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【裁決解説】外国人の確定申告「日本語がわからず親族に騙された」なら重加算税はかからない?

外国人(外国籍)の方が日本で所得税の確定申告を行う際、言語の壁から第三者に手続を任せるケースがあります。しかし、親族らが「架空の支払調書」を使って不正な還付申告を行った場合、外国人の納税者本人も重加算税の責任を問われるのでしょうか。

国税不服審判所(令和6年7月3日裁決)は、外国籍の納税者が「日本語が不自由で内容を理解していなかった」と主張した事案に対し、重加算税の賦課は適法との厳しい判断を下しました。

「言葉がわからない」「親族を信じていた」という個人的事情は、外国人の税金・所得税の申告においても、重加算税・過少申告加算税を免れる「正当な理由」にはなりません。申告納税制度のもとでは、外国人であっても、税務署への申告内容を把握・監督する責任があることが改めて示された重要な裁決です。

この記事でわかること

  • 外国人(外国籍)が確定申告を第三者に任せた場合の重加算税の責任の範囲
  • 「日本語がわからない・親族に騙された」という主張が外国人の所得税申告において通用しない理由
  • 納税者が第三者の仮装行為と「同視」されるための法令解釈
  • 過少申告加算税の「正当な理由」の判断基準と本裁決の結論
  • 外国人が税務署・税金(所得税)で問題を抱えないための実務上の注意点

裁決要旨

国税不服審判所ホームページの裁決要旨

請求人は、請求人の確定申告が過少申告となったのは、確定申告手続やその内容を理解していないこと、請求人の親族(本件親族)らに、請求人自身の日本語の理解力不足などを利用されて欺かれたことによるものであるから、国税通則法(令和4年法律第4号による改正前のもの)第65条《過少申告加算税》第4項第1号に規定する正当な理由があると認められるものがある場合に該当する旨主張する。

しかしながら、請求人が、本件親族らに請求人名義の確定申告手続を委任したと認められること、請求人が請求人名義で所得税等の還付を受けようとするために本件親族らが請求人が法人から業務委託を受けていないにもかかわらず、「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」を作成するという仮装行為を認識することができ、その是正措置を講ずることができたにもかかわらず、請求人においてこれを防止せず当該仮装行為が行われ、それに基づき確定申告がされたと認められることからすると、真に請求人の責めに帰することのできない客観的な事情があり、過少申告加算税の趣旨に照らしても、なお、請求人に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になるとは認めることはできないから、請求人の確定申告が過少申告となったことについて、同号に規定する正当な理由があると認められるものがある場合に該当しない。(令6. 7. 3 東裁(所)令6-3)

請求人は、外国人で日本語の理解力が不十分であるため、請求人の親族(本件親族)が持ち掛けた請求人名義の確定申告手続(本件手続)やその内容を理解していなかったこと、請求人名義で所得税等の還付を受けようとするために、本件親族と共謀した第三者が、請求人が法人から業務委託を受けていないにもかかわらず、「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」を作成(本件仮装行為)したことは、請求人の認識と全くかけ離れたものであることから、本件仮装行為を請求人の行為と同視することはできない旨主張する。

しかしながら、請求人は、本件手続が不正なものではないかとの疑念を持ち、当該疑念を払拭しないまま本件手続を進め、請求人名義の確定申告書とその添付書類の内容を確認しなかったことから、請求人は本件親族らに本件手続の一切を包括的に委任したと認められる。また、請求人は、本件仮装行為がされないよう是正措置を講ずることができたにもかかわらず、是正措置を講じることなく、本件仮装行為が行われたものと認められることから、本件仮装行為を請求人の行為と同視することができる。(令6. 7. 3 東裁(所)令6-3)


事案の概要

本件は、原処分庁が、請求人の所得税等の確定申告において、事業所得に係る収入金額・必要経費・源泉徴収税額を架空計上するための「仮装」の行為があったとして、重加算税の賦課決定処分等をしたのに対し、請求人が、当該仮装行為は第三者が行ったものであり、請求人には認識がなかったなどとして、原処分の取消しを求めた事案です。


