記事の紹介

令和6年5月28日の最新裁決(東裁(所)令5-111)に基づき、暗号資産の税務実務において極めて重要な「更正の請求」の判断基準について解説します。

FAQの更新は還付の理由になるか?

本事案の争点は、国税庁の「暗号資産に関する税務上の取扱い(FAQ)」に、非居住者が国内交換業者を通じて行う暗号資産譲渡は非課税である旨の回答が追加されたことが、法定申告期限(5年)を過ぎても還付を求められる「特例」(後発的事由に基づく更正の請求)に該当するか否かでした。

審判所の判断:特例適用を否定

国税不服審判所は、以下の理由から納税者の請求を棄却しました。

  • FAQの性質:本件情報は適正な納税を促す「環境整備」が目的であり、裁決や判決を受けて法令解釈を変更・公表したものではない。・・・ただし、裁決は微妙な言い回しであり、「解釈」に当たらないことが決め手なのか、「判決等に伴う」ものではないことが決め手なのか、わかりにくいものとなっています。
  • 期限の厳格性:FAQへの追加は「重大な法令解釈の変更」には当たらず、5年の期間制限(通則法23条1項)を超えて更正の請求ができる「やむを得ない理由」には該当しない。

実務への教訓

たとえ国税庁の指針で有利な取扱いが明確化されても、5年の時効を過ぎた還付は原則認められません。暗号資産の税務は解釈が更新されやすいため、少しでも過大申告の疑いがある場合は、期限内に速やかに対応することが不可欠です。

裁決要旨

国税不服審判所ホームページの裁決要旨

請求人は、国税庁が公表した令和4年12月22日付の「暗号資産に関する税務上の取扱いについて(情報)」(本件情報)において、非居住者が日本の暗号資産交換業者に保有する暗号資産を譲渡することにより生ずる所得は所得税の課税対象とされていないとの国税庁長官の新たな解釈が公表され、この公表は重大な法令の解釈変更に当たるため、国税通則法施行令第6条《更正の請求》第1項第5号に規定する国税庁長官の法令の解釈が更正又は決定に係る審査請求若しくは訴えについての裁決若しくは判決に伴って変更され、変更後の解釈が国税庁長官により公表されたこと(本件公表)に該当するから、国税通則法第23条《更正の請求》第2項第3号に規定する更正の請求ができる場合に該当する旨主張する。

しかしながら、本件情報は、暗号資産取引に関して納税者自身による適正な納税義務の履行を後押しする環境整備を図ることなどを目的として公表されたものであり、国税庁長官の法令の解釈が更正等に係る裁決又は判決に伴って変更され、変更後の解釈が国税庁長官により公表されたものとは認められないことから、本件情報の公表が本件公表に該当するとは認められず、同号に規定する更正の請求ができる場合に該当しない。(令6. 5.28 東裁(所)令5-111)

事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、非居住者であった期間に行った暗号資産の譲渡により生じた所得に係る申告は不要であったとして所得税等の更正の請求をしたところ、原処分庁が、当該更正の請求は、更正の請求ができる期間を経過した後にされた不適法なものであるとして、更正をすべき理由がない旨の通知処分をしたのに対し、請求人がその全部の取消しを求めた事案である。

関係法令

イ  国税通則法(以下「通則法」という。)第23条《更正の請求》第1項柱書は、納税申告書を提出した者は、同項各号のいずれかに該当する場合には、当該申告書に係る国税の法定申告期限から5年以内に限り、税務署長に対し、その申告に係る課税標準等又は税額等につき更正をすべき旨の請求をすることができる旨規定し、同項第1号において、当該申告書に記戟した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことにより、当該申告書の提出により納付すべき税額が過大であるときを掲げている。

ロ 通則法第23条第2項柱書は、納税申告書を提出した者は、同項各号のいずれかに該当する場合には、当該各号に定める期間の満了する日が同条第1項に規定する期間の満了する日後に到来する場合に限り、同項の規定にかかわらず、同条第 2項各号に定める期間において、その該当することを理由として更正の請求をすることができる旨規定し、同項第3号は、更正の請求ができる期間について、当該国税の法定申告期限後に生じた同項第1号及び第2号に類する政令で定めるやむを得ない理由があるときは、当該理由が生じた日の翌月から起算して2月以内の期間とする旨規定している。

