本記事の紹介

この記事では、照会者が行った「暗号資産の譲渡による所得が『譲渡所得』に該当するか?」という事前照会に対して、大阪国税局が文書回答の対象外と判断し、口頭で回答した決裁資料の内容を紹介します。

本件は、暗号資産の譲渡により生じた所得が「譲渡所得」に該当するかという照会内容でしたが、国税局は以下のように判断しました:

原則として、暗号資産の譲渡益は雑所得に該当し、譲渡所得には当たらない

✅これはすでに国税庁のFAQや国会答弁等により明らかにされている考え方であるため、「文書回答」には応じられない

✅今回の事案についても、「譲渡所得に当たらない」とする一般的判断を覆す事情はないとして、雑所得とすることが適当とされた

ただし、逆に言えば、特別な性質をもつ暗号資産の取引や、他に個別の事情がある場合には、「譲渡所得」に該当する余地も残されているという含みのある内容となっており、実務上も注意を要する資料です。

以下は、照会者(個人)が、「暗号資産???を譲渡した場合の譲渡所得該当性」について照会したものの、大阪国税局が、照会者に対し、次のとおり、文書回答の対象とならないことを回答した際の決裁資料からの抜粋です。

文書回答の対象に当たらない旨の国税局の回答

本件事前照会は、事務運営指針1(7)「取引等に係る税務上の取扱い等が、法令、法令解釈通達あるいは過去に公表された質疑事例等において明らかになっているものに係る事前照会でないこと」の要件を満たさないため、文書回答の対象となる事前照会に該当しない。
したがって、照会者に対して「文書回答の対象となる事前照会に当たらない旨のお知らせ(通知)」を送付する。
なお、暗号資産については、令和3年12月22日付国税庁課税総括課情報第12号外5課共同「暗号資産に関する税務上の取扱いについて(情報)」において、所得区分が公表されているため、口頭により回答する。

ただし、本件においては、「「一般的に譲渡所得に当たらない」とする判断を覆す事情もないことから、本件譲渡による所得は、譲渡所得には当たらない。」旨の口頭回答がなされています。逆にいえば、「一般的に譲渡所得に当たらない」とする判断を覆す事情があると認められるような暗号資産であったり、他に何らかの特別の事情があるケースにおいては、譲渡所得に該当する可能性が残されているような回答であると見ることもできそうです。

以下は、照会資料からの抜粋です。「???」は情報公開請求で入手した資料の黒塗り部分です。

照会要旨

照会者は暗号資産???していた。

???に第三者から役務提供を受け、照会者の???を譲渡することにより代価の弁済をしたところ、譲渡した???の譲渡時における価額が、当該???の取得時の価額と比較して、譲渡に要した費用を補って余りある程度に上昇していたため、譲渡益が生じた。

当該???の譲渡による譲渡益は「譲渡所得」として取り扱ってよいか

 事実関係

本件事前照会に係る事実関係は以下のとおりである。
なお、本件事前照会に係る検討に当たっては、一が資金決済に関する法律(以下「資金決済法」という)第2条第5項に規定する暗号資産であることを前提とする。

???

本件暗号資産の本件譲渡時における価額は、本件暗号資産の取得時の価額より値上がりしていたため本件譲渡により譲渡益が生じた。

 法令の規定等
(1) 所得税法について
所得税法第33条〈譲渡所得〉第1項において、譲渡所得とは、資産の該渡による所得をいう旨規定されている。
そして、ここでいう「資産」の意義について、譲渡所得に対する課税は、資産の値上がりによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として、その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会にこれを清算して課税する趣旨のものであるから(最高裁昭和41年(行ツ)第102号同47年12月26日第三小法廷判決・民集26巻10号2083頁、最高裁昭和47年(行ツ)第4号同50年5月27日第三小法廷判決・民集29巻5号641頁)、譲渡所得の基因となる資産は、一般にその経済的価値が認められて取引の対象とされ、上記増加益(キャピタル・ゲイン)又はキャピタル・ロスを生ずるような性質の資産をいうものと解される(参考:千葉地裁平成18年9月19日判決(控訴審においても同旨))。
所得税法第35条〈雑所得〉において、雑所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当しない所得をいう旨規定さ ている。

