近年のインバウンド需要の高まりとともに、輸出物品販売場(免税店)における税務調査が厳格化しています。今回ご紹介するのは、令和6年7月24日に国税不服審判所が出した裁決事例です。時計の販売・買取を行う事業者が、「非居住者への免税販売」と「中古時計の仕入税額控除」の双方を否認されました。なぜ形式的な書類を揃えていたにもかかわらず、巨額の更正処分を受けることになったのか。実務担当者が絶対に知っておくべき「居住者判定の基準」と「帳簿の真実性」について詳しく解説します。
国税不服審判所ホームページの要旨
請求人は、時計を購入した2名が非居住者であることを確認して譲渡したのであるから、いずれの譲渡も消費税法第8条《輸出物品販売場における輸出物品の譲渡に係る免税》第1項の規定の適用があると主張する。
しかしながら、一方の譲渡は、購入者が自身の旅券ではなく別人の旅券を請求人に提示して時計を購入したものであるから、消費税法施行令第18条《輸出物品販売場で譲渡する物品の範囲、手続等》第2項に規定する方法(非居住者が「その所持する旅券等」を事業者に提示すること)により購入されるものに該当しない。
また、もう一方の譲渡に係る購入者は外国人であるが、外国人である夫と同居し、かつ、その生計費は夫が負担しているから、その居住性は夫の居住性で判断することになるところ、当該夫は、日本国内の事業所に勤務している上に、日本に入国後6か月以上経過していることから、外国為替法令の解釈及び運用について6-1-5、6《居住性の判定基準》の1の(2)のイの定めにより、その住所又は居所を日本国内に有するものと推定され、外国為替及び外国貿易法第6条《定義》第1項第5号の居住者となり、当該購入者も居住者となって同項第6号の非居住者とは認められないことから、消費税法第8条第1項の規定する非居住者に対する譲渡とは認められない。したがって、いずれの譲渡も、消費税法第8条第1項の規定は適用されない。(令6. 7.24 大裁(諸)令6-5)
請求人は、原処分の対象となった時計の仕入れ(本件各仕入れ)について、時計を買い取る際に作成する買取申込書には仕入れの相手方の者(本件各買取申込者)の氏名が記載されているから、消費税法第30条《仕入れに係る消費税額の控除》第9項に規定する請求書等の記載事項を満たし、この買取申込書に基づいて作成した帳簿は同条第8項に規定する帳簿であるから同条第7項に規定する帳簿及び請求書を保存しない場合に該当せず、同条第1項の規定による控除(仕入税額控除)が適用される旨主張する。
しかしながら、本件各買取申込者は、他人から依頼され、自身が時計を売却したかのように個人情報を記入し、署名をするといういわゆる名義貸しをしていたにすぎないか、又は少なくとも自身が時計を売却したものではないといえ、請求人に時計を売却したのは本件各買取申込者ではないから、これらの買取申込書に記載された氏名はいずれも真実の仕入先の氏名ではなく、これらの買取申込書に基づいて作成された帳簿に記載のある仕入先の氏名も真実の仕入れ先の氏名ではないと認められる。したがって、本件各仕入れは、消費税法第30条第7項に規定する帳簿及び請求書等を保存しない場合に該当し、本件各仕入れに係る消費税額について仕入税額控除は適用されない。(令6. 7.24 大裁(諸)令6-5)
事案の概要
本件は、輸出物品販売場の許可を受けて時計等の販売・買取業を営む法人である請求人が、
非居住者に対する輸出物品の譲渡として消費税法第8条第1項の免税を適用し、時計の仕入れについて仕入税額控除を適用して消費税等の還付申告を行ったところ、
原処分庁が、
- 当該譲渡はいずれも免税譲渡に該当しない
- 当該仕入れはいずれも仕入税額控除の要件を満たさない
として、消費税等の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を行ったため、
請求人がその一部の取消しを求めて審査請求を行った事案である。
基礎事実
請求人の概要
- 請求人は、???に設立された法人であり、時計、宝石、貴金属、バッグ等の買取り、販売及び輸出入を事業目的としている。
- 代表取締役は設立以来、???が務めている。
- 古物営業の許可を受けており、輸出物品販売場としての許可も取得している。
- 消費税の課税期間について、3か月ごとの短縮課税期間を選択している。
