記事の紹介

障害福祉サービスの現場では、利用者が生産活動に従事し、その対価として「工賃」が支払われるケースが少なくありません。
では、この工賃は、消費税法上「課税仕入れに係る支払対価」として、仕入税額控除の対象になるのでしょうか。

この点について、国税不服審判所は令和6年5月27日、工賃は障害福祉サービスの一環として支払われるものであり、利用者による役務提供の反対給付(対価)には当たらないとして、仕入税額控除を否認する判断を示しました。

審判所ホームページ掲載の裁決要旨

請求人は、請求人が提供する生活介護、就労移行支援及び就労継続支援B型(障害福祉サービス)を利用して生産活動に従事した障害者に対して支払った工賃(本件工賃)について、利用者は請求人との間で締結する障害福祉サービスの利用契約の定めに従って本件工賃の支給を受けることから、本件工賃は生産活動に従事する利用者による役務提供の反対給付に当たるなどとして、消費税法第30条《仕入れに係る消費税額の控除》第1項に規定する課税仕入れに係る支払対価の額に該当する旨主張する。

しかしながら、障害福祉サービスの利用者は、生産活動の機会の提供を含む一連の障害福祉サービスに対して利用料を支払うこととされ、生産活動に当たって雇用契約等は締結せず、工賃は生産活動に係る事業の収入から事業に必要な経費を控除した額に相当する額とされていたことに加え、障害福祉サービスが利用者が自立した日常生活又は社会生活を営むことを目的とするものであることを併せ考えると、本件工賃の支払は、生産活動の機会の提供と併せて、当該福祉目的を実現するために、請求人が障害福祉サービスの一環として行ったものと認めるのが相当であるから、本件工賃は、障害福祉サービスの利用者が役務の提供を行ったことに対する反対給付(対価)であるとは認められない。したがって、本件工賃は、消費税法第30条第1項に規定する課税仕入れに係る支払対価の額に該当しない。(令6. 5.27 名裁(諸)令5-30)


事案の概要

社会福祉法人である審査請求は、障害福祉サービスを利用して生産活動に従事した障害者に支払った工賃について、消費税法第30条第1項に規定する「課税仕入れに係る支払対価の額」に該当するとして仕入税額控除を行ったところ、
原処分庁が、当該工賃は課税仕入れに係る支払対価の額に該当しないとして、消費税及び地方消費税の更正処分並びに過少申告加算税の賦課決定処分を行ったことから、その取消しを求めて審査請求がされた事案です。

国税不服審判所は、本件工賃は課税仕入れに係る支払対価の額に該当しないとして、審査請求をいずれも棄却しました。


基礎事実

請求人の事業内容等

  • 請求人は、障害者総合支援法第29条に基づき、都道府県知事の指定を受けた社会福祉法人である。
  • 平成29年4月1日から令和4年3月31日までの間、???を含む14の事業所において、
    • 指定生活介護
    • 指定就労移行支援
    • 指定就労継続支援B型
      の各事業を行っていた(以下「本件各福祉サービス事業」)。

運営規程・利用契約の内容

  • 各事業所において、運営規程を定め、
    • 利用者の自立した日常生活・社会生活の支援
    • 生産活動の機会の提供
      を目的としていた。
  • 利用者との間で利用契約を締結し、
    • 生産活動の機会の提供を含む障害福祉サービスを提供
    • 利用者は利用者負担額を支払う
      こととされていた。
  • 提供するサービスの内容

本件生活介護

個別支援計画の作成、食事の提供、排せつ  食事等の介護、創作的活動及び生産活動の機会の提供、その他身体機能及び日常生活能力の向上のために必要な支援等

本件就労移行支援

個別支援計画の作成、食事の提供、就労に必要な知識及び能力の向上のために必要な訓練、生産活動の機会の提供、職場実習  求職活動等の支援等

本件就労継続支援B型

個別支援計画の作成、食事の提供、生産活動の機会の提供、就労に必要な知識及び能力の向上のために必要な訓練、求職活動等の支援等

利用者負担額等の受領

本件各事業所は、生産活動に従事する本件各福祉サービスの利用者に、生産活動に係る事業の収入から生産活動に係る事業に必要な経費を控除した額に相当する金額を工賃として支払う。

