この記事では、法人税の暗号資産に係る期末時価評価課税について、自己が発行し、かつ、その発行の時から継続して有する暗号資産であってその時から継続して譲渡制限が付されている暗号資産(特定自己発行暗号資産)を時価法の対象外とし、電子決済手段の譲渡を消費税法上非課税とするなどした令和5年度税制改正の立案関係資料を確認します。

財務省「令和5年度税制改正の解説」251-260頁(法人税)

一 暗号資産
1 改正前の制度の概要
⑴ 暗号資産の譲渡損益
① 暗号資産の譲渡損益額
 内国法人が暗号資産の譲渡をした場合には、その譲渡に係る譲渡利益額又は譲渡損失額は、その譲渡に係る契約をした日の属する事業年度の所得の金額の計算上、益金の額又は損金の額に算入することとされています(法法61①)。
(注) 暗号資産とは、資金決済に関する法律(以下「資金決済法」といいます。)第2条第5項に規定する暗号資産をいいます(法法61①)。
 譲渡利益額とは、次のイの金額が次のロの金額を超える場合のその超える部分の金額をいい、譲渡損失額とは、次のロの金額が次のイの金額を超える場合のその超える部分の金額をいいます(法法61①)。
イ その暗号資産の譲渡の時における有償によるその暗号資産の譲渡により通常得べき対価の額
ロ その暗号資産の譲渡に係る原価の額

② 暗号資産の譲渡に係る原価の額
 上記①ロの暗号資産の譲渡に係る原価の額は、その暗号資産についてその内国法人が選定した1単位当たりの帳簿価額の算出の方法により算出した金額(算出の方法を選定しなかった場合又は選定した方法により算出しなかった場合には、算出の方法のうち移動平均法(下記④イイの方法)により算出した金額)にその譲渡をした暗号資産の数量を乗じて計算した金額とされています(法法61①二、法令118の6⑦)。

③ 暗号資産の取得価額
 暗号資産の1単位当たりの帳簿価額の算出の基礎となる取得価額は、次の暗号資産の区分に応じそれぞれ次の金額とされています(法法61⑩、法令118の5)。
イ 購入した暗号資産…… …… その購入の代価(暗号資産の購入のために要した費用がある場合には、その費用の額を加算した金額)
(注) 法人税法第61条第9項又は第61条の5第3項の規定の適用がある暗号資産を除きます(法令118の5一)。
ロ 購入した暗号資産(上記イの暗号資産)以外の暗号資産…… その取得の時におけるその暗号資産の取得のために通常要する価額
(注) 適格分社型分割、適格現物出資又は適格現物分配により分割法人、現物出資法人又は現物分配法人から取得した暗号資産を除きます(法令118の5二)。

④ 暗号資産の1 単位当たりの帳簿価額の算出の方法及びその選定の手続等
 暗号資産の1 単位当たりの帳簿価額の算出の方法の種類、その方法の選定及びその手続は、次のとおりとされています(法法61⑩、法令118の6 )。
イ 暗号資産の1単位当たりの帳簿価額の算出の方法の種類
 暗号資産の譲渡に係る原価の額を計算する場合におけるその1単位当たりの帳簿価額の算出の方法は、次の方法とされています(法令118の6①)。
(イ) 移動平均法…… 暗号資産をその種類の異なるごとに区別し、その種類を同じくする暗号資産の取得をする都度その暗号資産のその取得の直前の帳簿価額とその取得をした暗号資産の取得価額との合計額をこれらの暗号資産の総数量で除して平均単価を算出し、その算出した平均単価をもってその1単位当たりの帳簿価額とする方法をいいます(法令118の6①一)。
(注1) 取得には、適格合併又は適格分割型分割による被合併法人又は分割法人からの引継ぎを含みます(法令118の6①一)。
(注2) 適格合併又は適格分割型分割による被合併法人又は分割法人から引継ぎを受けた暗号資産については、その被合併法人又は分割法人のその適格合併に係る最後事業年度(被合併法人の合併の日の前日の属する事業年度をいいます。)終了の時又は当該適格分割型分割の直前の帳簿価額が、その暗号資産の取得価額となります(法令118の6①一)。
(ロ) 総平均法…… 暗号資産を上記イと同様に区別し、その種類の同じものについて、その事業年度開始の時において有していたその暗号資産の帳簿価額とその事業年度において取得をしたその暗号資産の取得価額の総額との合計額をこれらの暗号資産の総数量で除して平均単価を算出し、その算出した平均単価をもってその1単位当たりの帳簿価額とする方法をいいます(法令118の6①二)。
(注) 内国法人が、その有する暗号資産について法人税法第25条第2項に規定する評価換え若しくは同法第33条第2項若しくは第3項の規定の適用を受ける評価換え若しくは法人税法施行令第119条の3第2項に規定する民事再生等評価換えをした場合又は適格分割、適格現物出資若しくは適格現物分配によりその有する暗号資産を分割承継法人、被現物出資法人若しくは被現物分配法人に移転した場合には、これらの暗号資産の1単位当たりの帳簿価額は、同条第1項若しくは第2項又は同令第119条の4第1項(同条第5項において準用する場合を含みます。)の規定に準じて算出するものとされています(法令118の6②)。
ロ 暗号資産の1単位当たりの帳簿価額の算出の方法の選定及びその手続
 暗号資産の1単位当たりの帳簿価額の算出の方法は、その種類ごとに選定しなければならないこととされています(法令118の6③)。
 内国法人は、暗号資産の取得をした場合には、その取得をした日の属する事業年度に係る確定申告書の提出期限(仮決算による中間申告書を提出する場合には、その中間申告書の提出期限)までに、その暗号資産と種類を同じくする暗号資産につき、上記イイ又はロの方法のうちそのよるべき方法を書面により納税地の所轄税務署長に届け出なければならないこととされています(法令118の6④)。
(注) 上記の「暗号資産の取得をした場合」には次の場合に該当する場合を含むものとし、これらの場合における「取得をした日」はそれぞれ次の日とされています(法令118の6④)。
(イ)  内国法人である公益法人等又は人格のない社団等につき、収益事業以外の事業に属する暗号資産が収益事業に属する暗号資産となった場合…… その収益事業に属する暗号資産となった日(法令118の6④一)
(ロ)  公益法人等に該当していた普通法人又は協同組合等につき、その普通法人又は協同組合等に該当することとなった時の直前において収益事業以外の事業に属する暗号資産を有していた場合…… その該当することとなった日(法令118の6④二)
 なお、「取得をした日」の属する事業年度前の事業年度においてその暗号資産と種類を同じくする暗号資産について届出をすべき場合及び内国法人である公益法人等又は人格のない社団等が収益事業以外の事業に属する暗号資産の取得をした場合には、届出の必要はありません(法令118の6 ④ただし書)。