ハ 国税通則法施行令(以下「通則法施行令」という。)第6条《更正の請求》第1項柱書は、通則法第23条第2項第3号に規定する政令で定めるやむを得ない理由は、通則法施行令第6条第1項各号に掲げる理由とする旨規定し、同項第5号において、その申告に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実に係る国税庁長官が発した通達に示されている法令の解釈その他の国税庁長官の法令の解釈が、更正又は決定に係る審査請求若しくは訴えについての裁決若しくは判決に伴って変更され、変更後の解釈が国税庁長官により公表されたことにより、当該課税標準等又は税額等が異なることとなる取扱いを受けるごととなったことを知ったことを掲げている(以下、通則法施行令第6条第1項第5号に規定する国税庁長官による公表を「本件公表」という。)。

基礎事実及び審査請求に至る経緯

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

イ  請求人は、勤務先の社命により、平成28年6月20日に中華人民共和国に出国し、平成29年中は所得税法第2条《定義》第1項第5号に規定する非居住者であった。


ロ 請求人は、平成29年分の所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」という。)について、日本の暗号資産交換業者である ???に保有する暗号資産を譲渡したことにより雑所得が生じたとして、確定申告書に別表1の「確定申告」襴のとおり記載して法定申告期限までに申告した。


ハ 請求人は、国税庁が公表した令和4年12月22日付「暗号資産に関する税務上の 取扱いについて(情報)」(以下「本件情報」という。)における、非居住者が 日本の暗号資産交換業者に保有する暗号資産を譲渡することにより生ずる所得は、所得税の課税対象とされていない旨の記載内容に基づき、令和5年4月2日、平 成29年分の所得税等について、別表1の「更正の請求 J欄のとおり、雑所得の金額を (以下「本件更正請求」という。)をした。


二 原処分庁は、令和5年8月29日付で、本件更正請求は、通則法第23条第1項に規定する更正の請求を行うことができる期限の経過後に提出されているとして、 更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)をした。

ホ 請求人は、令和5年9月10日、本件通知処分に不服があるとして、審査請求をした。

争点

本件更正請求は、通則法第23条第2項第3号に規定する更正の請求ができる場合に該当するか否か。具体的には、本件情報の公表が、本件公表に該当するか否か。

争点についての請求人の主張

原処分庁所属の担当職員は、平成29年当時の国税庁長官の法令解釈に基づいて、非居住者である請求人が行った暗号資産の譲渡により生じた所得について申告と納税が必要であると回答を行った一方、本件情報において、非居住者が日本の暗号資産交換業者に保有する暗号資産を譲渡することにより生ずる所得は、所得税の課税対象とされていないとの国税庁長官の新たな解釈が公表された。この公表は、重大な法令の解釈変更に当たり、本件公表に該当すると認められるべきである。そして、請求人は、本件情報を令和5年4月2日に知り、同日に本件更正請求をした。

したがって、本件更正請求は、通則法第23条第2項第3号に規定する更正の請求ができる場合に該当する。

審判所の判断

認定事実

請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

イ  国税庁は、暗号資産に関する税務上の取扱い等に係る情報について、別表2のとおり、①平成29年12月1日付で「仮想通貨に関する所得の計算方法等について(情報)」によりFAQを公表し、②平成30年11月21日付で「仮想通貨に関する税務上の取扱いについて(情報)」を公表し、その後、更新又は改訂の都度、各情報を国税庁ホームページに掲載した(以下、別表2の①ないし⑦ (⑦は本件情報)の各情報を併せて「本件各情報」という。)。

なお、本件各情報のうち、②ないし⑦については、「暗号資産(仮想通貨)に関する税務上の取扱いについて(FAQ)」が別添とされており、当該FAQに問答が記載されている。

ロ 本件各惜報のFAQには、暗号資産に関する税務上の取扱いについて税目ごとに寄せられた一般的な質問等を取りまとめたものである旨の記載があり、また、別表2のとおり、問答の追加又は法律改正による呼称変更等を理由として改訂等が行われているため、本件各情報は、暗号資産取引に関して納税者自身による適正な納税義務の履行を後押しする環境整備を図ることなどを目的として公表されたものであると認められる。

