財産債務調書を提出していない場合、修正申告に伴う過少申告加算税は、どこまで加重されるのでしょうか。本裁決は、不動産所得における「必要経費の過大計上」が、財産債務調書制度に基づく加重措置の対象となるかが正面から争われた事例です。
請求人は、支払手数料や接待交際費、修繕費といった経費は、個々の不動産に直接対応するものではなく、「財産の貸付けによる所得」に直接基因するものではないとして、加重措置の対象外であると主張しました。
しかし、国税不服審判所裁決令和5年11月21 日は、不動産所得の構造と修正申告制度の趣旨を踏まえ、必要経費が過大であれば、その性質を問わず加重措置の対象になると判断しました。本裁決は、財産債務調書制度の実務上の射程を理解するうえで、重要な示唆を与えるものです。
国税不服審判所ホームページの裁決要旨
請求人は、内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律第6条の3《財産債務に係る過少申告加算税又は無申告加算税の特例》第2項の規定に基づく財産債務に係る過少申告加算税の特例(加重措置)の対象となる財産の貸付けによる所得の「所得」とは、財産債務に直接基因して生ずる所得と解されるから、不動産所得に関して過大に計上された経費が個々の不動産の直接経費に該当しない場合は、これに係る部分は加重措置の対象とはならないというべきであり、請求人の支払手数料、接待交際費及び修繕費はいずれも個々の不動産についての直接経費ではないから、これらの必要経費の過大計上額については、加重措置を適用できない旨主張する。
しかしながら、不動産所得に対する所得税等の修正申告があり、国税通則法第65条《過少申告加算税》の規定の適用がある場合に、財産債務調書について提出期限内に提出がないときは加重措置が適用されるところ、不動産所得の修正申告は、不動産所得に係る総収入金額が過少若しくは必要経費が過大又はその両方となった場合になされるものであり、当該必要経費が、請求人のいう直接経費であるかそれ以外の経費であるかにかかわらず、その金額が過大であれば、いずれも不動産所得の金額が過少となるから、必要経費について、請求人のいう直接経費であるか否かを区分する必要はなく、請求人の必要経費の過大計上額は加重措置の対象となる。(令5.11.21 大裁(所)令5-15)
事案の概要
本件は、不動産貸付業を営む請求人が、不動産所得の金額が過少であったとして【所得税等の修正申告】を行ったところ、原処分庁が、【内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律第6条の3】に基づき、【財産債務調書未提出を理由とする過少申告加算税の加重措置】を適用したことから、その適否が争われた事案です。
争点は、修正申告の原因となった【不動産所得に係る必要経費の過大計上額】についても、加重措置を適用できるか否かにありました。
基礎事実
2-1 請求人の状況
請求人は、不動産貸付業を営むほか、給与収入及び公的年金等の収入を有していました。
2-2 確定申告と財産債務調書
請求人は、令和元年分から令和3年分までの各年分について、所得税及び復興特別所得税の確定申告書を期限内に提出していました。
しかし、各年分とも、総所得金額等が2,000万円を超え、かつ、年末時点の財産価額が3億円以上であったにもかかわらず、
【財産債務調書を提出期限までに提出していませんでした】。
2-3 修正申告と賦課決定
税務調査の結果、請求人は、
・不動産所得に係る総収入金額の計上漏れ
・修繕費、接待交際費、支払手数料等の【必要経費の過大計上】
などを理由として修正申告を行いました。
これに対し、原処分庁は、過少申告加算税の算定にあたり、必要経費の過大計上部分も含めて【加重措置】を適用しました。
争点
本件の争点は、
【不動産所得に係る必要経費の過大計上額に起因する税額不足部分について、財産債務調書未提出を理由とする加重措置を適用できるか否か】
です。
争点についての主張
4-1 請求人の主張
請求人は、次のように主張しました。
・加重措置の対象となる「財産の貸付けによる所得」とは、【財産債務に直接基因して生ずる所得】をいう。
・不動産所得においては、個々の不動産に直接対応する収入及び直接経費のみが対象となる。
・支払手数料、接待交際費、修繕費はいずれも、個々の不動産に直接対応する経費ではない。
したがって、これらの必要経費の過大計上額については、【加重措置の対象とはならない】と主張しました。
4-2 原処分庁の主張
原処分庁は、
・不動産所得の金額は、【総収入金額から必要経費を控除した金額】である。
・修正申告が行われるのは、総収入金額が過少、又は必要経費が過大、もしくはその両方の場合である。
以上から、必要経費が過大であれば、その性質を問わず、不動産所得の過少申告に該当し、【加重措置の対象となる】と主張しました。
審判所の判断
5-1 法令解釈
財産債務調書制度は、一定規模以上の財産を有する者に対し、その保有財産及び債務の申告を求め、
その提出を確保するために【軽減措置及び加重措置】を設けた制度です。
不動産所得に対する修正申告があり、国税通則法第65条の規定の適用がある場合、