本件各譲渡(免税販売)
- 請求人は、
- 令和3年10月9日、時計2点(合計9,232,727円)
- 令和3年11月6日、時計2点(合計9,778,182円)
を、それぞれ免税譲渡として販売した。
- いずれについても、免税販売管理システムにより購入記録情報を送信し、販売日、販売担当者、販売した時計の情報等を「免税販売詳細」という名称の書類(以下、単に「免税販売詳細」という。)を作成し、購入者が提示した旅券の写しを添付して保存していた。
本件各仕入れ(時計の買取り)
- 来店者から時計を買い取る際、
- 買取申込書に氏名・住所等を記載させ
- 在留カードや旅券等の本人確認書類の写しを取得
していた。
- 各課税期間について、買取申込書及び本人確認書類の写しを保存し、
これに基づき仕入明細表・総勘定元帳を作成していた。 - もっとも、仕入明細表には仕入先の氏名は直接記載されておらず、伝票番号のみが記載されていた。
争点
争点1
本件各譲渡は、消費税法第8条第1項に規定する免税譲渡に該当するか
争点2
本件各仕入れは、消費税法第30条第7項に規定する帳簿等を保存しない場合に該当するか
争点についての請求人の主張
争点1:免税譲渡該当性
- 本件各譲渡はいずれも、購入者が非居住者であることを旅券により確認して行ったものであり、消費税法第8条第1項の免税譲渡に該当する。
- 本件各譲渡により購入した者を非居住者と信じた請求人に責任はなく、やむを得ない事情がある。
争点2:仕入税額控除
- 本件各買取申込者は、本件各仕入れに係る課税仕入れの相手方である。
- 買取申込書には、仕入れの相手方の氏名等が記載されており、
消費税法第30条第9項の請求書等の記載事項を満たす。 - これに基づいて作成した帳簿は、同条第8項に規定する帳簿に該当し、
仕入税額控除は認められるべきである。
5 審判所の判断
争点1について(免税譲渡)
本件譲渡①について
- 購入者①は、当該譲渡日に日本に入国しておらず、実際に時計を購入した者は別人であると認められる。
- 当該譲渡は、非居住者自身が「その所持する旅券等」を提示して購入したものではないため、
消費税法施行令第18条第2項に規定する方法による購入には該当しない。 - よって、消費税法第8条第1項の免税譲渡には該当しない。
イ 本件譲渡②について
- 購入者②は外国人であるが、居住者である夫と同居し、生計費を専ら夫が負担している。
- 夫は、日本国内の事業所に勤務し、入国後6か月以上経過していることから、
外為法令上、日本国内に住所又は居所を有するものと推定され、居住者に該当する。 - したがって、購入者②も非居住者とは認められず、
本件譲渡②は免税譲渡に該当しない。
「イ 法令解釈
(イ)消贄税法第8条第1項は、輸出物品販売場を経営する事業者が、外為法第6条第1項第6号に規定する非居住者に対し、政令で規定する物品で輸出するため政令で規定する方法により購入されるものの譲渡を行った場合には、当該物品の譲渡(免税譲渡)については、消費税を免除する旨を規定し、非居住者が輸出するために購入した物品について、一定の要件の下で消費税を免除することとしているが、その趣旨は、輸出物品販売場で物品を購入した非居住者が最終的に輸出することを前提とした譲渡については、その実質が輸出取引と何ら変わるところがないため、輸出取引と同様に消費税を免除しようとしたことにある。
そして、消費税法施行令第18条第2項第1号は、消費税法第8条第1項に規定する政令で規定する方法の一つとして、非居住者が、「その所持する旅券等」を事業者に提示することなどを規定しているところ、その趣旨は、非居住者が輸出するために購入する物品のみが消費税の免税の対象となることを担保しようとしたことにある。
上記の消費税法施行令第18条第2項第1号の趣旨からすれば、同号の「その所持する旅券等」とは、輸出物品販売場で物品を購入した非居住者自身の旅券等であることが当然に要求されていると解するべきである。
(ロ)上記(イ)のとおり、消費税法第8条第1項に規定する免税譲渡は、外為法第6条第1項第6号に規定する非居住者に対する譲渡であることを要件としているところ、同項第5号は、居住者とは本邦内に住所又は居所を有する自然人及び本邦内に主たる事務所を有する法人をいう旨、同項第6号は、非居住者とは、居住者以外の自然人及び法人をいう旨規定し、本件通達は、個人の居住性の判定が困難である場合の取扱いについて定めている。
