記事の紹介

本裁決は、法人が役員に対し、多額の金銭を無利息・無期限・無担保で貸し付けた行為について、その利息相当額が役員への「経済的利益(給与所得)」にあたるとして、源泉所得税の納税告知を受けた事案です。

請求人(法人)は、「マイナス金利政策下であり、無利息でも経済的負担の移転はない」あるいは「告知書に通達の参照可否が記されておらず理由提示が不備である」と主張しました。しかし、審判所はこれらを退けました。

判断のポイントは、役員への無利息貸付けは「特別の理由」がない限り、通常収受すべき利息相当額が経済的利益に含まれるという点です。本件では、無利息とする合理的目的が見いだせず、マイナス金利政策という一般論も「特別の理由」にはあたらないと判示されました。また、告知書についても、判断の基礎となる事実と法令が明示されていれば理由提示として十分であるとされました。

役員貸付金がある会社にとって、適正な利息を徴収していない場合のリスクを再認識させる、実務上極めて重要な裁決といえます。

裁決要旨

国税不服審判所ホームページの裁決要旨

請求人は、原処分の告知書において所得税基本通達36-28《課税しない経済的利益……金銭の無利息貸付け等》の(2)の参照の有無及びその可否について何ら触れておらず、その判断理由を示していないことから、行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制すること及び不服申立てに便宜を与えることはできない旨主張する。

しかしながら、原処分の告知書の記載内容からは根拠法令等を容易に了知し得るのであるから、無利息貸付けに係る納税告知処分について、合理的と認められる貸付利率により利息を徴している場合に関する所得税基本通達36-28の(2)の参照の有無及びその可否が示されていないことにより理由の提示に不備があることとなるものではなく、請求人の主張には理由がない。(令6. 6.11 東裁(諸)令5-122)

請求人は、請求人の役員(本件役員)に対し無利息で金銭を貸し付けたこと(本件無利息貸付け)について、本件無利息貸付けをしたことで、貸主である請求人の経済的負担によって、請求人から本件役員に対して経済的利益が移転しているとまではいえないとして、経済的利益の供与には当たらない旨主張する。

しかしながら、使用者が役員や使用人に対して無利息貸付けをした場合には、特別の理由がない限り、通常収受すべき利息の額が当該経済的利益に含まれると解されるところ、本件無利息貸付けにおいて、請求人が本件役員から利息の支払を受けないことについての合理的な目的等を見いだすことはできず、請求人には通常収受すべき利息相当額の経済的利益の供与がなかったというべき特別な理由が存するとは認められない。そうすると、請求人は、本件無利息貸付けにより、本件役員に対し所得税法第36条《収入金額》第1項に規定する「金銭以外の物又は権利その他経済的な利益」を供与したというべきである。(令6. 6.11 東裁(諸)令5-122)

事案の概要

法人である請求人が、請求人の役員に対して金銭を無利息で貸し付けたところ、原処分庁が、その利息相当額の経済的利益は請求人から当該役員に対する給与所得に該当するとして、源泉徴収に係る所得税等の納税告知処分等を行った。これに対し、請求人が、請求人は当該役員に対して経済的利益を供与していないなどとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