【財産債務調書を提出期限内に提出していなければ、原則として加重措置が適用される】
としました。
(1) 法令解釈
財産債務調書の提出制度は、納税者の保有する財産及び債務に関する情報につき納税者本人から提出を求める仕組みとして創設された制度であり、所得税等の申告書を提出すべき者が、当該申告書に記載すべきその年分の総所得金額及び山林所得金額の合計額(分離長期譲渡所得の金額等を含む。)が2千万円を超え、かつ、その年の12月31日においてその価額の合計額が3億円以上の財産等を有する場合には、その年の翌年の3月15日までに、その財産の種類、数量及び価額並びに債務の金額
等の明細を記載した財産債務調書を所轄税務署長に提出しなければならないとされている。
そして、当該制度では、財産債務調書の適正な記載及び提出を確保するためのインセンティブとして、財産債務調書を提出期限内に適正に記載して提出した場合には、記載された財産債務に関する所得で政令で定めるものに対する所得税等の修正申告があり、通則法第65条の規定の適用がある場合であっても、加算税を5パーセント軽減(軽減措置)する一方、財産債務調書を提出期限内に提出しなかったとき又は提出された財産債務調書に記載がない財産債務に関する所得で政令で定めるものに対する所得税等の修正申告があり、通則法第65条の規定の適用がある場合には、加算税を5パーセント加重する措置(加重措置)が採られている(国送法第6条の2第1項、同法第6条の3第1項及び第2項並びに国送法施行令第12条の2第5項。)。」
5-2 必要経費過大計上と加重措置の関係
不動産所得の金額が過少となるのは、
・総収入金額が過少である場合
・必要経費が過大である場合
・その両方の場合
のいずれであっても同様です。
したがって、
【必要経費が直接経費であるか否かを区別する必要はなく、その金額が過大であれば、不動産所得の過少申告として加重措置の対象となる】
と判断しました。
「(2) 検討
イ 請求人は、上記1の(3)の口及び二のとおり、請求人の本件各年分における総所得金額及び分離長期譲渡所得の金額の合計額が2千万円を超えており、かつ、当該各年の12月31日において3億円以上の資産を有していたことから、本件各財産債務調書について、いずれも提出する義務があったにもかかわらず、同ハのとおり、本件各財産債務調書をいずれも提出期限までに提出しなかった。
本件各賦課決定処分のうち、不動産所得の総収入金額の計上漏れに起因する過少申告に係る加重措置の適用について請求人は争わず、必要経費の過大計上に起因する過少申告に係る加重措置を適用できるか否かについて双方に争いがあるから、以下検討する。
ロ 上記(1)のとおり、国送法第6条の3第2項の規定により、財産債務に関する所得で政令で定めるものに対する所得税等の修正申告があり、通則法第65条の規定の適用がある場合において、財産債務調書について提出期限内に提出しなかったときは加重措置が適用される。当該財産債務に関する所得で政令で定めるものとして、国送法施行令第12条の3第1項は、「財産の貸付けによる所得」(第3号)を掲げており、財産の貸付けには不動産の貸付けが含まれ、また、不動産の貸付けによる所得は不動産所得に該当するから(所得税法第26条第1項)、国送法第6条の3第2項の規定は、不動産所得に対する所得税等の修正申告があり、通則
法第65条の規定の適用がある場合において、財産債務調書について提出期限内に提出しなかったときは加重措置が適用されると解することができる。
そして、修正申告は、先の納税申告書の提出により納付すべきものとしてこれに記載した税額に不足額があるときに提出することができるところ(通則法第19条第1項第1号)、所得税は、その課税標準を各種所得の金額を合計した総所得金額等として、これを基礎として納付すべき税額を計算することとされており(所得税法第21条《所得税額の計算の順序》及び同法第22条)、各種所得のうち不動産所得の金額は、同法第26条第2項において、その年中の不動産所得に係る総収入金額から必要経費を控除した金額とする旨規定されているから、不動産所得の金額が過少となり税額に不足額が生じるのは、不動産所得に係る総収入金額が過少若しくは必要経費が過大又はその両方となった場合であるということができる。そうすると、不動産所得の金額が過少となり税額に不足額が生じた場合には、その原因が不動産所得に係る総収入金額が過少であることによるのか、それとも必要経費が過大であることによるのかを問わず、いずれの場合も加重措置の対象となることになる。
ハ これを本件についてみると、上記1の(3)の二のとおり、本件各修正申告がされたのは、不動産所得について総収入金額が計上涌れとなって過少であったこと及び必要経費の一部が過大に計上されていたことなどにより、総所得金額が過少と
なったことで税額に不足額が生じたためであるから、不動産所得に係る必要経費の過大計上額から計上漏れ額を差し引いた額である本件必要経費過大計上額に起因して生じた税額の不足額に係る過少申告加算税の額の計算においても、加重措置を適用することができることになる。」
5-3 結論
以上から、
【必要経費の過大計上額に起因する税額不足部分についても、加重措置を適用することができる】
として、審査請求は棄却されました。