外為法第6条第1項第5号及び同項第6号の趣旨は、外為法が内外の資金の出入りを管理又は調整しつつ、国際収支の均衡の維持及び通貨の安定を図ることを法の目的としていることに鑑み、居住者の範囲を日本の経済圏の領域内において経済活動を営んでいるか否かによって判断することにあると解される。
本件通達は、家族の居住性について、当該家族と同居し、かつ生計費を専ら負担している者の居住性に従うものとし(本件通達の1の(3)〔筆者注:外国為替法令の解釈及び運用について(昭和55年11月29日付蔵国第4672号)の6-1-5、6 《居住性の判定基準》を「本件通達」という。〕) 、また、本邦内にある事務所に勤務する者及び本邦に入国後6か月以上経過するに至った者について、その住所又は居所を本邦内に有するものと推定する(本件通達の1の(2)のイ)旨定めているところ、当該取扱いは、上記の外為法第6条第1項第6号及び上記(イ)の消費税法第8条第1項の趣旨に沿うものであるから、当審判所においても相当と認められる。」
「ハ 検討
(イ)本件譲渡①について
本件購入者①は、上記口の(イ)のとおり、令和元年8月5日に日本を出国し、同日以降日本に入国していないことから、上記1の( 3)のハの(口)のとおり、令和3年10月9 日に???において時計を購入する( 本件譲渡① ) ことはできず、同日、???において時計を購入した本件譲渡①の相手方は、本件購入者①とは別の者であると認められる。そうすると、本件譲渡①は、本件譲渡①の真実の相手方が、自身の旅券ではなく、別人である本件購入者①の旅券を請求人に提示して行った譲渡である。したがって、本件譲渡①は、消費税法施行令第18条第2項に規定する方法(非居住者が「その所持する旅券等」を事業者に提示すること)により購入されるものの譲渡には該当しないことから、消費税法第8条第1項に規定する免税譲渡に該当しない。
(ロ)本件譲渡②について
本件購入者②は、上記口の(ロ)のとおり、外国人であるところ、夫と同居し、かつ、その生計費は夫が負担していることから、本件通達の1の(3)の定めにより、その居住性は夫の居住性で判断することになる。そして、上記口の(ロ)のとおり、本件購入者②の夫は外国人であるが、日本国内の事業所に勤務している上に、日本に入国後6か月以上経過していることから、本件通達の1の(2)のイ
の定めにより、その住所又は居所を日本国内に有するものと推定され、当該推定を覆す事情も見当たらないことからすれば、外為法第6条第1項第5号の居住者となり、本件購入者②も、同号の居住者となって、同項第6号の非居住者とは認められない。そうすると、本件譲渡②は、非居住者に対する譲渡とは認められず、消費税法第8条第1項に規定する免税譲渡に該当しない。」
争点2について(仕入税額控除)
- 本件各買取申込者は、
自身が時計を売却したのではなく、名義貸しをしていたにすぎないと認められる。 - よって、買取申込書及びこれに基づく帳簿に記載された仕入先の氏名は、
真実の仕入先の氏名ではない。 - その結果、本件各仕入れは、
消費税法第30条第7項に規定する帳簿及び請求書等を保存しない場合に該当し、
仕入税額控除は適用されない。
イ 法令解釈
消費税法第30条第7項は、仕入税額控除に係る帳簿等が税務職員による検査の対象となり得ることを前提にして、事業者が、国内において行った課税仕入れに関し、同条第8項第1号所定の事項が記載されている帳簿を保存している場合及び同条第9項第1号所定の書類で同号所定の事項が記載されている請求書等を保存している場合において、税務職員がこれらの帳簿等を検査することにより課税
仕入れの事実を調査することが可能であるときに限り、仕入税額控除を適用することができることを明らかにするものであると解される。そして、事業者が消費税法第30条第7項に規定する帳簿等を保存していない場合には同条第1項の規定が適用されないことになるが、このような法的不利益が特に定められたのは、資産の譲渡等が連鎖的に行われる中で、広く、かつ、薄く資産の譲渡等に課税するという消費税により適正な税収を確保するには、当該帳簿等という確実な資料を保存させることが必要不可欠であると判断されたためである(最高裁平成16年12月16日第一小法廷判決・民集58巻9号2458頁参照)。
