理事長報酬が経費にならない!?医療法人の設立初年度に注意すべき「定期同額給与」の落とし穴。最新の国税不服審判所裁決令和6年8月1日を公開
「クリニックがオープンして軌道に乗ったから、理事長報酬を増額した」――。医療法人の経営において一見合理的なこの判断が、税務調査で否認されるケースが後を絶ちません。2024年8月の最新裁決では、まさにこの「開業後の増額」が定期同額給与のルール違反と判断されました。せっかくの役員報酬が損金(経費)として認められなくなる事態を避けるための対策を検討しておきましょう。
- なぜ増額が認められなかったのか? 「設立日」と「診療開始日」の勘違い。
- 損金算入のタイムリミット。 設立から3か月を過ぎた改定は原則NG。
- 「限度額以内なら自由」は間違い。 設立総会で決めた枠内でも、毎月の額が変動すれば否認対象。
医療法人の設立時は、保健所への開設届や資金繰りに目が向きがちですが、役員報酬の決定プロセスも同様に重要です。税務当局との見解の相違を防ぐためのポイントをチェックしましょう。
裁決要旨
国税不服審判所ホームページの裁決要旨
請求人は、設立後最初の事業年度の各支給時期における理事長に対する定期給与(本件役員給与)の支給額について、令和元年7月の増額改定及び同年9月の増額改定(本件各支給額改定)は、いずれも開業の日から三月以内にされた定期給与の額の改定であり、また、当該開業の日が設立後最初の会計期間開始の日であると解されるから、本件役員給与は定期同額給与に該当する旨主張する。
しかしながら、法人税法第13条《事業年度の意義》第1項の規定によれば、請求人の設立後最初の事業年度は定款に定める設立後最初の会計年度であると認められるところ、本件全証拠をみても、本件役員給与の支給額について定めのある書類は月額報酬限度額を定めた請求人の設立総会に係る議事録以外に見当たらないから、本件各支給額改定は、そもそも事前の定めによるものと認めるに足りず、令和元年7月支給額及び同年9月支給額の元帳計上日にそれぞれされたと推認されるから、いずれも設立後最初の事業年度開始の日の属する会計期間開始の日から三月を経過する日後にされた定期給与の額の改定であると認められる。
したがって、本件各支給額改定は、法人税法施行令第69条《定期同額給与の範囲等》第1項第1号(令和2年政令第207号による改正前のもの)所定の給与改定に当たらず、本件役員給与は、設立後最初の事業年度の各支給時期における支給額が同額ではないから、定期同額給与に該当しない。(令6. 8. 1 金裁(法)令6-1)
事案の概要(定期同額給与/役員給与の損金算入)
歯科医業を営む医療法人社団である審査請求人(以下「請求人」という。)が損金の額に算入した理事長に対する役員給与の額について、原処分庁が、当該役員給与は法人税法第34条第1項第1号所定の定期同額給与に該当しないとして法人税等の更正処分等をした。
これに対し、請求人は、当該役員給与は事実上の事業開始の日から三月を経過する日までに改定されたものであるから定期同額給与に該当するなどとして、原処分の全部の取消しを求めた。
法人税法第13条(事業年度の意義)
法人税法第13条第1項は、この法律において「事業年度」とは、法人の財産及び損益の計算の単位となる期間(以下「会計期間」という。)で、法令で定めるもの又は法人の定款、寄附行為、規則、規約その他これらに準ずるもの(以下「定款等」という。)に定めるものをいう旨規定している。
法人税法第34条(役員給与の損金不算入)
法人税法第34条第1項は、内国法人がその役員に対して支給する給与(使用人としての職務を有する役員に対して支給する当該職務に対するものを除く。)のうち、次に掲げる給与のいずれにも該当しないものの額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない旨規定している。
同項第1号は、その支給時期が一月以下の一定の期間ごとである給与(以下「定期給与」という。)で、当該事業年度の各支給時期における支給額が同額であるものその他これに準ずるものとして政令で定める給与(以下「定期同額給与」という。)と規定している。
