行い、
② 調査担当者は、調査対象者に係る過去の調査事績をKSKシステムにおける再調査の適否判定に係る履歴確認機能や署内簿書等により、前回調査の有無を確認し、
③ チェックシート(本表)に確認事績を記載し、
④ 確認の結果、再調査に該当する場合、調査担当者は、「再調査の適否検討表」を作成し、準備調査の事前確認(決裁)の際に併せて統括官等に提出。
⑤統括官等は、再調査の実施が必要と認められる理由を法令等に照らして十分に確言恩・検討した上で決裁を行い、
⑥再調査を要すると判断した事案については、筆頭統括官及び副署長(副署長の非設置署においては署長)に順次説明の上、決裁を受ける。
⑦ 統括官等は、事務処理の履行状況等を管理し、
⑧ 調査担当者は、「調査手続チェックシート(本表)」に「再調査の適否検討表」の決裁日を記載し、
⑨ 調査終了後、「再調査の適否検討表」を各課の定めにより編てつ
といった流れになります。
なお、再調査に該当しない場合は、「再調査の適否検討表」を作成する必要はありませんが、「調査手続チェックシート(本表)」に過去の調査事績の確認を行った旨は記載してください。

再調査とは

(説明)
次に、どのような場合が再調査に該当するのか具体的に説明します。
再調査とは、更正決定等を目的とした調査(前回調査)を実施した後に、前回調査と同一の税目及び課税期間について、再び質問検査等を行う(再調査)場合をいいます。
通則法第74条の11第5項には、「①第一項の通知(更正決定等をすべきと認められない旨の通知)をした後又は第二項の調査(実地の調査に限る。) の結果につき納税義務者から②修正申告書若しくは期限後申告書の提出③若しくは源泉徴収による所得税の納付があった後④若しくは更正決定等をした後においても…質問検査等を行うことができる」と規定されていることから、これらの通知等の前提となる更正決定等を目的とした調査が前回調査に該当することになります。
なお、この場合の前回調査について、平成27年度税制改正により、平成27年4月1日以後に行う実地の調査以外の調査は、前回調査から除かれることとなりました。この点について、再調査に該当するか否かの判定に当たり、前回調査が平成27年3月31日以前に行われている場合には、実地の調査以外の調査である場合であっても、再調査に該当することに留意願います。
なお、ポイントにあるように、更正の請求に対する調査、再調査の請求に係る調査、申請等審査のための調査は、納税義務者等からの請求等に呼応する調査であり、調査の必要性は明らかであることから、再調査の適否判定を行う必要はありませんので留意願います。

再調査の適否検討表の作成の要否

(説明)
先ほども説明しましたが、「再調査の適否検討表」は、再調査に該当する場合にのみ作成します。
したがって、「再調査に該当する例」においては、前回調査で令和元年分から令和3年分の所得税を調査していますので、後続調査で令和3年分から令和5年分の所得税を調査する場合は、令和3年分の所得税が再調査に該当することから「再調査の適否検討表」の作成が必要となります。
「再調査に該当しない例① 」においては、前回請査と後続調査で重なる課税期間がなく、また、「再調査に該当しない例②」においては、前回調査と再調査で重なる税目がなく、どちらの場合も再調査に該当しないことから、「再調査の適否検討表」を作成する必要はありません。

新たに得られた情報の主な例示

(説明)
再調査の適否の判定は、再調査の対象である税目・課税期間について、新たに得られた情報に照らし、非違があると認められるかどうかにより判断することとなります。
ここでいう「新たに得られた情報」については、具体的にはここに記載したような情報が該当するものと考えています。
こうした情報の内容から再調査の対象である税目・課税期間について、非違があると認められると判断される場合には、再調査を行うことができるということです。

再調査の判定を行う場合の留意事項

続いて、再調査の判定を行う場合の留意事項について説明します。
新たに得られた情報に該当するかどうかは、①誰が、②いつの時点において得た、③どのような情報かという3点から判断します。
まず、「誰が」というのは、通則法第74条の11第1項の通知(更正決定等をすべきと認められない旨の通知)又は通則法第74条の11第2項の説明(いわゆる法令上の結果説明)に係る国税の調査(実地の調査に限ります。) において質問検査等を行った職員となります。あくまで、前回調査をした職員が把握し得た情報かどうかにより判断することになります。
また、前回調査が平成27年4月1日前に行われた実地の調査以外の調査である場合にも、この判断をする必要があります。
次に、「いつの時点」かについては、当該調査の更正決定等をすべきと認められない旨の通知又は調査結果の内容説明を行った時点となりますので、当該通知又は説明を行った後に得られた情報は、新たに得られた情報になります。
最後に、「どのような清報」かについては、更正決定等をすべきと認められない旨の通知又は調査結果の内容説明の時点において保有し、更正決定等をすべきか否かの検討をはじめ、更正決定等をすべきと認めた額の算定の基礎とされた情報以外の情報が該当します。
なお、調査の時点において、調査担当者が調査中には実際に目にしなかった情報であっても、その時点で確認しようと思えば容易に確認できた部内情報については、仮に、確認したのが調査の後であったとしても、基本的にはその情報は「新たに得られた情報」には該当しないものと考えられます