⑵ 暗号資産の期末時価評価損益
① 時価法
 内国法人が事業年度終了の時において有する活発な市場が存在する暗号資産については、時価法により評価した金額(以下「時価評価金額」といいます。)をもって、その時における評価額とすることとされています(法法61②)。
 内国法人が事業年度終了の時において活発な市場が存在する暗号資産を自己の計算において有する場合には、その暗号資産の時価評価金額と帳簿価額との差額(以下「評価益」又は「評価損」といいます。)は、当該事業年度の所得の金額の計算上、益金の額又は損金の額に算入することとされています(法法61③)。
 また、内国法人が適格分割、適格現物出資又は適格現物分配(適格現物分配にあっては、残余財産の全部の分配を除きます。以下⑵において「適格分割等」といいます。)により分割承継法人、被現物出資法人又は被現物分配法人に自己の計算において有する活発な市場が存在する暗号資産を移転する場合には、その適格分割等の日の前日を事業年度終了の日とした場合におけるその暗号資産に係る評価益又は評価損に相当する金額は、その適格分割等の日の属する事業年度の所得の金額の計算上、益金の額又は損金の額に算入することとされています(法法61④)。


② 活発な市場が存在する暗号資産
 時価法の対象となる活発な市場が存在する暗号資産は、内国法人が有する暗号資産のうち次の要件の全てに該当するものとされています(法法61②、法令118の7 )。
イ 継続的に売買価格等の公表がされ、かつ、その公表がされる売買価格等がその暗号資産の売買の価格又は交換の比率の決定に重要な影響を与えているものであること。
(注) 売買価格等とは、売買の価格又は交換比率をいい、交換比率とは、他の暗号資産との交換の比率をいいます(法令118の7 一)。
ロ 継続的に上記イの売買価格等の公表がされるために十分な数量及び頻度で取引が行われていること。
ハ 次のいずれかに該当すること。
(イ) 上記イの売買価格等の公表がその内国法人以外の者によりされていること。
(ロ) 上記ロの取引が主としてその内国法人により自己の計算において行われた取引でないこと。


③ 時価評価金額
 上記②の活発な市場が存在する暗号資産(以下「市場暗号資産」といいます。)の時価評価金額は、内国法人が事業年度終了の時において有する市場暗号資産をその種類の異なるごとに区別し、その種類を同じくする市場暗号資産ごとに、次のいずれかの価格にその数量を乗じて計算した金額とされています(法令118の8 ①)。
イ 価格等公表者によって公表された当該事業年度終了の日における市場暗号資産の最終の売買の価格(法令118の8 ①三)
 なお、公表された同日における最終の売買の価格がない場合には、同日前の最終の売買の価格が公表された日で当該事業年度終了の日に最も近い日におけるその最終の売買の価格となります。
(注) 価格等公表者とは、市場暗号資産の売買価格等を継続的に公表し、かつ、その公表する売買価格等がその市場暗号資産の売買の価格又は交換の比率の決定に重要な影響を与えている場合におけるその公表をする者をいいます。その公表をする売買価格等に係る上記②ロの取引が主としてその内国法人が自己の計算において行った取引である場合には、その内国法人は、その市場暗号資産に係る価格等公表者に該当しないこととされています。
ロ 価格等公表者によって公表された当該事業年度終了の日における市場暗号資産の最終の交換比率に、その交換比率により交換される他の市場暗号資産に係る上記イの価格を乗じて計算した価格(法令118の8 ①
四)
 なお、公表された同日における最終の交換比率がない場合には、同日前の最終の交換比率が公表された日で当該事業年度終了の日に最も近い日におけるその最終の交換比率に、その交換比率により交換される他
の市場暗号資産に係る上記イの価格を乗じて計算した価格となります。


