せっかく納める税金なら、正しく計算して無駄な支出は抑えたいものですよね。しかし、もし税務署から「重加算税(通常より重いペナルティ)」を課されることになったら、どうすればよいのでしょうか。

今回ご紹介するのは、ある個人事業主の方が「売上を一部の口座に隠していた」として、重加算税を課された事例です。このケースで注目すべきは、納税者側が「自分ではなく母親に申告を任せていたから、わざと隠したわけではない」と主張した点、そして「後から見つかった外注費や親族への給与を経費として認めてほしい」と訴えた点です。

結論から申し上げますと、国税不服審判所(税金のトラブルを裁く場)は、納税者の訴えを退けました。家族に任せていても、売上を特定の口座に分けて管理し、それを申告に反映させなかった事実は「隠蔽(隠すこと)」とみなされたのです。また、後出しで主張した経費も、領収書などの客観的な証拠が不十分として認められませんでした

この記事では、この裁判の結果をもとに、どのような行為が重加算税の対象になるのか、また、経費として認めてもらうためには日頃から何を準備しておくべきかを、専門用語を噛み砕いてわかりやすく解説します。

本裁決は、売上除外に基づく重加算税の理由提示の適否と、更正の請求における外注費・親族給与・車両減価償却費の事業所得に係る必要経費算入の可否が争われた事案です。審判所は、理由提示に不備はなく、各支出はいずれも必要経費に該当しないとして、更正請求及び重加算税賦課決定処分を適法と判断しました。

裁決要旨

審判所ホームページの裁決要旨

請求人は、更正の請求(本件更正請求)において、①外注費及び出張手当、②請求人が営む事業(本件事業)に従事する親族への給与及び③本件事業に従事する親族が使用する車両(本件車両)の減価償却費の一部について、必要経費に算入することができる旨主張する。しかしながら、①及び②の一部については、請求人の主張事実は、提出に係る証拠によっても、当審判所の調査によってもこれを認めるには足らず、②のその他の部分については、請求人が提出した各書類は、その支出があったことを裏付けるものではないか、又は本件事業と直接の関連性を持ち、業務の遂行上必要な支出であることを裏付ける証拠資料とは認められない。③については請求人の主張を前提とすると、家事関連費に該当するところ、請求人は本件車両の本件事業における使用状況及び事業専用割合の根拠に関する客観的な証拠を提出せず、また、当審判所の調査によっても、これを認めるに足りない。したがって、請求人が必要経費の算入漏れと主張する各支出は、事業所得の金額の計算上必要経費に算入することができるとは認められないから、本件更正請求は、国税通則法第23条《更正の請求》第1項第1号の規定による更正の請求ができる場合に該当しない。(令5. 4.13 広裁(所・諸)令4-15)

請求人は、①誰が隠蔽仮装行為をしたか、②隠蔽仮装行為と評価される行為及び親族の隠蔽仮装行為を請求人のそれと同視することの記載が、重加算税の各賦課決定処分(本件各賦課決定処分)に係る各通知書(本件各通知書)でそれぞれ不明確であったことなどを理由として本件各賦課決定処分の理由の提示に不備がある旨主張する。しかしながら、本件各通知書の記載内容からすれば、請求人から申告手続を委任された親族に隠蔽仮装行為があったことをもって、請求人に隠蔽仮装行為があったことを判断したことが分かり、本件各賦課決定処分の原因となる事実関係の内容等が具体的に示されている。そうすると、本件各通知書の記載内容は、行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を名宛人に知らせて不服の申立てに便宜を与えるという行政手続法第14条《不利益処分の理由の提示》第1項本文の趣旨に照らし、同項本文の要求する理由の提示として欠けるものではないことから、本件各賦課決定処分の理由の提示に不備はない。(令5. 4.13 広裁(所・諸)令4-15)


事案の概要

請求人が原処分庁の調査に基づき所得税等及び消費税等の各修正申告をしたところ、原処分庁が、請求人の過少申告は隠蔽又は仮装の事実があるとして、重加算税の各賦課決定処分を行った。

これに対し、請求人は、当該各賦課決定処分の理由の提示に不備があるとしてその一部取消しを求めるとともに、平成28年分の所得税等について必要経費の算入漏れがあったとして行った更正の請求に対する「更正をすべき理由がない旨の通知処分」の取消しを求めた(令5.4.13広裁(所・諸)令4第15号) 。