利用契約締結時の説明


請求人は、本件各事業所において、請求人及び本件各事業所の概要、設備並びに従業員の配置状況等のほか、本件各福祉サービスの種類、内容及び利用料金等、本件各運営規程の内容を踏まえた重要事項説明書を作成し、本件各利用契約の締結に際し、当該重要事項説明書に基づき、社会福祉法第76条《利用契約の申込み時の説明》に規定する説明を行っていた。

争点

本件各福祉サービスの利用者のうち、生産活動に従事した者に対して支払われた工賃は、消費税法第30条第1項に規定する「課税仕入れに係る支払対価の額」に該当するか否か。


争点についての請求人の主張

請求人の主張

  • 障害者総合支援法には、障害福祉サービスとして現物給付のみが定められており、障害福祉サービスとして現金を支給する旨の規定はない。
  • 利用者は生産活動に従事し、その結果として工賃を受け取っている以上、工賃は役務提供の対価である
  • 社会福祉法人会計基準では工賃は製造原価に計上されており、また所得税法上も雑所得として扱われている。
  • 指定就労継続支援A型との均衡からみても、工賃を対価性のないものとするのは不合理である。

審判所の判断

法令解釈

消費税法第30条にいう課税仕入れに係る支払対価の額とは、
資産の譲受け又は役務の提供の反対給付として支払われる金銭等をいう。
したがって、反対給付性を欠く支払は、課税仕入れに係る支払対価の額に該当しない

「1) 法令解釈
消費税法第30条第6項が、課税仕入れに係る支払対価の額について、対価として支払い、又は支払うべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益の額である旨規定しており、同法第2条第1項第12号が、課税仕入れについて、事業者が、事業とじて他の者から資産を譲り受け、若しくは借り受け、又は役務の提供を受けることをいう旨規定していることからすれば、金銭等の支払が課税仕入れに係る支払対価の額に該当するといえるためには、資産の譲り受け、若しくは借り受け、又は役務の提供の反対給付として支払うことが必要であり、その反対給付としての性質を有さない場合には、課税仕入れに係る支払対価の額に該当しないと解される。」

本件工賃の性質(サービス類型別の判断)

  • 生活介護
  • 就労移行支援
  • 就労継続支援B型

いずれについても、

  • 生産活動は障害福祉サービスの内容の一部であり、
  • 工賃の支払は、福祉目的を実現するために行われるサービス提供の一環である。

そのため、
利用者が役務を提供したことに対する反対給付(対価)とは認められない

(3)  検討
イ 本件生活介護の利用者に対する工賃について

上記1の(3)の口ないし二のとおり、請求人は、本件各事業所において、利用者に対する適切なサービスを提供することを目的とじて本件各運営規程を定めるとともに、利用者との間で本件各利用契約を締結して、本件各利用契約に基づき、生産活動の機会の提供を含む障害福祉サービスを利用者に提供し、本件各利用契約上、利用者は、生産活動の機会の提供を含む一連の障害福祉サービスに対して利用料を支払うこととされていた。
また、上記1の(2)のイ及び同(3)のイのとおり、本件生活介護の利用者は、常時介護が必要な障害者であって、上記(2)の口のとおり、生産活動に当たって雇用契約等の契約は締結されず、したがって、雇用契約等の締結に伴う労働時間等の縛りはなく、むしろ、別紙の4の(2)のとおり、指定生活介護り事業を行う者である請求人には、法令上、生産活動に従事する利用者の作業時間や作業量に対する配慮義務が課されていた。
さらに、上記1の(3)の口及びハのとおり、本件各運営規程及び本件各利用契約上、生産活動に従事した者に支払われるエ賃は、飽くまで生産活動に係る事業の収入から事業に必要な経費を控除した額に相当する額とされていた。
これらの事実関係に加え、上記1の(2)のイ及び同(3)の口の(1ヽ)のAのとおり、本件生活介護が、入浴、排せつ又は食事の介護、創作的活動又は生産活動の機会の提供を通じて、身体機能及び日常生活能力を向上させ、ひいては利用者が自立した日常生活又は社会生活を営むことを目的に行われる障害福祉サービスであることを併せて考えると、本件生活介護における生産活動の従事者へのエ賃の支払は、生産活動の機会の提供と併せて、上記の福祉目的を実現するために、請求人が本件生活介護という障害福祉サービスの一環として行ったものと認めるのが相当であるから、本件生活介護の利用者に対するエ賃は、当該利用者が役務の提供を行ったことに対する反対給付(対価)であるとは認められない
なお、上記(2)のイのとおり、本件各事業所において、本件生活介護の利用者に対するエ賃について、作業能力等に応じた等級に基づく日給や時間給などを基本に支給額が決定されていた事実は認められるものの、限られたエ賃の支給財源の中で、利用者の生産活動への従事意欲を高め、本件生活介護における上記の福祉目的の実現を促進することを意図して、生産活動に係る事業の利益の分配方法として日給や時間給などの方法が採られていたものと考えられることからすると、これらの事実を考慮してもなお、本件生活介護の利用者に対するエ賃の支払は、本件生活介護という障害福祉サービスの一環として行われたものと認められ、利用者が役務の提供を行ったことへの反対給付(対価)として支払われたものであるとはいえない。したがって、上記事実は、上記結論を左右するものではない。

