令和6(2024)年12月19日に、自由民主党政務調査会【デジタル社会推進本部・金融調査会 提言】「暗号資産を国民経済に資する資産とするための緊急提言」 が公表されました。
おおむね次のような内容です。①の暗号資産取引の課税見直し=分離課税の導入はあくまで「検討」というトーンですから、これまでの自民党の考え方を踏襲したものです。簡単に「導入すべきだ」といえるものではないので、現実的にはこのようなトーンにならざるを得ないものと思われます。
①暗号資産取引の課税見直し
暗号資産取引による所得は現行では総合課税で最大55%の税率が適用されているが、これを20%の申告分離課税へ変更することが提案されています。また、損失の繰越控除(3年間)を認め、暗号資産デリバティブ取引にも同様の措置を検討する必要があるとされています。
②暗号資産規制の枠組みの見直し
暗号資産は投資対象であると同時に、Web3分野で重要な役割を果たしていること、現行の規制は資金決済法中心だが、一部の暗号資産を金融商品として位置付け、金融商品取引法の対象とする検討が必要であるという認識が示されています。さらに、イノベーションを阻害しない規制の構築や、暗号資産をETFの対象とする議論も求められるということです。
③サイバーセキュリティの強化
暗号資産交換業者は利用者資産を保護するため強固なセキュリティが必要だが、単独での対策には限界があること、事業者間および国際的な連携を強化するISAC(Information Sharing and Analysis
Center)の設立が重要であり、民間の試みとして「JPCrypto-ISAC」設立の動きがあることを承知しつつ、国内外の連携を通じたセキュリティ向上を政府が支援すべきであるとしています。
デジタル社会推進本部では、web3をデジタル社会における成長エンジンの一つと位置付け、日本がweb3関連事業の発展を主導していけるよう、プロジェクトチームを立ち上げ検討を進めてきた。本年は、「DAOルールメイクに関する提言」及び「web3ホワイトペーパー2024 ~新たなテクノロジーが社会基盤となる時代へ~」を公表した。
これらの提言の結果、たとえば、LLC型DAOの設立・運営に必要な環境の整備、投資事業有限責任組合(LPS)による事業者のために発行される暗号資産・電子決済手段への投資を可能とする「投資事業有限責任組合契約に関する法律」の改正が既に実現されている。また、暗号資産の媒介のみを行う業者に関する、暗号資産交換業・電子決済手段等取引業とは異なる新たな業の創設や、電子決済手段(ステーブルコイン)の発行見合い金の管理・運用に関する検討も進められている。そして、これら一連の改革を主導してきたのは、まぎれもなく自由民主党である。
さらに、2024年10月末時点において、暗号資産口座の開設数は1,100万口座を超え、利用者預託金は2.9兆円に達している。2005年にFX取引が旧金融先物取引法(2007年に金融商品取引法へ統合)の対象とされた当時の状況(2007年当時約80万口座)と比べても、多くの国民が暗号資産を投資対象として取引していることが伺える。
こうした流れを更に推進し、暗号資産を国民経済に資する資産とするためには、現時点において以下の施策を推進する事が必要である。
1. 暗号資産取引による損益を申告分離課税の対象へ
現行の税制においては、個人所得課税において、暗号資産の取引により生じた所得は原則雑所得に該当するものとされ、総合課税の対象として最高税率(所得税と住民税を合わせて)55%で課税されるなど、諸外国に比べて厳しい扱いとなっているとの指摘がある。
こうした指摘や暗号資産を国民の投資対象となるべき金融資産として取り扱うかなどの観点を踏まえ、①暗号資産の取引により生じた損益について20%の税率による申告分離課税の対象とすること、②暗号資産にかかる所得金額からの損失の繰越控除を認める(翌年以降3年間)こと、③暗号資産デリバティブ取引についても同様に申告分離課税の対象にすることについて、検討を行っていくべきである。
2. 暗号資産に関する規制の枠組み等について
暗号資産は、価格変動するデジタル資産であるため、暗号資産交換業者のプラットフォーム等において活発に売買され、投資の対象になっている。また、米国等では機関投資家等によるビットコインの保有が着実に増加するなど、主要な暗号資産は、投資対象となるアセットクラスの一つとして位置付けられるようにもなっている。
一方、暗号資産は、単なる投資対象ではなく、本質的には、ブロックチェーンを機能させるための必須の要素である。また、我が国が従来より推進しているweb3ビジネスにおいては、暗号資産は、金融取引のみならず、DAOのガバナンス、オンラインゲームでの決済手段などでの利用が拡大しており、非金融事業者(通信キャリア、ゲーム会社、アート・アニメ等の取扱事業者など)がweb3分野での事業を拡大している。米国では暗号資産関連の規制緩和の動きが加速する可能性が高いことにも留意が必要である。
現在、我が国における暗号資産の規制法の枠組みは、セキュリティトークンについては金融商品取引法の規制対象となっているものの、資金決済法を中心に構成されており、暗号資産は、投資対象としての金融商品としては位置付けられていない。この点、暗号資産が投資対象としても位置付けうる状況になっていることに鑑みると、暗号資産取引の振興や分離課税への道を拓くとの観点から、利用者保護に留意しつつ、暗号資産の一部を金融商品として法的に位置付け、金融商品取引法の規制対象とすることも考えられる。但し、その際には、web3ビジネスが金融事業のみならず多様な非金融事業をも含むことから、イノベーションを阻害することのないよう、多様な意見を尊重しつつ、最適な規制法の枠組みはどうあるべきかについて検討を進めるべきである。また、こうした投資対象としての位置付けの整理も踏まえながら、暗号資産をETFの対象とすることについても検討を行っていくべきである。
3. 国民経済に資する資産となるためのサイバーセキュリティへの取り組み
暗号資産交換業者においては、利用者資産の保護の観点から、強固なサイバーセキュリティの確保が必要不可欠である。このため、各事業者においては、関連法令を順守するとともに、独自のセキュリティ対策を講じているのが現状である。
しかしながら、暗号資産は国境を越えて流通する特性を有しており、事業者単独でのセキュリティ確保および強化には限界がある。このため、事業者間および国際的な連携を図る枠組み(ISAC:Information Sharing and Analysis Center)を構築し、ISACに参加する各事業者間および関係当局との間で、セキュリティに関する情報の共有や連携を進めることが喫緊の課題となっている。
現在、民間の試みとして「JPCrypto-ISAC」設立の動きがあることを承知している。設立されたISACにおける情報共有、そして米国をはじめとする諸外国のCrypto-ISACや関連調整機関との連携強化を通じて、各事業者におけるセキュリティレベルの一層の向上を図るとともに、これらの取り組みについて政府が強力に後押ししていくべきである。