また、上記のような消費税法第30条第7項の規定の趣旨からすれば、帳簿等に記載されるべき事項は真実の記載であることが当然に要求されているというべきであり、事業者がその要件を具備した帳簿等を保存していない場合には、当該課税仕入れに係る消費税額について同条第1項の規定を適用して仕入税額控除をすることはできないと解するのが相当である。」
「ニ 検討
上記イのとおり、事業者において保存すべきとされている帳簿等については、真実の仕入先の氏名又は名称が記載されていることが求められる。そこで、請求人に対して時計を売却したのは本件各買取申込者か否かについて、以下検討する。
(イ)別表3の順号1から65までの者について
別表3の順号1から65までの者については、上記口の(リ)のとおり申述しているところ、当該申述については、上記ハのとおり信用できる。そうすると、これらの者は、第三者のために、自身が時計を売却したかのように装って、本人確認書類を店員に提示し、買取申込書に個人情報を記入して署名をするといういわゆる名義貸しをしたか、又は少なくとも自身が時計を売却したものではな
いといえる。したがって、???において、請求人に対し時計を売却したのは、別表3の順号1から65までの者ではないと認められる。
(ロ)別表3の順号66の者について
別表3の順号66の者は、令和3年3月2日から同年5月13日までの間に、???において合計9回、30点、総額70,020,000円の時計の買取申込書に署名している。また、この者は、上記口の(へ)のとおり、他の店舗において、同年3月から8月までの間に、本件署名等と同様のアルバイトに応募し、合計6回、9点、総額26,300,000円の時計の買取りに関する書類に署名している。??? での取引に係る署名は、他の店舗における署名がされた時期と同時期に行われているところ、個人が高額な時計を同時期に多数売却することは相当不自然である。さらに、同(ホ)のとおり、別表3の順号66の者には、令和元年から令和3年までの間、高額な時計を購入できるほどの収入があることを裏付ける証拠は見当たらなかったことも考慮すると、別表3の順号66の者が、自身の時計を売却したとは考え難く、自身が時計を売却したかのように装って、本人確認書類を店員に提示し、買取申込書に個人情報を記入して署名をしていたと推認される。
したがって、別表3の順号66の者は、いわゆる名義貸しをしていたにすぎず、???において、請求人に対し時計を売却していないと認められる。
(ハ)別表3の順号67の者について
別表3の順号67の者は、・・・別表2-5の順号12の取引の際、???に来店しているところ、当該取引においては、同行者とニ人で来店し、滞在時間が約3分と短く、同行者が時計及ぴ現金の受渡しを行っている。また、別表3の順号67の者には、同(ホ)のとおり、令和元年から令和3年までの間、高額な時計を購入できるほどの収入があることを裏付ける証拠は見当たらなかったことも考慮すると、別表3の順号67の者が、上記取引並びに別表2-4の順号29及び31の取引について、自身の時計を売却したとは考え難く、自身が時計を売却したかのように買取申込書に自身の個人情報を記入し署
名していたと推認される。したがって、別表3の順号67の者は、いわゆる名義貸しをしていたにすぎず、???において、請求人に対し時計を売却していないと認められる。
(二)小括
以上のとおり、請求人に時計を売却したのは本件各買取申込者ではなく、本件各買取申込書に記載された氏名は、いずれも真実の仕入先の氏名ではないと認められることから、本件各買取申込書に基づいて作成された本件帳簿に記載された仕入先の氏名も、真実の仕入先の氏名ではないと認められる。したがって、本件帳簿等は、消費税法第30条第7項に規定する帳簿等に該当せず、本件各仕入れは、請求人が消費税法第30条第7項に規定する帳簿等を保存しない場合に該当する。」
結論
本件各譲渡については、いずれも消費税法第8条第1項の免税譲渡に該当しない。
また、本件各仕入れについても、仕入税額控除は認められない。
したがって、審査請求人の請求はいずれも棄却する。