④ 暗号資産の評価損益の翌事業年度における処理等
 事業年度終了の時において自己の計算において有する市場暗号資産につき内国法人が上記①により当該事業年度の益金の額又は損金の額に算入した金額に相当する金額は、当該事業年度の翌事業年度の所得の金額の計算上、損金の額又は益金の額に算入する(洗替処理)こととされています(法令118の9 ①)。
また、当該翌事業年度開始の時における市場暗号資産の帳簿価額は、当該事業年度終了の時におけるその市場暗号資産の帳簿価額からその洗替処理により損金の額に算入される金額に相当する金額を減算し、又はその帳簿価額にその洗替処理により益金の額に算入される金額に相当する金額を加算し、評価損益を取得価額に戻し入れることとされています(法令118の9 ④)。
 内国法人が適格分割等により分割承継法人、被現物出資法人又は被現物分配法人に移転する市場暗号資産のその適格分割等の直前の帳簿価額は、その市場暗号資産につき評価益又は評価損に相当する金額を計算する場合の時価評価金額とされています(法令118の9 ②)。
 内国法人が適格合併若しくは適格現物分配(残余財産の全部の分配に限ります。)又は適格分割等により市場暗号資産の移転を受けたときは、被合併法人の最後事業年度若しくは現物分配法人の残余財産の確定の日の属する事業年度又は分割法人、現物出資法人若しくは現物分配法人の適格分割等の日の属する事
業年度においてその移転を受けた市場暗号資産につき上記①により益金の額又は損金の額に算入された金額に相当する金額は、その移転を受けた内国法人のその適格合併の日の属する事業年度若しくはその残余財産の確定の日の翌日の属する事業年度又はその適格分割等の日の属する事業年度の所得の金額の計算上、損金の額又は益金の額に算入する(洗替処理)こととされています(法令118の9 ③)。
その移転を受けた市場暗号資産のその移転を受けた内国法人におけるその移転を受けた時における帳簿価額は、被合併法人若しくは現物分配法人の最後事業年度終了の時若しくは残余財産の確定の時の帳簿価額若しくは分割法人、現物出資法人若しくは現物分配法人の適格分割等の直前の帳簿価額からその洗替処理により損金の額に算入される金額に相当する金額を減算し、又はこれらの帳簿価額にその洗替処理により益金の額に算入される金額に相当する金額を加算し、評価損益を取得価額に戻し入れることとされています(法令
118の9 ⑤)。


⑶ 未決済暗号資産信用取引に係るみなし決済損益額の計上
① みなし決済損益額の計上
 内国法人が暗号資産信用取引を行った場合において、その暗号資産信用取引のうち事業年度終了の時において決済されていないものがあるときは、その時においてその暗号資産信用取引を決済したものとみなして算出した利益の額又は損失の額に相当する金額(以下「みなし決済損益額」といいます。)は、当該事業年度の所得の金額の計算上、益金の額又は損金の額に算入することとされています(法法61⑦)。
 内国法人が適格分割又は適格現物出資(以下⑶において「適格分割等」といいます。)により暗号資産信用取引に係る契約を分割承継法人又は被現物出資法人に移転する場合には、その適格分割等の日の前日を事業年度終了の日とした場合に計算されるその暗号資産信用取引に係るみなし決済損益額に相当する金額は、その適格分割等の日の属する事業年度の所得の金額の計算上、益金の額又は損金の額に算入することとされています(法法61⑧)。
(注) 暗号資産信用取引とは、資金決済法第2条第7 項に規定する暗号資産交換業(以下「暗号資産交換業」といいます。)を行う者から信用の供与を受けて行う暗号資産の売買をいいます(法法61⑦)。


② みなし決済損益額
 みなし決済損益額は、次の場合の区分に応じそれぞれ次の金額とされています(法法61⑦、法規26の10)。
イ 暗号資産信用取引の方法により暗号資産の売付けをしている場合…… その売付けに係る暗号資産(事業年度終了の時において決済されていないものに限ります。)のその売付けに係る対価の額からその暗号資産の上記⑵③イ又はロの金額に相当する金額(以下「時価評価額」といいます。)にその暗号資産の数量を乗じて計算した金額を減算した金額
ロ 暗号資産信用取引の方法により暗号資産の買付けをしている場合…… その買付けに係る暗号資産(事業年度終了の時において決済されていないものに限ります。)の時価評価額にその暗号資産の数量を乗じて計算した金額からその暗号資産のその買付けに係る対価の額を減算した金額


③ 暗号資産信用取引に係る契約に基づき暗号資産を取得した場合
 内国法人が暗号資産信用取引に係る契約に基づき暗号資産を取得した場合(繰延ヘッジ処理による利益額又は損失額の繰延べの規定の適用を受ける暗号資産信用取引に係る契約に基づき当該暗号資産を取得した場合を除きます。)には、その取得の時におけるその暗号資産の価額とその取得の基因となった暗号資産信用取引に係る契約に基づきその暗号資産の取得の対価として支払った金額との差額は、その取得の日の属する事業年度の所得の金額の計算上、益金の額又は損金の額に算入することとされています(法法61⑨)。


