相続税法20条の相次相続控除は、短期間に相続が重なった場合の税負担を調整する重要な制度です。
しかし、「相続の開始前10年以内」という要件をどのように判断するかについては、実務上しばしば争いとなります。本裁決は、養子縁組が無効と確定した事案において、第一次相続と第二次相続の関係が問題となり、相次相続控除の適用の可否が争われたものです。
審査請求人は、実質的に相続税負担が確定した時期に着目すべきであると主張しましたが、国税不服審判所は、相続の開始時期は民法882条に基づき、被相続人の「死亡」により画一的に判断されるとしました。
以下、裁決文の要約ですが、裁決文の伏字の部分は「???」と表記しています。
裁決の概要|相次相続控除と「相続開始10年以内」の判断
本件は、相次相続控除(相続税法20条)の適用の可否が争われた国税不服審判所裁決令和6年7月5日である。
争点は、第二次相続における被相続人が、当該相続の開始前10年以内に開始した相続により財産を取得したといえるか、また、相次相続控除を適用して申告したことにつき、過少申告加算税を免除すべき正当な理由があるか否かである。
事案の概要
審査請求人らは、相続により取得した財産について、被相続人が当該相続の開始前10年以内に開始した第一次相続により財産を取得した場合に該当するとして、相次相続控除を適用した相続税の申告を行った。
これに対し、原処分庁は、被相続人が財産を取得した第一次相続は、申告に係る相続の開始前10年以内に開始したものではないとして、相次相続控除の適用を否認し、相続税の各更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を行った。
審査請求人らは、これらの処分はいずれも違法であるとして、その全部の取消しを求めて審査請求をした。
基礎事実
当事者関係
審査請求人???(以下「請求人A」という。)は、死亡した???(以下「本件被相続人」という。)の???であり、本件被相続人の兄で、???の養子である。
審査請求人???(以下「請求人B」という。)は、請求人Aの子であり、???の養子である。
本件第二次相続の共同相続人は、請求人らを含む5名である(以下「本件相続人ら」という)。相続関係の詳細は、別紙3の相続関係図のとおりである。
第一次相続と養子縁組
???(以下「第一次被相続人」という。)は、???に死亡した(以下「本件第一次相続」という)。
第一次被相続人について、???を養子とする養子縁組の届出がされた(以下「本件養子縁組」という)。
養子縁組無効確認訴訟の経過
本件被相続人は、平成19年10月29日、???を被告として、本件養子縁組が無効であることの確認を求める訴訟を提起した。
その後、複数の関係者により同趣旨の訴訟が提起され、併合審理された。
裁判所は、養子縁組の届出時において第一次被相続人に意思能力がなく、縁組意思は存在しないとして、本件養子縁組は無効であると判断した。
控訴及び上告はいずれも棄却又は不受理とされ、第一審判決が確定した(以下「本件無効確認訴訟」という)。
相続税の申告と更正処分
本件被相続人は、平成25年5月17日、本件第一次相続に係る相続税の申告書を提出した。
平成28年7月27日、本件第一次相続に係る遺産分割協議が成立し、本件被相続人は遺産のうち4分の1の共有持分権を取得した。
請求人らは、平成30年8月20日(法定申告期限内)、本件第二次相続に係る相続税の申告書を提出し、相次相続控除を適用した。
原処分庁は、令和3年9月6日から調査を開始し、令和5年8月14日、相次相続控除を否認して各更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を行った。
争点
争点1|相次相続控除の適用可否
本件各申告において、相次相続控除の適用が認められるか否か。
具体的には、本件第二次相続が、本件被相続人が当該相続の開始前10年以内に開始した相続により財産を取得した場合に該当するか否か。
争点2|過少申告加算税における「正当な理由」の有無
請求人らが相次相続控除を適用して申告したことについて、国税通則法65条4項1号に規定する「正当な理由」があると認められるか否か。
争点についての当事者の主張
争点1についての請求人らの主張
相次相続控除の趣旨は、短期間に相続が重なった場合に、相続税負担が過重となる不均衡を調整する点にある。
国税庁ホームページのタックスアンサーNo.4168では、「今回の相続開始前10年以内に被相続人が相続等により財産を取得し、相続税が課されていた場合」と説明されている。
