記事の紹介

共有不動産の賃料収入は、当事者間の合意によって自由に配分できるのだろうか。

本裁決は、夫婦が各2分の1の持分で共有する建物について、賃料を40パーセントと60パーセントに配分する合意や、持分の一部を使用貸借したとの主張が争われた事案である。

請求人は、三者間合意の合理性や使用貸借契約の成立を根拠に、賃料帰属の変更を主張した。しかし、国税不服審判所は、所得税法12条に定める実質所得者課税の原則を重視し、賃料収入の源泉は共有持分にあるとして、合意による配分変更を否定した。本裁決を素材として、共有不動産における賃料帰属の考え方を整理しましょう。

審判所ホームページの裁決要旨

○ 請求人は、夫と各2分の1の持分割合で共有する建物(本件建物)の貸付けに係る共益費を含む賃料等収入について、請求人、夫(請求人夫婦)及び賃借人の三者間でした当該貸付けに係る合意の内容が、

①賃貸借契約の協議等の窓口を夫に一本化し、賃料等収入を請求人40パーセント、夫60パーセントの収受割合(本件割合)とするものであって合理的な内容であること、

②請求人夫婦間で、請求人が有する本件建物の持分の10パーセントを夫に使用収益させるとしたもの(使用貸借契約)であり、

夫は使用借主としての10パーセントを合わせた60パーセントを、請求人は残りの40パーセントをそれぞれ使用収益する内容であることから、賃料等収入も当該合意内容に基づく本件割合に応じて請求人夫婦に帰属する旨主張する。

しかしながら、所得税法第12条《実質所得者課税の原則》に規定する資産から生じる「収益を享受する者」とは、その収益を受けるべき正当な権利を有する者をいい、資産から生じる収益の基因となる真実の権利者が誰であるかにより判定することが相当と解される。

請求人夫婦は、持分割合各2分の1で共有する本件建物の貸付けの対価として賃借人から賃料等を収受しているのであるから、請求人夫婦の賃料等収入の源泉は各持分であることにほかならず、賃料等収入は持分割合に応じて請求人夫婦にそれぞれ帰属する。

なお、①私法上、本件合意が有効に成立しているとしても、請求人が収受する賃料等収入の源泉は請求人の持分であり、本件合意が請求人夫婦間の所得の帰属を変更するものではなく、②民法は、使用貸借契約の目的物を有体物である「物」と規定しており、請求人が使用貸借契約の目的物として主張する持分は権利であって有体物ではないから、請求人の主張する使用貸借契約が成立する余地はない。(令5.11. 1 大裁(所・諸)令5-13)

以下、裁決の要約です。ご使用になる場合は原文をご確認ください。

裁決の概要|共有不動産の賃料配分と実質所得者課税の原則

本裁決は、夫婦が各2分の1の持分で共有する建物の賃貸に係る賃料等収入について、当事者間の合意に基づき40パーセントと60パーセントに配分できるかが争われた事案である。
国税不服審判所は、所得税法第12条に定める実質所得者課税の原則を基礎として、賃料等収入の帰属は建物の持分割合によって決まると判断した。


事案の概要

請求人は、夫と各2分の1の持分割合で共有する建物(本件建物)を賃貸していた。
請求人は、本件建物の貸付けに係る共益費を含む賃料等収入について、請求人、夫及び賃借人の三者間で合意が成立しており、当該合意に基づき、賃料等収入は請求人40パーセント、夫60パーセントの割合で帰属すると主張した。

これに対し、原処分庁は、賃料等収入は本件建物の持分割合に応じて請求人及び夫に各2分の1ずつ帰属するとして更正処分等を行った。


基礎事実

本件建物の共有関係

本件建物は、請求人及び夫が各2分の1の持分割合で共有している不動産である。
請求人夫婦は、本件建物を第三者に賃貸し、賃借人から賃料等を収受していた。

請求人の主張する合意内容

請求人は、次の内容の合意が存在すると主張した。

・賃貸借契約に関する協議等の窓口を夫に一本化すること
・賃料等収入を請求人40パーセント、夫60パーセントの割合で収受すること
・請求人が有する本件建物の持分のうち10パーセントを夫に使用収益させる旨の使用貸借契約が成立していること


争点

争点1|賃料等収入の帰属割合

本件建物の貸付けに係る賃料等収入は、請求人が主張する合意内容に基づき40パーセントと60パーセントで帰属するのか、または持分割合どおり各2分の1ずつ帰属するのか


争点についての主張

請求人の主張

請求人は、賃借人を含めた三者間で合意が成立しており、その内容は合理的であると主張した。
また、請求人と夫との間で、請求人が有する本件建物の持分の10パーセントを夫に使用収益させる使用貸借契約が成立しているため、夫は合計60パーセントを使用収益し、賃料等収入もその割合に応じて帰属すると主張した。

「所得税法第12条が規定する資産から生ずる収益とは、不動産所得においては、同法第26条第1項が規定する「貸付けによる所得」をいうのであるから、賃貸借契約により収益を享受する者が同法第12条が規定する「収益の法律上帰属するとみられる者」であり、「その収益を享受する者」に当たる。