関係法令

イ 行政手続法第14条《不利益処分の理由の提示》第1項本文は、行政庁は、不利益処分をする場合には、その名宛人に対し、同時に、当該不利益処分の理由を示さなければならない旨規定し、同条第3項は、不利益処分を書面でするときは、同条第1項の理由は、書面により示さなければならない旨規定している。
ロ 所得税法第28条《給与所得》第1項は、給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与(以下「給与等」という。)に係る所得をいう旨規定している。
ハ 所得税法第36条《収入金額》第1項は、その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額は、・別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもって収入する場合には、その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額)とする旨規定している。
二 所得税基本通達(令和2年12月18日付課法ll-7ほかによる改正前のもの。以下「基本通達」という。) 36-15《経済的利益》柱書及び(3)は、所得税法第36条第1項括弧書に規定する「金銭以外の物又は権利その他経済的な利益」には、金銭の貸付け又は提供を無利息又は通常の利率よりも低い利率で受けた場合における通常の利率により計算した利息の額又はその通常の利率により計算した利息の額と実際に支払う利息の額との差額に相当する利益が含まれる旨定めている。
ホ 基本通達36-28 《課税しない経済的利益・・・金銭の無利息貸付け等》柱書及び(2)は、使用者が役員又は使用人に対し金銭を無利息又は基本通達36-49 《利息相当額の評価》により評価した利息相当額に満たない利息で貸し付けたことにより、その貸付けを受けた役員又は使用人が受ける経済的利益で、役員又は使用人に貸し付けた金額につき、使用者における借入金の平均調達金利など合理的と認められる貸付利率を定め、これにより利息を徴している場合に生じる経済的利益については、課税しなくて差し支えない旨定めている。
ヘ 基本通達36-49 は、使用者が役員又は使用人に貸し付けた金銭の利息相当額については、当該金銭が使用者において他から借り入れて貸し付けたものであることが明らかな場合には、その借入金の利率により、その他の場合には、貸付けを行った日の属する年の租税特別措置法(令和2年法律第8号による改正前のも
の。)第93条《利子税の割合の特例》第2項に規定する特例基準割合(以下「利子税特例基準割合」という。)による利率により評価する旨定めている。


基礎事実

請求人と本件役員

請求人は、平成3年3月7日に設立された生命保険の募集に関する業務等を目的とする法人であり、平成14年4月1日以降、請求人の取締役である者がいる。

借入極度基本契約と貸付け

請求人は、平成27年8月25日、本件役員との間で、貸主を請求人、借主を本件役員とする借入極度基本契約(本件基本契約)を、要旨次のとおり締結した。
借入極度額は30億円とする。契約期限は平成28年8月25日とし、契約期間の満了1か月前までに双方より意思表示がないときは1年間自動更新する。利息は元金に対して年1%とし、本件役員は毎年3月末日までに請求人に支払う。

請求人は、平成27年8月26日、一定の株式の払込資金として、本件役員に対して金銭を貸し付けた。

利息年零%への変更と本件無利息貸付け

請求人は、平成28年6月30日、本件役員との間で変更契約を締結し、利息を元金に対して年零%に変更した(以下、当該契約に係る契約書を「本件変更契約書」といい、当該契約後の上記の本件役員への貸付けを「本件無利息貸付け」という。)。


本件無利息貸付けは、無利息とするほか、返済期限及び担保の設定がないものであったが、請求人が本件役員に対して無利息で金銭を貸し付けるべき何らかの責任を負っていたとする事情はうかがわれない。
本件無利息貸付けに係る金銭が、請求人において他から借り入れて貸し付けたものであるかどうかは明らかではない。

原処分等

原処分庁は、請求人が本件役員に供与した本件無利息貸付けに係る利息相当額の経済的利益は本件役員に対する給与等に該当するとして、貸付けを行った日の属する年の利子税特例基準割合による利率によって利息相当額を算定し、源泉徴収に係る所得税及び復興特別所得税の各納税告知処分並びに不納付加算税の各賦課決定処分をした。
請求人は、これらを不服として再調査の請求をしたが棄却され、再調査決定を経た後の各処分に不服があるとして審査請求をした。


争点

争点1:本件各告知処分の理由の提示に不備があるか否か

争点2:請求人は、本件無利息貸付けにより「金銭以外の物又は権利その他経済的な利益」を供与したか否か


争点についての主張

理由の提示

本件告知書において、所得税基本通達36-28の(2)の参照の有無及びその可否について触れておらず、その判断理由が示されていないことから、行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制すること及び不服申立てに便宜を与えることはできない。

経済的利益の供与

本件無利息貸付けをしたことで、貸主である請求人の経済的負担によって、請求人から本件役員に対して経済的利益が移転しているとまではいえず、経済的利益の供与には当たらない。


審判所の判断

争点1:本件各告知処分の理由の提示に不備があるか否か

法令解釈

行政手続法第14条第1項本文が、不利益処分をする場合に同時にその理由を名宛人に示さなければならないとしているのは、名宛人に直接に義務を課し又はその権利を制限するという不利益処分の性質に鑑み、行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を名宛人に知らせて不服の申立てに便宜を与える趣旨に出たものと解される。
当該処分の理由が上記の趣旨を充足する程度に具体的に明示するものであれば、同項本文の要求する理由の提示として不備はないものと解するのが相当である。

