「暗号資産(仮想通貨)の税務調査と税務執行上の課題-ブロックチェーン分析と損益計算の重要性-」

国税庁の税務大学校のホームページに論文(税大ジャーナル38号)を掲載していただきました。

結構分量がある論文なので、どんなことを書いたかを簡単に説明しておきます。必ずしも原文の構成どおりの説明ではないのでご注意ください。


論文では、暗号資産の税務執行における課題と対応策について検討しています。

要するに、暗号資産の匿名性、分散性、損益計算の困難性が税務執行に与える課題と考えられる対応策について、他国や日本の現状を踏まえて考察を進めています。

第Ⅱ章:暗号資産の匿名性と分散性が引き起こす税務執行の課題

暗号資産の匿名性と分散性は、税務執行においてさまざまな問題を引き起こします。

1. 匿名性による問題

暗号資産の匿名性により、税務当局はブロックチェーン上の取引を把握していても、取引の当事者を特定することが困難です。また、特定の納税者がどのような暗号資産を保有し、取引しているのかを把握することも難しいです。これにより、以下のような問題が生じます。

  • 自国での納税義務の有無や所得金額の確認ができない。
  • 自国の居住者が行う暗号資産の利用状況や税務コンプライアンスの実態を把握できない。

2. 分散性による問題

暗号資産の分散性により、従来の税務執行の枠組みが機能しにくくなっています。税務当局は通常、企業や金融機関などの中央集権的な機関を通じて情報を収集しますが、完全な分散型システムでは「仲介者」が存在しないため、情報提供や源泉徴収を担う主体がいません。

一方、中央集権型の取引所(CEX)が取引の中心的な役割を担うようになり、匿名性や分散性が一部弱まった面もあります。しかし、分散型金融(DeFi)や分散型取引所(DEX)の登場により、仲介者を介さないピアツーピアの取引が増加し、分散性が強化されました。これが匿名性を補完し、両者は相互に関連しながら発展しています。

3. 税務コンプライアンスへの影響

暗号資産の匿名性と分散性は、税務コンプライアンス意識の低い納税者に有利な環境を提供します。これは、課税の透明性を高めるための国際的な取り組みを脅かす重大なリスクです。このような背景から、OECDは暗号資産報告枠組み(CARF)を策定しました。しかし、以下のようなケースではCARFが十分に機能しない場合があります。

  • CARFに参加していない国のCEXを利用する場合。
  • 報告義務者(RCASP)に該当しないDEXやプライベートウォレットを利用する場合。

4. 日本における課題

日本でも、暗号資産の匿名性と分散性が税務執行に影響を与えています。海外のCEXやDEX、プライベートウォレットを利用した取引では、本人確認が行われていない場合が多く、国税庁が取引を捕捉しても、以下のような問題が生じます。

  • 口座やウォレットの管理者や所有者を特定することが困難。
  • 特定の納税者(例えば、現在、税務調査中の納税者)がそのような口座やウォレットを利用している事実を把握することが難しい。

質問検査権やCARF、特定事業者への情報提供の求めといった制度は、国内やCARF参加国に情報提供義務を負う主体が存在する場合にのみ有効です。しかし、海外のCEX(特にCARF非参加国)、DEX、プライベートウォレットを利用する納税者の情報を国税庁が把握することは非常に困難です。

第Ⅲ章:ブロックチェーン分析

暗号資産の税務執行における課題に対応するため、ブロックチェーン分析が有効な調査手法として注目されています。国税庁は高性能なブロックチェーン分析ツールを積極的に活用し、調査官のトレーニングを強化する必要があります。

1. ブロックチェーン分析の限界

ブロックチェーン分析は、本人確認を行っていないCEXの口座やプライベートウォレットの管理者を直接特定することはできません。特に、納税者が本人確認済みのCEXとのつながりを持たない場合、特定はほぼ不可能です。このため、CEXが本人確認を実施していることや、納税者がそのようなCEXを利用していることが、税務執行の適正化に重要です。

2. ブロックチェーン分析への期待

一方、以下の場合にはブロックチェーン分析が有効に機能する可能性があります。

  • 本人確認を行っていないCEXの口座やウォレットアドレスが、本人確認済みのCEXと取引を行った場合、その管理者を特定できる可能性がある。
  • 特定されたアドレスに関連する暗号資産の取引や残高、同一人物が管理する口座やウォレットを把握できる。

チェイナリシス社が提供するようなブロックチェーン分析のツールやサービスを活用することにより、納税者の特定やDEXでの取引の把握が容易になる場合があります。

注意すべきことに、DEXの取引はブロックチェーン上に公開されているため、税務当局が確認可能です。一方、CEXの内部取引は外部から見るとブラックボックスであり、納税者やCEXの協力がない限り詳細を確認することはできません。

