個人の方が詐欺や盗難により暗号資産やNFTを消失してしまった場合には、基本的には以下の2つの方法のいずれかにより、所得税の負担を減らすことができるかを検討します。

①雑損控除として所得から控除(所得税法72条)

②事業所得又は雑所得に係る損失として必要経費に算入(所得税法51条)

国税庁「NFTに関する税務上の取扱いについて(FAQ)」(令和5年1月)の問5は、次のとおり説明しています。

(問)私は、デジタルアートの制作者からデジタルアートを紐づけたNFTを購入し、当該デジタルアートを閲覧することができました。今般、第三者の不正アクセスにより、購入したNFTが消失しました。この場合の所得税の取扱いを教えてください。

(答)第三者の不正アクセスにより、購入したNFTが消失した場合の所得税の取扱いは、次のとおりです。

・そのNFTが生活に通常必要でない資産や事業用資産等に該当せず、かつ、そのNFTの消失が、盗難等に該当する場合には、雑損控除の対象となります。

・そのNFTが事業用資産等に該当する場合には、その損失について、事業所得又は雑所得の金額の計算上、必要経費に算入することができます。

  【関係法令等】 所法51、72

ごく簡単にいえば、購入したNFTが主として趣味、娯楽、保養又は鑑賞の目的で所有する資産又は貴金属、書画、美術工芸品などで30 万円を超える動産に関する権利を表章するものではなく、事業用資産等に該当しない場合であって、消失した原因が(詐欺ではなく)災害、盗難、横領である場合には、上記①の雑損控除の適用があり、「そのNFTが消失した時点の時価」をベースとして計算した一定の額を所得から控除することができます。

結局、事業というに至らない程度の業務(事業の場合は次に説明する事業用資産等の取扱いを検討することになります。)を営んでいて、そのNFTがその業務用の資産であるといえるような場合には、雑損控除の対象になるということです。

他方、NFTが事業用資産等であるといえる場合には、その盗難等による損失は、上記②の事業所得又は雑所得の金額の計算上、必要経費に算入することが可能です。

この場合の必要経費算入額は、「そのNFTの帳簿価額」になります。

暗号資産については、令和4年4月19日の参議院財政金融委員会において、藤末健三議員から次のような質問がなされました。

海外、投資詐欺等に遭遇した場合、通貨交換タイミングにおいて課税が発生します。

その後、投資敷金の回収が不能になった場合でも、税金が非免税債権のため、詐欺被害に遭遇した方が破産することもできずに窮地に追い込まれているという現状を聞いております。

所得法第72条において、雑損控除は、損害又は盗難若しくは横領により生じた損失を対象としますが、詐欺による損失は対象となっておりません。

実際に私が聞いた話でいきますと、海外のICO、イニシャル・コイン・オファリングによって詐欺があり、それで課税が発生する。

一方、詐欺に遭ってお金は入っていないのに税金を払えと言ってくるというような状況が生じて、自己破産もできないという話を聞いております。 この点において、現在救済措置があるかどうかをお教えいただきたいと思います。お願いいたします。

これに対して、重藤哲郎国税庁次長は、次のとおり、答弁しています。

まず、委員御指摘のとおり、雑損控除につきましては、災害又は盗難若しくは横領により生じた損失を対象としておりますので、この詐欺というのはそこには入っていないというところでございます。

一方で、暗号資産、これは雑所得の基因となる資産でございますが、雑所得の基因となる資産の損失につきましては、所得税法第51条第4項におきまして、その損失の生じた年分の雑所得の金額を限度として必要経費に算入することができ、その損失には詐欺による損失というのも含まれるということでございます。

したがいまして、今委員から御指摘がございましたICO投資詐欺に遭遇された方につきましては、これ個々の事実関係にもよりますので一概には申し上げられませんが、例えば裁判などによって詐欺によって暗号資産がだまし取られたといった事実が明らかとなって、契約が取り消されたといった場合であれば、例えば税務上も、まず暗号資産の交換によって売買益が発生したという取扱いはしないということ、あるいは当該暗号資産の損失を雑所得の金額の範囲内で必要経費に算入するといったこともできるのではないかと考えております。

詐欺や盗難などによる暗号資産の損失について、雑所得の基因となる資産の損失として必要経費に算入できる可能性があるということになります。

なお、法人の場合はいずれも単純に帳簿価額を損失として損金の額に算入することが認められる可能性が高いです(法人税法22条3項3号)。