④ みなし決済損益額の翌事業年度における処理等
 事業年度終了の時において決済されていない暗号資産信用取引につき内国法人が上記①により当該事業年度の益金の額又は損金の額に算入した金額に相当する金額は、当該事業年度の翌事業年度の所得の金額の計算上、損金の額又は益金の額に算入する(洗替処理)こととされています(法令118の11①)。
 内国法人が適格合併又は適格分割等により暗号資産信用取引に係る契約の移転を受けたときは、被合併法人の最後事業年度又は分割法人若しくは現物出資法人のその適格分割等の日の属する事業年度においてその移転を受けた暗号資産信用取引に係る契約につき上記①により益金の額又は損金の額に算入された金額に相当する金額は、その移転を受けた内国法人のその適格合併又は適格分割等の日の属する事業年度の所得の金額の計算上、損金の額又は益金の額に算入することとされています(法令118の11②)。


2  改正の経緯
 法人税法上、内国法人が期末に有する暗号資産については、市場における購入などにより他の者から取得したものであっても、自己が発行したことにより取得したものであっても、活発な市場が存在する暗号資産については時価法、それ以外のものは原価法により評価することとされています。
(注) 活発な市場が存在する暗号資産について時価法を適用する理由は次のとおりとされています。
⑴  売買、換金について事業上の制約がない、すなわち、市場が存在するため売却・換金することが容易な資産であり、保有し続けなければ事業を継続できないような資産でないこと。
⑵  時価法を適用しなければ、課税所得が多額となると見込まれる事業年度に含み損のある暗号資産だけを譲渡するといった租税回避行為が想定されること。
⑶  企業会計において時価法が導入されていること。
 令和4 年11 月7 日に企業会計基準委員会(ASBJ)により議事概要が公表され、暗号資産の発行者が発行時に自己に割り当てた暗号資産のうち、発行による対価を受領しておらず自己で完結していると考えられるものは、第三者との取引が生じるまでは、時価では評価されないとの考えが示されました。
 これを受けて、法人税法においても、内国法人が期末に有する暗号資産のうち、自己が発行し、かつ、その発行の時から継続して自己が有する暗号資産について、その発行の時から継続して譲渡についての制限が付されている一定の要件に該当するものについては、上記(注)⑴から⑶までのいずれにも該当しないことから期末時価評価の対象外とする等の改正が行われました。


3  改正の内容
⑴ 期末時価評価の対象となる暗号資産の範囲
 期末時価評価の対象となる暗号資産の範囲から、特定自己発行暗号資産が除外されました(法法61②~④)。
(注) 安定的かつ効率的な資金決済制度の構築を図るための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律(令和4 年法律第61号)により資金決済法が改正されたことに伴う規定の整備が行われ、暗号資産とは、資金決済法第2条第14項に規定する暗号資産をいうこととされ、令和5 年6 月1 日から施行されています(法法61①)。なお、暗号資産の範囲について、改正前の暗号資産から通貨建資産以外の電子決済手段が除外されています(資金決済法2⑭)。
 特定自己発行暗号資産とは、内国法人が発行し、かつ、その発行の時から継続して有する暗号資産であってその時から継続して譲渡についての制限その他の条件が付されている一定のものをいいます(法法61②)。
 一定のものは、その発行の時から継続して次の①又は②の要件に該当する暗号資産とされて
います(法令118の7 ②)。


① その暗号資産につき、他の者に移転することができないようにする技術的措置であって、次の要件の全てに該当するものがとられていること(法令118の7 ②一、法規26の10)。
イ その移転することができない期間が定められていること。
(注) 移転することができない期間は、例えば「3 年間」など確定的な期間を定める場合のほか、確定的な期間以外の「特定の条件の成立までの期間」とした場合であってもその特定の条件が合理的なものであれば、特定の条件の成立までの期間は「移転することができない期間」に該当するものと考えられます。一方で、確定的な期間の終期をいつでも取締役会の決議などにより変更できることとされている場合や、「特定の条件の成立」そのものが取締役会の決議とされている場合など、単に法人の裁量により期間の変更
(条件を成立させること)ができることとされている場合には、「移転することができない期間が定められていること」には該当しないものと考えられます。
ロ その技術的措置が、発行法人等の役員及び使用人(以下「役員等」といいます。)並びに次の者のみによって解除をすることができないものであること。
(注1 ) 発行法人等とは、その暗号資産を発行した内国法人及びその内国法人との間に完全支配関係がある他の者をいいます。
(注2 ) 発行法人等の役員等及び次の者のみによって解除をすることができないものには、これらの者以外の者を介在させることにより解除ができる技術的措置のほか、上記イの期間中はいずれの者によっても解除をすることができない技術的措置も含まれると考えられます。
(イ) 発行法人等の役員等の親族
(ロ) 発行法人等の役員等と婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者
(ハ) 上記イ又はロ以外の者で発行法人等の役員等から受ける金銭その他の資産によって生計を維持しているもの
(ニ) 上記ロ又はハの者と生計を一にするこれらの者の親族