ハ  本件情報(別表2の⑦)のFAQには、上記1の(3)のハのとおり、非居住者が 日本の暗号姿産交換業者に保有する暗号資産を譲渡することにより生ずる所得は、所得税の課税対象とされていない旨の回答が記載されているところ、この回答は本件情報より前に公表されtこ本件各情報(別表2の①ないし⑥)には記載されておらず、本件情報において追加されたものである。

検討

イ  本件情報における、非居住者が日本の暗号資産交換業者に保有する暗号資産を譲渡することにより生ずる所得は、所得税の課税対象とされていない旨の回答は、上記(1)のハのとおり、本件情報において追加されたものであるところ、同口のとおり、本件情報は、暗号資産取引に関して納税者自身による適正な納税義務の履行を後押しする環境整備を図ることなどを目的として公表されたものであって、 国税庁長官の法令の解釈が更正又は決定に係る裁決又は判決に伴って公表された ものとは認められない。そうすると、本件情報が公表されたことが、本件公表(すなわち、上記1の(2)のハにいうところの「国税庁長官の法令の解釈が、更正又は決定に係る審査請求若しくは訴えについての裁決若しくは判決に伴って変更され、変更後の解釈が国税庁長官により公表されたこと」)に該当するとは認められない。

ロ したがって、本件情報の公表が本件公表に該当するとは認められないから、本件更正請求は、通則法第23条第2項第3号に規定する更正の請求ができる場合に該当せず、ほかに、同項に規定する更正の請求をすることができる場合に該当する事実は認められないから、同項による更正の請求ができる場合に該当しない。

請求人の主張について

請求人は、上記3の「請求人」襴のとおり、原処分庁所属の担当職員は、平成29年当時の国税庁長官の法令解釈に基づいて、非居住者である請求人が行った暗号資産の譲渡により生じた所得について申告と納税が必要であると回答を行った一方、本件情報において、非居住者が日本の暗号賓産交換業者に保有する暗号資産を譲渡することにより生ずる所得は、所得税の課税対象とされていないとの国税庁長官の新たな解釈が公表され、この公表は、重大な法令の解釈変更に当たり、本件公表に該当すると認められるべきであるから、本件更正請求は、通則法第23条第2項第3号に規定する更正の請求をすることができる場合に該当する旨主張する。

しかしながら、原処分庁所属の担当職員が、非居住者である請求人が行った暗号資産の譲渡により生じた所得について申告と納税が必要であるとの回答をしたと認めるに足りる証拠はなく仮に、原処分庁所属の担当職員が当該回答を行ったとしても、上記(2)のとおり、本件情報は、国税庁長官の法令の解釈が裁決又は判決に伴って公表されたものと認められないから、本件情報の公表が本件公表に該当するとはいえない

したがって、請求人の主張は採用できない。

請求人のその他の主張について

請求人は、上記3の「請求人」欄に記載の主張以外にも、通則法第74条《還付金 等の消滅時効》第1項は、還付金等に係る国に対する請求権(以下「還付請求権」 という。)は、その請求をすることができる日から5年間行使しないことによって、時効により消滅する旨規定し、通則法施行令第6条第1項第5号とは別に請求人が 原処分庁に対して、原処分庁の重過失や不作為によって納付してしまった金額の還付を請求する根拠となるものであり、請求人が国に対して還付金等の請求をすることができることになった日、すなわち本件においては原処分庁の誤った指示によって所得税等を納付した日である平成30年4月20日から本件更正請求をした日まで5年を経過していないため、還付請求権を引き続き有している旨主張する。

しかしながら、通則法第74条は、還付請求権を発生させる根拠規定ではなく、各税法の規定により確定した還付金等である公法上の金銭請求権が既に存在する場合の規定であり、還付請求権は確定税額が過大であっても、そのことから法律上当然に発生するわけではなく、更正の諸求などに基づき減額更正がされ、確定税額が是正されることによって初めて発生するものと解するのが相当である。そうすると、請求人は、減額更正を受けるなどして確定した税額が是正されていないことから遠付請求権を有しているとはいえず、その主張は前提を欠き、採用できない。

本件通知処分の適法性について

上記(2)の口のとおり、本件更正請求は、通則法第23条第2項第3号に規定する更正の請求ができる場合に該当しない。

また、本件通知処分のその他の部分については、請求人は争わず、 当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

したがって、本件通知処分は適法である。

結論

よって、審査請求は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり裁決する。

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