「元役員に土地を簿価で譲ったところ、後から多額の税金を請求された」。そんな事態を招かないために、最新の国税不服審判所の判断を確認しておきましょう。土地の譲渡価額と時価の差額が、なぜ「給与所得」になってしまったのか。
裁決の要点:
- Q:役員を辞めていても給与認定されるのですか?
- A:はい。 辞任後も融資契約や不動産売買など、経営の重要事項に関与している「実態」があれば、役員と同様の地位にあると判断され、経済的利益の供与が給与認定される可能性があります。
- Q:制度を知らなかった場合、加算税は免除されますか?
- A:原則、免除されません。 「税法の不知や誤解」は、不納付加算税を免除する「正当な理由」には当たらないと明確に判断されました。
結論: 関係者間での資産譲渡には、常に「時価」との乖離に注意が必要です。専門家への事前相談の重要性が改めて浮き彫りになりました。
裁決要旨
国税不服審判所ホームページの裁決要旨
請求人は、土地を請求人の元取締役に譲渡することにより、当該元取締役に経済的利益が発生し、これが当該元取締役の給与所得に該当することを全く予期していなかったのであるから、請求人が源泉徴収に係る所得税及び復興特別所得税を法定納期限までに納付しなかったことについて、国税通則法第67条《不納付加算税》第1項ただし書に規定する「正当な理由があると認められる場合」に該当する事由がある旨主張する。
しかしながら、請求人が主張する事情は、請求人の税法の不知又は誤解に基づくものであるから、かかる事情をもって真に請求人の責めに帰することのできない客観的な事情ということはできない。(令6. 4.19 名裁(諸)令5-26)
請求人は、請求人が保有していた土地を元取締役に譲渡した金額(簿価相当額)と、当該元取締役が第三者に当該土地を譲渡した金額との差額(本件差額)について、①当該元取締役は、請求人の役員、使用人及び株主に該当せず、請求人の経営にも従事していないこと、②簿価相当額には当該土地の対価として合理性があるなど請求人は当該元取締役に経済的利益を供与していないことから、本件差額は当該元取締役に対する所得税法第28条《給与所得》第1項に規定する給与等に該当しない旨主張する。
しかしながら、当該元取締役は、請求人を含む関係法人の中核となる法人の代表者であり、請求人の取締役を辞任した後も、請求人の経営上の重要事項について、請求人のために自律的に行動していたから、引き続き、請求人の経営に従事し、取締役と同様の地位及び権限を有する実態にあったと認められる。
また、元取締役の譲渡金額は第三者との間で決定された金額であり、国土交通省が不動産取引価格情報として公表している事例と比較しても当該土地の客観的交換価値として相当と認められる一方、請求人の元取締役への譲渡金額である簿価相当額は客観的交換価値とは認められない。
そして、請求人は、当該元取締役から当該土地を簿価よりも高く譲渡できた場合の差額をインセンティブとして受け取る旨の申出を受けて、当該土地を簿価相当額で譲渡したのであるから、請求人は、取締役と同様の地位及び権限を有する実態にあった当該元取締役に対し、本件差額に相当する経済的利益を供与したものと認められ、当該経済的利益は、当該元取締役に対する給与等に該当する。(令6. 4.19 名裁(諸)令5-26)
事案の概要(何が争われたか)
審査請求人(請求人)は、元取締役に対し、請求人所有の土地を簿価に相当する額で譲渡した。原処分庁は、土地の時価と簿価相当額との差額は元取締役に供与した経済的利益であり、かつ、当該元取締役は引き続き請求人の経営に従事していたから、当該経済的利益は給与等に該当するとして、請求人に対し源泉所得税等の納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分をしたのに対し、請求人は、これら処分の全部取消しを求めた。
基礎事実(前提となる事実関係)
請求人・関係法人等
- 請求人は、動産・不動産の管理及び賃貸事業等を目的とする法人である。代表取締役は???である。
- 請求人は、源泉所得税の納期の特例の承認(所得税法216条(当時)等)を受けていた。
- 元取締役(以下、元取締役)は、関係法人の中核となる法人の代表者であるなど、請求人と密接な関係を有する。
土地の譲渡と差額の発生
- 請求人は、本件土地を含む不動産を購入した。
- 請求人は活用・譲渡を模索する中で、元取締役から、第三者へ簿価以上で譲渡するよう努力するが、簿価より高く譲渡できた場合の差額はインセンティブとして受け取る旨の申出を受けた。