本件では、本件無効確認訴訟の判決が確定するまで、被相続人は実質的に相続税負担を負っておらず、相続税負担が確定したのは第二次相続開始前10年以内である。
したがって、本件第二次相続については、相次相続控除を適用すべきである。
争点1についての原処分庁の主張
相続税法にいう「相続の開始」は、民法882条により死亡によって開始する。
本件第一次相続の開始日は第一次被相続人の死亡日であり、本件第二次相続の開始前10年以内に開始した相続には該当しない。
よって、相次相続控除の適用は認められない。
争点2についての請求人らの主張
請求人らは、国税庁タックスアンサーの記載を信頼し、税法の専門家である税理士に一切の手続を委ねて申告を行った。
そのため、相次相続控除を適用したことには正当な理由があり、過少申告加算税の賦課は違法である。
争点2についての原処分庁の主張
本件は、納税者側の法令解釈の誤りに基づく申告にすぎず、真に納税者の責めに帰することのできない客観的事情は存在しない。
したがって、正当な理由は認められない。
審判所の判断
争点1|相次相続控除の適用について
相続税法20条にいう「相続の開始」は、同法に定義がないものの、民法からの借用概念として民法882条と同義に解すべきである。
民法882条は、「相続は、死亡によって開始する」と規定している。
したがって、本件第一次相続の開始日は第一次被相続人の死亡日であり、本件第二次相続の開始前10年以内に開始した相続には該当しない。
以上から、本件各申告において相次相続控除の適用は認められない。
「イ法令解釈
(イ)相続税は、相続の開始により被相続人から相続人に対して移転承継される相続財産に対して課税されるものであるところ、相続税法第20条の相次相続控除の規定においては、相続により財産を取得した場合において、第二次相続に係る被相続人が第二次相続の開始前10年以内に開始した相続により財産を取得したことがあるときは、当該被相続人から第二次相続により財産を取得した者については、第二次相続に係る相続税額から、当該被相続人が第一次相続により取得した財産につき課せられた相続税額に相当する金額に一定の割合を乗じて算出した金額を控除するとされている。そして、その趣旨は、同一の財産について短期間のうちに重ねて相続税が課税される場合の二直課税の緩和及び負担の合理化を図るものであると解される。
(ロ) 租税法が用いている概念を他の法分野から借用すること(借用概念)については、他の法分野におけると同じ意義に解釈するのが、法的安定性の要請に合致している。すなわち、納税義務は、各種の経済活動ないし経済現象から生じてくるのであるが、それらの活動ないし現象は、第一次的には私法によって規律されているから、租税法がそれらを課税要件規定の中に取り込むに当たって、
私法上におけると同じ概念を用いている場合には、法的安定性の見地から、別意に解すべきことが租税法規の明文又はその趣旨から明らかな場合以外は、それを私法上におけると同じ意義に解釈すべきものと解される。」
「本件被相続人について、本件第一次相続に係る相続税の負担が実質的に生じることとなったのが本件無効確認訴訟の判決が確定した時点であったとしても、上記イの(イ)のとおり、相続税は相続財産に対して課税されるものであり、相続税法第20条に規定する相次相続控除の趣旨が、同一の財産について短期間のうちに重ねて相続税が課税される場合の二重課税の緩和及び負担の合理化を図るものであることに鑑みると、本件第一次相続における相続人の確定に時間を要したことは、相次相続控除の適用の可否とは無関係である。
したがって、請求人らの主張には理由がない。」
争点2|正当な理由の有無について
国税通則法65条4項1号にいう「正当な理由」とは、真に納税者の責めに帰することのできない客観的事情があり、過少申告加算税を課すことが不当又は酷となる場合をいう。
タックスアンサーには、相次相続控除の概要だけでなく、相続税法20条に基づく要件も併せて記載されている。
また、本件では、事前相談において、原処分庁の担当統括国税調査官から、相次相続控除は適用できない旨の回答を受けていた。
それにもかかわらず控除を適用して申告した以上、本件各申告は請求人らの判断と責任においてなされたものと認められる。
したがって、正当な理由は認められない。
結論
本件各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分はいずれも適法であり、審査請求はいずれも棄却する。
