記事の紹介

リモートワークや海外企業との勤務が当たり前になった現代において、「時差」や「勤務形態の特殊性」は税務上どこまで考慮されるのでしょうか。

本記事では、PCの時刻を米国時間に設定していたことが原因で、確定申告が1日遅れたという納税者の主張に対し、国税不服審判所が「正当な理由には当たらない」と判断した裁決(令和6年3月25日・東裁(所)令5-85)を、実務家・一般納税者の双方に向けてわかりやすく解説します。

「たった1日遅れただけ」「海外企業で働いている」「多忙だった」――
これらは本当に“仕方がない事情”として認められるのでしょうか。

本裁決は、無申告加算税における「正当な理由」の判断基準が、いかに厳格であるかを改めて示した重要なものです。
特に、海外勤務・リモートワーカー・フリーランス・副業者にとっては、極めて実践的な示唆を含んでいます。

裁決の要旨

国税不服審判所ホームページの裁決要旨

請求人は、所得税等の確定申告書を法定申告期限内に提出することができなかったのは、

①日本国内に居住しながらも、アメリカ合衆国(米国)に本社を置く雇用者の下で働いており、自身のパソコンの時間表示を米国西海岸の現地時刻と同一になるように設定していたこと、

②法定申告期限前の時期において、通常とは異なり深夜まで働く必要があったこと

及び

③米国に所在する不動産に係る収入について申告作業の煩雑さが増していたこと、といった特殊な状況によるものであり、

このことは国税通則法(令和4年法律第4号による改正前のもの)第66条《無申告加算税》第1項ただし書に規定する「正当な理由があると認められる場合」に該当する旨主張する。

しかしながら、請求人が上記各事情により確定申告書を法定申告期限内に提出することができなかったのは、請求人の単なる主観的な事情に基づくものであって、真に請求人の責めに帰することのできない客観的な事情があるとはいえず、無申告加算税の趣旨に照らしても、なお、請求人に無申告加算税を課することが不当又は酷になるとはいえないから、「正当な理由があると認められる場合」に該当しない。(令6. 3.25 東裁(所)令5-85)

事案の概要:申告期限を1日過ぎた「時差」の言い分

本件は、日本に居住しながら米国本社に勤める納税者(請求人)が、令和4年分の所得税等の確定申告書を法定申告期限(3月15日)の翌日である3月16日に提出したことに端を発します

原処分庁が無申告加算税を課したのに対し、請求人は「申告が遅れたことには正当な理由がある」として、処分の取消しを求めて審査請求を行いました

請求人が主張した「特殊な事情」

請求人は、以下の3つの特殊な状況が重なったことで、期限を意識していたものの提出が間に合わなかったと主張しました

  • PCの時差設定: 米国に本社を置く雇用者の下で働いており、時差を正確に把握するため、パソコンの時間表示を「米国西海岸時刻」に設定していたため、日本時間とのズレが生じた 。
  • 激務による深夜勤務: 申告期限直前に深夜まで働く必要があり、時間の感覚が麻痺していた 。
  • 申告作業の煩雑さ: 米国所在の不動産所得に関する確認作業が複雑で、作業時間が想定を超えた 。

国税不服審判所の判断:厳格な「客観性」の要求

国税不服審判所令和6年3月25日裁決は、無申告加算税の免除要件である「正当な理由」について、以下のような判断基準を示しました 。

「通則法第66条に規定する無申告加算税は、納税者に期限後申告書を提出したという事実があれば、・原則として、その納税者に課されるものであり、これによって当初から適法に申告し納税した納税者との間の客観的な不公平の実質的な是正を図るとともに、無申告による納税義務の違反の発生を防止し、適正な申告納税の実現を図り、もって納税の実を挙げようとする行政上の措匿である。
このような無申告加算税の趣旨に照らせば、通則法第66条第1項ただし書に規定する「正当な理由があると認められる場合」とは、期限内申告書が提出されなかったことについて、例えば、災害、交通や通信の途絶等、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、上記のような無申告加算税の趣旨に照らしても、なお、納税者に無申告加算税を課することが不当又は酷になる場合をいうものと解するのが相当である。」

今回のケースに対する審判所の当てはめは、非常に厳しいものでした

  1. 単なる主観的事情: PCの設定や多忙、時差の計算ミスなどは、納税者自身の主観的な事情にすぎない 。
  2. 不当・過酷とはいえない: 行政上の措置としての加算税の趣旨(適正な申告の実現)に照らし、課税することが不当、あるいは酷な状況とは認められない 。

結果として、審査請求は棄却され、無申告加算税の適法性が支持されました

まとめ:リモートワーカーが学ぶべき教訓

今回の裁決は、働き方の多様化が進む現代において非常に重要な示唆を含んでいます 。

  • 「忙しい」「計算ミス」は通用しない: どれほど特殊な勤務形態であっても、日本の税法上の申告期限は厳守が原則です。
  • 時差管理の徹底: 海外拠点と連携して働く方は、申告時期だけは日本時間の時計を手元に置くなど、物理的な対策が必要です。

たった1日の遅れであっても、無申告加算税という重いペナルティが課されるリスクを再認識し、余裕を持った申告スケジュールを立てることが肝要です。

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