基礎事実

請求人の就労状況と申告手続の開始

請求人は、令和2年及び令和3年において、ホテルの清掃員としてパートタイム勤務をし、給与の支払を受けていた。請求人は、令和4年3月7日、請求人の娘(本件子)と共に税務署を訪れ、請求人名義のe-Tax利用開始に係る届出書(ID・パスワード方式の利用開始を含む。)を提出した。

e-Taxによる確定申告と支払調書の提出

原処分庁は、令和4年3月11日、請求人名義の令和2年分及び令和3年分の所得税等の各確定申告書及び各収支内訳書を、e-Taxにより提出を受けた。また、原処分庁は、令和4年3月16日、請求人を「支払を受ける者」とする「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」を郵送で受領した。

架空支払調書(仮装行為)の性質

請求人の当該各年分の収入は上記給与収入のみであり、支払調書に「支払者」として記載された法人から請求人に対する業務委託の事実はなく、報酬の支払や源泉徴収の事実も認められないことから、当該支払調書は架空のものと認められる。そして、確定申告書に記載された事業所得の金額及び還付金相当額は、当該架空支払調書を基としており、何ら根拠のないものであった(当該架空支払調書の作成行為を「本件仮装行為」という。)。

更正処分等と審査請求

原処分庁は、令和5年5月31日付で、本件各年分の更正処分及び重加算税の賦課決定処分(本件各賦課決定処分)を行った。請求人は、これに不服があるとして、令和5年8月30日に審査請求をした。

なお、本件仮装行為が「仮装」に当たること自体は争いがなく、専ら第三者の行った本件仮装行為を請求人の行為と同視できるか否かが争われた。


争点

争点番号争点の内容
争点1本件仮装行為を請求人の行為と同視することができるか否か(重加算税の可否)
争点2請求人の確定申告が過少申告となったことについて、国税通則法第65条第4項第1号の「正当な理由があると認められる場合」に該当するか否か

争点についての請求人の主張(要旨)

請求人は、外国人で日本語の理解力が不十分であり、本件親族らに欺かれて手続や内容を理解していなかったこと、本件仮装行為は請求人の認識と全くかけ離れたものであることなどから、本件仮装行為を請求人の行為と同視できない旨を主張した。

また、過少申告となったことについては、請求人の確定申告手続等の理解不足や欺罔に起因するものであるから、過少申告加算税について正当な理由がある旨を主張した。


審判所の判断

争点1:本件仮装行為を請求人の行為と同視できるか

法令解釈

重加算税は、過少申告に当たり隠蔽又は仮装という不正手段が用いられた場合に、より重い制裁を課す制度であるところ、納税者が第三者に申告を委任した場合であっても、それが納税者本人の行為と同視できるときは、重加算税を賦課し得ると解するのが相当である。

「通則法第68条第1項は、「納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し」と規定し、隠蔽、仮装行為の主体を納税者としているものの、納税者が第三者にその納税申告を委任し、その受任者が隠蔽、仮装行為を行った場合であっても、上記の重加算税制度の趣旨及び目的からすれば、それが納税者本人の行為と同視することができるときには、重加算税を賦課することができるというべきである。すなわち、申告納税制度の下においては、納税者は、納税申告を第三者に委任したからといって、自身の適法に申告する義務を免れるものではなく、適切に受任者を選任し、適法に申告するように受任者を監督して、自己の申告に遺漏がないようにすべきものであって、納税者がこれらを怠って、当該受任者が隠蔽、仮装行為を行うこと若しくは行ったことを認識し、又は認識することができ、その是正の措置を講ずることができたにもかかわらず、納税者においてこれを防止せずに隠蔽、仮装行為が行われ、それに基づいて過少申告がされた場合は、特段の事情がない限り、当該受任者の行為を納税者本人の行為と同視することができ、重加算税を賦課することができると解するのが相当である。」

認定事実

本件子の夫らが、不正な還付金受領を企図して請求人名義の申告を進めたこと、請求人が手続に問題がないか尋ねており疑念を有していたといえること、請求人が在留カードやキャッシュカード情報を提供し、本件子と共に税務署でe-Tax開始の届出を行ったこと、そして、申告書や添付書類の内容確認を一切しないまま任せていたことなどが認められる。

検討

請求人は、第三者に委任したからといって適法申告義務を免れないところ、疑念を有しながら内容確認等により疑念を払拭せず、情報提供や届出提出を行って手続を進め、申告書等の内容確認もしなかった。

