2024年11月20日付けジャパン・タックス・インスティチュートのデジタルエコノミーと税制研究会「デジタルエコノミーと税制―税と社会保障によるデジタル・セーフティネット―」という報告書(本報告書)においては、Web3.0と税制という箇所で、要旨次のとおり、提案がなされています(13~14頁)。

以下、本報告書のWeb3.0と税制に関する内容を要約しつつ、読者が本報告書の正確な内容を把握できるよう原文を併記します。

暗号資産の法人税制に関して、令和5(2023)年度と令和6(2024)年度の税制改正で大きな進展がありました。特に、企業が保有する特定の暗号資産について、時価評価の対象外とする措置や、時価法と原価法の選択制が導入されたことは、企業のWeb3.0関連投資を促進する可能性があります。ただし、監査法人の不足という課題も指摘されており、この点の解決が今後の発展には重要です。

投資事業有限責任組合(LPS)による暗号資産関連の投資についても、規制緩和が進んでいます。これにより、Web3.0企業の育成や、ブロックチェーン技術を活用した新しい形態の投資が可能になると期待されます。

この点について、本報告書では次のとおり述べています。


Web3.0においては、長らく税制上の課題とされてきた暗号資産の期末時価評価課税の問題について、
2023年度税制改正で自社が発行し継続的に保有する暗号資産(ガバナンストークン等)を時価評価の対象外とする見直しが行われたのに続き、2024年度税制改正で発行者以外が保有する譲渡制限付暗号資産についても、時価法と原価法のいずれかを選択をすることができるようになった。ただし、企業がWeb3.0関連の投資等を行おうとする場合、監査を依頼できる監査法人が見つからないことが障害となって投資が進まない等の課題があるとされる。


投資事業有限責任組合(LPS)によるトークンの取得・保有につき、2023年4月に経済産業省が有価証券に該当するトークン(セキュリティトークン)への投資が可能との解釈通知を公表した。投資事業有限責任組合法(LPS法)で取得・保有することができる有価証券をブロックチェーン上でトークン化したに過ぎないとの解釈である。同様に、原資産を取得・所有する有価証券に該当しない企業組合持分、金銭債権、知的財産権、約束手形についても、ブロックチェーンを利用して資産の移転に係る事務処理をできると示した。

また、2024年5月には、LPSが合同会社の持分、および一定の要件を満たす暗号資産を取得・保有できるとするLPS法の改正が行われた。合同会社の持分の取得解禁は、LPSによる合同会社をブロッカーとした暗号資産の投資や、合同会社型DAOへの投資に道を拓くものである。LPSによる暗号資産への直接投資については、詳細は政省令を待つ必要があるが、Web3.0企業が発行する暗号資産をLPSが直接保有してWeb3.0企業を育成することが可能になることが見込まれる。

DAO(分散型自律組織)については、実際上、ビジネスを遂行する上では、法人格の必要性が認識され、上記のとおり、日本では合同会社型DAOの設立への道が開かれつつあります。今後、一般社団法人型やNPO法人型のDAOについても法整備が進むことが予想され、それぞれの法人形態に応じた税制の適用が期待されます。

この点について、本報告書では次のとおり述べています。


DAOは、デジタルネイティブな事業体として、種々の目的のために組成が行われる。

基本的には、ウェブサービス等の事業を開発・運営する特別目的会社(SPC)として、トークンを用いて事業のユーザーを含むトークン保有者による経済圏(エコシステム)を拡大するとともに、事業運営により得られる価値向上分を再投資やトークン保有者への還元に充てることにより、経済圏を成長・発展させていく自律的組織である。デジタル空間上の国境を越えた存在で、発行したトークンが経済圏内の通貨として流通するが、外部とのやりとりには事業運営等を通じて獲得した法定通貨が使用される。

DAOの社会実装のためには、財産を保有し権利義務の主体となる法人格が必要との声が強く、日本では合同会社型、一般社団法人型、NPO法人型が指向されるが、まずは合同会社型DAOについて、既存の合同会社の制度とのギャップを法改正および解釈により解消する形で、法人格を持つDAO設立への道が開けた。DAOの法整備と健全な実務慣行の確立を目指す日本DAO協会が設立されたこともあり、今後は一般社団法人型、NPO法人型のDAOについても法整備を含む検討が進められ、それぞれの法人形態に従った税制が適用されることが見込まれる。

メタバースに関しては、その経済規模の拡大に伴い、税の捕捉が難しい新たな課題が浮上しています。メタバース内での経済活動が法定通貨に換金されるまで税の把握が困難である点は、今後の税制設計において重要な検討事項となるでしょう。

この点について、本報告書では次のとおり述べています。

メタバースは、2023年のグローバルな市場規模が100億ドルに近いと推測され、ゲーム以外にも、バーチャル不動産投資、NFTやリアルまたはバーチャルな商品の販売、デジタルサービスの提供、ソフトウェア開発等の種々の経済活動が行われている。メタバースは外部から経済活動が見えにくい点に特徴があるが、メタバース内では経済活動の対価として暗号資産等のデジタルマネーが使用されることがあり、この場合、法定通貨への換金がなされ金融機関口座に法定通貨が記帳されるまで、既存の体制では税の捕捉が難しい可能性がある。逆に言えば、メタバース内で経済活動が続けられる限り課税の機会を逸することになりかねず、これが新たな租税回避を生むとの指摘もある。

暗号資産現物ETF(上場投資信託)については、国内での取り扱いが開始された場合、現行の暗号資産取引との税制上の取り扱いの差異が生じる可能性があります。この点については、金融当局や税制当局の今後の対応が注目されます。

この点について、本報告書では次のとおり述べています。


暗号資産については、複数の国で暗号資産現物ETFの取扱いが開始されている。国内ではまだ上場は認められていないが、取扱いが開始され、暗号資産現物ETFに申告分離課税が適用されると、雑所得として扱われる暗号資産現物取引と所得税法上の取扱いが大きく異なることになる。現状、暗号資産については、裏付ける資産がなく投機の対象になりやすいことなどから、金融税制の優遇的な取り扱いが認められていない。にもかかわらず、これを原資産とした信託商品とすることにより、損失繰越による損益通算が可能になれば、税の取扱いの差異はさらに大きくなることから、金融当局や税制当局の取扱いが注目される。