ロ 本件就労移行支援の利用者に対するエ賃について
上記イと同様に、本件就労移行支援に関しても、上記1の(3)の口ないし二のとおり、請求人は、こおいて、利用者に対する適切な
サービスを提供することを目的として本件各運営規程を定めるとともに、利用者との間で本件各利用契約を締結して、本件各利用契約に基づき、生産活動の機会の提供を含む障害福祉サービスを利用者に提供し、本件各利用契約上、利用者は、生産活動の機会の提供を含む一連の障害福祉サービスに対して利用料を支払うこととされていた。
また、上記1の(2)の口、同(3)のイ及び別紙の3の(2)のとおり、本件就労移行支援の利用者は、企業等での就労を希望する65歳未満の障害者又は65歳以上の一定の障害者であって、通常の事業所に雇用されることが可能と見込まれる者である。しかし、別紙の3の(1)及び(2)のとおり、本件就労移行支援が、その利用者を通常の事業所での就労に移行させることを前提に、限られtこ期間に訓練や求職活動等の支援を行うものであって、上記(2)の口のとおり、生産活動に当たって雇用契約等の契約は締結されず、したがって、雇用契約等の締結に伴う労働時間等の縛りはなく、むしろ、別紙の4の(2)及び(4)のとおり、指定就労移行支援の事業を行う者である請求人には、法令上、生産活動に従事ずる利用者の作業時間や作業量に対する配慮義務が課されていた。
さらに、上記イと同様に、上記1の(3)の口及びハのとおり、本件各運営規程及び本件各利用契約上、本件就労移行支援においても、生産活動に従事した者に支払われるエ賃は、飽くまで生産活動に係る事業の収入から事業に必要な経費を控除した額に相当する額とされていた。
これらの事実関係に加え、上記1の(2)の口、同(3)の口の(ハ)のB及び別紙の3の(2)のとおり、本件就労移行支援が、生産活動の機会の提供を通じて、就労に必要な知識や能力を向上させて就労につなげ、ひいては利用者が自立した日常生活又は社会生活を営むことを目的に行われる障害福祉サービスであることを併せて考えると、本件就労移行支援における生産活動の従事者へのエ賃の支払は、生産活動の機会の提供と併せて、上記の福祉目的を実現するために、請求人が本件就労移行支援という障害福祉サービスの一環として行ったものと認めるのが相当であるから、本件就労移行支援の利用者に対するエ賃は、当該利用者が役務の提供を行ったことに対する反対給付(対価)であるとは認められない。
なお、上記(2)のイのとおり、???において、本件就労移行支援の利用者に対するエ賃について、作業能力等に応じた等級に基づく日給を基本に支給額が決定されていた事実は認められるものの、これが上記結論を左右するものでないことは上記イのとおりである。


ハ 本件就労継続支援B型の利用者に対するエ賃について
上記イと同様に、本件就労継続支援B型に関しても、上記1の(3)の口ないし二のとおり、請求人は、本件各事業所において、利用者に対する適切なサービスを提供することを目的として本件各運営規程を定めるとともに、利用者との間で本件各利用契約を締結して、本件各利用契約に基づき、生産活動の機会の提供を含む障害福祉サービスを利用者に提供し、本件各利用契約上、利用者は、生産活動の機会の提供を含む一連の障害福祉サービスに対して利用料を支払うこととされていた。
また、上記1の(2)のハ、同( 3)のイ及び別紙の3の(3)の口のとおり、本件就労継続支援B型の利用者は、通常の事業所に雇用されることが困難であって、雇用契約に基づく就労が困難である障害者であり、上記(2)の口のとおり、生産活動に当たって雇用契約等の契約は締結されず、したがって、雇用契約等の締結に伴う労働時間等の縛りはなく、むしろ、別紙の4の(2)及び(8)のとおり、指定就労継続支援B型の事業を行う者である請求人には、法令上、生産活動に従事する利用者の作業時間や作業量に対する配慮義務が課されていた。