事前通知を要しない調査の適否判定

(説明)
法第74条の10において、「違法又は不当な行為を容易にし、正確な課税標準等又は税額等の把握を困難にするおそれ」や「その他国税に関する調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれ」があると認める場合には、事前通知を要しないこととされています。
「事前通知を要しない調査の適否判定」における事務処理の流れを説明します。
① 統括官等は、事前通知を要しない調査の検討が必要と判断した事案について、調査指令の際、「事前通知を要しない調査の適否検討表」の作成を指示。
② 調査担当者は、資料情報や過去の調査事績等により事前通知を要しない調査の適否を検討し、
③ 検討結果に基づき「事前通知を要しない調査の適否検討表」を作成するとともに、「調査手続チェックシート(事前通知用)」を作成し、準備調査の事前確認(決裁)の際に併せて統括官等に提出。事前通知を要しない調査を行う場合であっても、運用上、臨場後に納税義務者に対し、法令上通知することとされている事前通知事項の一部(調査対象期間など)について説明することとしていますので、事前に「調査手続チェックシート(事前通知用)」を作成する必要があります。
④ 統括官等は「事前通知を要しない調査の適否検討表」の内容について、法令等に基づき確認した上で決裁をし、
⑤事前通知を要しない調査を実施すると判断した事案については、筆頭統括官、副署長、署長の順に決裁を受ける。
⑥ 調査担当者は、「調査手続チェックシート(本表)」に「事前通知を要しない調査の適否検討表」の決裁日を記載し、
⑦ 統括官等は、履行状況等を管理。
といった流れになります。
なお、事前通知を要しない調査が不適当と判断された場合には、統括官等は、「事前通知を要しない調査の適否検討表」にその理由及び判断者名を記載します。

事前通知を要しない調査の適否を判断する際の留意事項

ここでは、事前通知を要しない調査の適否を判断する際の留意事項について説明します。
まず、事前通知を行うかどうかは、個々の事案の事実関係に則して、法令及び通達に基づき適切かつ慎重に判断します。
次に、通達5-7において、法律に規定されている「その営む事業内容に関する情報」の意義等について、「その営む事業内容に関する情報」には、事業規模、取引内容、決済手段などの具体的な営業形態も含まれますが、単に不特定多数の取引先との間において現金決済による取引をしているということのみをもって事前通知を要しない調査とすることはできないことが留意的に定められています。
続いて、通達5-8において、「違法又は不当な行為」の範囲について、事前通知後において違法又は不当な行為を行うおそれはもとより、「事前通知をすることにより、事前通知前に行った違法又は不当な行為の発見を困難にする目的で、事前通知後は、このような行為を行わず、又は適法な状態を作出することにより、結果として、事前通知後に、違法又は不当な行為を行ったと評価される状態を生じさせるものが含まれる」と留意的に定められています。
ただし、先程も申し上げたとおり、単に現金商売であるということだけでは、ここでいう「合理的に推認される」とまでは言えませんので、前回調査でも売上除外を行っていたとか、売上除外をしているといった情報があるとか、他の要素も加えた上で判断する必要があります

事前通知を要しない調査を実施する際の留意事項

次に、事前通知を要しない調査を実施する場合の留意事項について説明します。
先ほども説明しましたが、事前通知を行わずに調査着手した場合であっても、臨場後、質問検査等を行う前に、実地の詞査を行う旨・調査の相手方の氏名又は名称及び住所又は居所・詞査担当者の所属官署、氏名及び臨場人数・調査の目的・調査対象税目・調査対象期間・調査対象物件のほか、通知した事項以外の事項についても調査の途中で非違が疑われることとなった場合は、質問検査の対象となる旨を通知し、納税義務者に対して調査することへの理解と協力を求め、調査を開始します
なお、この場合の通知は、法令上の手続として、定められているものではなく、運用上、通知することとしているものです
また、事前通知を行わずに調査着手した際、納税義務者が税務代理人の調査立会いを求める場合は納税義務者から税務代理人に連絡をとってもらった上で、税務代理人にも同様の通知内容を伝えることに留意願います。
スライドにはありませんが、その他の留意点を2つ説明します。1つ目として、納税義務者等から事前通知を要しない調査を実施した理由の開示を求められた場合の対応です。事前通知を要しない調査の理由については、法令上開示することとされていないことを説明し、調査の理解と協力を求めます。
2つ目として、書面添付制度に基づく意見聴取に関する事項です。意見聴取については、事前通知を行うことを前提としているため、事前通知を要しない調査の場合は、意見聴取を行う必要はありませんが、書面が添付されている申告について、事前通知を要しない調査を実施した場合には、調査着手後、速やかに税務代理人に対し、事前通知を行わずに調査着手したため、意見聴取を行わなかった旨を説明し、調査への理解と協力を求めます