② その暗号資産が信託で次の要件の全てに該当するもの(受益者等課税信託に限ります。)の信託財産とされていること(法令118の7②二)。
(注1 ) 受益者等課税信託とは、法人税法第12条第1 項の規定により受益者等がその信託財産に属する資産及び負債を有するものとみなされる信託をいいます。なお、受益者等とは、法人税法第12条第1 項に規定する受益者及び同条第2 項の規定により受益者とみなされる者をいいます。
(注2 ) 下記ロ及びハの要件は、信託契約において定められている必要があります。したがって、その信託が信託法第3 条第2号又は第3 号の方法によりされた信託である場合は、これらの要件に該当しないこととなります。
イ その信託の受託者が信託会社のみであり、かつ、その信託の受益者等がその暗号資産を発行した内国法人のみであること。
(注) 信託会社には、金融機関の信託業務の兼営等に関する法律により同法第1 条第1 項に規定する信託業務を営む同項に規定する金融機関を含みます。
ロ その信託に係る信託契約において、その信託の受託者がその信託財産に属する資産及び負債を受託者等(その信託の受託者及び受益者等をいいます。)以外の者に譲渡しない旨が定められていること。
ハ その信託に係る信託契約において、その暗号資産を発行した内国法人によって、その信託の受益権の譲渡及びその信託の受益者等の変更をすることができない旨が定められていること。


 この改正により、自己が発行した暗号資産が上記1 ⑵②の活発な市場が存在する暗号資産に該当する場合であっても、特定自己発行暗号資産に該当する場合には、期末時価評価の対象外となり、評価益又は評価損は所得の金額の計算上、益金の額又は損金の額に算入されません。なお、自己が発行した暗号資産を他の者に譲渡した後、市場における購入などにより他の者から取得をした場合には、その取得した暗号資産は、「発行の時から継続して有する暗号資産であること」との要件に該当しないことから特定自己発行暗号資産には該当しないことになります。また、発行の時から継続して譲渡についての制限その他の条件が付されている必要があることから、その暗号資産の発行後遅滞なく上記①又は②の要件に該当し、かつ、その状態を維持する必要があります。
 また、内国法人が適格合併又は適格分割により被合併法人又は分割法人から移転を受けた暗号資産のうち、その移転の直前の時において特定自己発行暗号資産に該当していたものが、その内国法人において特定自己発行暗号資産に該当するかどうかの判定については、その内国法人がその移転を受けた時においてその暗号資産を発行したものとみなすこととされました(法令118の7 ③)。
(注) 適格分割については、分割法人が行っていた暗号資産の発行に関する事業が移転されるものに限ることとされています。
 これにより、適格合併又は適格分割に係る合併法人又は分割承継法人が、被合併法人又は分割法人において特定自己発行暗号資産に該当していた暗号資産の移転を受けた場合には、その移転後にその暗号資産が上記①又は②の要件に該当しているときは、その移転を受けた暗号資産は合併法人又は分割承継法人においても引き続き特定自己発行暗号資産に該当することとなります。


⑵ 暗号資産の1 単位当たりの帳簿価額等
① 自己が発行した暗号資産の取得価額
 自己が発行することにより取得した暗号資産の取得価額が、その発行のために要した費用の額とされました(法令118の5 二)。
 これまで、自己が発行することにより取得した暗号資産の取得価額は、購入により取得した暗号資産以外の暗号資産に該当し、その取得の時におけるその暗号資産の取得のために通常要する価額、すなわち「時価」をその取得価額とすることとされていましたが、この改正により、自己が発行することにより取得した暗号資産の取得価額は、発行のために要した費用の額となります。なお、自己が発行した暗号資産であっても、他の者から購入した場合には、自己が発行することにより取得した暗号資産には該当せず、購入により取得した暗号資産に該当し、その購入の代価(その暗号資産の購入のために要した費用がある場合には、その費用の額を加算した金額)が取得価額となります。


② 暗号資産の1 単位当たりの帳簿価額の算出の方法
 暗号資産の1 単位当たりの帳簿価額は、暗号資産を種類の異なるごとに区別し、その種類を同じくする暗号資産ごとに帳簿価額を算出することとされていますが、この種類は、次の暗号資産のいずれかに区分した後のそれぞれの種類とすることとされました(法令118の6 ②)。
イ 特定自己発行暗号資産
ロ 特定自己発行暗号資産以外の暗号資産
 この改正に伴い、暗号資産の1 単位当たりの帳簿価額の算出の方法は、その種類ごとに、かつ、その区分ごとに選定しなければならないこととされ(法令118の6 ④)、暗号資産については、種類及び区分を同じくする暗号資産につき、そのよるべき1 単位当たりの帳簿価額の算出の方法を選定し、税務署長に届け出ることとされました(法令118の6 ④⑤)。
 また、暗号資産の1 単位当たりの帳簿価額の算出の方法を変更しようとする場合における変更申請書の記載事項について、その変更しようとする暗号資産の種類及び区分を記載することとされました(法規26の8 二)。


⑶ 特定自己発行暗号資産に該当しないこととなった場合のみなし譲渡
 内国法人が特定自己発行暗号資産に該当する暗号資産を自己の計算において有する場合において、その暗号資産が特定自己発行暗号資産に該当しないこととなったときは、その該当しないこととなった時において、その暗号資産をその時の直前の帳簿価額により譲渡し、かつ、その暗号資産をその帳簿価額により取得したものとみなして、その内国法人の各事業年度の所得の金額を計算することとされました(法法61⑦、法令118の11)。