また、法人税法第34条第6項は、同条第1項に規定する使用人としての職務を有する役員とは、役員(社長、理事長その他政令で定めるものを除く。)のうち、部長、課長その他法人の使用人としての職制上の地位を有し、かつ、常時使用人としての職務に従事するものをいう旨規定している。
法人税法施行令第69条(定期同額給与の範囲等)
法人税法施行令第69条第1項第1号(令和2年政令第207号による改正前のもの。以下同じ。)は、定期給与で、次に掲げる改定(以下「給与改定」という。)がされた場合における、当該事業年度開始の日又は給与改定前の最後の支給時期の翌日から、給与改定後の最初の支給時期の前日又は当該事業年度終了の日までの間の各支給時期における支給額が同額であるものを定期同額給与とする旨規定している。
(1)通常改定
当該事業年度開始の日の属する会計期間(法人税法第13条第1項に規定する会計期間をいう。以下同じ。)開始の日から三月を経過する日(以下「三月経過日等」という。)まで(定期給与の額の改定(継続して毎年所定の時期にされるものに限る。)が三月経過日等後にされることについて特別の事情があると認められる場合にあっては、当該改定の時期)にされた定期給与の額の改定をいう。
(2)臨時改定事由による改定
当該事業年度において、当該内国法人の役員の職制上の地位の変更、その役員の職務の内容の重大な変更その他これらに類するやむを得ない事情(以下「臨時改定事由」という。)によりされたこれらの役員に係る定期給与の額の改定(通常改定を除く。)をいう。
(3)業績悪化改定事由による改定
当該事業年度において、当該内国法人の経営の状況が著しく悪化したことその他これに類する理由(以下「業績悪化改定事由」という。)によりされた定期給与の額の改定(その定期給与の額を減額した改定に限り、通常改定及び臨時改定事由による改定を除く。)をいう。
基礎事実
請求人の設立・定款等
- 請求人は、医療法第45条第1項に基づく「???」の認可を経て、「???」に設立の登記がされた歯科医業を営む医療法人社団である。
- 平成31年1月4日に開催された請求人の設立総会において、定款及び役員の月額報酬限度額(理事長は440万円)が承認され、理事長に「本件理事長」が選任された。
- 定款には、会計年度は毎年3月1日から翌年2月末日までとし、設立後最初の会計年度は設立の日から平成32年2月29日までとする旨の記載がある。
開設許可(診療所)
- 請求人は、平成31年4月26日、「???」(診療所の新規開設)の開設許可を取得した。
- 当該申請書には、開設予定年月日は令和元年6月1日と記載されている。 定期同額給与金裁(法)令6第1号
本件役員給与(支給額の推移/元帳計上日)
- 設立後最初の事業年度の各支給時期における本件理事長に対する定期給与(以下「本件役員給与」という。)の支給額は、
平成31年4月ないし令和元年6月は0円、令和元年7月及び8月は180万円、同年9月ないし令和2年2月は280万円とした(本件7月支給額改定/本件9月支給額改定)。 - 本件役員給与を総勘定元帳の役員報酬勘定に計上した日付は、令和元年7月支給額が7月18日、同年9月支給額が9月17日である。
更正処分等と不服申立ての経緯
- 請求人は、本件事業年度等について申告し、本件役員給与合計額2,040万円を定期同額給与として損金算入した。
- その後、調査を受け修正申告を行い、原処分庁は令和5年6月20日付で、本件役員給与は法人税法第34条第1項各号に規定する給与のいずれにも該当しないとして、更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。
- 再調査請求はいずれも棄却され、請求人は令和6年1月15日に審査請求をした。
争点
本件役員給与は定期同額給与に該当しないか否か(具体的には、本件各支給額改定が通常改定に該当しないか否かである。)。
争点についての主張
原処分庁の主張(骨子)
- 請求人の定款により、設立後最初の会計年度(会計期間)が「設立の日」から平成32年2月29日までとされている以上、設立後最初の会計期間は「???」から令和2年2月29日である。
- したがって、三月経過日等との関係で、本件各支給額改定は通常改定に当たらず、本件役員給与は定期同額給与に該当しない、など。
請求人の主張(骨子)
- 医療法人としての事業開始の日(開業の日)は令和元年6月1日であり、会計期間開始の日も開業の日と解するべきである。