基礎事実

当事者関係

請求人は、「???」という屋号で空調設備の点検及び修理業(本件事業)を営む個人事業者であった。
本件事業に係る確定申告書の作成及び提出は、母「???」に一任していた。

取引・申告等の経緯

請求人は、平成26年1月1日から令和2年12月31日までの間、本件事業に係る売上先に対し、売上金を

  • 「???」名義の普通預金口座(本件甲口座)
  • 請求人名義の普通預金口座(本件乙口座)

のいずれかに振り込ませていた。

母は、申告手続を委任され、本件甲口座に振り込まれた売上金額のみを年間変動損益計算書に記載し、本件乙口座に振り込まれた売上金額を記載しなかった

課税処分の内容

請求人は、原処分庁の調査に基づき令和3年12月8日に各修正申告を行った。

原処分庁は、令和4年1月21日付で、

  • 本件各年分の所得税等に係る重加算税の各賦課決定処分
  • 本件各課税期間の消費税等に係る重加算税の各賦課決定処分

を行った。

また、請求人は平成28年分について、外注費、出張手当、父母給与、妹給与及び車両減価償却費を必要経費に算入すべきであるとして更正の請求(本件更正請求)を行ったが、原処分庁は更正をすべき理由がない旨の通知処分をした。


争点

本件の争点は次のとおりである。

  • 本件各賦課決定処分の理由の提示に不備があるか(争点1)
  • 本件更正請求は通則法23条1項1号に該当するか、すなわち本件請求額を必要経費に算入できるか(争点2)

争点についての当事者の主張

請求人の主張

争点1について、請求人は、

  • 誰が隠蔽仮装行為をしたのか不明確である
  • 親族の行為を請求人の行為と同視する記載が不明確である

などとして、本件各通知書の理由提示は不備であると主張した。

争点2については、

  • 外注費及び出張手当は本件手帳や確認書等により支払事実が明らかである
  • 父母及び妹に対する給与は実際に支払われている
  • 本件車両は事業専用割合50%で使用しており減価償却費を算入できる

と主張した。

原処分庁の主張

原処分庁は、

  • 本件各通知書には隠蔽仮装行為の内容が具体的に記載されており理由提示に不備はない
  • 各支出については支払事実及び事業との直接関連性を裏付ける客観的証拠がない

と主張した。


審判所の判断

事実認定

審判所は、本件各通知書には、

  • 本件甲口座のみを基に年間変動損益計算書を作成したこと
  • 本件乙口座の売上金額を記載しなかったこと

が具体的に記載されているとした。

また、更正請求に関し、提出された本件手帳、確認書、本件ノート等について、

  • 作成経緯が明らかでない
  • 記載内容が抽象的である
  • 支払明細書や領収証等の客観的証拠が存在しない

とした。

法令解釈および当てはめ

争点1(理由提示)

行政手続法14条1項本文の趣旨に照らし、

本件各通知書の記載は、処分の原因となる事実関係を具体的に示しており、理由提示として欠けるものではないと判断した。

したがって、本件各賦課決定処分の理由の提示に不備はないとした。

争点2(必要経費)

外注費・出張手当については、

提出証拠から支払事実を推認することはできず、通常存在すべき客観的証拠もないとして必要経費性を否定。

父母給与及び妹給与についても、

支払時期・理由が明らかでなく、事業との直接関連性を裏付ける証拠もないとして否定。

減価償却費については、

家事関連費(所得税法45条)の問題として、

事業専用割合50%を裏付ける客観的証拠が提出されておらず、合理的区分もできないと判断した。

結論

以上より、

  • 本件更正請求は通則法23条1項1号の更正の請求ができる場合に該当しない
  • 本件通知処分は適法
  • 本件所得税等及び消費税等に係る重加算税各賦課決定処分はいずれも適法

として、審査請求をいずれも棄却した。


実務上のポイント

  • 親族に申告事務を委任している場合でも、売上除外行為は納税者本人の隠蔽仮装行為と評価され得る
  • 理由提示は、処分原因事実が具体的に示されていれば足り、詳細な法的評価の記載までは不要と解される。
  • 必要経費の主張には、支払事実と事業関連性を裏付ける客観的証拠(領収証・明細・記録等)が不可欠である。
  • 家事関連費の按分には、使用実態を裏付ける具体的資料の整備が不可欠である。

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