- 請求人は、臨時株主総会で、本件土地を元取締役に簿価で譲渡し、その後の第三者への譲渡は元取締役に一任する旨決議した。
- 請求人は、元取締役に簿価相当額で譲渡し、元取締役は第三者へ譲渡しており、第三者譲渡額と簿価相当額との差額(以下、本件差額)が生じた。
手続経過(納税告知・不納付加算税)
原処分庁は、令和4年9月27日付で、令和2年7月から同年12月までの期間分の源泉徴収に係る所得税及び復興特別所得税の納税告知処分並びに不納付加算税の賦課決定処分をした。審査請求の結論は棄却である。
争点
争点1:本件差額は元取締役に対する給与等か
本件差額に相当する経済的利益が、元取締役に対する所得税法28条1項所定の給与等に該当するか否か。
争点2:不納付加算税の正当な理由の有無
請求人が源泉所得税等を法定納期限までに納付しなかったことについて、国税通則法67条1項ただし書の正当な理由があると認められる場合に該当する事由があるか否か。
争点についての主張
請求人の主張(要旨)
- 元取締役は、請求人の役員・使用人・株主に該当せず、経営にも従事していない。
- 請求人は簿価相当額で譲渡しており合理性があるから、元取締役に経済的利益を供与していない。
- よって本件差額は給与等に当たらない。
- また、給与等に当たることを全く予期していなかったから、源泉所得税等の不納付につき正当な理由がある。
原処分庁の主張(要旨)
- 元取締役は、形式的に辞任していても、実質的には引き続き請求人の経営に従事し、取締役と同様の地位・権限を有していた。
- 土地の客観的交換価値(時価)に比べ簿価相当額は低額であり、本件差額は元取締役に対する経済的利益の供与である。
- よって給与等に該当し、源泉徴収義務が生じる。
- 不納付加算税につき正当な理由はない。
審判所の判断
争点1(給与等該当性)
法令解釈(給与所得・経済的利益)
- 所得税法28条1項は給与所得を包括的に規定しており、雇用契約に限らず、委任契約等の原因に基づく役務提供の対価、又は役務提供の地位に基づいて支給されるものを含むと解される。
- 所得税法36条1項・2項によれば、経済的利益で収入する場合、その価額(取得時の客観的交換価値)を収入金額とする。
- 所得税基本通達36-15は、低い対価で資産の譲渡を受けた場合の差額利益が経済的利益に含まれる旨を定め、審判所も相当と認める。
認定・検討(元取締役の地位と経済的利益)
- 元取締役は、取締役辞任後も、多額の融資契約、有価証券取引、不動産売買など、請求人の経営上の重要事項について、請求人のために自律的に行動していた。したがって、引き続き請求人の経営に従事し、取締役と同様の地位及び権限を有する実態にあったと認められる。
- 本件土地の第三者譲渡額(約3億0,562万0,730円)は、第三者との間で決定された金額であり、国土交通省の不動産取引価格情報の事例(坪単価約74万円)と比較しても不相当とはいえず、本件土地の客観的交換価値として相当と認められる。
- これに対し、請求人が元取締役へ譲渡した簿価相当額は、客観的交換価値とは認められない。
- 請求人は、元取締役から、簿価より高く譲渡できた場合の差額をインセンティブとして受け取る旨の申出を受けて簿価で譲渡したのであるから、請求人は、元取締役に対し、本件差額に相当する経済的利益を供与したものと認められる。
小括
以上より、本件差額に相当する経済的利益は、元取締役に対する給与等に該当する。
(なお、請求人は、譲渡契約の取消し等により経済的利益が消失した旨の主張をするが、原処分時点までに未収入金が支払われておらず、同日までに経済的成果は失われていない)
争点2(不納付加算税の正当な理由)
法令解釈(通則法67条の趣旨と正当な理由)
不納付加算税は、法定納期限までに完納されなかったという客観的事実があれば原則として徴収され、期限内完納者との不公平是正、義務違反の防止、源泉徴収制度の適正運用の実現を図る行政上の措置である。
したがって、例外である正当な理由とは、真に源泉徴収義務者の責めに帰することのできない客観的事情があり、加算税を徴収することが不当又は酷になる場合をいう。
当てはめ(請求人の主張は税法の不知・誤解)
請求人は、経済的利益(給与等)の発生を全く予期していなかった旨を主張するが、その事情は税法の不知又は誤解に基づくものであり、真に責めに帰することのできない客観的事情とはいえない。
よって、正当な理由は認められない。
結論
以上により、審査請求はいずれも理由がなく、棄却。