事前通知事項

事前通知すべき事項は、この表のようになります。
電話等により、納税義務者や税務代理人に対して調査通知を行い、日程調整するとともに、法律に基づく手続(事前通知)であることを明言した上で、法定化された通知事項を通知することとされています。
事前通知を行う前に、法令に基づき事前通知すべき事項を「調査手続チェックシート(事前通知用)」に記録し、統括官等の事前確認を受けます。
なお、通知を行う際には、通知事項に漏れがないように、「調査手続チェヅクシート(事前通知用)」の履行確認欄に通知した事項をチェックをしながら納税義務者等に通知します。
また、事前通知を行った後は、「調査手続チェックシート(本表)」に通知した事績を記録し、「調査手続チェックシート(事前通知用)」と併せて統括官等に提示し確認を受けます。

調査の事前通知の方法

次に「事前通知」を納税義務者等に行う際の方法について説明します。
電話等により、納税義務者や税務代理人に対して調査通知を行い、日程調整するとともに、法律に基づく手続(事前通知)であることを明言した上で、法定化された通知事項を通知することとされています。
その際の通知の対象者について、原則として、納税義務者及び税務代理権限証書の提出のある税務代理人の双方に事前通知することとされています。
この場合、事前通知事項の詳細については、税務代理人を通じて納税義務者に通知することも可能ですが、その場合の手続等については、後ほど説明します。
税務代理人がいる場合の事前通知については、税務代理権限証書に納税義務者への事前通知は税務代理人に対して行われることについて同意する旨が記載されている場合には、納税義務者への通知は、税務代理人に対して行えば足りる、つまり、納税義務者への事前通知が省略できます。
税務代理人が複数いる場合の事前通知については、税務代理権限証書に代表する税務代理人の定めがある場合には、これらの税務代理人への通知は、代表する税務代理人に対して行えば足りる、つまり、代表する税務代理人以外の税務代理人への事前通知が省略できます。
なお、事前通知の順序については、法令上特段の定めはないことから、局の実情に応じて実施していますが、税務代理人に先に通知する場合には、通知の時点で税務代理権限の有無を確認した上で事前通知の内容を伝えるなど、納税義務者とのトラブルが生じないよう留意してください。

税務代理人を通じた事前通知事項の通知(通達8-1)

先ほど説明しました、税務代理人を通じた事前通知事項の詳細の通知の手続について説明します。事前通知は、税務代理権限証書に「事前通知に関する同意」の記載がない場合には、納税義務者と税務代理人の双方に通知する必要がありますが、「事前通知に関する同意」の記載がない納税義務者から、事前通知事項の詳細は、税務代理人を通じて通知を受けることとして差し支えない旨の申立てがあった場合は、事前通知事項の詳細、具体的には、調査通知事項(調査を行う旨、調査対象税目、調査対象期間)以外の通知事項については、税務代理人を通じて行うこととして差し支えありません。
例えば、スライドの様に、納税義務者へ先に連絡を行った場合について説明すると、
① 当該職員が納税義務者に日程調整のための連絡を行い、調査通知事項を通知した際に、
② 納税義務者から事前通知事項の詳細に関しては、税務代理人に通知してもらえれば税務代理人から聞く旨の申し立てがあった場合には、
③ 当該職員は、税務代理人に事前通知事項を通知するとともに、納税義務者から、事前通知事項の詳細は、税務代理人から通知して欲しいとの申立てがあったことを説明し、
④ 税務代理人から納税義務者に対し、調査通知事項以外の事前通知事項の詳細を確実に通知するよう税務代理人に依頼する。
といった流れになります。
また、税務代理人へ先に連絡を行った場合に、税務代理人から事前通知事項の詳細は自分から納税義務者に連絡する旨の申出があったとしても、調査通知事項は当局から納税義務者に直接通知する必要があること、また、事前通知事項の詳細は税務代理人を通じて納税義務者に通知することとしてよいか、納税義務者に直接確認する必要があることを税務代理人に説明した上で、納税義務者に連絡を行うことに留意願います。

事前通知の留意事項(事前通知の方法)