⑷ 暗号資産信用取引
 上記1 ⑶の暗号資産信用取引について、他の者から信用の供与を受けて行う暗号資産の売買をいうこととされました(法法61⑧)。この改正により、暗号資産交換業を行う者以外の者から信用の供与を受けて行う暗号資産の売買も新たに暗号資産信用取引に該当することになります。


4  適用関係

 上記3 の改正(上記3 ⑵①の改正を除きます。)は、法人の令和5 年4 月1 日以後に開始する事業年度の所得に対する法人税について適用し、法人の同日前に開始した事業年度の所得に対する法人税については、従前どおりとされています(改正法附則12①)。
 また、上記3 ⑵①の改正は、法人が令和5 年4月1 日以後に取得をする暗号資産について適用し、法人が同日前に取得をした暗号資産については、従前どおりとされています(改正法令附則4 ①)。
 なお、次の経過措置が講じられています。
⑴ 期末時価評価の対象となる暗号資産の範囲の改正に伴う経過措置
① 法人が改正事業年度終了の時においてその法人が発行した暗号資産で特定自己発行暗号資産に該当しないものを有する場合において、その暗号資産(他の者から取得したものを除きます。)の全てがその時において上記3 ⑴①又は②の要件に該当するものであるときは、その改正事業年度以前の各事業年度について
は、その暗号資産と同一の種類の暗号資産(他の者から取得したものを除きます。)は特定自己発行暗号資産に該当するものとみなして、改正後の法人税法第61条の規定を適用することができることとする経過措置が講じられています(改正法附則12②、改正法令附則4 ③)。また、法人が令和5 年4 月1 日前に取得をした暗号資産のうち上記により特定自己発行暗号資産に該当するものとみなして改正後の法人税法第61条の規定を適用する暗号資産については、改正後の法人税法施行令第118条の5 の規定を適用することができることとされています(改正法令附則4 ②)。すなわち、令和5 年4 月1 日の属する事業年度以前の事業年度についても、一定の暗号資産については、その取得価額をその発行のために要した費用の額とし、期末時価評価をしないで所得の金額を計算することができます。
(注) 改正事業年度とは、令和5 年4 月1 日の属する事業年度をいいます。


② 上記①により特定自己発行暗号資産に該当するものとみなされた暗号資産(改正事業年度終了の時から継続して有する暗号資産であってその時から継続して上記3 ⑴①又は②の要件に該当しているものに限ります。)は、改正事業年度後の各事業年度については、その暗号資産を特定自己発行暗号資産に該当するものとみなすこととされています(改正法附則12③)。
(注) 「特定自己発行暗号資産に該当するものとみなされた暗号資産」は、上記①により改正事業年度以前の事業年度において、特定自己発行暗号資産とみなして改正後の法人税法第61条の規定を適用した暗号資産です。したがって、改正事業年度終了の時から継続して上記3 ⑴①又は②の要件に該当しているだけでは、改正事業年度後の各事業年度において特定自己発行暗号資産に該当す
るものとはみなされません。


⑵ 暗号資産信用取引に関する経過措置
① 法人が経過事業年度において行った新暗号資産信用取引のうちその行った日以後に終了する経過事業年度終了の時において決済されていないものがある場合において、新暗号資産信用取引のうちその経過事業年度終了の時において決済されていないものの全てについて、その経過事業年度の確定した決算においてみなし決済損益額を収益又は損失として経理しているときは、その経理した金額は、その経過事業年度の所得の金額の計算上、益金の額又は損金の額に算入することができることとされています(改正法附則12④)。なお、益金の額又は損金の額に算入した場合のその算入した金額に相当する金額は、その算入した事業年度の翌事業年度の所得の金額の計算上、損金の額又は益金の額に算入する(洗替処理)ことになります。
(注1 ) 経過事業年度とは、令和5 年4 月1 日前に開始した事業年度をいいます。
(注2 ) 新暗号資産信用取引とは、「改正後」の暗号資産信用取引のうち「改正前」の暗号資産信用取引を除いたものをいいます。すなわち、暗号資産交換業を行う者以外の者から信用の供与を受けて行う暗号資
産の売買が新暗号資産信用取引に該当します。
(注3 ) 確定した決算は、中間期間について仮決算による中間申告書を提出する場合には、その期間に係る決算とされています。


② 法人が経過事業年度において行った新暗号資産信用取引のうちその行った日以後に行われた適格分割又は適格現物出資(以下「適格分割等」といいます。)により分割承継法人又は被現物出資法人にその契約を移転したものがある場合において、その適格分割等により移転した契約に係る新暗号資産信用取引の全てについてみなし決済損益額相当額を収益の額又は損失の額としているときは、その適格分割等については、その収益の額又は損失の額は、その経過事業年度の所得の金額の計算上、益金の額又は損金の額に算入することができることとされています(改正法附則12⑤)。
(注) みなし決済損益額相当額とは、その適格分割等の日の前日を事業年度終了の日とした場合に計算されるその新暗号資産信用取引に係るみなし決済損益額に相当する金額をいいます。


