暗号資産の世界では、暗号資産の取得金額を、その収入金額の5%とすることを認める5%ルール又は5%基準が存在します。
国税庁の「暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(FAQ)」は、売却した暗号資産の取得価額を、売却価額の5%相当額とすることを認めています。 例えば、ある暗号資産を500 万円で売却した場合において、その暗号資産の取得価額を売却価額の5%相当額である25 万円とすることが認められるといことです。逆にいえば、売却価額の95%が利益になるということです。
このような取得金額又は取得費を収入金額の5%とすることを認める5%ルールの妥当性や射程範囲を検討する際に有益な裁決(国税不服審判所裁決令和6年4月22日)を紹介します。なお、5%ルールを適用して節税を試みる場合のリスク等については「暗号資産の節税対策は有効?リスクを徹底分析!」を参照してください。
本件は、源泉徴収選択口座である特定口座内で保有していた上場株式等の一部を譲渡した審査請求人が、当該譲渡に係る上場株式等の取得費について、実際の取得価額に基づく金額と概算による取得費との差額に相当する金額を特定口座年間取引報告書に記載された金額に加算して確定申告をしたところ、原処分庁が、当該差額に相当する金額は取得費に加算すべき金額ではないなどとして所得税等の更正処分等をしたのに対し、請求人が、原処分の全部の取消しを求めた事案です。
審判所の判断:
本件譲渡株式は、金融商品取引所に上場し、本件特定口座に保管の委託等がされていた株式であるから、その譲渡は、「特定口座内保管上場株式等の譲渡」(措置法第37条の11の3第1項(別紙の2(2)))に該当する。そして、措置法第37条の11の5第1項(別紙の2(8))の規定からすれば、請求人は、その選択により、源泉徴収選択口座に係る本件譲渡株式の譲渡による譲渡所得の金額を除外せずに確定申告をすることもでき、上記1(4)イの申告は、これに従ったものといえる。
このような請求人の申告における本件譲渡株式の譲渡所得の金額の計算上取得費に算入する金額について、概算取得費を取得費とすることの可否に関しては、特定口座制度創設の経緯及び当該制度に関する法令等の各規定等を踏まえた検討が必要になる。イ 特定口座制度が創設された経緯等
特定口座制度は、株式等の譲渡益課税について、平成15年1月1日以降、源泉分離選択課税制度が廃止され、申告分離課税に一本化されたことに伴い、申告分離課税になじみのなかった個人投資家の申告事務の負担軽減の観点から創設された制度であり、金融商品取引業者等に開設した特定口座を通じて行われる一定の上場株式等の譲渡に係る所得金額の計算・源泉徴収・申告不要等の各特例から構成されている。
ロ 特定口座制度に係る各規定
特定口座は、居住者が金融商品取引業者等との間で上場株式等保管委託契約を締結して開設する口座であり(措置法第37条の11の3第3項第1号(別紙の2(3)))、既に開設された特定口座に新たに受け入れることのできる上場株式等は、原則として、その特定口座において行われた取引により取得した上場株式等に限られるものとされている(同項第2号イ(別紙の2(4)))。その例外の一つとして、上場株式等以外の株式等で、その株式等の上場等の日の前日において居住者が有する当該株式等と同一銘柄の株式等の全てを、その上場等の日に特定口座に受け入れるもの(ただし、当該居住者が当該株式等の取得の日及び取得に要した金額を証する書類その他の書類を提出した場合に限る。)についても、既に開設された特定口座に新たに受け入れることができるとされている(同号ハ及び措置法施行令第25条の10の2第14項第17号(別紙の2(4)及び(10)))。
そして、金融商品取引業者等が特定口座で受け入れた上場株式等である特定口座内保管上場株式等を、居住者が同口座内で譲渡した場合には、その譲渡による譲渡所得の金額は、当該特定口座内保管上場株式等以外の株式等の譲渡による譲渡所得の金額と区分して計算し(措置法第37条の11の3第1項(別紙の2(2))。以下、この計算方法を「区分計算」という。)、居住者が特定口座を複数有する場合には、それぞれの特定口座ごとに計算することとされている(措置法施行令第25条の10の2第1項前段(別紙の2(9)))。その上で、特定口座内保管上場株式等の譲渡による譲渡所得の金額の計算上取得費に算入する金額の計算に当たっては、2回以上にわたって取得した同一銘柄の株式等の取得費については、所得税法施行令第105条第1項第1号(別紙の1(3))に掲げる総平均法に準ずる方法により計算するとされているところ(所得税法第48条第3項及び所得税法施行令第118条第1項(別紙の1(2)及び(4)))、同一銘柄の上場株式等のうちに特定口座内保管上場株式等と当該特定口座内保管上場株式等以外の上場株式等とがある場合には、これらの上場株式等については、それぞれその銘柄が異なるものとするほか(措置法施行令第25条の10の2第1項第2号(別紙の2(9)))、一の特定口座において一の日に2回以上にわたって同一銘柄の特定口座内保管上場株式等の譲渡があった場合には、当該一の日におけるこれらの譲渡については、これらの譲渡のうち最後の譲渡の時にこれらの譲渡があったものとみなして、所得税法施行令第118条の規定を適用するとされている(措置法施行令第25条の10の2第1項第3号(別紙の2(9)))。