次に、事前通知の方法に関する留意事項について説明します。
まず、1つ目として、事前通知は、相当の時間的余裕をおいて実施します。
なお、相当の時間的余裕については、特に目安は設けていませんが、納税義務者と税務代理人の事情も踏まえた上で、日程調整を行うようご留意願います。
次に、2つ目として、事前通知を行う際には、通則法第74条の9に定める事前通知であることを明言した上で通知してください。
このことは、法令で定められた手続ではなく、運用上行うものです。
なお、法令上の通知事項を全て通知したことをもって法令上の手続を履行したことになりますのでご留意願います。
次に、3つ目として、納税義務者に対して事前通知を行うことが困難な事情等がある場合です。その場合は、権限委任の範囲を確認した上で、当該納税義務者が未成年の場合にはその法定代理人、法人の場合にはその役員等、一定の業務執行の権限委任を受けている者を通じて事前通知を行うこととして差し支えありません。
なお、納税義務者が個人の場合に、納税義務者の配偶者が事業専従者である場合には、権限委任の範囲を確認した上で、事業専従者を通じて通知等を行うことは可能ですが、単に家族ということのみでは権限委任を受けている者とはいえないことにご留意願います。
次に、4つ目として、事前通知は、原則として電話により行うこととしていますが、電話による事前通知が実際上困難と認められる場合、例えば、納税義務者が聴覚障害である場合などは、書面により事前通知を行うことも検討する必要があります。
一方、何度連絡しても応答を拒否するなど、謂査忌避と認められるような場合には、書面による事前通知は行わず、事前通知を要しない調査の実施を検討することになります。
スライドにはありませんが、事前通知の運用については、調査着手後の調査を円滑に遂行する観点から、税理士関与のない納税義務者から、通知事項の詳細は臨場時に説明を受ければ良いと申立てがあった場合は、実地の調査を行う旨、調査対象税目、調査対象期間、調査開始日時・場所、日程変更の申出が可能であるといった最低限通知して承諾を受けるべき事項以外は、臨場後、調査着手前に通知することとして差し支えありません。

事前通知の留意事項(事前通知の内容)

次に、事前通知の内容に関する留意事項について説明します。
まず、1つ目として、調査の対象となる課税期間については、通達4-2において、課税期間の意義を定めていますので、これに基づいて通知します。例えば、個人事業者の所得税の調査であれば、例えば令和3年分から令和5年分と暦年で通知します。
また、課税期間のない国税については、通達4-2(2)において、個々に課税期間を定義しています。相続税であれば、被相続人Aからの相続又は遺贈をもって一の課税期間となります。
なお、申請等審査のための調査について事前通知を行う場合がありますが、この場合の調査の対象となる期間は、課税期間という概念がないため、通達5-2において、申請書等の提出年月日を通知することを定めています。
次に、2つ目として、調査の対象となる帳簿書類その他の物件について、調査対象期間に作成、取得された帳簿書類等について検査できるのは当然のことですが、調査対象期間以外の期間(進行年分を含む。) に作成・取得された帳簿書頚等であっても、調査対象期間の申告内容の確認のために必要であれば、確認することができますので、調査の対象となる帳簿書類等を通知するときに、その帳簿書類等の作成・取得年分を通知する必要はありません。
なお、調査対象期間以外の期間に係る申告内容の確認のために、調査対象期間以外の期間に作成・取得された帳簿書類等を検査する場合は、事前通知事項以外の事項の調査に該当することになりますので、何らかの非違が疑われる事項があることが必要なことに留意してください。

事前通知後の調査開始日時等の変更の申出

次に、事前通知後に調査開始日時等に変更の申出があった場合の手続について説明します。
納税義務者等から合理的理由を付して変更の求めがあった場合には、再調整を行う必要があります。
なお、納税義務者等からの申出について、調査忌避が疑われる場合など申出の理由に合理性がないと判断される場合は統括官等に相談の上、申出には応じず、当初の予定通り調査を行うケースもあります。
変更の申出があった場合の事務処理の流れを説明します。
事前通知を実施した後、納税義務者等から事前通知した調査開始日時又は調査開始場所の変更の申出があった場合には、申出理由が合理的か否かで事務処理が分かれます。
【申出の理由が明らかに合理的と認められる場合]
① 調査担当者は、調査開始日時等の再調整を行い、変更等の事績を「調査手続チェックシート(本表)」に記録し、納税義務者等とのやり取りを調査経過記録書に記録の上、統括官等に復命し、
② 統括官等は、復命を受け、「調査手続チェックシート(本表)」に記載された手続等を確認。
【申出の理由が合理的かどうか明らかでない場合]
③ 調査担当者は、納税義務者とのやり取りを調査経過記録書等に記録し、変更の申出内容を統括官等に復命。
④ 統括官等は変更の申出内容を確認し、
⑤変更の申出の理由が合理的であるか否かを判断。
⑥統括官等が変更の申出の理由が合理的と判断した場合、調査担当者は、再調整を実施し、変更の申出の理由が合理的ではないと判断した場合、調査担当者は、変更に応じられない旨を納税義務者に連絡。
⑦ 調査担当者は、手続の都度、事績を「調査手続チェックシート(本表)」に記録し、統括官等の確認を
け、
⑧ 統括官等は、「調査手続チェックシート(本表)」に記録された事績等を確認し、
⑨ 履行状況等を管理。
といった流れになります。

