「コロナ禍だから申告が遅れても仕方ない」――。 そう考えて提出した期限延長申請が、もし税務署に却下されたらどうなるでしょうか。
今回ご紹介するのは、新型コロナウイルス感染症の影響により業務体制が崩れ、期限までに申告・納付ができなかったと主張した法人の事案です。
この事案の注目点は2つあります。 1つ目は、「週1〜2日の在宅勤務」という状況が、物理的に申告不可能な状態(やむを得ない理由)といえるのかという点。 2つ目は、「同じ理由で申請した他の期間や他人は認められたのに、なぜ自分だけダメなのか」という「課税の公平」に関する主張です。
国税不服審判所令和6年6月3日は、これらの主張に対し非常にシビアな判断を下しました。納税者側が知っておくべき「期限延長」の本当のハードルについて、裁決の要旨から紐解いていきましょう。
裁決要旨
審判所ホームページの裁決要旨
請求人は、請求人の代表社員でもある税理士(本件税理士)に税務代理の委任をしているところ、請求人が法人税、消費税及び源泉所得税(法人税等)の申告等を期限までにできなかったのは、新型コロナウイルス感染症の影響により新たな業務が発生した上、感染によって重症化のおそれがあった本件税理士が、新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく外出自粛要請に応じて、在宅勤務を実施した結果、請求人及び本件税理士の事務所(本件事務所)において通常の業務体制の維持ができなくなったことが理由であるから、国税通則法第11条《災害等による期限の延長》に規定する「災害その他やむを得ない理由」がある旨主張する。
しかしながら、本件税理士が、①請求人及び本件事務所における在宅勤務の頻度は週1日又は2日程度であり、残りの3日又は4日間は出勤した上で業務に当たっていた旨、②請求人の法人税等の申告等に係る作業は、準備を含めて全て本件税理士一人で行っており、源泉所得税の納付に係る作業は納付書の作成から納付まで1日ででき、法人税及び消費税の申告等に係る作業は最長でも1か月程度である旨、③請求人が新型コロナウイルス感染症の影響を受けたとする期間中、請求人及び本件事務所において新型コロナウイルス感染症に感染した者又は濃厚接触者となった者はいない旨それぞれ答述していることからすれば、本件税理士は、在宅勤務及び出勤勤務の併用により、法人税等の申告等に係る作業ができなかったとは認められず、請求人が期限までに法人税等の申告等ができなかったのは、客観的にみて申告等の行為が物理的に不可能であることに直接因果関係を有する事実に基づくものとはいえないから、国税通則法第11条に規定する「災害その他やむを得ない理由」があったとは認められない。(令6. 6. 3 関裁(法・諸)令5-44)
請求人は、新型コロナウイルス感染症の影響により、期限までに法人税、消費税及び源泉所得税(法人税等)の申告等ができなかったから、国税通則法第11条《災害等による期限の延長》に規定する「災害その他やむを得ない理由」があるとしてした、法人税等の申告等の期限の延長申請(本件各申請)を却下したところ、本件各申請と同様の理由でした請求人の他の期間分の源泉所得税に係る延長申請や請求人の代表社員でもある税理士が行った当該税理士の源泉所得税に係る延長申請はいずれも承認されたにもかかわらず、本件各申請だけが却下されたのは、課税の公平に反する旨主張する。
しかしながら、課税の公平とは、課税の根拠となる法を適用すべき者に対しては等しく適用すべきことをいい、仮に法の適用を免れる者が生じたとしても、そのことを理由に他の者に対して法を正しく適用することが課税の公平に反することにはならない。そして、本件各申請に国税通則法第11条に規定する「災害その他やむを得ない理由」は認められず、本件各申請に対する各却下処分は、国税通則法第11条を正しく適用したものといえる以上、仮に、請求人が主張するとおりの事実があったとしても、そのことによって直ちに課税の公平に反するものではない。(令6. 6. 3 関裁(法・諸)令5-44)
今回ご紹介するのは、新型コロナウイルス感染症の影響により期限までに申告・納付ができなかったとして、期限延長を申請したものの、原処分庁(税務署)から却下された事案です。国税不服審判所がどのような判断を下したのか、見ていきましょう。
事案の概要
本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、新型コロナウイルス感染症の影響により、期限までに法人税等、消費税等及び源泉所得税等の申告及び納付ができなかったとして、これらの各期限延長申請をしたところ、原処分庁が、当該各申請の各却下処分をしたのに対し、請求人が、原処分の全部の取消しを求めた事案である 。
基礎事実
当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められます。
