居住用賃貸建物に係る仕入税額控除は、令和2年改正により原則として制限されるが、附則44条2項の経過措置により「令和2年3月31日までに締結した契約」に基づく課税仕入れであれば、一定の場合に控除が認められる。
本件では、居住用賃貸建物の建築工事について、期限までに口頭で請負契約が成立していたかが争われた。審判所は、当時の資料が概算段階にとどまり、契約内容の全てが合意されていたとはいえないとして経過措置の適用を否定する一方、契約書の日付を巡る事情については、請求人に「隠蔽・仮装」や当初からの過少申告意図を認めず、重加算税相当部分を取り消した(令和6年6月3日・札裁(諸)令5-18)。
裁決要旨
国税不服審判所ホームページの裁決要旨
原処分庁は、①居住用賃貸建物(本件建物)の建築に係る工事請負契約(本件請負契約)が令和2年3月31日までに締結されていないにもかかわらず、請求人は、本件請負契約に係る工事請負契約書(本件契約書)に記載された同日以前の日付を虚偽の日付と認識しながら押印し、本件契約書を作成した旨、②請求人は、所得税法等の一部を改正する法律(令和2年法律第8号)附則第44条第2項の規定(本件経過措置)の適用を受けるために本件契約書の日付を同日以前にしたいという強い意思があり、請求人からの要望で、本件契約書に同日以前の日付を記載させたと推認でき、本件請負契約を同日までに締結していたかのような体裁を整えたことは、過少申告の意図を外部からもうかがい得る特段の行動に該当する旨主張する。
しかしながら、令和2年3月の段階において、本件建物の取得に係る計画は具体性をもって進められており、請求人が同月31日までに本件請負契約は締結されていないという認識を有していたと認められる証拠は見当たらないことからすれば、請求人は、本件請負契約が同日までに締結されていたという認識を前提として本件経過措置を適用していたこととなる。
そうすると、請求人の行為は、課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実について、これを隠匿し、あるいは故意に脱漏したものであるとか、故意に事実をわい曲したものと認めることはできず、また、請求人は、当初から過少に申告することを意図していたとも認められない。(令6. 6. 3 札裁(諸)令5-18)
請求人は、居住用賃貸建物(本件建物)の建築に係る工事請負契約(本件請負契約)を令和2年3月31日までに口頭で締結しており、本件建物の課税仕入れは、同日までに締結された契約に基づき行われたものである旨主張する。し
かしながら、令和2年3月31日までに請求人と受注者である建築会社との間において本件請負契約に関係する合意があったとしても、本件建物の建築工事を当該建築会社が請け負うことが合意されたにすぎず、課税仕入れを行った日における本件建物を、この合意のみによって建築し取得することができないことは明らかであり、令和2年3月31日までに請求人と当該建築会社との間において、本件請負契約に係る具体的な内容の全てについて口頭で契約が締結されていたとは認められないことから、本件建物に係る課税仕入れは、令和2年3月31日までに締結された契約に基づき行われたものとは認められない。(令6. 6. 3 札裁(諸)令5-18)
事案の概要
請求人は、居住用賃貸建物(本件建物)の建築に係る工事請負契約(本件請負契約)について、令和2年3月31日までに締結された契約に基づく課税仕入れであるとして、消費税法30条10項の適用除外となる経過措置(本件経過措置)の適用を主張した。
これに対し原処分庁は、①本件請負契約が同日までに締結されていないにもかかわらず、請求人が本件契約書に虚偽の日付を認識しながら押印して作成した、②本件経過措置の適用を受けるため日付を同日以前にしたいという強い意思があり、過少申告の意図を外部からうかがい得る特段の行動に当たる、などとして更正処分等(加算税を含む)を維持すべきと主張した。
消費税法(令和5年10月1日施行の平成28年法律第15号による改正前のもの。以下同じ。)第30条第1項柱書及び同項第1号は、事業者が、国内において行う課税仕入れについては、当該課税仕入れを行った日の属する課税期間の課税標準額に対する消費税額から、当該課税期間中に国内において行った課税仕入れに係る消費税額(以下「控除対象仕入税額」という。)を控除する(以下、この規定
に基づく控除を「仕入税額控除」という。)旨規定している。
消費税法第30条第10項は、事業者が国内において行う同法別表第一第13号に掲げる住宅の貸付け(以下、単に「住宅の貸付け」という。)の用に供しないことが明らかな建物(その附属設備を含む。)以外の建物(同法第12条の4 《高額特定資産を取得した場合等の納税義務の免除の特例》第1項に規定する高額特定資産又は同条第2項に規定する調整対象自己建設高額資産に該当するものに限る。以下「居住用賃貸建物」という。)に係る課税仕入れの税額については、同法第30条第1項の規定は、適用しない旨規定している。