変更の申出に関する留意事項

次に、変更の申出に関する留意事項について説明します。
1つ目として、変更の申出は、納税義務者のほか、納税義務者の税務代理人も行うことができます。
2つ目に、納税義務者からの変更の申出が合理的な理由に当たらないと判断される場合には、原則として、既に事前通知した日時等により調査を実施することになります。
3つ目に、変更の申出が合理的であるか否かの判断は、「個々の事案における事実関係に即して、納税義務者の私的利益と実地の調査の適正かつ円滑な実施の必要性という行政目的とを比較衡贔の上判断すること」と通達で示されています。
具体的には、例えば、病気・けが等による一時的な入院、親族の葬儀や業務上やむを得ない事情がある場合などが挙げられます。
なお、この場合の合理的な理由は、納税義務者に関する理由だけではなく、税務代理人に関する理由も含まれます。
最後4つ目です。調査日時等を変更する場合、法令上は、改めて変更後の調査日時等を通知することとはされていませんが、運用上、変更内容を原則として、納税義務者及び税務代理人の双方に通知します。
ただし、既に事前通知事項の詳細は税務代理人を通じて通知する旨の承諾を得ている場合や、先ほど説明しましたが、税務代理権限証書に「同意」の記載があり、納税義務者への事前通知を省略したときには、税務代理人を通じて納税義務者に通知しても差し支えありません。

事前通知事項以外の事項に係る質問検査等

次に、調査時における手続で、事前通知した事項以外の事項に係る質問検査等を行う場合の手続について説明します。
事前通知事項以外の事項に係る質問検査等を行う場合の手続について、通則法第74条の9第4項では、調査の過程において、事前通知事項以外の事項、例えば、事前通知していない税目や事前通知していない年分等について非違が疑われる場合は調査できることとされています。
このため、事前通知事項以外の事項の調査を行った事績を「調査手続チェックシート(本表)」に記録するとともに、その内容(非違が疑われる事項など)を調査経過記録書に記録します。
なお、事前通知の際には、「事前通知した事項(調査の目的・調査対象税目・調査対象期間・調査対象の帳簿書類等)以外の事項についても非違が疑われる場合には課査することができる。」ことを通知することとされています。
次に、事前通知事項以外の事項に係る質問検査等を行う場合の事務処理の流れを説明します。
調査の過程で、事前通知事項以外の事項について非違が疑われる事実を把握した場合、
① 調査担当者は、基本的には、自らの判断で質問検査等を行って差し支えありませんが、必要に応じ電話等により統括官等に、質問検査等を実施してよいかの判断を仰ぎ、
② 統括官等は、調査担当者からの連絡を受けた場合は、質問検査等の実施の可否を判断。
③ 調査担当者は、事前通知事項以外の事項に係る質問検査等を実施するに当たっては、納税義務者に事前通知事項以外に調査対象に追加する税目、課税期間等を説明した上で、質問検査等を実施し、
④ 帰署後に、調査手続チェックシート(本表)及び調査経過記録書に調査経過を記録し、統括官等に提出、
⑤ 統括官等は復命を受け、
⑥ 手続の履行状況等を管理。
といった流れになります。
なお、事前通知事項以外の事項について質問検査等を行う場合、法令上は、改めて事前通知をする必要はありませんが、運用上、調査対象に追加する税目・課税期間等について、納税義務者に説明し、調査への理解と協力を求めて質問検査等を実施します。

帳簿書類等の提示・提出の求めの際の留意事項

はじめに、留め置く前の手続として、恨簿書類等の提示・提出を求める際の手続上の留意事項について説明します。
まず、1つ目としては、質問検査権における帳簿書類等の提示・提出要求や提示・提出要求に正当な理由なく応じない場合の、罰則規定については法律上明確化されていますが、帳簿書類等の提示・提出を求めることは、納税義務者の承諾(明示の承諾)と協力の下で行うことであり、強権的に行っているとの誤解を与えないようにしてください。
次に、2つ目としては、帳簿書類等の提示菖提出要求を含め、質問検査等の相手方となる者については、「質問検査権の規定は、納税義務者の代理人、使用人その他の従業者についても及ぶこと」を留意的に定めています。
最後に、3つ目としては、提示・提出を求める帳簿書類等には、「その写しを含む」ことになっており、この場合の写しとは、納税義務者等が事業の用に供する等のために保有している物件の「写し」のほか、調査の過程で当該職員に提出するために新たに作成した「写し」、つまり、返却の必要のないコピーも含まれていることを明らかにしています。
返却の必要のない写しについては、「預り証」の交付は不要です。