また、特定口座内の取引に係る所得については、居住者において、源泉徴収を選択することも可能であり(措置法第37条の11の4第1項(別紙の2(6)))、源泉徴収を選択した場合には、上場株式等に係る譲渡所得の金額の計算上、源泉徴収選択口座に係る特定口座内保管上場株式等の譲渡による譲渡所得の金額を除外して申告をすることができるとされている(措置法第37条の11の5第1項(別紙の2(8)))。
ハ 特定口座制度に係る各規定の解釈
上記イ及びロからすると、特定口座制度は、特定口座内保管上場株式等の譲渡による譲渡所得の金額に係る区分計算の特例と、特定口座においてした上場株式等の譲渡による所得に係る源泉徴収や申告不要の特例等とが相まって、個人投資家の所得計算や申告手続に係る負担軽減の基礎となっている制度であるといえ、このような特定口座制度の下においては、特定口座内保管上場株式等の譲渡による譲渡所得の金額の計算上取得費に算入する金額は、その特定口座内における上場株式等の受入れに係る記録を基礎として、金融商品取引業者等において、特定口座内保管上場株式等に関する固有の計算方法により一元的に計算することが予定されているというべきである。
そして、居住者が特定口座内保管上場株式等の譲渡による譲渡所得について源泉徴収を選択し、源泉徴収選択口座において生じた譲渡所得の金額を申告することを選択した場合における取得費の計算方法に関して法令が上記ロ以外に別段の規定を設けていない以上、上記解釈はかかる場合にも妥当し、上記ロの各規定と異なる方法による取得費の計算は予定されていないもの、換言すれば、法は、源泉徴収選択口座に係る特定口座内保管上場株式等の譲渡による譲渡所得の金額を申告するに当たり、居住者において同所得の金額の計算上取得費に算入する金額の計算をすることを予定していないものと解するのが相当である。
ニ 措置法通達等の定めについて
以上の解釈を踏まえれば、措置法通達37の11の3-14(別紙の2(14))が、概算取得費による取得費を認める旨を定めた措置法通達37の10・37の11共-13(別紙の2(12))を準用していないことは、特定口座内保管上場株式等の譲渡による譲渡所得の金額の計算に当たり、概算取得費を取得費とすることを認めない趣旨であると解するのが相当であって、この理は、上記ハで述べた、法は、源泉徴収選択口座に係る特定口座内保管上場株式等の譲渡による譲渡所得の金額を申告するに当たり、居住者において同所得の金額の計算上取得費に算入する金額の計算をすることを予定していないとの解釈に沿うもので、当審判所においても相当と認められる。
また、所得税基本通達38-16(別紙の1(5))は、措置法通達37の10・37の11共-13(別紙の2(12))と同様に、土地建物等以外の資産の譲渡による譲渡所得の金額の計算上、概算取得費による取得費を認める旨定めているが、措置法通達における準用についての上記検討によれば、上記所得税基本通達の定めが源泉徴収選択口座に係る特定口座内保管上場株式等の譲渡による譲渡所得について申告をする場合において適用されると解することはできないというべきである。
ホ 本件における当てはめ
上記各検討によれば、本件譲渡株式についても、その譲渡所得の金額の計算上取得費に算入する金額は、本件特定口座内における本件譲渡株式の受入れに係る記録を基礎として、本件取引業者において、特定口座内保管上場株式等に関する固有の計算方法により一元的に計算された金額となるのであって、概算取得費を取得費とすることはできない。
要するに、次のような判断が下されたということです。
- 譲渡株式の特定口座内保管株式等としての位置付け
- 本件譲渡株式は金融商品取引所に上場し、特定口座に保管の委託がされていたため、措置法第37条の11の3第1項に規定する「特定口座内保管上場株式等の譲渡」に該当します。
- 特定口座制度の意義
- 特定口座制度は、個人投資家の申告負担を軽減するために創設されたもので、金融商品取引業者等が所得金額の計算を代行し、一元的に管理する仕組みです。
- この制度では、特定口座内保管株式等の譲渡による譲渡所得は、特定口座内の記録を基礎とした固有の計算方法により算定されます。
- 取得費の計算方法
- 特定口座内保管上場株式等の譲渡所得の金額計算では、所得税法施行令第105条第1項第1号に掲げる総平均法に準ずる方法に基づき計算されます。
- 特定口座制度では、概算取得費(通常、譲渡収入金額の5%)を取得費として用いることは認められていません。
- 法令解釈の妥当性
- 措置法通達37の11の3-14が、概算取得費を認めない趣旨であることは、法令解釈上妥当であり、特定口座内保管上場株式等の譲渡所得についても適用されます。
- 請求人の主張の検討
- 請求人は、特定口座で計算された所得について再計算を行うことを主張しましたが、特定口座制度の趣旨および法令の規定に照らし、そのような再計算は認められていないとされました。
- また、請求人の主張する税制改正に関する解説は経過措置に関するものであり、本件には適用されません。
- 特定口座と一般口座の差異
- 特定口座から一般口座に移管した場合には概算取得費を適用できる一方、特定口座内での取引では認められないことは、法令の結果であり不合理ではないと判断されました。
【結論】
- 更正処分の適法性
- 本件譲渡株式の取得費は、特定口座における固有の計算方法に基づき一元的に算定される金額であり、概算取得費は適用されません。
- その結果、本件更正処分および過少申告加算税の賦課決定は、いずれも適法であると認められました。