概要と要旨
本件は、基準期間における不正行為を理由として、課税期間の消費税等について重加算税を賦課できるか、また、事務運営指針(留意事項)の射程、理由提示の適法性、再賦課決定処分の適法性、通則法74条の11第5項の解釈など、実務上きわめて重要な論点を多数含む事案である。
国税不服審判所は、請求人の一連の行為は、課税期間の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の隠蔽に当たるとして、重加算税の賦課要件を満たすと判断し、審査請求を棄却した。
審判所ホームページの裁決要旨
請求人は、「消費税及び地方消費税の更正等及び加算税の取扱いについて(事務運営指針)」第2のⅣの5《重加算税を課する場合の留意事項》(本件留意事項)によれば、基準期間の不正事実は課税期間の隠蔽仮装とは評価できないところ、本件の各課税期間(本件各課税期間)の消費税等に係る重加算税は、本件各課税期間の基準期間における不正事実を理由とするものであるから、本件留意事項に抵触することは明白であり、隠蔽又は仮装行為は存在しない旨主張する。
しかしながら、本件留意事項は、基準期間の隠蔽又は仮装行為が、客観的に見て課税期間の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の隠蔽又は仮装行為と評価できない場合には、重加算税の賦課要件を満たさないことに留意すべき旨を定めたものにすぎず、国税通則法の趣旨を超えて重加算税を賦課しないことを定めたものとは解されない。そして、特定の課税期間の消費税等の納税義務者に該当するか否かに係る事実は、課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実に該当するところ、請求人は、本件各課税期間の基準期間において、特定の売上先に対する売上金を計上しないなどして売上金額の合計が1,000万円以下となるように調整した集計表を作成の上、所得税の確定申告をしたものと認められ、このような行為は課税期間の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実を隠蔽したと評価できることからすれば、本件留意事項が定める場合とは前提を異にし、隠蔽又は仮装行為が認められる。(令6. 9.13 大裁(所・諸)令6-13)
請求人は、加算税の賦課決定処分を取り消し、処分理由を差し替えて再度行われた加算税の賦課決定処分(本件再賦課決定処分)は、国税通則法第74条の11《調査終了の際の手続》第5項に規定する「新たに得られた情報に照らし非違があると認めるとき」との要件に該当しないにもかかわらず、調査手続に違反してなされたものであるから、本件再賦課決定処分は違法である旨主張する。
しかしながら、国税通則法第74条の11第5項は、実地の調査の結果につき納税義務者から修正申告書等の提出があった後においても、当該職員は、新たに得られた情報に照らして非違があると認めるときは、当該納税義務者に対し、質問検査等を行うことができる旨規定しているところ、本件再賦課決定処分に当たって、原処分庁が請求人に質問検査等を実施した事実は認められないから、本件再賦課決定処分に係る調査手続に違法はない。(令6. 9.13 大裁(所・諸)令6-13)
審判所の判断
争点2 (本件平成30年以降各課税期間の消費税等の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実について、請求人に、通則法第68条第2項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったか否か。)について
請求人は、本件平成30年以降各課税期間に消費税等の課税事業者にならないようにする目的で、平成28年分集計表(これが作成されていたと認められることについては、上記(イ)のBのとおりである。)及び本件各集計表(以下「本件各集計表等」という。)において、特定の取引先に対する売上げを計上しないなどして売上金額の合計が1,000万円以下になるように調整した上で、本件各年分の事業所得の総収入金額を1,000万円以下に減額した所得税等の各確定申告をしたものと認められる。このような本件各集計表等における調整は、本件平成30年以降各課税期間の消費税等の納税義務がないかのように装うものであり、無申告行為そのものとは別の隠蔽又は仮装と評価すべき行為であると認められる。
したがって、請求人は、本件平成30年以降各課税期間の消費税等の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実について、隠蔽又は仮装したものと認められる。
争点3 (本件各当初賦課決定処分を取り消し、処分理由を差し替えて本件各再賦課決定処分をしたことは、違法又は不当か否か。)について
「イ 請求人は、上記3の(3)の「請求人」欄のとおり、行政手続法第14条第1項は、当初の処分時において当該条文が求める理由を付記すべきことを求めているものであって、後の再処分においてその理由を示したとしても当初の処分における理由付記の瑕疵は治癒されないから、本件各再賦課決定処分は賦課権を濫用するものであるといえ、また、審査請求は、違法な処分を行った原処分庁に是正の機会を与えることを目的としたものではないから、本件各再賦課決定処分は、審査請求制度の趣旨に反するものであり、違法又は不当である旨主張する。
ロ しかしながら、原処分庁が加算税の賦課決定処分を取り消し、再度賦課決定処分をすることができないとする法令の規定はなく、原処分庁は、適正な課税の確保の実現を図るため、賦課決定処分等の瑕疵を発見したときは、当該瑕疵が実体的なものであれ手続的なものであれ、これを取り消して新たに賦課決定処分をなし得るものと解すべきである。そして、新たな賦課決定処分の時期については、賦課決定処分がなし得る法定期限内である限り、当初の賦課決定処分の審査請求が係属している段階においても、これをなすことが許されるべきものと考えられる。
ハ 本件の場合、原処分庁が、本件各当初賦課決定処分に係る通知書に付記された処分の理由に不備を発見し、本件各当初賦課決定処分を取り消した上で、改めて適法なものに是正した処分の理由を付記して本件各再賦課決定処分を行ったことは、瑕疵ある処分を是正したものであるにすぎず、賦課権の濫用に当たるものではない。また、上記口のとおり、審査請求が係属している段階においても、新たな賦課決定処分をなすことは許されるから、本件各再賦課決定処分を行うことが、審査請求制度の趣旨に反するとも認められない。
したがって、本件各再賦課決定処分は違法又は不当とは認められず、請求人の主張は採用できない。」
争点4 (本件各再賦課決定処分に係る調査手続に取消事由となるべき違法があるか否か。)について
請求人は、上記3の(4)の「請求人」欄のとおり、本件各再賦課決定処分は、通則法第74条の11第5項に規定する「新たに得られた情報に照らし非違があると認めるとき」に該当しないにもかかわらず、所定の調査手続に違反して行われたものであるから、本件各再賦課決定処分は違法である旨主張する。
しかしながら、通則法第74条の11第5項は、実地の調査の結果につき納税義務者から修正申告書等の提出があった後においても、当該職員は、新たに得られた情報に照らして非違があると認めるときは、当該納税義務者に対し、質問検査等を行うことができる旨規定しているところ、原処分関係資料及び当審判所の調査によっても、本件各再賦課決定処分に当たって、請求人に対して質問検査等を実施した事実は認められない。
したがって、本件各再賦課決定処分に係る調査手続に取消事由となるべき違法はなく、請求人の主張は採用できない。
