この記事でわかること

  • 東京国税局調査第一部事前確認審査課の「APAフォローアップ研修(令和6事務年度)」内部資料の内容と概要
  • 移転価格税制フォローアップ研修(令和6年10月実施)―審査資料の収集・説得、機能・リスク分析・コンパラ選定・独立企業間価格のQ&A
  • 事前確認(APA)確認通知事務研修(令和6年8月実施)―バイ事案(二国間)・ユニ事案(単独)の差異と確認通知事務の流れ
  • 黒塗り(伏せ字)箇所の考察―当局が「資料提出の説得力」や「コンパラ選定の効率性」を重要課題としていることの読み解き
  • 海外取引を行う企業にAPAが予測可能性を高める重要な手段であることと、当局が「効率的かつ説得力のある審査」を目指す姿勢の確認

  1. はじめに
    本記事では、東京国税局 調査第一部 事前確認審査課が実施した令和6事務年度「フォローアップ研修」の資料を紹介します。

資料1:移転価格税制(質問事項に係る回答)

資料2:事前確認手続(APA)確認通知事務の概要 情報公開資料のため、実務の詳細部分は一部黒塗りとなっていますが、公開された文言から当局の審査方針を読み解きます。

このほか、移転価格税制の基礎的な概要を把握するための研修資料を含む移転価格税制に関連する文書や国税庁の「令和6年7月2日付国際課税分野における体制再編後の事務手続について(事務連絡)」なども添付いたします。

  1. 資料1:移転価格税制フォローアップ研修(令和6年10月実施)
    本資料は、審査現場での疑問に対する回答形式で構成されています。

審査資料の収集と説得: 「審査における質問や資料提出依頼は質問検査権に基づかないが、提出しない法人をどう説得するか」という問いに対し、事務運営指針に基づき、審査に必要である旨を具体的に説明する方針が示されています。

機能・リスク分析(分析結果の数値化): (※詳細は黒塗りですが、分析結果をいかに数値に落とし込むかが論点となっています)

独立企業間価格(ALP)の算定方法: 算定方法の選択、利益水準指標(ベリー比)、取引単位の考え方など、実務で争点となりやすい項目が並びます。

コンパラ(比較対象企業)選定: 機能・リスク分析の結果をどう活かすか、効率的かつ説得力のある選定方法についてのQ&Aが含まれています。

その他: 「国外関連者が赤字の場合の対応」や「コロナ禍の影響の考慮」など、近年の経済状況を反映した項目が確認できます。

  1. 資料2:事前確認手続(APA)確認通知事務(令和6年8月実施)
    事前確認(APA)の最終段階である「確認通知事務」に焦点を当てた研修資料です。

確認通知事務の定義: 「当初の申出内容を確認内容に合致させて、確認対象期間へとつなぐ事務」と定義。バイ事案(二国間)とユニ事案(単独)でのスタート時期の違いが説明されています。

サポート通信(第5号)の活用: 平成29年発行の内部情報「サポート通信」を参照しており、確認通知事務の流れと留意点が整理されています。

チェック表による管理: 「確認通知事務チェック表(令和6年7月12日現在)」に基づき、事務の正確性を期す体制が取られていることが分かります。

  1. 黒塗り(伏せ字)箇所に関する考察
    本資料の多くのページ(特に具体的な分析手法や審査の進捗管理の詳細は)が黒塗りとなっています。これは、当局の具体的な審査基準やサンプリング手法が、納税者の予測可能性を過度に高め、適切な課税を免れることに繋がるのを防ぐためと考えられます。

しかし、公開されている目次や見出しだけでも、東京国税局が「資料提出の説得力」や「コンパラ選定の効率性」を現在の重要課題としていることが読み取れます。

  1. まとめ
    海外取引を行う企業にとって、APA(事前確認)は予測可能性を高める重要な手段です。今回の研修資料からは、当局がより「効率的かつ説得力のある審査」を目指している姿勢が伺えます。

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実務上のポイント

  1. 事前確認(APA)は、事後的な移転価格調査や課税を回避するための重要な手段である。特に海外関連者との取引が複雑化するほど、独立企業間価格(ALP)の証明負担や審査リスクを事前に回避する観点から、一時的コスト増になってもAPA利用を検討する価値がある。
  2. 本研修資料から、当局は審査において「機能・リスク分析の数値化」および「コンパラ(比較対象企業)選定の効率性」を重要課題としていることが読み取れる。納税者側は機能・リスク分析の内容を整理するとともに、選定したコンパラの根拠を明確に説明できる準備を整えておくことが強く推奨される。
  3. APA審査における資料提出要請は求められるが、質問検査権に基づくものではない。そのため、審査を左右する事務運営指針の規定と審査担当者の説得方針を把握しておくことが審査対応の重要な点である。審査の具体的な基準は非公開だが、資料を具体的に説明する姿勢が求められることが明らかである。
  4. APAが成立した後の「確認通知事務」は、当初の申出内容を確認内容に合致させる重要な段階である。バイ事案(二国間APA)とユニ事案(単独APA)では開始時期が異なるため、自社のスケジュール管理が不可欠である。
  5. 移転価格の文書化制度対応も当面の重要課題である。本資料に添付の継続管理法人・文書化制度・事務連絡等の文書も併せ確認することで、移転価格調査に備えた事前準備が可能となる。
Q1. 移転価格税制(TP税制)とは何ですか。APA(事前確認)とはどう違いますか。
移転価格税制は、内国法人が海外関連者と行う取引において独立企業間価格(ALP)と異なる価格を設定した場合に、その差額を内国法人の課税所得に加算する制度です。一方、APA(事前確認)は、事前に当局と合意して独立企業間価格の算定方法を確定する申請制度です。APAを利用することで、移転価格調査による事後的な課税リスクを事前に回避することができます。
Q2. 東京国税局のAPA審査では、なぜ「コンパラ選定」や「機能・リスク分析」が重視されるのですか。
本研修資料から、東京国税局は審査の質の向上と効率化のため、「コンパラ(比較対象企業)選定の説得力」と「機能・リスク分析結果の数値化」を重視していることが分かります。納税者側でも、機能・リスク分析を十分に整備し、コンパラ選定の理由を説明できる記録を残すことが、審査をスムーズに進める鍵となります。
Q3. APA審査において、申請者が特に注意すべき点は何ですか。
二国間APA(バイ事案)では、確認通知事務の開始時期が単独APA(ユニ事案)と異なります。審査段階では資料提出を求められることが多く、質問検査権に基づかないため、審査担当者とのコミュニケーションを誠実に行うことが重要です。事務運営指針に基づく審査の流れを把握し、記録管理を徹底することが不可欠です。