手続の説明を求め確認ができるまで情報提供・届出提出を拒むこともでき、手続内容を理解すれば本件仮装行為を認識し是正措置を講ずることもできた。認識・是正が可能であったのに防止せず仮装行為が行われ、それに基づき過少申告がされた以上、特段の事情がない限り、本件仮装行為を請求人の行為と同視できる。


争点2:正当な理由の有無

法令解釈

過少申告加算税の「正当な理由があると認められる場合」とは、真に納税者の責めに帰することのできない客観的事情があり、過少申告加算税の趣旨に照らしても、なお賦課が不当又は酷になる場合をいう、と解する。

検討(結論)

請求人は、本件子らが本件仮装行為を行うことを認識し是正措置を講ずることができたにもかかわらず、これを防止せず仮装行為が行われ、それに基づき過少申告がされたという事実関係の下では、真に請求人の責めに帰することのできない客観的事情があるとは認められず、過少申告加算税の趣旨に照らしても、なお賦課が不当又は酷になるとは認められないから、正当な理由があると認められる場合に該当しない。


審判所の結論(賦課決定処分の適法性)

本件仮装行為は請求人の行為と同視でき、また、正当な理由も認められない以上、重加算税の賦課要件を満たす行為が認められ、重加算税の額も本件各賦課決定処分の額と同額であると認められるから、本件各賦課決定処分はいずれも適法である。


実務上のポイント(外国人の確定申告・重加算税・所得税)

  • 外国人(外国籍)であっても、日本で所得を得ていれば所得税の確定申告義務がある。「日本語がわからない」ことは申告義務を免れる理由にならない。
  • 申告を第三者に任せても、監督義務は納税者本人にある。疑念を感じながら内容を確認しなかった場合、第三者の不正行為が「本人の行為」と同視されるリスクがある。
  • 外国人が税務署の手続(e-Tax等)を行う際は、在留カード・キャッシュカード情報など個人情報の提供に細心の注意が必要。これらを渡すことで包括的な委任と評価される可能性がある。
  • 重加算税を免れるためには、「正当な理由」(真に納税者の責めに帰することができない客観的事情)が必要だが、「言語の壁」「親族への信頼」は客観的事情とは認められない。
  • 外国人の税金(所得税)に関するトラブルを防ぐには、信頼できる税理士に相談し、申告内容を自ら確認する体制を整えることが不可欠。

Q. 外国人(外国籍)でも日本で確定申告をしなければなりませんか?
A. はい、日本に居住して所得を得ている外国人は、日本の所得税の申告義務があります。給与所得のみで年末調整が完了している場合は原則不要ですが、複数の所得がある場合や年末調整されていない場合は確定申告が必要です。「日本語がわからない」「在留期間が短い」といった事情は申告義務を免除する理由にはなりません。
Q. 外国人が確定申告を親族や第三者に任せた場合、不正があったら自分も罰せられますか?
A. 任せた内容を確認せず防止できたのに防止しなかった場合は、本人の行為と同視されリスクがあります。本裁決のように、疑念を持ちながらも申告書の内容確認を怠り第三者に包括的に委任した場合、重加算税が課されることがあります。「任せていたから知らなかった」は免責理由になりません。
Q. 外国人の税金(所得税)で「正当な理由」として認められるのはどんな場合ですか?
A. 「真に納税者の責めに帰することができない客観的事情」が必要です。例えば、税務署による誤った指導に従った場合などが該当します。「日本語が不自由」「親族に騙された」といった主観的・個人的事情は原則として正当な理由として認められません。本裁決でもこの原則が確認されています。
Q. 外国人が税務署でe-Taxの届出をする際に気をつけることは何ですか?
A. 在留カード・マイナンバー・キャッシュカード・通帳などの情報を安易に他人に渡さないことが重要です。本裁決では、これらの情報提供がe-Tax申告の「包括的な委任」と評価されました。税務署への届出は、可能な限り本人が内容を理解した上で行うことが必要です。信頼できる外国人対応の税理士に相談することをお勧めします。
Q. 外国人の所得税の申告に詳しい税理士を探すにはどうすればよいですか?
A. 外国人・国際税務に対応した税理士事務所に相談することをお勧めします。日本の申告書は日本語で作成されるため、申告内容を正確に理解した上で署名・申告することが不可欠です。税務調査や重加算税の問題が生じる前に、所得税の申告手続や帰属・居住性の判断について専門家に確認することが重要です。

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