当てはめ

本件告知書には、本件各告知処分の理由として、要旨、請求人が本件無利息貸付けによって本件役員に対して利息相当額の経済的利益の供与をしたこと、当該経済的利益は給与所得に該当し利息相当額は利子税特例基準割合により算定したこと、請求人は利息相当額について源泉徴収する必要があるが源泉徴収していないことが記載されている。
これらの記載内容からすれば、判断結果並びにその基礎とされた事実関係及び根拠法令を容易に了知し得る。
したがって、本件各告知処分の理由の提示に不備は認められない。
また、告知書の記載内容から根拠法令等を容易に了知し得るのであるから、合理的と認められる貸付利率により利息を徴している場合に関する基本通達36-28の(2)の参照の有無及びその可否が示されていないことにより理由の提示に不備があることとなるものではない。


争点2:本件無利息貸付けにより経済的利益を供与したか否か

法令解釈

所得税法第36条第1項は、収入金額とすべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもって収入する場合には、その価額)とする旨規定している。
同法第28条に規定する給与等には、その支払を受ける者が得る経済的利益が含まれる。
使用者が役員や使用人に対して無利息又は低利率貸付けをした場合には、特別の理由がない限り、通常収受すべき利息の額又は利息相当額と実際に収受した利息の額との差額が当該経済的利益に含まれると解される。
所得税基本通達36-15の定めは上記解釈に沿うものであり、相当と認められる。

検討

本件無利息貸付けは、請求人が本件役員に対して多額の金銭を無利息、無期限、無担保で貸し付けたものであり、本件役員が一定の購入資金を調達するためにしたものであると認められる。
本件役員は取締役であったものの、請求人が取締役である本件役員に対して無利息で金銭を貸し付けるべき何らかの責任を負っていたとはうかがわれない。
調査及び審理によっても、請求人が本件役員から利息の支払を受けないことについての合理的な目的等を見いだすことはできず、請求人には通常収受すべき利息相当額の経済的利益の供与がなかったというべき特別の理由が存するとは認められない。
そうすると、請求人は、本件各期間において、本件役員に対し本件無利息貸付けにより経済的利益を供与したものと認められる。

請求人の主張に対する判断

本件無利息貸付けが多額に及んでいることからすれば、本件役員に貸倒れリスクがないとはいえず、資金調達の実績等によって左右されるものでもない。
マイナス金利政策の存在は一般論として金利が常にプラスではない旨をいうにとどまり、特別の理由を基礎付けるものではない。
無担保・返済期限の定めがないことについて指摘する点を踏まえても、特別の理由があるとはいえない。
また、本件無利息貸付けは、借入金の平均調達金利など合理的と認められる貸付利率が定められたものではないから、基本通達36-28の(2)の定める場合には該当しない。背景事情をもって合理的と認められる貸付利率が零%であるとはいえない。


納税告知処分等及び賦課決定処分の適法性

理由の提示に不備はなく、本件各期間において経済的利益を供与したものと認められるから、利息相当額は給与等に該当し、請求人には所得税等の源泉徴収義務がある。
利息相当額の評価について、他から借り入れて貸し付けたものであることが明らかでない場合に、客観性を有する基準により画一的に評価する基本通達36-49の定めは、納税者の予測可能性の向上、納税者間の公平、納税者の便宜及び徴税費用の節減の見地から合理的であり、相当と認められる。
本件無利息貸付けについては、他から借り入れて貸し付けたものであることが明らかではないことから、基本通達36-49の定めにより、貸付けを行った日の属する年の利子税特例基準割合による利率により評価することとなる。
当審判所における算出結果は、別表の各金額といずれも同額となる。
源泉所得税等を法定納期限までに納付しなかったことについて、国税通則法第67条第1項ただし書に規定する「正当な理由」があるとは認められず、不納付加算税の額も別表の各金額といずれも同額であると認められる。
したがって、各処分はいずれも適法である。


結論

審査請求は理由がないから、棄却することとし、主文のとおり裁決する。

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