第Ⅳ章・結びに代えて:損益計算の困難性による税務執行の課題

暗号資産の税務執行において、損益計算の困難性が最も深刻な課題の一つです。この問題により、国税庁は調査対象の選定や課税処分を効率的に行えない場合があります。

1. 損益計算の難しさ

損益計算ソフトを使用しても、暗号資産の損益計算は複雑です。特に、海外CEX、DEX、複数のプライベートウォレットを利用する場合、正確な計算は困難です。その原因は以下の通りです。

  • データの取得ができない場合がある。
  • データを損益計算ソフトに適切に取り込めない場合がある。
  • 年末数量の不一致(理論値と実際の数量の差)を適切に解消するのが難しい場合がある。
  • 損益計上の有無やタイミングの判断が難しい場合がある。

2. 情報の非対称性

暗号資産の取引では、納税者は自身の取引状況を把握していますが、税務当局は十分な情報を得られません。この「情報の非対称性」が特に顕著です。従来、税務当局は「納税者の取引内容を知らない」ことが課題でしたが、暗号資産では「トランザクションの記録は分かっているが、納税者が誰か分からない、取引内容が分からない、損益計算を「正確に」行うことができない。」ケースも珍しくありません。要するに、次のような問題が生じています。

  • 納税者自身も取引や損益の詳細を正確に把握できない場合がある。
  • 税務当局が取引データを入手しても、取引主体や内容を特定できない。
  • 取引主体を特定できても、正確な損益計算ができない。

3. 対応策の提案

暗号資産の税務執行の適正性と公平性を確保するため、以下のような対応策が求められます。

(1)納税者への働きかけ

納税者がコントロール可能な要素について、適正な申告を促す取り組みが必要です。例えば、以下のような行動が実行されるような政策を検討すべきです。

  • 取引する暗号資産やCEX、ウォレットの選択を慎重に行う。
  • 取引履歴やデータの記録・保存を徹底する。
  • データの定期的なダウンロードやバックアップを行う。

(2)ブロックチェーン分析と損益計算ソフトの活用

国税庁は、ブロックチェーン分析ツールや損益計算ソフトを積極的に活用し、調査手法の開発や調査官のトレーニングを進める必要があります。チェイナリシス社などブロックチェーン分析の専門業者との連携も重要です。

(3)制度の拡充

以下の制度的な対応も検討すべきです。

  • 国税庁の通達やFAQの充実。
  • 暗号資産の譲渡原価の簡便な算定方法の導入。
  • CARFの改訂や参加国の拡大。
  • 国内の情報提供制度の強化。
  • 納税者にCEXやウォレットの情報提出を義務付ける、または促す仕組み。

(4)分離課税導入時の対応

暗号資産取引の所得に分離課税を導入する場合、以下のような条件を設けることが考えられます。

  • 国内CEXや本人確認済みのCEXを通じた取引に限定する。
  • 一定の性能を持つ損益計算ソフトで作成したデータを提出する場合に限定する。

4. 規制強化とその影響

規制強化により、納税者が規制の緩い国やプラットフォームに移行する可能性があります。この動きを注視し、適切な対策を講じる必要があります。

5. プライバシーと税務調査のバランス

インターネットやブロックチェーン上の公開情報を活用して納税者を特定する手法は有効ですが、プライバシーに関する懸念も生じます。国税庁によるAI技術やスクレイピングの利活用の状況も考慮したうえで、プライバシー保護等との関係で、今後さらなる議論が必要です。

まとめ

暗号資産の匿名性、分散性、損益計算の困難性は、税務執行に大きな課題をもたらします。

納税者に一方的な負担を強いるのではなく、納税環境の整備やテクノロジーの活用を通じて、適正かつ公平な税務執行を実現することが重要です。

国税庁は、急速に進化するテクノロジーに対応するために、テクノロジーを活用した調査手法の開発や専門性の向上を進める必要があります。

暗号資産・仮想通貨の税務調査はなぜ増えているのか

国税庁は暗号資産(仮想通貨)取引への課税強化を年々推進しています。暗号資産交換業者(取引所)への支払調書提出義務の拡大、ブロックチェーン分析ツールの導入、さらには海外取引所への情報提供依頼(特定事業者等への報告の求め)など、税務調査の手法は高度化・多様化しています。申告漏れや無申告が発覚した場合、重加算税・延滞税に加えて刑事訴追のリスクもあります。