- 企業の財務書類の作成、財務に関する調査・立案・相談業務等を目的として、請求人の代表社員である「???」に設立された法人である 。
- 本件代表者(以下「本件代表者」という。)は、税理士業を営む者であり(以下「本件税理士」という。)、請求人の本店所在地に税理士事務所(以下「本件事務所」という。)を開設している 。
- 請求人は、本件税理士に自己の法人税等、消費税等及び源泉所得税等の税務代理を委任していた 。
- 請求人は、令和5年2月27日に、法定申告期限及び法定納期限が令和3年3月1日である、令和2年1月1日から同年12月31日までの事業年度の法人税、令和2年1月1日から同年12月31日までの課税事業年度の地方法人税及び令和2年1月1日から同年12月31日主での課税期間の消費税等について、令和2年2月27日から令和5年2月27日までの間、新型コロナウイルス感染症の影響により申告及び納付ができなかったとして、申告及び納付の期限を令和5年2月27日まで延長申請する旨新型コロナウイルス感染症の影響により期限内に申告・納付ができなかったとして、「災害による申告、納付等の期限延長申請書」を提出した 。
- 請求人は、令和5年2月28日に、法定申告期限及び法定納期限が令和4年2月28日である、令和3年1月1日から同年12月31日主での事業年度の法人税、令和3年1月1日から同年12月31日までの課税事業年度の地方法人税及び令和3年1月l日から同年12月31日までの課税期間の消費税等について、令和2年2月27日から令和5年2月28日までの間、新型コロナウイルス感染症の影響により申告及び納付ができなかったとして、申告及び納付の期限を令和5年2月28日まで延長申請する旨の「災害に上る申告、納付等の期限延長申請書」を提出した(以下、当該申請書による申請を「本件令和3年分申請」といい、本件瀕泉申言青及び本件令和2年分申請と併せて「本件各申請」という。)。
争点
本件における主な争点は以下の2点です。
- 本件各申請に国税通則法第11条に規定する「災害その他やむを得ない理由」が認められるか否か(争点1) 。
- 本件各却下処分は課税の公平に反するか否か(争点2) 。
審判所の判断
審判所は、以下の通り判断し、請求人の訴えを棄却しました。
災害その他やむを得ない理由について
通則法第11条の「その他やむを得ない理由」とは、客観的にみて申告等の行為が物理的に不可能であることに直接因果関係を有する事実に基づく理由であることを要し、申請者の責めに帰すべき主観的な理由は含まれない 。 本件税理士は、週1〜2日の在宅勤務以外は出勤しており、源泉所得税の納付書作成は1日で可能、法人税等の作業も最長1ヶ月程度であると答述している 。週3〜4日の出勤により作業は可能であり、法定申告期限内に作業が全くできなかったというには疑問が残る 。
「通則法第11条は、税務署長は、災害その他やむを得ない理由により、申告等の行為をその期限までにすることがてきないと認めるときは、その理由がやんだ日から2か月以内に限り、当該期限を延長ナることができる旨規定しているところ、「災害」とは、自然災害のほか、火災、ガス爆発等の人為的災含み、「その他やむを得ない理由」とは、交通、通信の途絶その他社会通念上、申告等の行為ができなし、と認められる真にやむを得なしヽ理由、すなわち、客観的にみて申告等の行為が物理的に不可能であることに直接因果関係を有する事実に基づく理由であることを要し、その申請者の責めによって申告等の行為ができないと認められる主観的な理由はこれに含まれないと解するのが相当である。」
「件代表者(本件税理上)が答述するように・・・在宅勤務時には、従事できる作業内容が制限され、出勤時には、その遅れを取り戻すために作業量が増えるなどしたことが否定できないとしても、本件税理士は、在宅勤務及び出勤勤務の併用により、本件各申請に係る申告及び納付に関すろ作業をすることが不可能であったとは認められないcそうすると、請求人が本件各申請に係る申告及び納付を法定申告期限内及び法定納期限内にできなかったのは、新型コロナウイルス感染症に上る影瞬が全くなし、とまではいえないとしても、客観的にみて申告等の行為が物理的に不可能であ
ることに直接因果関係を有ずる事実に基づくものとはいえず、請求人が主張するその他の事情を考慮してもなお、社会通念上、本件各申請に係る申告及び納付ができない、と認められる真にやむを得ない理由があったとは認められない」
課税の公平について
課税の公平とは、法を適用すべき者に対して等しく適用すべきことをいい、仮に法の適用を免れる者が生じたとしても、そのことを理由に他の者に対して法を正しく適用することが課税の公平に反することにはならない 。本件各却下処分は通則法第11条を正しく適用したものであり、直ちに課税の公平に反するものではない 。
結論
したがって、本件各申請に「災害その他やむを得ない理由」は認められず、本件各却下処分は適法である
