この記事でわかること
  • 税理士事務所の職員がコロナ感染・後遺症で時短勤務となった場合に、申告期限の延長(通則法第11条)が認められるかどうか
  • 「災害その他やむを得ない理由」に該当するための要件と、本件で該当しないとされた具体的な理由
  • 「個別職員の体調不良」と「組織全体の業務不能状態」の区別が法的判断に与える影響
  • 期限延長申請が認められるために必要な客観的証拠の考え方
  • 税理士に申告を委任している納税者が知っておくべき実務上のリスク

税理士事務所のコロナ禍と「やむを得ない理由」の境界線

確定申告の期限延長が認められる「災害その他やむを得ない理由」の解釈について、国税不服審判所(令和6年6月20日裁決)が厳しい判断を示しました。

事案の経緯と争点

請求人は、申告を委任していた税理士事務所の職員が新型コロナに感染し、その後の後遺症による時短勤務で通常の業務体制が維持できなかったとして、期限延長を申請しました。

審判所の判断:延長は認められず

審判所は、以下の点から申請を棄却しました。

  • 職員の職場復帰後は、外出自粛要請が出ていなかったこと
  • 事務所内で他に感染者がおらず、事務所自体も閉鎖されていなかったこと

結論として、組織全体として業務が不可能な状態とは言えず、通則法第11条の「やむを得ない理由」には該当しないと判断されました。

実務上の教訓

個別の職員の体調不良や時短勤務だけでは、法定期限の延長は認められにくいのが実情です。災害等による特例を適用するには、事務所閉鎖など「客観的な業務不能状態」の立証が求められることを示す重要な事例です。


裁決要旨

国税不服審判所ホームページの裁決要旨

請求人は、確定申告(本件申告)の委任をした税理士の事務所職員(本件職員)が新型コロナウイルス感染症に感染し、医療機関から外出自粛の要請を受けたことに加え、本件職員が当該感染症の後遺症の影響で時短勤務を行うことにより同事務所において通常の業務体制を維持できない状況が生じたため、所得税及び復興特別所得税の申告及び納付期限の延長申請をしたのであり、本件申告をその期限までにすることができなかったことは国税通則法(令和4年法律第4号による改正前のもの)第11条《災害等による期限の延長》に規定する災害その他やむを得ない理由に該当する旨主張する。

しかしながら、本件職員は、新型コロナウイルス感染症に感染したことにより医療機関から外出自粛の要請を受けていたものの、職場復帰をした以降は外出自粛の要請を受けていないこと、本件職員が同感染症に感染してから本件申告の期限までの間に同事務所において本件職員以外に同感染症に感染した者がいないこと、同事務所が閉鎖されたなどの事実もなかったことから、請求人は、同条に規定する災害その他やむを得ない理由により確定申告をその期限までにすることができなかったとは認められない。

(令6. 6.20 東裁(所)令5-129)


実務上のポイント

  • 「やむを得ない理由」は個別職員の体調不良ではなく、組織全体の業務不能を要する。特定の担当者が感染・療養中であっても、事務所全体として業務継続が可能であれば、通則法第11条の延長事由には該当しない。
  • 職場復帰後に外出自粛要請がない場合は、感染・後遺症を理由とした期限延長は認められにくい。
  • 事務所の閉鎖・全職員の罹患・行政による業務停止命令等の客観的証拠がなければ、延長申請が棄却されるリスクがある。
  • 税理士に申告を委任している場合でも、期限管理は委任者(納税者)の責任。担当者の体調不良を把握したら、早めに代替対応(担当変更・外部委託等)を検討すべきである。
  • コロナ禍・感染症関連の延長事由については、審判所が「組織単位での業務不能」という厳格な基準で判断している点に留意が必要。

よくある質問(FAQ)

Q. 担当の税理士職員がコロナで入院した場合、申告期限は延長されますか?
A. ケースバイケースですが、担当職員の入院だけでは延長が認められない可能性が高いです。審判所は「組織全体として業務が不可能な状態」かどうかを基準として判断しており、個別職員の体調不良は原則として延長事由に該当しないとしています。事務所全体が閉鎖・業務停止となった場合は別途検討の余地があります。
Q. コロナ後遺症で担当者が時短勤務となった場合はどうですか?
A. 本件でも後遺症による時短勤務が問題となりましたが、認められませんでした。職場復帰後は外出自粛要請がなく、事務所自体も閉鎖されていなかったことから、「業務不能状態」には当たらないと判断されています。後遺症だけでなく事務所全体の業務停止という客観的事実が必要です。
Q. 通則法第11条「災害その他やむを得ない理由」には何が該当しますか?
A. 典型例は地震・台風・水害等の自然災害や行政命令による事業停止などです。人的な理由(個人の病気・入院・担当者交代等)については、事務所全体が機能不全に陥るような特段の事情がなければ該当しにくいと解されています。コロナ禍においても、組織的・客観的な業務不能状態の証明が求められます。
Q. 申告期限延長が認められなかった場合、どうなりますか?
A. 申告が期限後となった場合、無申告加算税(15〜20%)や延滞税が課される可能性があります。延長申請が却下された場合も同様です。本件のような事態を避けるため、担当者に体調不良が発生した際は速やかに代替の申告対応を検討することが重要です。
Q. 税理士に申告を委任していれば、期限管理の責任は税理士側にありますか?
A. いいえ。申告納税制度のもとでは、最終的な申告義務は納税者本人にあります。税理士への委任はあくまで事務処理の代行であり、「税理士事務所の職員が対応できなかった」という事情は、原則として納税者の申告義務を免除する理由にはなりません。委任先の事務所の状況に関心を持ち、必要に応じて代替措置を講じることが求められます。

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