所得税法等の一部を改正する法律(令和2年法律第8号)附則第44条《居住用賃貸建物の仕入れに係る消費税額の控除に関する経過措置》第2項は、事業者が令和2年3月31日までに締結した契約に基づき同年10月1日以後に国内において事業者が行う居住用賃貸建物に係る課税仕入れの税額については、消費税法第30条第10項の規定は、適用しない旨規定している(以下、所得税法等の一部を改正
する法律附則第44条第2項の規定を「本件経過措置」という。)。
商法第509条《契約の申込みを受けた者の諾否通知義務》第1項は、商人が平常取引をする者からその営業の部類に属する契約の申込みを受けたときは、遅滞なく、契約の申込みに対する諾否の通知を発しなければならない旨規定し、同条第2項は、商人が同条第1項の通知を発することを怠ったときは、その商人は、同項の契約の申込みを承諾したものとみなす旨規定している。
消費税法基本通達l1-7-2 《居住用賃貸建物の判定時期》は、居住用賃貸建物に該当するかどうかは、原則として、課税仕入れを行った日の状況により判定する旨定めている。
認定事実等
契約交渉・契約書作成の経緯
- 請求人は、本件請負契約に関する協議を???と行っており、本件請負契約書に記名押印をするまでの間、受注者(建築会社)と直接協議することはなかった。協議は主として第三者を介して行われていた。
- ???は、???に対し、本件事業を進めるに当たり、消費税等の還付を受けるため令和2年3月31日までに本件請負契約を締結する必要がある旨を伝えていた。
- 建築会社側は、不動産企画会社が企画した不動産事業に係る建物の建築工事について、依頼を受けてから工事請負契約書を作成し、顧客(建築主)と締結する運用である。
- 建築会社の社内サーバーに保存されていた本件請負契約書データの「作成日時」は、「2020年5月8日 15:47:47」であった。
当時の資料の性質(概算・変更可能性)
- 2020年3月2日付「???」等の書面には、建築面積・延床面積・基本設備に加え、建築費(税抜)63,000,000円等が記載される一方、「※上記建築計画及び事業費は概算です。」との記載がある。
- 2020年3月3日付「???」、同月5日付「???」等でも、面積等は記載されるが、建築面積・延床面積が異なるなど内容に揺れがあり、また、「事業費(概算)」、「計画内容に変更が生じる場合」等の記載がある。
争点
争点1:本件建物に係る課税仕入れは、令和2年3月31日までに締結された契約に基づき行われたものか
(=本件経過措置の適用可否)
争点2:請求人に通則法68条1項の「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったか
(=重加算税の賦課要件)
争点についての請求人の主張
- 令和2年3月31日までに口頭で本件請負契約を締結しており、本件建物の課税仕入れは同日までに締結された契約に基づく。
- (補足的に)商法509条等の関係からも、同日までに契約成立が認められる。
- よって、本件経過措置が適用され、仕入税額控除が認められるべきである。
審判所の判断
争点1(本件経過措置の適用可否)
法令解釈(骨子)
- 消費税法30条10項は、居住用賃貸建物に係る課税仕入れについて仕入税額控除を適用しない旨を規定する。
- 居住用賃貸建物該当性は原則として課税仕入れを行った日の状況により判定する取扱い(基本通達11-7-2)が相当。
- 本件経過措置の適用可否も、令和2年10月1日以後の課税仕入れにつき、課税仕入れを行った日における居住用賃貸建物が、令和2年3月31日までに締結した契約で定められたものと認められるかで判断するのが相当。
あてはめ(結論)
- 令和2年3月の段階では、少なくとも請求人側で本件事業計画が一定の具体性をもって進められていたとしても、提示資料は概算であり、面積等も異なるなど、本件請負契約の具体的内容はなお検討中と認められる。
- 受注者側も、運用上「依頼を受けてから契約書を作成・締結」しており、実際の契約書データ作成日時も2020年5月8日である。
- よって、令和2年3月31日までに、たとえ何らかの合意があったとしても、建築会社が当該工事を請け負う予定であることが合意されたにすぎない。課税仕入れを行った日における本件建物を、その合意のみで建築・取得できないことは明らかである。
- したがって、本件建物に係る課税仕入れは、令和2年3月31日までに締結された契約に基づくものとは認められず、本件経過措置の適用はない。
請求人の個別主張への判断
- 「営業本部長(???)と協議し具体的検討が進んでいた」等の主張についても、同日までに契約内容の全てについて口頭合意があったとは認められないとして退けた。
- 商法509条に基づく主張も、本件請負契約は「個別性の高い建築工事の請負」であり、不承諾通知がなければ成立が当然予想される取引とはいえないとして、前提を欠くとした。
争点2(「隠蔽し、又は仮装し」該当性=重加算税)
法令解釈(骨子)
- 通則法68条1項の「事実を隠蔽」とは、課税標準等の基礎事実を隠匿・故意脱漏すること。