問題点等の提示等

次は、調査の終盤、問題点等の提示等を行う場合の手続について説明します。
非違が疑われる内容について、必要に応じ証拠書類を示しながら納税義務者及び税務代理人に説明するとともに、納税義務者等の主張を聞いた上で、修正申告等の意思を確認します。
この場合の問題点等の提示等について、当局としての最終的な結論である「調査結果の内容説明」であるとの誤解を招かないよう、法令上の「調査結果の内容説明」ではないことを納税義務者等に説明する必要があります。
なお、調査結果の内容説明を行う前段階で、更正決定等をすべき内容を固めることが必要になるため、事案の内容に応じ、問題点等の提示等を行う段階から統括官等が同席します。
また、問題点等の提示等は、事案に応じて繰り返し行い、調査結果の内容説明を行う前に更正決定等をすべき内容を固めていく必要があります。
このほか、指導事項がある場合には、納税義務者が調査結果の内容説明と混同しないよう、調査結果の内容説明の際に説明するのではなく、法令上の結果説明を行う前の段階で実施することに留意してください。
次に、問題点等の提示等における事務処理について、事務の流れに沿って説明します。
① 調査担当者は、調査により把握した問題点(非違が疑われる内容)、証拠書類等を統括官等へ説明し、
② 統括官等は、問題点を十分に精査し、法令上の調査結果の説明前に納税義務者及び税務代理人に提示する問題点を指示。
③ 調査担当者は、納税義務者等に問題点を提示する際に、法令上の調査結果の内容説明ではない旨を説明。
④ 問題点等を、証拠書類等を示しながら分かりやすく説明。(その際、統括官等は事案に応じて同席)
⑤ 調査担当者は、納税義務者及び税務代理人の意見や主張を聴取するとともに、修正申告又は期限後申告に応じる意思の有無を確認し、
⑥調査経過記録書に納税義務者とのやり取りの事績を記録し、統括官等に復命。
⑦ 統括官等は、復命を受け、調査担当者に「調査結果の説明書」に記載する更正決定等をすべきと諮められる事項を指示。
といった流れになります

調査結果の説明書の作成

次に、調査の終了の際の手続で、調査結果の説明書の作成に関する手続について説明します。
調査結果の説明書は、納税義務者に調査結果の説明を行う更正決定等をすべきと認められる非違の内容等について確定させるために作成する書類となります。
更正決定等をすべきと認める内容について、「調査結果の説明書」を作成し、証拠書類等と併せて、統括官等へ説明し、統括官等の決裁を受けます。
この場合において、事案に応じて、審理担当官の審理を受けた上で、更正決定等をすべきとして説明する内容を確定させます。なお、審理担当官が審理すべき事案の基準については、別途、各課事務提要等に定めています。
次に、「調査結果の説明書」の作成における事務処理の流れについて説明します。
① 調査担当者は、問願点等の提示等、納税義務者等の主張等の聴取を行った結果、更正決定等をすべきと判断した内容に基づき、「調査結果の説明書」を作成し、把握した証拠資料等を添付の上、統括官等の決裁を受けます。
② 統括官等は、「調査結果の説明書」の内容及び添付された証拠資料等を確認し、決裁を行い、各課の事務提要等において定める基準に基づき、審理担当官に回付し、
③ 審理担当官は、「調査結果の説明書」の記載内容及び添付された証拠書類等に基づき審理した上で、決裁を行います。
④ 統括官等は、「調査結果の説明書」について、調査(決議)書の決裁基準に基づき署長等の決裁を受け、
⑤調査担当者は、チェックシート(本表)に「調査結果の説明書」の決裁日を記載します。
⑥ 統括官等は、各手続の履行状況を管理します。

