貴金属買取ビジネスを営む上で、消費税の「仕入税額控除」の否認は経営を揺るがす重大なリスクです。今回ご紹介するのは、令和5年9月5日に下された国税不服審判所の裁決事例です。本件では、請求人が「委託販売契約に基づき手数料のみを計上すべき」と主張した点、および「在留カードを確認した以上、帳簿の氏名は真実だと信じる理由がある」と主張した点が争点となりました。結果として審判所は、契約の実態を売買と認定し、さらに本人確認の甘さを指摘して仕入税額控除を認めませんでした。どのような確認が「不十分」と判断されたのか、実務上の注意点を整理して解説します。
国税不服審判所ホームページの裁決要旨
○ 請求人は、原処分の対象となった取引(本件各取引)は、売買契約に基づく取引ではなく、本件各取引の取引先(本件各取引先)から委託され、請求人名義で売上先に販売した委託販売契約に基づく取引であって、消費税法基本通達10-1-12《委託販売等に係る手数料》(2)(本件通達)に定める方法に基づき、本件各取引に係る商品の販売に伴い収受した金額を課税資産の譲渡等の対価の額とし、本件各取引先に支払った金額を課税仕入れに係る支払対価の額として経理処理をしたものであるところ、本件通達が定める委託販売に係る経理処理の方法のいずれを採用したとしても消費税額は同額となるべきであるから、課税売上高はそのままで課税仕入れのみを是正する原処分は誤りであり、消費税法第30条《仕入れに係る消費税額の控除》第7項の規定が適用される消費税額に係る課税仕入れの税抜金額相当額が、課税資産の譲渡等の対価の額から減額されるべきである旨主張する。しかしながら、請求人と本件各取引先との間で作成された書面の記載内容からすれば、本件各取引に当たり、請求人と本件各取引先との間において委託販売契約の合意があったとは認められず、本件各取引は、請求人と本件各取引先との間の売買契約に基づく取引と認められるから、課税資産の譲渡等の対価の額を減額すべき理由はない。(令5. 9. 5 東裁(諸)令5-15)
○ 請求人は、原処分の対象となった取引(本件各取引)について、請求人の帳簿及び請求書等に記載した氏名(本件帳簿氏名)は真実の取引先のものであって、仮に、本件帳簿氏名が真実の取引先のものではないとしても、請求人は本件各取引の相手先が提示した本人確認資料を真実のものであるとの認識の下、適正に本人確認等を行った上で本件各取引をしたものであるから、本件帳簿氏名が真実の取引先のものと信ずべき相当の理由があり、本件各取引に係る消費税額に、消費税法第30条《仕入れに係る消費税額の控除》第1項の規定による控除(仕入税額控除)が適用される旨主張する。しかしながら、本件帳簿氏名の者が本件各取引の日に日本国内に滞在していないこと等からすれば、本件帳簿氏名は本件各取引に係る真実の取引先のものとは認められず、また、請求人が本件各取引に際して取引相手の真実性等につき積極的かつ厳格な確認を行わなかったこと等からすれば、請求人には本件帳簿氏名が真実の取引先のものと信ずべき相当の理由があったとは認められないことから、本件各取引に係る消費税額について仕入税額控除は適用されない。(令5. 9. 5 東裁(諸)令5-15)
消費税・委託販売該当性と仕入税額控除の可否が争われた事案
事案の概要
本件は、24金製スクラップ等の貴金属取引を行う法人が、消費税の仕入税額控除の適用を受けることができるか否か等について争った事案である。
原処分庁は、請求人の帳簿等に真実の仕入先の氏名等が記載されていないとして仕入税額控除を否認したのに対し、請求人は、当該取引は売買ではなく委託販売契約に基づく取引であり、また帳簿記載も適法であるとして、更正処分等の取消しを求めた。
要するに、
原処分庁は、請求人が行った令和元年12月課税期間及び令和2年3月課税期間の消費税等について、
- 本件各取引は委託販売ではなく売買契約に基づく取引である
- 帳簿等に記載された仕入先氏名は真実の取引相手とは認められない
