論文の概要
暗号通貨の成長と課題
この10年間で暗号通貨市場は急速に成長し、その課税上の法的枠組みや、税務行政へ突き付ける課題への対処は各国で異なります。課税当局が税務コンプライアンスの適切な執行と脱税対策を試みる際に、暗号資産の(疑似)匿名性が立ちはだかります。
EUと米国の取り組み
各国は暗号通貨について、その分類(財産、私的通貨、外貨のいずれか)と暗号通貨取引の課税上の影響(譲渡時の費用や価値の決定方法、キャピタルゲインの有無、VAT対象か、免税対象かなど)の両面において、異なる規制上のアプローチを採用しており、このことは、異なる法域におけるハイブリッドミスマッチの結果として、タックスプランニングの機会を生み出すものであることは間違いないないです。
他方、これまで採用されてきたアプローチは各国の国内法に依存するものであり、税の観点から暗号通貨がもたらす最大の課題である匿名性をどのように解決するかについては、コンセンサスが得られていません。
暗号通貨の匿名性を規制するために各国が採用しているアプローチは様々であること、加えて米国のFATCAやEUのAMLD5の取組みが不十分なものであることは、暗号通貨の匿名性に対処する規制を欠く国が大半を占めるという事実に拍車をかけています。これにより、人々が脱税することを可能にさせるという大きな問題が生じています。
- EUのマネーロンダリング防止指令5(AMLD5):
投資家、取引所、ブローカー、規制当局、またはエコシステムに参加するその他の事業体など、暗号資産市場に関わるすべての主要関係者(ステークホルダー)を適切に扱ったり、含んでいません。
つまり、問題となっている法律は、市場のすべての側面や参加者を効果的に規制または監督するには十分包括的ではありません。
- 米国の外国口座税務コンプライアンス法(FATCA):
FATCAは暗号通貨取引所やウォレットプロバイダーに米国人等の口座の報告を明示的には要求しておらず、実効性を妨げる可能性があります。
構成
1. INTRODUCTION
1.1. The Problem
1.2. Prior Research into the Taxation of Cryptoassets
2. THE THEORETICAL FRAMEWORK OF BLOCKCHAIN AND CRYPTOASSETS
2.1. What is Blockchain?
2.2. The Definition and Origin of Cryptoassets
2.3. Why Do People Use Cryptoassets?
2.4. The Issue of Anonymity
2.5. Participants in the Cryptoasset Market
CRYPTOASSET REGULATION AND TAXATION
3.1. Cryptoasset Regulatory Framework
3.2. Cryptocurrency Anonymity
3.3. The European Union: AMLD5
3.4. Problems with the European Union’s AMLD5
3.5. United States: FATCA
3.6. Problems with the United States’ FATCA
3.7. Recent Public Consultations and Proposed Cryptoasset Legislation
4. DISCUSSION
5. CONCLUSIONS
コメント
この論文は、OECDのCARFやEUのDAC8の動向にも触れてはいますが、暗号資産の匿名性への対応には、各国の個別の取り組みではなく、国際的な協調が重要であることを示唆しつつも、これらのアプローチが最善の解決策かどうかは引き続き議論の余地があるという指摘にとどまっています。
この論文が指摘するとおり、暗号資産の匿名性は世界の課税当局に、適正課税(と徴収)の困難さという課題を生み出しています。暗号資産取引等の課税関係の研究や当局によるガイダンスの提示も重要ですが、この辺りの研究や効果的な枠組みの実装も引き続き推進して行かなければなりません。
このことは、この論文でも触れられているように、税法以外の規制との連携や国際的枠組みによる対応に関する議論を伴うものであるといえるでしょう。
なお、税務執行との関係では他に論ずるべき点は他にもあると考えますので、いつか論文等で明らかにしたいと思います。