- 「事実を仮装」とは、名義等につき真実のように装うなど、故意に事実をわい曲すること。
- 重加算税は悪質な違反を抑止する制度であり、過少申告行為そのものだけでなく、隠蔽・仮装と評価すべき行為が存在し、これに合わせた過少申告がされたことを要する。もっとも、必ずしも資料隠匿等の積極行為まで必要ではなく、当初から過少申告を意図し、その意図を外部からうかがい得る特段の行動+その意図に基づく過少申告がある場合には要件が満たされ得る。
あてはめ(結論)
- 原処分庁は「虚偽の日付と認識しながら押印した」と主張するが、令和2年3月の段階で計画は具体性をもって進められており、請求人が“3月31日までに締結されていない”との認識を有していたと認められる証拠は見当たらない。
- したがって、請求人の押印行為は、課税標準等の基礎事実について、隠匿・故意脱漏や故意のわい曲と評価できない。
- また、請求人は経過措置適用の意思自体はあったとしても、上記のとおり、請求人が「締結されていない」認識を有していたとはいえない以上、当初から過少に申告する意図があったとも認められない。
- よって、通則法68条1項の「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実は認められず、重加算税の賦課要件を満たさない。
原処分の適法性
本件更正処分
- 争点1の結論(経過措置の不適用)を前提にすると、当審判所における計算でも、納付すべき税額は更正処分の額と同額となる。
- その他争われていない部分も不相当とする理由はない。
- よって、本件更正処分は適法。
本件賦課決定処分(加算税)
- 請求人には「隠蔽し、又は仮装し」該当事実が認められないため、重加算税部分は賦課要件を欠く。
- 他方で、更正の基礎となった事実について、通則法65条4項1号の正当な理由があるとは認められない。
- よって、賦課決定処分は、過少申告加算税相当額を超える部分が違法であり、別紙「取消額等計算書」記載のとおり取り消すのが相当。
結論
審査請求は理由があるから、原処分の一部を取り消すこととし、主文のとおり裁決する。
ダウンロード資料
類似事案の裁決(国税不服審判所裁決令和6年8月20日)
国税不服審判所ホームページの裁決要旨
○ 原処分庁は、①共同住宅(本件建物)の建築に関する工事請負契約(本件請負契約)が令和2年3月31日までに締結されていないにもかかわらず、請求人が同日以前の日付を記載した工事請負契約書(本件契約書)に記名押印している旨、②令和2年3月31日までに本件建物に係る工期、具体的な仕様・設備等が決まっていないにもかかわらず、請求人が意図的に同日以前の日付が記載された本件契約書に記名押印をして体裁を整えたことは、当初から所得税法等の一部を改正する法律(令和2年法律第8号)附則第44条第2項の規定を適用して消費税額等を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動である旨主張する。
しかしながら、請求人が令和2年3月31日までに本件請負契約は締結されていないという認識を有していたと認められる証拠は見当たらないことからすると、請求人が、本件請負契約が同日までに締結されていないにもかかわらず、同日以前の日付が記載された本件契約書に記名押印したとまでは認められない。
そうすると、請求人の行為は、課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実について、これを隠匿し、あるいは故意に脱漏したものであるとか、故意に事実をわい曲したものと認めることはできず、また、請求人は、当初から過少に申告することを意図していたとまでは認められない。(令6. 8.20 札裁(諸)令6-2)
原処分庁は、共同住宅の建築に関する工事請負契約書には図面や仕様書の添付がなく、消費税法(平成28年法律第15号による改正前のもの)第30条《仕入れに係る消費税額の控除》第10項に規定する居住用賃貸建物(居住用賃貸建物)と構築物とを区分すべき理由がないことから、外構工事に係る課税仕入れは、居住用賃貸建物に係る課税仕入れである旨主張する。しかしながら、当該外構工事は、駐車場の舗装及びその附帯工事であって、居住用賃貸建物及びその附属設備に係る課税仕入れには当たらない。(令6. 8.20 札裁(諸)令6-2)
請求人は、共同住宅(本件建物)の建築に関する工事請負契約(本件請負契約)を令和2年3月31日までに口頭で締結しており、本件建物の課税仕入れは、同日までに締結された契約に基づき行われたものである旨主張する。しかしながら、令和2年3月31日までに請求人と受注者である建築会社との間において本件請負契約に関係する合意があったとしても、本件建物の建築工事を当該建築会社が請け負うことが合意されていたにすぎず、課税仕入れを行った日における本件建物の構造及び設備の状況と同じものが具体的に合意されていたとは認められない。したがって、本件建物の課税仕入れは、令和2年3月31日までに締結された契約に基づき行われたものとは認められない。(令6. 8.20 札裁(諸)令6-2)