として、仕入税額控除を否認し、消費税等の更正処分および過少申告加算税の賦課決定処分を行った。
これに対し、請求人は、当該各処分の全部取消しを求めて審査請求を行った。
基礎事実
- 請求人は、貴金属、宝石、真珠及びその製品等の輸出入販売を目的とする法人である。
- 本件各課税期間において、請求人は、外国人名義とされる者(本件各取引先)から、
24金製スクラップ等の貴金属を持ち込まれ、1回あたり約2,000万円から約4,000万円の高額取引を現金決済で行っていた。 - 請求人は、取引の都度、「買取申込書」および「買取計算書」を作成・保存し、
帳簿上は、当該名義人を仕入先として仕入計上していた。 - 請求人は、本件各取引先が本件各商品を請求人に持ち込んだ際にその場で、本件各取引先に対し、「買取申込書」と題する書面(以下「本件各買取申込書」という。)にある「確認事項」欄及び「お客様情報J欄を記載させ、それを請求人に提出させていた。
- 請求人が保存していた本件各買取申込書の「お客様情報」欄には、各「相手先」欄の氏名及びその者のものとしての住所、生年月日等が手書きで記載されているとともに、「ご職業」欄及び本人確認のために添付する「コピーの証明書」欄があり.、不動文字で例示された職業の「会社員」又は「自営業」のいずれかに丸印が付され、また、本人確認のための証明書の例示として不動文字で記載されている「在留カード」にいずれも丸印が付されている。なお、本件各買取申込書には、上記の「お客様情報」欄のほか、「確認事項」・欄として、以下の(イ)ないし(へ)の事項が不動文字で記載され、そのうち(イ)ないし(二)の確認事項に「はい」又は「いいえ」のいずれかにチェックする欄が設けられているが、取引を行う目的を記載する襴や請求人に本件各商品の売買を委託する旨の記載はない。
- (イ) 「買取依頼品は、私の所有物です。」。
- (ロ)「売却する品物に関して、・売却者の署名または捺印をもって、売却者は日本国の諸法に抵触していないことを宣誓します。」。
- (ハ)「密輸.脱税等全ての犯罪に関わらない品物です。」。
- (二) 「本確認書に記載されている文宇、内容について、すべて理解し、売却者は署名または捺印をする。」。
- (ホ) 「誓約で、取引の成立は確定できなく、誓約後の取引中止することもありますので。ご理解の上、誓約お願いします。J。
- (へ) 「上記内容を、誓約致します。」。
- 請求人は、本件各取引先に対して本人確認のための賓料として、本件各取引先が所持する日本国内に中長期在留する者に出入国在留管理庁長官(平成31年3月31日までは法務大臣)から交付された在留カードを提示させた上で、本件各取引先の本人確認を当該在留カードにより行い、その写し(以下「本件各在留カードの写し」という。)を徴し保存していた。
- 請求人は、本件各商品を一(以下「本件売上先」という。)に売却しており、その売却の際、本件売上先から請求人を名宛人として、取引日(売却日)ごとに作成された「計算書お客様控」と題する書面(以下「本件各売上計算書」という。)とともに本件各商品の売却代金を現金で受領していた。
- また、本件各売上計算書には、名宛人である請求人の商号並びに本件各商品の品名、重量、単価及び本件各商品の税込みの売却代金(以下「本件各売却代金」という。)の額などが記載されている一方、本件各買取申込書の「お客様情報」に記載された別表1- 1及び別表1-2の各「相手先」欄の氏名は記載されていない。
- 請求人は、本件売上先から受領した本件各売上計算書を基に、本件各取引先ごとに、「買取計算書」と題する書面(以下「本件各買取計算書」という。)を2部作成し、その1部を本件各取引先に交付し、請求人が支払う金額の確認を受けた上で、本件各取引先に現金で支払い、残りの1部に本件各取引先から現金を受領した旨の署名を受け、請求人において保存していた。
