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【裁決解説】土地譲渡の未収金、判決で「更正の請求」は認められるか?

不動産譲渡の代金が回収不能になった際、税金を還付してもらう「更正の請求」はどこまで認められるのでしょうか。国税不服審判所(令和6年7月4日裁決)は、判決の解釈と相続による債権消滅(混同)について厳しい判断を示しました。

1. 「判決」による更正のハードル 請求人は、別件の判決内容を理由に「譲渡の基礎となった事実が異なることが確定した」と主張しました。しかし審判所は、判決の「主文」で課税の基礎事実と異なる法律関係が確定していない限り、更正の請求(通則法23条2項)は認められないと判示しました。

2. 相続による債権消滅と「回収不能」の判定 また、請求人は譲渡代金の未収債権について「買主に支払い能力がなく回収不能である」と主張しました。しかし、相続により買主自身がその債権を承継した場合、民法上の「混同」によって債権は消滅します。 審判所は、これは実質的に「弁済」と同視すべき事由であり、所得税法64条の「回収不能の特例」には該当しないと結論付けました。

実務上の教訓 一度確定した譲渡所得に対し、後発的な事情で更正を求めるには、判決内容の厳密な合致や、相続による権利義務の帰属変化に細心の注意が必要です。

✔ この記事でわかること

  • 「判決による更正の請求」が認められるために必要な「主文」における事実確定の要件とその厳格な解釈
  • 相続による債権消滅(混同)は回収不能の特例(所得税法第64条)に該当しない理由
  • 民法第520条本文(混同による債権消滅)の適用要件と類推適用の可否
  • 土地譲渡所得の申告後に後発的事情が生じた場合の更正の請求の限界と実務対応
  • 所得税法第152条(各種所得に金額の異動を生じた場合の更正の請求の特例)の適用条件

裁決要旨

国税不服審判所ホームページの裁決要旨

請求人は、請求人の母(本件被相続人)がした土地の譲渡に係る所得税について、国税通則法(通則法)第23条《更正の請求》第2項第1号の文言及び制度趣旨に照らせば、請求人が承継した請求人の配偶者(本件配偶者)が提起した売主を本件配偶者、買主を被告会社とする土地建物(本件土地建物)の売買契約に係る本件土地建物の所有権移転登記の抹消手続等を請求する訴訟(本件訴訟)に対してされた判決(本件判決)は、本件被相続人と本件配偶者との土地の売買契約(本件契約)が錯誤無効であることや売買代金回収が困難であること等を判示したものであるから通則法第23条第2項第1号に規定する事実が生じたといえるから、更正の請求が認められる旨主張する。

しかしながら、通則法第23条第2項第1号の文言及び制度趣旨からすれば、「判決により、その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したとき」とは、その申告に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実と異なる事実を前提とする法律関係が判決の主文で確定された場合又はこれと同視できるような場合をいうものと解するのが相当であるところ、本件訴訟の主な争点は、本件契約とは別の契約の有効性等であり、本件契約の有効性やそれに基づく代金回収可能性等については、本件判決の理由中においても何らの判断がされてない。そのため、本件契約について、本件判決により、申告に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実と異なる事実を前提とする法律関係が主文で確定されたとはいえず、又はこれと同視できるような場合でもないから、「判決により、その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したとき」に該当しない。(令6. 7. 4 東裁(所)令6-6)

請求人は、請求人の母(本件被相続人)がした土地の譲渡に係る所得税について、本件被相続人が請求人の配偶者(本件配偶者)に対して有する売主を本件被相続人、買主を本件配偶者とする土地の売買契約に基づく未収金の支払請求権(本件債権)は、

①本件配偶者に支払い能力がなく回収の見込みがないことが明らかであるから、所得税法第64条《資産の譲渡代金が回収不能となった場合等の所得計算の特例》第1項に規定する「その年分の各種所得の金額の計算の基礎となる収入金額又は総収入金額の全部又は一部を回収することができないこととなった場合」に該当し、

②本件被相続人に係る相続(本件相続)が開始したことにより、本件債権は、本件配偶者が単独で相続して、本件債権に係る債権債務が同一人に帰属したが、本件債権は回収不能であって本件配偶者に所得税の負担をさせるべきものではないから、本件債権は、民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)第520条ただし書の類推適用により混同により消滅しないというべきであり、所得税法第64条第1項に規定する事実が生じたことによる同法第152条《各種所得に金額に異動を生じた場合の更正の請求の特例》に基づく更正の請求が認められる旨主張する。

しかしながら、①本件相続により、本件配偶者は本件債権を取得したから、本件債権につき、民法520条本文の「債権及び債務が同一人に帰属したとき」に該当し、②請求人の主張する所得税の負担の有無という事情は、民法第520条ただし書を類推適用すべき事情とは認められず、本件債権は、本件相続の開始以後、民法520条本文の適用により消滅したことが認められ、弁済と同視すべき事由が発生したものであるから、所得税法第64条第1項に規定する「その年分の各種所得の金額の計算の基礎となる収入金額又は総収入金額の全部又は一部を回収することができないこととなった場合」に該当しない。以上から、本件債権について、所得税法第64条第1項に規定する事実が生じたとは認められず、同法第152条に基づく更正の請求は認められない。(令6. 7. 4 東裁(所)令6-6)