③ 法人が経過事業年度において新暗号資産信用取引に係る契約に基づき暗号資産を取得した場合において、新暗号資産信用取引に係る契約に基づきその経過事業年度において取得した暗号資産の全てについてその取得の時におけるその暗号資産の価額とその取得の基因となった新暗号資産信用取引に係る契約に基づきその暗号資産の取得の対価として支払った金額との差額をその経過事業年度の確定した決算において収益又は損失として経理しているときは、その経理した金額は、その経過事業年度の所得の金額の計算上、益金の額又は損金の額に算入することができることとされています(改正法附則12⑥)。

財務省「令和5年度税制改正の解説」66-68頁(所得税)二 暗号資産の評価の方法の改正
1 改正前の制度の概要
⑴ 暗号資産の譲渡原価等の計算及びその評価の方法の概要
 居住者の暗号資産(資金決済に関する法律第2条第5項に規定する暗号資産をいいます。以下同じです。)につきその者の事業所得の金額又は雑所得の金額の計算上必要経費に算入する金額を算定する場合におけるその算定の基礎となるその年12月31日(その者が年の中途において死亡し、又は出国をした場合には、その死亡又は出国の時。以下同じです。)において有する暗号資産(以下「期末暗号資産」といいます。)の価額は、その者が暗号資産について選定した評価の方法により評価した金額(評価の方法を選定しなかった場合又は選定した評価の方法により評価しなかった場合には、法定評価方法(下記⑵①の総平均法)により評価した金額)とすることとされています(旧所法48の2①、所令119の2①)。
⑵ 暗号資産につき選定をすることができる評価の方法
 期末暗号資産の評価額の計算上選定をすることができる評価の方法は、期末暗号資産につき次の①又は②の方法のうちいずれかの方法によってその取得価額を算出し、その算出した取得価額をもってその期末暗号資産の評価額とする方法とされています(所令119の2①)。
① 総平均法
 暗号資産をその種類の異なるごとに区別し、その種類の同じものについて、その年1月1日において有していた種類を同じくする暗号資産の取得価額の総額とその年中に取得をした種類を同じくする暗号資産の取得価額の総額との合計額をこれらの暗号資産の総数量で除して計算した価額をその1単位当たりの取得価額とする方法をいいます。
② 移動平均法
 暗号資産をその種類の異なるごとに区別し、その種類の同じものについて、当初の1単位当たりの取得価額が、再び種類を同じくする暗号資産の取得をした場合にはその取得の時において有する暗号資産とその取得をした暗号資産との数量及び取得価額を基礎として算出した平均単価によって改定されたものとみなし、以後種類を同じくする暗号資産の取得をする都度同様の方法により1単位当たりの取得価額が改定されたものとみなし、その年12月31日から最も近い日において改定されたものとみなされた1単位当たりの取得価額をその1単位当たりの取得価額とする方法をいいます。
(注) 上記①及び②の「取得」には、暗号資産を購入し、若しくは売却し、又は種類の異なる暗号資産に交換しようとする際に一時的に必要なこれらの暗号資産以外の暗号資産を取得する場合におけるその取得を含みません(所令119の2②)。
⑶ 暗号資産の取得価額
① 上記⑵の暗号資産の評価額の計算の基礎となる暗号資産の取得価額は、下記②の場合を除き、次の暗号資産の区分に応じ次に定める金額とされています(旧所令119の6①)。
イ 購入した暗号資産…… …… その購入の代価(購入手数料その他その暗号資産の購入のために要した費用がある場合には、その費用の額を加算した金額)
ロ 上記イの暗号資産以外の暗号資産…… その取得の時におけるその暗号資産の取得のために通常要する価額
ハ いわゆる死因贈与、相続又は包括遺贈及び相続人に対する特定遺贈により取得した暗号資産…… 被相続人の死亡の時において、被相続人がその暗号資産につきよるべきものとされていた評価の方法により評価した金額
ニ 著しく低い価額の対価による譲渡により取得した暗号資産…… その譲渡の対価の額と実質的に贈与をしたと認められる金額との合計額
② 居住者が暗号資産信用取引(資金決済に関する法律第2条第7項に規定する暗号資産交換業を行う者から信用の供与を受けて行う暗号資産の売買をいいます。以下同じです。)の方法による暗号資産の売買を行い、かつ、暗号資産信用取引による暗号資産の売付けと買付けとにより暗号資産信用取引の決済を行った場合には、その売付けに係る暗号資産の取得に要した経費としてその者のその年分の事業所得の金額又は雑所得の金額の計算上必要経費に算入する金額は、上記⑵及び上記①にかかわらず、暗号資産信用取引においてその買付けに係る暗号資産を取得するために要した金額とされています(旧所令119の7)。