国税庁が把握できる暗号資産取引の範囲

国内の暗号資産取引所(CEX)では本人確認(KYC)が義務付けられており、一定額以上の取引情報は支払調書として税務署に報告されます。また、OECDが策定した暗号資産報告枠組み(CARF)を通じた国際的な情報交換も進んでいます。一方、海外CEXや分散型取引所(DEX)、プライベートウォレットを利用した取引は把握が困難な部分もありますが、ブロックチェーン分析により本人確認済み取引所との紐付けが可能なケースも増えています。

税務調査の流れと暗号資産特有の問題点

暗号資産の税務調査では、まず取引所への資料収集・質問検査権の行使が行われます。次に、ブロックチェーン分析ツールを用いたウォレットアドレスの追跡が実施されます。最大の難点は損益計算の複雑さであり、複数の取引所・ウォレットを横断したデータ整合が求められます。正確な損益計算は適正申告の前提であり、暗号資産の税務に精通した税理士に早めに相談することが重要です。

暗号資産・仮想通貨の税務調査で税理士を選ぶポイント

暗号資産の税務調査対応は、通常の税務調査とは異なる専門知識が必要です。ブロックチェーンの仕組み、各種トークンの課税関係(DeFi・NFT・ステーキング・エアドロップなど)、損益計算ソフトの活用など幅広い知識を持つ税理士、ケースによっては国際課税(海外口座・ドバイ法人など)への対応ができる税理士など、それぞれの状況に適した税理士を選ぶことが重要です。

暗号資産専門税理士に依頼するメリット

暗号資産・仮想通貨に精通した税理士に依頼することで、①税務調査の際の適切な対応・交渉、②修正申告・期限後申告によるペナルティの最小化、③暗号資産に関する法的問題・税法解釈への対応、④DeFi・NFT・ステーキングなど複雑な取引に係る税務上の整理、⑤今後の税務リスクに対する予防的アドバイス、といったメリットが得られます。一般的な税理士では対応が難しいケースも、専門税理士なら安心して任せることができます。

当事務所の暗号資産・仮想通貨税務対応サービス

泉絢也税理士事務所は、暗号資産・仮想通貨の税務を専門とする専門家が対応します。税務調査対策・修正申告・確定申告代行・DeFi・NFT等の複雑な取引整理まで幅広くサポートしています。オンライン(Zoom等)でのご相談にも対応しており、全国からのご依頼を承っています。まずはお気軽にお問い合わせください。

暗号資産・仮想通貨の税務調査対策|税理士による専門サポート

暗号資産・仮想通貨の税務調査は、匿名性・分散性・損益計算の複雑さなど特有の困難があります。泉絢也税理士事務所では、税務調査対応・確定申告・修正申告について幅広くサポートしています。

税務でお困りの方へ|税理士にご相談ください

以下のようなお悩みがある方は、ぜひご相談ください。全国対応しています。

  • 暗号資産・仮想通貨の税務調査に対応したい
  • 暗号資産の売却・交換・マイニング等に係る課税関係を整理したい
  • 確定申告・修正申告について専門家のサポートを受けたい
  • 所得税・法人税・相続税など幅広い税務問題について相談したい

高度な損益計算については、カオーリア会計事務所(https://kaoria-tax.com/)と提携して対応しています。

よくある質問(FAQ):暗号資産・仮想通貨の税務調査と税理士への相談

Q1. 仮想通貨・暗号資産の税務調査はどのくらいの頻度で行われていますか?

国税庁は毎年、暗号資産に関する申告漏れ事案を公表しており、調査件数・追徴税額ともに増加傾向にあります。特に大口の利益を得た年度の翌年以降に調査が入るケースが多く見られます。申告誤りや無申告に心当たりがある方は、早めに専門税理士へご相談ください。

Q3. 税務調査の通知が来ました。暗号資産の取引があるのですが、どうすればよいですか?

税務調査の通知が届いた場合は、速やかに専門税理士にご相談ください。調査前・調査中・調査後のどの段階でも対応可能ですが、早めに相談するほど適切な対処ができます。当事務所では暗号資産・仮想通貨の税務調査対応を専門的に承っています。

Q4. 過去に暗号資産の申告をしていませんでした。今から申告できますか?

はい、期限後申告・修正申告の形で対応可能です。税務調査が始まる前に自主的に申告することで、無申告加算税のペナルティを軽減できます(自主申告の場合5%、調査前申告の場合10%に軽減される場合があります)。放置するほどリスクが高まりますので、早めのご相談をお勧めします。

Q5. 仮想通貨・暗号資産の税務調査に対応できる税理士の探し方は?

暗号資産の税務調査対応には、ブロックチェーンの仕組み・DeFi・NFT・損益計算ソフトの活用など専門知識が必要です。一般的な税理士では対応が難しいケースも多いため、暗号資産・仮想通貨の税務を専門とする税理士をお選びください。オンライン相談にも対応しており、全国からご依頼いただけます。