所得税法上の暗号資産とは何でしょうか?また、所得税法上の暗号資産は、棚卸資産の定義から除外されていますが、これはどのようなことを意味するのでしょうか?
所得税法には、譲渡原価の計算など暗号資産に関する特別な規定が存在しています。これらの規定は、暗号資産に特化したルールに基づいており、適用されるための要件となる「暗号資産」の定義が非常に重要です。
所得税法上の暗号資産とは、資金決済法上の暗号資産であり、この意味での暗号資産を事業所得に関連する棚卸資産の範囲から除外しています(所得税法2条1項16号、48条の2第1項)。これにより、暗号資産は所得税法39条や所得税法47条など、棚卸資産に適用される自家消費や評価方法等のルールの適用対象外となります。
資金決済法2条14項(定義)
この法律において「暗号資産」とは、次に掲げるものをいう。ただし、金融商品取引法第二十九条の二第一項第八号に規定する権利を表示するものを除く。
一 物品等を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されているものに限り、本邦通貨及び外国通貨、通貨建資産並びに電子決済手段(通貨建資産に該当するものを除く。)を除く。次号において同じ。)であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの
二 不特定の者を相手方として前号に掲げるものと相互に交換を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの
自家消費に係る所得税法39条の適用外
所得税法39条は、棚卸資産を自家消費した場合(例えば、八百屋が売り物の野菜を自宅で食べる場合)、その時価相当額を収入金額として計上し、課税することを定めています(所得税法施行令81条、86条)。
暗号資産は、一般的な商品や原材料とは異なり、主に投資対象や決済手段として使用され、八百屋が売り物の野菜を自宅で食べるケースのように暗号資産を自家消費するというケースはあまり考えられません。また、暗号資産を使用した場合には、譲渡損益が生じます。よって、上記の所得税法39条を適用する必要性は低いといえるでしょう。ただし、暗号資産の贈与や低額譲渡には所得税法40条の適用があり、これによって暗号資産を手放した側に課税が生じるので注意が必要です。
所得税法47条に基づく棚卸資産の評価方法
所得税法47条は、事業所得に係る期末棚卸資産の評価方法を定めており、具体的には、個別法、先入先出法、最終仕入原価法、低価法などの評価方法を定めています(所得税法施行令99、99の2等)。しかし、暗号資産にはこれらの評価方法は適用されません。代わりに、暗号資産の評価方法としては平均法が適用されます(所得税法48条の2第1項所得税法施行令119の2)。代替性という性質を有する(ファンジブルの性質を有する)暗号資産は、一つひとつに個性がないため、有価証券と同様の平均法を適用することが妥当であると考えられたのかもしれません。
固定資産からの除外
暗号資産は、固定資産の定義からも除外されています(所得税法2条1項18号、所得税法施行令5条)。固定資産とは、土地や減価償却資産などの長期的な使用を前提とした資産を指しますが、暗号資産はそのような資産とは性質が異なります。
このように、暗号資産は所得税法において独自の位置づけがなされており、棚卸資産や固定資産に関する規定の適用が除外されています。このため、暗号資産に関する課税方法は他の資産とは異なる特別なルールに基づいて行われます。もっとも、他の資産と同様に、暗号資産に係る取得価額や評価方法の規定が整備されています。