2 改正の内容
⑴ 自己が発行した暗号資産の取得価額
 上記1⑶①の暗号資産の取得価額について、自己が発行することにより取得した暗号資産の取得価額が、その発行のために要した費用の額とされました(所令119の6①二)。
 これまで、自己が発行することにより取得した暗号資産の取得価額は、購入により取得した暗号資産以外の暗号資産に該当し、その取得の時におけるその暗号資産の取得のために通常要する価額、すなわち「時価」をその取得価額とすることとされていましたが、この改正により、自己が発行することにより取得した暗号資産の取得価額は、発行のために要した費用の額となります。なお、自己が発行した暗号資産であっても、他の者から購入した場合には、自己が発行することにより取得した暗号資産には該当せず、購入により取得した暗号資産に該当し、その購入の代価(その暗号資産の購入のために要した費用がある場合には、その費用の額を加算した金額)が取得価額となります。
⑵ 暗号資産信用取引
 上記1⑶②の暗号資産信用取引について、他の者から信用の供与を受けて行う暗号資産の売買をいうこととされました(所令119の7)。この改正により、暗号資産交換業を行う者以外の者から信用の供与を受けて行う暗号資産の売買も新たに暗号資産信用取引に該当することになります。
(注) 上記⑴及び⑵の改正の他、上記1⑴の暗号資産について、資金決済に関する法律第2条第14項に規定する暗号資産をいうこととする規定の整備が行われています(令和5年6月1日施行)。
3 適用関係
⑴ 上記2⑴の改正は、令和5年4月1日以後に取得をする暗号資産について適用し、同日前に取得をした暗号資産については従前どおりとされています(改正所令附則2)。
⑵ 上記2⑵の改正は、令和6年分以後の所得税について適用し、令和5年分以前の所得税については従前どおりとされています(改正所令附則3)。

財務省「令和5年度税制改正の解説」553-555頁(消費税)

三 電子決済手段に係る課税関係の見直し
1 改正前の制度の概要
 消費税は、国内における消費一般に対して広く公平に負担を求める税であり、原則として全ての財貨・サービスの国内における販売、提供などを課税対象としていますが、支払手段その他これに類するものについては、消費に負担を求める税の性格上、課税することになじまないものとして非課税とされています(消法6①、消法別表1二)。
 消費税法上、支払手段とは、外国為替及び外国貿易法(昭和24年法律第228号)第6条第1項第7号に規定する支払手段をいい、具体的には、銀行券、政府紙幣、硬貨、小切手、為替手形等をいいます。また、消費税法施行令においては、支払手段に類するものとして資金決済に関する法律(平成21年法律第59号。以下「資金決済法」といいます。)上の暗号資産等が規定されています(消令9④)。
 また、支払手段等の譲渡については、その性格に鑑み、課税売上割合の計算に含めないこととされています(消法30⑥、消令48②一)。


2 改正の内容
 令和4年6月に成立した安定的かつ効率的な資金決済制度の構築を図るための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律(令和4年法律第61号。以下「改正資金決済法」といいます。)において、海外における電子的支払手段(いわゆるステーブルコイン)の発行・流通の増加を背景として、適切な利用者保護を確保する等の観点から、電子決済手段等取引業の創設等を内容とする資金決済法の改正が行われました。
 この改正後の資金決済法において、電子決済手段が「不特定の者に対して代価の弁済に使用すること等ができる通貨建資産であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの」等として支払いの手段として位置づけられたことを踏まえ、電子決済手段の譲渡については消費税を非課税とする消費税法施行令の改正が行われました。具体的には、消費税が非課税とされる支払手段に類するものの範囲に、改正後の資金決済法第2条第5項に規定する電子決済手段が追加されました(消令9④)。なお、資金決済法における電子決済手段については、消費税法で非課税とされる有価証券、金銭債権又は前払式支払手段と概念上重複が生じ得る部分が存在するため、重複する部分については、消費税法令上は支払手段に類するものとして取り扱われることとなるよう、重複を排除するための規定の整備が行われています(消令9①一・四、11)。
(注) 平成29年度税制改正においては、資金決済法に暗号資産(改正当時の名称は「仮想通貨」)が支払いの手段として位置付けられたこと等を踏まえ、これを消費税法上支払手段に類するものとして非課税とする等の改正が行われています(平成29年7月1日施行)。なお、暗号資産については資金決済法上「通貨建資産を除く」ものとして定義されており(資金決済法第2条第14項)、通貨建資産である電子決済手段とは異なる概念です。


(参考) 改正後の資金決済法第2条(抄)
5 この法律において「電子決済手段」とは、次に掲げるものをいう。
一 物品等を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されている通貨建資産に限り、有価証券、電子記録債権法(平成19年法律第102号)第2 条第1 項に規定する電子記録債権、第3 条第1 項に規定する前払式支払手段その他これらに類するものとして内閣府令で定めるもの(流通性その他の事情を勘案して内閣府令で定めるものを除く。)を除く。次号において同じ。)であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの(第3 号に掲げるものに該当するものを除く。)
二 不特定の者を相手方として前号に掲げるものと相互に交換を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの(次号に掲げるものに該当するものを除く。)
三 特定信託受益権
四 前3 号に掲げるものに準ずるものとして内閣府令で定めるもの
 また、電子決済手段の譲渡については、その性格に鑑み、法定通貨や暗号資産と同様に、課税売上割合の計算に含めないこととされました(消令48②一)。


3 適用関係
 上記の改正は、改正資金決済法の施行の日(令和5年6月1日)以後に国内において事業者が行う資産の譲渡等及び課税仕入れに係る消費税について適用され、同日前に国内において事業者が行った資産の譲渡等及び課税仕入れに係る消費税については、なお従前の例によることとされています(改正消令附則2)。