- 請求人が保存していた本件各貿取計算書には、請求人の商号及び所在地のほか、本件各取引ごとに、本件各買取計算書の名宛人として別表1-1及び別表1-2の「相手先」襴の氏名、「商品」襴の商品名、「取引金額(税込金額)」欄の取引金額、「取引重量」欄の本件各商品の重量、単価、印紙代金、本件各取引の日(取引日)、決済方法・(振込み又は現金)、決済日及び決済金額(合計金額)などが記載されるとともに、収入印紙が貼付され、全ての取引について決済方法の「現金」欄にチェックが入れられている。また、決済日の下には「買取利用規約に同意し、上記領収しました。」という不動文字及び署名欄には本件各買取計算書の名宛人の氏名が手書きで記載されている。
- なお、請求人は、消費税法第30条第7項に規定する請求書等として本件各買取計算書を保存していた。
- 請求人は、本件各買取計算書の記載内容に基づき、本件各課税期間に係る総勘定元帳(以下「本件帳簿」という。)の「仕入高」勘定に、別表・1-1及び別表1-2の各「相手先」欄に記載の氏名を仕入先とし、本件各取引高を仕入金額(税込金額)として計上した(以下、本件各買取申込害、本件各買取計算書及び
- 本件帳簿に本件各取引の相手先として記載された別表1-1及び別表1- 2の各「相手先」欄に記載の氏名を「本件帳簿氏名」という。)。ただし、令和2年1月6日及び同月7日の取引については、本件各取引高から印紙代金を控除した金額を計上した。
- また、請求人は、本件各売上計算書の記載内容に基づき、本件帳簿の「売上高」勘定に、本件売上先を本件各商品の売上先、本件各売却代金の額を売上金額(税込金額)として計上した。
- 請求人は、本件各課税期間の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)について、本件各取引高を本件各課税期間の課税仕入れに係る支払対価の額に含めて控除対象仕入税額を計算し、消費税等の各確定申告書に別表2の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告した。
- 原処分庁は、本件各課税期間の消費税等について:令和4年1月31日付で別表2の「更正処分等」欄のどおりとする消費税等の各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした。
本件裁決における主要な争点
本件の争点は、次の2点である。
争点1
本件各取引は、委託販売契約に基づく取引か、売買契約に基づく取引か。
また、仮に委託販売契約に基づく取引である場合、本件各取引高の税抜金額相当額を課税資産の譲渡等の対価の額から減額すべきか。
争点2
本件各取引に係る消費税額について、仕入税額控除が適用されるか。
争点についての主張
争点1についての請求人の主張(委託販売該当性)
請求人は、本件各取引について、
- 本件各取引は、売買契約ではなく委託販売契約に基づく取引である売上先への販売金額を当日の金相場の市場価格、委託販売手数料をグラム当たり???とする旨を口頭で説明し、合意した上で本件各商品を預かり、本件売上先に販売し、本件各取引先から委託販売手数料を受領していた。
- したがって、本件各取引とは、受託者である請求人が、委託者である本件各取引先から本件各商品の販売を受託されることをいい、請求人が自己の名をもって本件各取引先のために本件各商品の販売を行うことを業とする商法第551条《定義〉〉に規定する問屋取引の一部として行っていた。
- 委託販売契約の受託者については、消費税法基本通達10-1 -12《委売却金額及び委託販売手数料の額が記託販売等に係る手数料》(2)の本文において、委託者から受ける委託販売手数料が役務の提供の対価となる旨明らかにされており、なお書において、委託された商品の譲渡等に伴い収受した又は収受すべき金額を課税資産の譲渡等の金額とし、委託者に支払う金額を課税仕入れに係る金額としても差し支えない旨定めている(以下、当該なお書の処理方法を「総額処理の方法」という。)。役務の提供の対価を課税売上げとする方法と総額処理の方法とそのいずれの方法を採用したとしても消費税額は同額となるべきであるから、総額処理の方法において、課税売上げはそのままで、課税仕入れのみを是正する原処分は誤りであり、総額処理の方法を採用する請求人は、本件各課税期間の消費税額等の計算において、仕入税額控除が適用されない消費税額に係る本件各取引高の税抜金額相当額は課税資産の譲渡等の対価の額から減額されるべきである。