本件においては、請求人夫婦が本件各建物について各2分の1の持分割合で共有しているところ、本件各確認書のとおり、請求人夫婦と本件各賃借人との間では、夫が賃貸借契約の窓口となり、賃借人との協議を行うこととし、夫と請求人が受け取る賃料等の割合を本件割合とする賃貸借契約を締結したものである。
そして、当該契約は合理的な内容であり、請求人が受け取る賃料は私法上も有効であるから、当該契約に基づいて賃料を受け取る請求人は「収益の法律上帰属するとみられる者」であり、「その収益を享受する者」である。」

原処分庁の主張

原処分庁は、賃料等収入の源泉は本件建物の持分であり、賃料等収入は持分割合に応じて帰属すると主張した。
請求人が主張する合意や使用貸借契約によって、所得の帰属を変更することはできないとした。


審判所の判断

実質所得者課税の原則の適用

審判所は、所得税法第12条に規定する「資産から生じる収益を享受する者」とは、
その収益を受けるべき正当な権利を有する者をいうとした。

そして、資産から生じる収益の帰属は、
資産から生じる収益の基因となる真実の権利者が誰であるかにより判定することが相当である
と判示した。

賃料等収入の帰属について

請求人夫婦は、本件建物を各2分の1の持分割合で共有しており、賃料等収入はその貸付けの対価として賃借人から収受されている。

したがって、賃料等収入の源泉は各持分であり、賃料等収入は持分割合に応じて請求人及び夫に各2分の1ずつ帰属すると判断した。

「(2) 法令解釈
イ所得税法第12条は、資産又は事業から生ずる収益が誰に帰属するかは、法律上の真実の権利者が実質的にも収益の帰属者であるとの考え方に立ち、法律上の形式がその法的実質と異なる場合にはその実質に即して収益の帰属を判定すべきであるとの趣旨を定めるものと解するのが相当である。また、同条にいう「収益を享受する者」とは、その収益を受けるべき正当な権利を有する者をいうと解するのが相当である。そして、本件通達が所得税法第12条の適用上、資産から生ずる収益を享受する者が誰であるかは、その収益の基因となる資産の真実の権利者が誰であるかにより判定すべきであると定めているところ、本件通達の定めは、同法第12条の上記趣旨に沿うものであるから、当審判所においても、これを相当と認める。
ロ消費税法第13条第1項も、法律上資産の譲渡等を行ったとみられる者が単なる名義人であって、その資産の譲渡等に係る対価を享受せず、その者以外の者がその資産の譲渡等に係る対価を享受する場合には、当該資産の誤渡等は、当該対価を享受する者が行ったものとして、同法を適用する旨規定しており、所得税法と
同様の趣旨を規定したものと解されるから、資産の譲渡等に係る対価を享受する者が誰であるかという点は、上記イと同様に解される。

(3) 検討
上記1の(3)のイ、口及びへのとおり、請求人夫婦は、各2分の1の持分割合で共有する本件各建物の貸付けの対価として、本件各賃借人から本件各賃料等収入を収受しているのであるから、請求人夫婦の当該収入の源泉は、本件各建物の各持分にほかならず、請求人は、本件各賃料等収入のうち、請求人の持分割合に応じた2分の1について、本件通達の「その収益の基因となる資産の真実の権利者」に当たり、所得税法第12条の「収益を享受する者」に該当するというべきである。
したがって、本件各賃料等収入のうち、2分の1に相当する金額が、所得税法における不動産所得に係る総収入金額として請求人に帰属することになる。また、上記(2)の口のとおり、消費税法における資産の譲渡等に係る対価を享受する者が誰であるかという点も、所得税法と同様に解されるから、本件各賃料等収入のうち、請求人の持分割合に応じた2分の1に相当する金額が、資産の譲渡等に係る対価として、請求人に帰属するというべきである。」

合意及び使用貸借契約の評価

審判所は、仮に私法上、本件合意が有効に成立しているとしても、
当該合意は請求人夫婦間の所得の帰属を変更するものではないとした。

また、民法は、使用貸借契約の目的物を有体物である「物」と規定しており、
請求人が使用貸借契約の目的物として主張する持分は権利であって有体物ではない

このため、請求人の主張する使用貸借契約が成立する余地はないと判断した。

「仮に、私法上、請求人夫婦が本件各賃借人から収受する賃料等を本件割合に従ってあん分する旨の合意が有効に成立しているとしても、上記(3)のとおり、請求人が収受する本件各貨料等収入の源泉、すなわち、その収益の基因となる資産は請求人の本件各建物の持分にほかならないのであるから、本件各賃貸借契約に関する上記合意が、請求人夫婦間における所得の帰属を変更することはない。
なお、請求人は、請求人が本件各賃貸借契約に基づいて本件各賃借人から本件各賃料等を受け取っているのであるから、請求人は、「その収益を享受する者」に当たる旨主張するが、本件各賃料等収入は、本件各賃貸借契約に基づいて請求人が取得した権利等の資産を基因として生ずる収益ではなく、本件各建物についての請求人の持分という資産を基因として生ずる収益である。
したがって、請求人の主張には理由がない。」


結論

本件建物の賃料等収入は、請求人及び夫の持分割合に応じて各2分の1ずつ帰属し、請求人が主張する40パーセント・60パーセントの配分は認められない

原処分庁の更正処分等はいずれも適法であり、審査請求は棄却する。

ダウンロード資料