争点

争点内容
争点1本件判決は、通則法第23条第2項第1号に規定する「判決により、その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したとき」に該当するか否か
争点2本件債権(未収金)は、相続により混同消滅したか否か、および所得税法第64条第1項に規定する「回収することができないこととなった場合」に該当するか否か

審判所の判断

争点1:「判決による更正の請求」の要件

通則法第23条第2項第1号の「判決により、その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したとき」とは、申告に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実と異なる事実を前提とする法律関係が判決の主文で確定された場合、またはこれと同視できるような場合をいうものと解するのが相当である。

本件訴訟の主な争点は、本件契約とは別の契約の有効性等であり、本件契約の有効性やそれに基づく代金回収可能性等については、本件判決の理由中においても何らの判断がされていない。そのため、本件判決により、升言に係る課税標準等の計算の基礎となった事実と異なる事実を前提とする法律関係が主文で確定されたとはいえず、これと同視できるような場合でもないから、判決による更正の請求の要件を満たさない。

争点2:混同による債権消滅と「回収不能」の該当性

本相続により、本件配偶者は本件債権を取得したから、本件債権につき、民法第520条本文の「債権及び債務が同一人に帰属したとき」に該当する。請求人の主張する所得税の負担の有無という事情は、民法第520条ただし書を類推適用すべき事情とは認められない。

以上から、本件債権は、本相続の開始以後、民法第520条本文の適用により消滅したことが認められ、弁済と同視すべき事由が発生したものであるから、所得税法第64条第1項の「回収することができないこととなった場合」に該当しない。従って、所得税法第152条に基づく更正の請求は認められない。

結論

審査請求は理由がないから、棴下することとし、主文のとおり裁決する。


❖ 実務上のポイント

  1. 判決の「主文」で課税基礎事実の確定が必要:通則法第23条第2項第1号の「判決による更正の請求」は、判決の理由中ではなく「主文」で課税基礎事実と異なる法律関係が確定されたことが必要。単なる判決理由中の言及や他事件での判決は要件を満たさない。
  2. 相続による混同は「弁済準」で回収不能にならない:債務者が相続することで債権と債務が同一人に帰属する場合は民法第520条本文の混同となり、弁済と同視される。所得税法第64条の「回収不能」には該当しない。
  3. 債務者に支払能力がなくても混同は成立する:民法第520条ただし書の利益保護の趣旨から類推適用を求めても、所得税負担の有無という事情はその要件を満たさないと審判所は判断した。
  4. 土地譲渡所得の申告後は更正ハードルが高い:譲渡代金の回収可能性に疑問がある場合、申告前に専門家に相談することが極めて重要。申告後の更正は要件が厳格である。
  5. 不動産売買契約における未収金債権の管理:譲渡代金回収の見通しを細かく確認し、為替弁済・主容変更・相続等の後発的事情が生じた場合の法的影響を事前に把握しておくことが必要である。

Q1. 判決さえあれば常に更正の請求ができるのですか?
できません。通則法第23条第2項第1号の「判決による更正の請求」が認められるには、判決の「主文」において申告に係る課税標準等の計算の基礎となった事実と異なる事実を前提とする法律関係が確定されたことが必要です。判決理由中の言及や関連別件の判決では不十分です。
Q2. 買主に支払能力がなく買代金が回収できない場合、更正の請求はできますか?
単に買主が支払能力を欠いているだけでは不十分です。所得税法第64条の「回収不能の特例」は、実際に債権が存在し回収不能な状態であることが前提です。相続により混同した場合は、そもそも債権が消滅したとみなされるため、回収不能の特例は適用されません。
Q3. 民法第520条ただし書の「第三者の利益を害する場合」とはどんな状況ですか?
例えば、混同前にその債権に差押を得た第三者がいる場合など、混同を否定するための正当な利益を持つ第三者が存在する場合が該当します。本件では所得税負担の有無という事情をただし書の類推適用場面と主張したことが認められませんでした。
Q4. 土地譲渡所得を申告した後、売買契約が無効となった場合は更正できますか?
売買契約の無効が判決の主文で確定した場合は、通則法第23条第2項第1号の要件を満たす可能性があります。ただし、判決の「理由中」の言及だけでは要件を満たさないので、判決主文の文言を常に確認する必要があります。
Q5. 相続発生時に土地譲渡代金の未収債権を承継した場合、相続手続きを進める前に注意することは?
相続により債権と債務が同一人に帰属する場合(混同)、民法上第520条本文により債権は自動的に消滅します。契約や遺言で別段の取決をしていない限り、混同の成立により債権は消滅します。事前に法律上の定めを確認することが重要です。

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