争点2についての請求人の主張(仕入税額控除)
請求人は、
- 帳簿等に記載された氏名(本件帳簿氏名)は真実の取引先の氏名である
- 仮に真実でないとしても、
在留カードの提示を受け、本人確認を行った上で取引しており、信ずべき相当の理由がある
として、消費税法30条1項の仕入税額控除は適用されると主張した。
審判所の判断
争点1についての判断
本件各取引は売買契約に基づく取引と認定
審判所は、本件各取引に関し、
- 請求人と本件各取引先との間で作成された書面は、
買取申込書、買取計算書及び重量メモのみであり、
委託販売契約の成立を示す合意内容(手数料、危険負担、売却先等)の記載が存在しない - 書面の文言や取引実態からすれば、
本件各取引は、請求人が商品を買い取ることを内容とする売買契約と認められる
として、
請求人と本件各取引先との間に委託販売契約の合意があったとは認められないと判断した。
その結果、
課税資産の譲渡等の対価の額を減額すべき理由はないとした。
イ 認定事実
当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
(イ)請求人は、本件各取引に当たり、本件各取引先との間で本件各貿取申込書、本件各買取計算書及び本件各商品の重量を記載したメモ以外の書面は作成していなかった。
(ロ) 上記1の(3)のチのとおり、本件各買取計算書には、買取利用規約に同意する旨の記載があるものの、当該買取利用規約の具体的な内容の記載はなく、請求人は、当該買取利用規約に係る書面について、本件各買取申込書以外には本件各取引先との間で作成していなかった。
ロ 検討
請求人は、上記イの(イ)のとおり、本件各取引に当たり、本件各取引先との間において、本件各買取申込書、本件各買取計算書及び本件各商品の重量を記載したメモ以外の害面は作成しておらず、また、当審判所の調査によっても、本件各買取申込害及び本件各買取計算書のほかには、請求人と本件各取引先との間の合意内容を示す証拠は認められないことから、以下、本件各取引につき、請求人と本件各取引先との間でいかなる合意がなされたかについて、本件各買取申込書及び本件各買取計算書の記載内容から検討する。
(イ)委託販売とは、一般的な理解として、委託する者と受託する者との間で、受託する者は委託する者の供給する商品を、受託する者の名をもって、委託する者の計算において第三者に販売し、これに対して委託する者は報酬(手数料)を支払うことを約する取引形態であり、委託販売においては、一切の危険は委託する者が自ら負担し、受託する者はあらかじめ定められた手数料を取得するのみであるとされている。
(ロ) 本件各買取申込書は、上記1の(3)の二のとおり、本件各取引先が本件各商品を請求人に持ち込んだ際にその場で記載し、請求人に提出した書面であるところ、その表題は、当該書面の提出者がその提出先に対し、何かしらの物の買取りを申し込むことを意味する「買取申込書」となっている。そして、本件各買取申込書の「確認事項」欄には、買取依頼品は自己の所有物である旨、売却する品物に関しては、売却者の署名又はなつ印をもって、売却者は日本国の諸法に抵触しないことを宣誓する旨及び本件各買取申込書に記載されている文字、内容について、全て理解し、売却者は署名又はなつ印をする旨などの記載があり、そのいずれにも「はい」との回答襴にチェックがなされ、その内容を誓約する旨の記載の後にある「お客様情報」欄に、手書きで本件帳簿氏名、住所な