さらに、上記イと同様に、上記1 の(3) の口及びハのとおり、本件各営規程及び本件各利用契約上、本件就労継続支援B型においても、生産活動に従事した者に支払われるエ賃は、飽くまで生産活動に係る事業の収入から事業に必要な経費を控除した額に相当する額とされていた。
これらの事実関係に加え、上記1の(2)のハ、同(3)の口の(ハ)のC及び別紙の3の(3)の口のとおり、本件就労継続支援B型が、就労の機会を提供するとともに、生産活動やその他の活動の機会の提供を通じて、就労に必要な知識や能力を向上させ、ひいては利用者が自立した日常生活又は社会生活を営むことを目的に行われる障害福祉サービスであることを併せて考えると、本件就労継続支援B型における生産活動の従事者へのエ賃の支払は、生産活動の機会の提供と併せて、上記の福祉目的を実現するために、請求人が本件就労継続支援B型という障害福祉サービスの一環として行ったものと認めるのが相当であるから、本件就労継続支援B型の利用者に対するエ賃は、当該利用者が役務の提供を行ったことに対する反対給付(対価)であるとは認められない。
なお、上記(2)のイのとおり、本件各事業所において、本件就労継続支援B型の利用者に対するエ賃について、作業能力等に応じた等級に基づく日給や時間給などを基本に支給額が決定されていた事実は認められるものの、これが上記結論を左右するものでないことは上記イのとおりである。—

小括
したがって、本件工貨は、消費税法第30条第1項に規定する課税仕入れに係る支払対価の額に該当しないと認められる。

請求人の各主張に対する判断

  • 会計処理や所得税法上の取扱いは、消費税法上の対価性判断を左右しない
  • 生産活動に基づく資産の譲渡等が課税対象となる場合があることと、
    工賃の支払が福祉サービスの一環か否かは別問題である。
  • 雇用契約に基づく賃金(A型)と、利用契約に基づく工賃(B型等)は、
    制度上明確に区別されており、別異に取り扱うことは合理的である。

「請求人は、上記3の「請求人」欄の(2)のイのとおり、障害者総合支援法には、障害福祉サービスとして現物給付のみが定められており、障害福祉サービスとして現金を支給する旨の規定はないことから、本件工賃は障害福祉サービスの一環として支払ゎれるものではない旨主張する。


しかしながら、障害者総合支援法第5条第7項、第13項及び第14項によれば、生活介護、就労移行支援及び就労継続支援のいずれについても、生産活動の機会の提供がその内容となっており、同法を受けて定められた総合支援法事業基準の第85条、第184条及び第201条が、指定生活介護、指定就労移行支援及び指定就労継続支援B型の事業を行う者は、生産活動に従事している者にエ賃を支払わなければならない旨規定していることからすれば、本件工賃の支払は、障害者総合支援法に根拠を有するものであり、請求人の主張には理由がない。」

「請求人は、上記3の「請求人」欄の(2)の口のとおり、社会福祉法人会計基準において、本件エ賃は製造原価に計上することとされていることから、本件工賃は生産活動に従事する利用者による役務提供の対価である旨主張する。
この点、別紙の5の(3)のとおり、社会福祉法人会計基準を受けて厚生労働省雇用均等・児童家庭局長等が発出した本件取扱いの別紙の26項には、社会福祉法人会計基準第30条に規定する附属明細書には就労支援事業製造原価明細書が含まれ、製造業務に携わる利用者.のエ賃は同明細書に計上される旨記載されているものの、本件取扱いは、社会福祉法人における計算書類及びその附属明細書等の作成に係る会計処理等の運用に関する取扱いを定めたにとどまり、会計上の勘定科目によってそ
の支出の性質が決まるものではない
から、請求人の主張には理由がない。」

結論

本件工賃は、消費税法第30条第1項に規定する課税仕入れに係る支払対価の額に該当しない。

  • 本件各更正処分
  • 本件各過少申告加算税の賦課決定処分

はいずれも適法であり、審査請求は理由がないから棄却する

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