調査結果の説明書の作成上の留意事項

次に、「調査結果の説明書」を作成する際の留意事項について説明します。
まず、法令上、調査結果として説明すべき内容は、通則法第74条の11第2項において、「調査結果の内容(更正決定等をすべきと認めた額及び理由を含む。)」と規定されており、説明内容としては、非違の内容、金額及びその理由の説明が必要となります。
この場合の「更正決定等」とは、通達6-2においても明らかにしていますが、通則法第24条に定める更正若しくは通則法第26条に定める再更正、若しくは通則法第25条に定める決定、又は通則法第32条に定める賦課決定(過少申告加算税、無申告加算税、不納付加算税、重加算税及び過怠税の賦課決定を含む。)のほか、通則法第36条に定める源泉徴収等による国税でその法定納期限までに納付されなかったものに係る納税の告知が対象となります。
したがって、調査結果の内容説明をする際には、加算税の額まで計算しておく必要があります。
次に、更正決定等をすべきと認めた額とは、当該職員が、調査結果の内容の説明をする時点において得ている情報に基づいて合理的に算定した課税標準等、税額等、加算税又は過怠税の額をいいます。なお、合理的に算定する場合の例としては、
①法人税の所得の金額の計算上、当該事業年度の直前の事業年度分の事業税の額を損金の額に算入する場合は、標準税率により算出すること、
② 相続税において未分割の相続財産等がある場合は、相続税法第55条の規定に基づき計算し、算出すること
などが該当します

調査結果の内容説明・修正申告等の勧奨等

次は、調査の終了の際の手続で、調査結果の内容説明・修正申告等の勧奨等を行う場合の手続について説明します。
調査結果の内容説明・修正申告等の勧奨等における事務処理の流れを説明します。
①調査担当者は、調査結果の内容説明を行うに際し、来署を依頼又は納税義務者の事務所へ臨場の上、納税義務者に対し、法令上の結果説明であることを明言し、
②調査担当者は、原則として、統括官等の同席のもと、調査結果の内容について、必要に応じて非違の項目や金額を整理した資料など参考となる資料を示すなどして、分かりやすく納税義務者及び税務代理人に説明。また、
③調査担当者は、調査結果の内容説明を行った際には、原則、修正申告等の勧奨を行い、
④ その場合において、修正申告等を提出した場合には、その修正申告等に係る不服申立てはできないが更正の請求はできることを説明し、
⑤その旨を記載した書面(教示文)を交付。
⑥教示文を直接対面により交付する場合は、相手方に対し、教示文の受領についての署名を求める。
⑦ 調査担当者は、「調査手続チェックシート(本表)」に説明等に関する事績を記録し、統括官等に提出し、
⑧統括官等は、調査結果の説明の事績を確認し、
⑨ 履行状況等を管理。
といった流れになります。
ポイントに記載してありますが、調査結果の説明書は、あくまで、部内決裁用の書類ですので納税義務
者等に提示又は交付しないということに留意してください。

調査結果の内容説明・修正申告等の勧奨等の留意事項①

次に、調査結果の内容説明・修正申告等の勧奨等を行う際の留意事項について説明します。
まず、1つ目として、調査対象のうち、更正決定等をすべきと認められなかった税目・課税期間がある場合には、調査結果の内容の説明を行う際に併せて、後日、更正決定等をすべきと認められなかった税目・課税期間に係る「更正決定等をすべきと認められない旨の通知書」を送付する旨を説明してください。
次に、2つ目として、修正申告等の法的効果の説明を行う際には、納付すべき税額によっては延滞税が課されることも併せて説明するとともに、原則として、この調査結果の内容説明をもって調査が終了する旨を納税義務者に説明します。
次に、3つ目として、電話により、調査結果の内容説明、修正申告等の勧奨及び修正申告等の法的効果の説明を行った場合は、法令上、修正申告等の法的効果を記載した書面を交付しなければならないと義務付けされていることから、「修正申告等について」(教示文)を郵送してください。
郵送の場合、交付送達には該当しませんので、受領者に署名を求める必要はありません。

調査結果の説明・修正申告等の勧奨等の留意事項②

留意事項の4つ目として、調査結果の内容説明を行った後に、説明した内容を修正する必要がある場合の対応について説明します。
先程説明したとおり、調査結果の内容説明は、当局としての最終的な結論という位置付けとなりますが、通達6-4において、「法令上の調査結果の内容説明を行った後、調査の結果に基づき修正申告書等の提出又は更正決定等をするまでの間に説明の前提となった事実が異なることが明らかとなり説明の根拠が失われた場合など、その説明内容の全部又は一部を修正する必要があると認めた場合には、必要に応じ調査を再開し、再度の調査結果の説明を行うことができること」を留意的に規定しています。
なお、説明の前提となった事実が異なることが明らかとなり説明の根拠が失われた場合とは、例えば、納税義務者が調査の過程で供述した内容と異なる証拠書類を提示してきた場合などが該当します。
また、調査結果の内容説明に基づき、修正申告書等が提出又は更正決定等が行われた後に調査結果の説明の根拠が失われた場合は、既に一連の調査手続は終了していることから、国税通則法第74条の11第5項の再調査の規定が適用されることとなります。したがって、一連の調査手続の終了後に、先程のケース(納税義務者が調査の過程で供述した内容と異なる証拠書類を提示してきた場合)が生じた場合においては、調査結果の内容説明の前提となった事実とは異なることとなった証拠書類が「新たに得られだ情報」に該当すると認められますので再調査は可能と考えられます