- 令和元年7月・9月の増額改定は、開業の日から三月以内にされた改定であり、本件役員給与は定期同額給与に該当する。
審判所の判断
法令の枠組み(定期同額給与・給与改定)
法人税法施行令第69条第1項第1号は、定期給与の額の改定につき、法令上その範囲を、①通常改定、②臨時改定事由による改定、③業績悪化改定事由による改定というように具体的に明示するとともに、改定があった場合には、定期給与をその改定の前後で区分し、それぞれごとに定期同額給与に該当するかどうかを判定することとされた。
「役員給与の損金算入のあり方については、平成18 年度の税制改正において見直しがなされ、事前の定めにより役員給与の支給眸期・支給額に対する恣意性が排除されているものについて損金算入が認められることとなった。さらに、平成19年度の税制改正では、法令において役員給与の取扱いの明確化等を図ることとされ、すなわち、法人税法施行令第69条第1項第1号において、定期給与の額の改定につき、法令上その範囲を、①通常改定、②臨時改定事由による改定、③業績悪化改定事由による改定というように具体的に明示するとともに、改定があった場合には、定期給与をその改定の前後で区分し、改定前の各支給時期における支給額が同額である定期給与と改定後の各支給時期における支給額が同額である定期給与とについて、それぞれごとに定期同額給与に該当するかどうかを判定することとされた。」
通常改定(3か月以内の改定)に当たるか
- 法人税法第13条第1項が「事業年度」とは定款等に定める会計期間をいう旨規定していることからすれば、請求人の設立後最初の事業年度は、定款に定める設立後最初の会計年度である「???」から令和2年2月29日までと認められる。
- 本件全証拠をみても、本件役員給与の支給額について定めのある書類は、月額報酬限度額を定めた設立総会議事録以外に見当たらないから、本件各支給額改定は、そもそも事前の定めによるものと認めるに足りない。
- そうすると、本件7月支給額改定は令和元年7月支給額の元帳計上日である7月18日に、本件9月支給額改定は同年9月支給額の元帳計上日である9月17日にそれぞれされたと推認されるから、本件各支給額改定は、いずれも会計期間開始の日から三月を経過する日(???)後にされた定期給与の額の改定であると認められる。
- また、本件各支給額改定が三月経過日等後にされたことについて、法人税法施行令第69条第1項第1号イにいう特別の事情があるとは認められない。
- したがって、本件各支給額改定はいずれも通常改定に該当しない。
臨時改定事由・業績悪化改定事由に当たるか
- 審理の全趣旨によっても、本件各支給額改定について、三月経過日等までには予測し難い偶発的な事情は見当たらず、やむを得ない事情も見当たらない。したがって、本件各支給額改定はいずれも臨時改定事由による改定に当たらない。
- 本件各支給額改定はいずれも増額であるから、減額改定に限られる業績悪化改定事由による改定に当たらないことは明らかである。
結論(定期同額給与性の否定/損金不算入)
以上のとおり、本件各支給額改定は、そもそも事前の定めによるものと認めるに足りず、また、①通常改定、②臨時改定事由による改定、③業績悪化改定事由による改定のいずれにも当たらない。
そうすると、本件役員給与は、設立後最初の事業年度の各支給時期における支給額が同額ではないから、定期同額給与に該当しない。
請求人の主張に対する判断
「会計期間開始の日=開業の日」との解釈について
租税法規は法的安定性の要請が強く、その解釈は原則として文理解釈によるべきであり、会計期間開始の日を開業の日であると解することはできないい。
「資金繰りの都合」等の主張について
請求人の資金繰りの都合は、臨時改定事由や業績悪化改定事由のいずれにも当たらず、また、本件7月支給額改定が通常改定に該当しないことは上記判断のとおりである。
「限度額以内なら同額と解せる」との主張等について
月額報酬限度額があること等をもって、各支給時期における支給額が限度額以内であれば同額と解することはできない、などとして採用されない。
結論
よって、審査請求は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり裁決する。