どが記載されているとともに、最後尾には不動文字で請求人の商号、所在地などが記載されている。これらの本件各買取申込書の文言からすると、本件各買取申込書は、本件各取引先が請求人に対して本件各商品を第三者に販売することを委託するとの申込みをしたことを示すものではなく、請求人に対して本件各商品の買取りの申込みをしたことを示すものと認められる。
加えて、本件各買取申込書が、本件各取引先と請求人との間の委託販売契約の成立を示すものであるのならば、通常、上記(イ)のように、当事者間で合意されるべき事項である、請求人が本件各取引先から本件各商品の第三者への販売を受託することを承諾した旨の記載、当該受託に対する請求人の手数料報酬額及び本件各商品に瑕疵があった場合の危険負担などの合意事項の記載があって
しかるべきところ、これらの記載はなく、そのほか、委託販売契約の成立を示す事項の記載もない。
(ハ)また、本件各買取計算害は、上記1の(3)の卜及びチのとおり、請求人の商号及び所在地等が記載された請求人の作成した書面であり、表題として「買取計算書」、名宛人として本件帳簿氏名並びに本件各商品の商品名、印紙代金、取引金額及び決済方法が現金払いであること等が記載された上、「買取利用規約に同意し、上記領収しました。」という不動文字の下の「署名」欄には、本件帳簿氏名が手書きで記載されている。
加えて、本件各買取計算書には、上記1の(3)のチのとおり、本件帳簿氏名、本件各商品の商品名、本件各商品の重量、単価及び重量に単価をかけた本件各取引高の金額などの記載はあるものの、本件各取引が委託販売契約に係るものであるのならば、本件各商品の本件売上先への売却代金の額や受託者が受け取る委託販売手数料の金額が、受託者と委託者との間で報告あるいは合意されてしかるべきところ、それらの事項の記載はない。
(二)以上のことから、本件各取引に当たり、請求人と本件各取引先との間において、本件各商品に係る売買(請求人による本件各商品の買取り)の合意があったといえるものの、請求人が、本件各商品の販売を本件各取引先から受託し、本件売上先に対して本件各取引先からの委託に基づいて販売するとの合意があったとは、認めることはできない。
したがって、本件各取引は、請求人と本件各取引先との間の売買契約に基づく取引であったと認められる。」
争点2についての判断
仕入税額控除は適用されない
審判所は、
- 本件帳簿氏名の者の多くが、
取引日に日本国内に滞在していなかった - 在留カードの交付記録と、
保存されている在留カード写しの記載内容が一致しない - 取引の金額・頻度・態様からみて、
取引相手の真実性について高度の疑念を生じさせる事情が存在していた
と認定した。
その上で、
請求人が、取引相手の真実性等について積極的かつ厳格な確認を行ったとは認められないとして、
と判断し、
本件各取引に係る消費税額について、仕入税額控除は適用されないと結論付けた。
「イ 法令解釈
(イ)消費税法第30条第7項は、当該課税期間の課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿、請求書等が税務職員による検査の対象となり得ることを前提にしていると解される。この趣旨に鑑みると、消費税法第30条第1項の規定は、事業者が、国内において行った課税仕入れに関し、同条第8項第1号所定の事項が記載されている帳簿を保存している場合及び同条第9項第2号所定の書類で同号所定
の事項が記載されている請求書等を保存している場合において、税務職員がこれらを検査することにより課税仕入れの事実を調査することが可能であるときに限り、その適用があると解するのが相当である。
その反面として、事業者が帳簿及び請求書等を保存していない場合には消費税法第30条第1項の規定の適用がないことになるところ、このような法的不利益が特に定められたのは、資産の譲渡等が連鎖的に行われる中で、広く、かつ、.公平に資産の譲渡等に課税するという消費税により適正な税収を確保するには、帳簿及び請求書等という確実な資料を保存させることが必要不可欠であると判