(2) 資金決済法について
資金決済法第2条〈定義〉第5項において、暗号資産とは、次に掲げるものをいう旨規定されている。

イ 物品を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことがで きる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されているものに限り、本邦通貨及び外国通貨並びに通貨建資産を除く。)であって、霜子情報処理組織を用いて移転することができるもの
ロ 不特定の者を相手方として前号に掲げるものと相互に交換を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの

(3) 平成31年3月20日開催財政金融委員会議事録第5号について
暗号資産の譲渡所得該当性についての質問に対し、要旨、次のとおり政府参考人の答弁が行われた。

イ 譲渡所得は資産の譲渡による所得と定義されており、当該所得に対する課税は、資産の値上がりによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として、その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会にこれを清算して課税する趣旨である。暗号資産は、資金決済法上、代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができる財産的価値と規定されており、消費税法上も支払手段に類するものとして位置付けられていることから、暗号資産の譲渡益は資産の値上がりによる増加益とは性質を異にするものである。このため、暗号資産は、資産ではあるものの、譲渡所得の起因となる資産には該当せず、一般的には譲渡所得には該当しないと取り扱っている。
ロ 暗号資産については、外国通貨と同様に本邦通貨との相対的な関係の中で換算上のレートが変動することはあっても、それ自体が価値の尺度とされており、資産の価値の増加益を観念することは困難と考えられる。このため、国税当局においては、暗号資産の譲渡による所得は一般的に譲渡所得には該当せず、雑所得に該当するものとして取り扱っている。

(4) 令和3年12月22日付国税庁課税総括課情報第12号外5課共同「暗号資産に関する税務上の取扱いについて(情報)」(以下「本件FAQ」という。)
木件FAQでは、問2「暗号資産で商品を購入した場合」において、保有する暗号資産で商品を購入した場合には、暗号資産を譲渡したことに該当し、この場合の譲渡所得の金額は、譲渡した暗号資産の譲渡価額とその暗号資産の談渡原価等との差額となるとされている。
また、問8「暗号資産の所得区分」において、暗号資産取引により生じた利益は、所得税の課税対象になり、原則として雑所得(一定の場合事業所得)に区分されるとされている。

3 検討1 (譲渡所得該当性)
(1) 本件譲渡の譲渡所得該当性について

上記2を踏まえ本件譲渡をみると、本件暗号資産の譲渡は、??? これ上記2(2)の資金決済法の定義するとおりの「代価の弁済のために不特定の者に対して使用」、つまり、本件暗号資産を支払手段として用いているものであるから、上記2(3)及び本件FAQにおいて明らかにされている解釈のとおりとなる。したがって、本件譲渡の結果生じた譲渡益は、資産の値上がりによる増加益(キャピタルゲイン)とみる余地はなく、上記2(3)イの「一般的に譲渡所得に当たらない」とする判断を覆す事情もないことから、本件譲渡による所得は、譲渡所得には当たらない。


(2) 所得区分について
以上のことから、本件譲渡に係る所得は譲渡所得に当たらず、原則として雑所得となるが、本件譲渡自体が、事業と認められる場合または事業所得等の基因となる行為に付随したものである場合には、異なることとなる。

4 検討2 (文書回答該当性)
本件事前照会は、上記2及び3のとおり既に公表された質疑事例等から明らかになっているものである。したがって、本件事前照会は事務運営指針に定める文書回答を行う要件のうち、事務運営指針1(7)「取引等に係る税務上の取扱い等が、法令、法令解釈通達あるいは過去に公表された質疑事例等において明らかに
なっているものに係る事前照会でないこと」に該当しないことから、文書回答の対象となる事前照会に該当しない。

参考資料(ダウンロード可)

大阪国税局文書回答に対する口頭回答決裁資料「暗号資産の譲渡所得該当性について

以下の記事も参考にしてください。

Vol.1:暗号資産の譲渡益を、税金の安い「譲渡所得」で確定申告したらどうなる?節税になる?(前編)