税務代理人がある場合の調査結果の内容説明等

次に、先ほど説明しましたが、調査結果の内容説明、修正申告等の勧奨、法的効果の教示、それから、後ほど説明する更正決定等をすべきと認められない旨の通知について、法令上、実地の調査については、納税義務者の同意があれば、納税義務者ではなく、税務代理人に対してのみ説明等を行うことができることとされています。また、実地の調査以外の調査については、通達8-3において、実地の調査の場合に準じて行うこととして差し支えないことを留意的に定めています。
この場合における、納税義務者への同意の確認方法について説明すると、
実地の調査の場合には、
①提出された税務代理権限証書の同意欄のチェックの有無を確認する、
②電話又は対面により納税義務者に直接同意の意思を確認する、又は、
③税務代理人を通じて納税義務者の同意の事実を証する書面(同意欄のチェックがある税務代理権限証書)の提出を求め、それを確認する
ことにより納税義務者の同意を確認してください。
また、実地の調査以外の調査の場合の同意の確認方法については、実地の調査の場合と同様に、上記①から③までのいずれかの方法で確認します。ただし、これらの方法により納税義務者の同意を確認することが困難な場合は、税務代理人が調査結果の内容説明を受けることについて委嘱されている旨の申立てがあることをもって、納税義務者の同意があったものとして取り扱います

理由附記の程度について

次に、理由附記の記載の程度について説明します。
通則法第74条の14第1項により、国税に関する法律に基づき行う処分について、行政手続法第8条又は行政手続法第14条に基づく理由の提示を行う場合には①行政庁の判断の慎重を担保してその恣意を抑制するとともに、②処分の理由を相手方に知らせて不服の申立てに便宜を与えることにあるという趣旨を踏まえて、いかなる事実関係に基づき、いかなる法令(処分基準が公表されている場合にはその基準を含む。) を適用して処分したのかを、納税義務者がその記載内容から了知し得る程度に記載する必要があります。また、処分の相手方が処分の理由となるべき事実を知っていたとしても、それにより理由提示義務の程度が緩和されることはありません。
さらに、実際の理由附記に当たっては、その処分の性質、根拠法規の趣旨・目的及びその処分に係る法令上の要件などを総合勘案して実施する必要があります。具体的には、処分の要件が具体的に規定されている場合には、事実関係の記載としては客観的事実に基づき形式的に記載すれば足りますが、抽象的な要件(「~の計算が適正に行われ難いと認めるとき」、「特に不適当と認められる場合」など)に基づき処分する場合には、納税義務者における個別の事実関係や事情等を具体的に認定し、その内容を事実関係として附記する必要があります

実務上の留意点について

処分の理由書を作成するに当たって、実務上留意すべき事項としては、まず、
「理由附記は、処分の適正化と納税者の予見可能性の確保の観点から実施するものであることを十分理解し、適正に作成する必要がある」ということです。
具体的には、
①理由書を作成した調査担当者は、自ら作成した理由書を再読して漠字の変換誤りなど記載に誤りがないか確認し、また、統括官等の管理者にあっては調査担当者が作成したものについて誤り等がないか再度確認する必要があります。
② また、表現に関することですが、「~と思われます。」「~と考えられます。」などの表現は、主観を示すものであり、処分の客観性、信憑性が疑われるもととなるため、絶対に使用しないよう留意願います。
さらに、形式的なことですが、「以下余白」は、文書末尾に余白が生じた時に、余白が悪用されることを未然に防止するために記載するものであり、対外的に交付することとなる理由書の作成に当たっては、必ず記載する必要があります。
また、その他誤りやすい事例として、減額更正については、更正の請求の一部を認めない場合を除いて、行政手続法第2条第4号に規定する不利益処分(行政庁が、法令に基づき、特定の者を名あて人として、直接に、これに義務を課し、又はその権利を制限する処分)に該当しないため、行政手続法第14条の規定は適用されず、当該規定に基づく理由附記を行う必要はありません。
ただし、青色申告書に係る更正については、所得税法第155条(青色申告書に係る更正)、法人税法第130条(青色申告書等に係る更正)の規定により理由附記することとされているため、当該規定に従い、減額更正(更正の請求に基づくものも含む)であっても理由附記を行う必要がありますので、ご留意願います。
なお、個人の場合、青色申告者であっても、不動産・事業・山林所得の金額にかかる減額更正がない場合には、所得税法第155条の規定による理由附記は必要ありません。