断されたためである。
そして、事業者に対し、消費税法第30条第8項第1号及び同条第9項第2号は、帳簿及び請求書等に記載すべき内容として、課税仕入れに係る取引の内容のみならず、その相手方の氏名又は名称を帳簿及び請求書等に記載することを義務付けているところ、これも、上記のとおり、税務職員が保存されている帳簿及び請求書等の記載を前提にその相手方を調査すれば、容易に課税仕入れの取引状況を把握し、適正な申告が行われていたかを確認できるようにするためであり、かかる調査のためには、帳簿及び請求書等の記載に正確性が求められるのは当然である。
(ロ)また、消費税法施行令第50条《課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿等の保存期間等》第1項において、消費税法第30条第1項の規定の適用を受けようとする事業者は、同条第7項に規定する帳簿及び請求書等を整理し、それぞれ定められた日から7年間、これを納税地又はその取引に係る事務所などに保存しなければならないなど、消費税法は、課税庁の課税権限が行使される最長の期
間にわたって帳簿及び請求書等の保存を要求している。
(ハ)上記(イ)及び(ロ)の消費税法の趣旨に照らして考えると、消費者からの預り金的な性格を有する消費税は、特に正碓な税額の把握が求められているものと解され、事業者において保存されている帳簿及び請求書等については、課税仕入れの内容等とともに真実の仕入先の氏名又は名称を記載することが要求されており、事業者がその要件を具備した帳簿及び請求書等を保存していない場合には、課税仕入れに係る消費税額について仕入税額控除は認められないと解される。
(二)もっとも、その反面、たとえ帳簿及び請求書等に記載された仕入先の氏名又は名称が真実のものでないとしても、事業者がこれを真実と信ずべき相当の理由があり、そのため、当該帳簿及び請求書等が消費税法第30条第7項の要件を満たす帳簿及び請求書等として保存されていると認められる場合、又はやむを得ない事情により、同項の要件を満たす帳簿及び請求書等を保存することができなかったことを当該事業者が証明した場合には、同条第1項の規定の適用が認められるものと解するのが相当である。」
「A 別表1-1の順号1ないし11の各者は、上記口の(イ)のCのとおり、本件各取引の日より,前に日本から出国した後、本件各取引の日までに入国した記録がないことから、本件各取引の日において日本国内に滞在しておらず、請求人の店舗において取引を行うことはできない。
したがって、別表1- 1の順号1ないし11の各取引に係る本件帳簿氏名の者は、当該各取引をした者であるとは認められない。
「D 別表1-1の順号22ないし26の各者のうち、順号22及び23の各者については、上記口の(イ)のAのとおり、在留カードの交付記録は存在せず、また、順号24ないし26の各者については、同Bのとおり、本件各在留カードの写しの各項目が当該各者の在留カードの交付記録と一致していないことからすれば、当該各者の本件各在留カードの写しの基となる在留カードは、いずれも当該各者の真実の在留カードとは認められない。また、別表1-1の順号22ないし26の各者は、上記口の(イ)のEのとおり、本件各在留カードの写しに記載された住居地に住民登録がなく、かつ、原処分に係る調査において当該住居地に居住していた事実を確認できなかったことから、本件各取引の日において
当該住居地に居住していなかったと認められる。そうすると、別表1- 1の順号22ないし26の各者が提示した在留カードは、いずれも当該各者の真実の在留カードとは認められず、かつ、本件各取引の仕入先として本件帳簿に記載された当該各者の氏名は、居住地が不明な者のものであるから、このような者を本件各取引に係る真実の仕入先と認めることは困難である。
したがって、別表1-1の順号22ないし26の各取引に係る本件帳簿氏名の者は、本件各取引をした者であるとは認められない。」
「本件帳簿氏名の者は本件各取引を行った者であるとは認められず、本件各取引先は本件帳簿氏名の者ではないから、本件各取引の仕入先として本件帳簿及び本件各買取計算書に記載された本件帳簿氏名は真実の仕入先のものであるとは認められない。」
本件帳簿氏名を真実の仕入先のものと信ずべき相当の理由の有無について
「上記イの(ニ)のとおり、たとえ帳簿及び請求書等に記載された課税仕入れの相手方の氏名又は名称が真実の仕入先のものではないとしても、事業者がこれを真実と信ずべき相当の理由がある場合には、当該帳簿及び請求書等が消費税法第30条第7項の要件を満たす帳簿及び請求書等として保存されていると認められるから、請求人には本件帳簿氏名が真実の仕入先のものと信ずべき相当の理由があったか否かについて検討する。
A 請求人は、上記1の(3)のイのとおり、貴金属、宝石、真珠及びそれらの製品等の輸出入販売等を目的とする法人であり、本件各取引は24金製の商品に係る仕入取引である。 金地金等に関しては、本件各取引が行われた当時、輸入に係る消費税を免れる金の密輸が社会問題となっており、金地金等に係る取引の適正化を図り、より一層の密輸抑制を進めることが強く要請されていることが公知の事実となっていた。
そして、金地金等を含む貴金属等については、一般的に、財産的価値が高く、世界的に流通しており、換金や運搬が容易であるとともに、取引後の流通経路・所在を追跡するための手段が少なく匿名性が高いという特徴を持っているため、貴金属等に係る取引については、密輸に限らず犯罪に悪用される危険度が高いという犯罪情勢において、犯罪や不正を防止するための犯収法等の法令の整備並びに所轄行政庁及び業界団体における措置が講じられていた。
このような貴金属等の取扱事業者を取り巻く取引環境の下で、上記イの(ハ)で述べたように、消費者からの預り金的な性格を有する消費税については、特に正確な税額の把握が求められていることに鑑みると、当該事業者に対しては、取引相手の真実性等、取引全般についての「積極的かつ厳格な確認」を行うことが要求されていると解するのが相当であり、当該事業者に対して上記のような厳格な確認を求めることは、当該事業者における事務上の便宜性等を考慮しても、必ずしも酷とはいえない。
また、犯収法第2条《定義》第2項第43号においては、貴金属等取扱事業者を特定事業者として規定し、同法第4条において当該事業者が一定の貴金属等の取引を行うに際しては、取引相手の「本人特定事項」のほか、「職業」及び「取引を行う目的」の確認を求めている。そうすると、貴金属等の取引については、その取引の慣行上、取引全般に係る積極的かつ厳格な確認として、当該事業者に対して上記の確認を行うことが要求されていると解するのが相当である。
さらに、経済産業省資源エネルギー庁は、「貴金属等取扱事業者における疑わしい取引の参考事例」を公表し、特に注意を払うべき取引の類型として、 ① 「同一人物・企業が、短期間のうちに多くの貴金属等の売買を行う場合」等の取引の特異性(不自然さ)に着目した事例 ② 「多額の現金により購入する場合」及び「顧客の収入、資産に見合わない多額の購入又は販売を行う場合」等の現金の使用形態に着目した事例 などを挙げている。
B 本件各取引の取引回数は、上記ロの(ニ)のCのとおり、本件各課税期間における本件各取引先ごとにそれぞれ2回から4回であり、上記1の(3)の二のとおり、本件各買取申込書の「職業」欄には「会社員」又は「自営業」に丸印が付されているところ、上記ロの(ニ)のDのとおり、本件各取引先の多くは、1回の取引につき、4キログラム以上もの24金製スクラップを請求人に持ち込み、約2,000万円から約4,000万円もの代金を現金で受け取って帰るなど、一般的な会社員や自営業者が、単独で所有する貴金属等の売却としては明らかに多量かつ多額であることに加え、上記1の(3)のトのとおり、その多額の売却代金の全額が現金で決済されていることからも、上記Aの経済産業省資源エネルギー庁が公表する「貴金属等取扱事業者における疑わしい取引の参考事例」として特に注意を払うべき取引の類型に該当すると認められる。
また、請求人は、上記ロの(ニ)のAのとおり、本件各取引を令和元年10月頃から始めているが、同F及びHのとおり、金を含む貴金属の買取りに係る広告を出しておらず、また、本件売上先の代表者から客を紹介されたことはないと認められるところ、同Gのとおり、請求人の店舗がある???には、顧客誘引の手段として、自社ホームページで金を含む貴金属の買取りを行っている旨の広告を出している本件売上先を含む多数の買取事業者が存在するにもかかわらず、24金製の商品を扱う事業を始めたばかりで買取りの実績がなく、広告すら出していない請求人に対し、別表1-1の最初の本件各取引から別表1-2の最後の本件各取引までの約2月の間に28名もの本件各取引先が本件各商品を持ち込むのは不自然かつ不合理である。また、上記ロの(ニ)のHのとおり、本件代表者は、本件各取引先が請求人の店舗に来店した理由について、把握していなかった。
C これらの事情を踏まえると、本件各取引において、本件各買取計算書に記載された氏名が真実の仕入先のものであるか、あるいは、本件各在留カードの写しに記載された氏名が真実の仕入先のものであるかについて、高度の疑いを生じさせる事情があったと認めるのが相当であり、本件各課税期間において、請求人においてもかかる疑いを抱いていたと解するのが自然である。
D そして、請求人は、上記1の(3)の二のとおり、本件各買取申込書において、本件各取引先に対し、「お客様情報」である本人特定事項等の記載並びに「買取依頼品は、私の所有物です。」及び「密輸・脱税等全ての犯罪に関わらない品物です。」と誓約させており、本件各商品の買取りに際して、本件各商品を請求人に持ち込んだ本件各取引先の身元や本件各商品の出どころの確認が重要であることを認識している。
E それにもかかわらず、請求人は、犯収法第4条の規定により要求される取引相手の「職業」の確認について、本件各買取申込書に記載させてはいたものの、会社員や自営業といった程度の記載をさせていたにすぎず、また、上記ロの(ニ)のBの(ホ)のとおり、在留カードに記載されている在留資格の確認にとどまり、詳細な職業までは確認していなかったことが認められる。
また、上記1の(3)の二のとおり、本件各買取申込書には、犯収法第4条の規定により要求される「取引を行う目的」を記載させる欄もなく、上記ロの(ニ)のBのとおり、請求人における本件各取引に係る本人確認の手順によっても、「取引を行う目的」の確認を全く行っていなかったのであるから、請求人は、貴金属等取扱事業者に対して取引上要求されていた取引相手の真実性等、取引全般についての積極的かつ厳格な確認を行っていたとは認められない。
F したがって、請求人は、本件各取引に際して、取引相手の真実性等、取引全般についての積極的かつ厳格な確認を行わず、漫然と本件各在留カードの写しを保存し、これに基づいて、本件帳簿の記載を行っていたといわざるを得ず、請求人には本件帳簿氏名が真実の仕入先のものと信ずべき相当の理由があったとは認められない。」
小括
「上記(イ)のFのとおり、本件帳簿氏名は真実の仕入先のものであるとは認められず、かつ、同(ニ)のFのとおり、請求人には本件帳簿氏名が真実の仕入先のものと信ずべき相当の理由があったとは認められないから、請求人は、消費税法第30条第7項の要件を満たす帳簿及び請求書等を保存していたとは認められない。
また、消費税法第30条第7項ただし書に規定する「やむを得ない事情」も認められないから、本件各取引に係る消費税額について、仕入税額控除は適用されないこととなる。
そうすると、請求人の本件各課税期間の消費税等の計算については、消費税法第30条第7項本文の規定が適用されることにより、本件各取引に係る消費税額について仕入税額控除は適用されないから、同条第10項の規定の適用の有無については判断するまでもない。」
裁決の結論
審査請求はいずれも棄却
