情報公開請求で入手した国税庁課税総括課「質問応答記録書作成の手引」(令和5年12月)に基づき、税理士・東洋大学法学部教授の泉絢也が解説します。

結論

  • 質問応答記録書とは、税務調査中に調査官が納税者の回答を記録し、署名を求める書類です。
  • 当局からみると、質問応答記録書は、課税が適法であることを立証するために作成するものです。
  • 通常の調査メモ(調査報告書)とは異なり、署名を得ることで「納税者自身が内容を確認した証拠」として利用されます。
  • 主に重加算税の「隠蔽・仮装」の立証や、争訟における証拠として利用されることを目的としています。
  • 署名は「任意」であり、拒否することができます。署名を強制する法的根拠はありません。
  • 内容を確認せずに署名すると、「隠蔽・仮装を認めた」と解釈される重大なリスクがあります。

本記事は、情報公開請求で入手した国税庁課税総括課「質問応答記録書作成の手引」(令和5年12月)に基づき、税理士・東洋大学法学部教授の泉絢也が解説しています。

この記事でわかること

  • ✔ 質問応答記録書とは何か ― 調査報告書との決定的な違い
  • ✔ 調査官はなぜ質問応答記録書を作成するのか ― 重加算税・争訟との関係
  • ✔ 国税庁「質問応答記録書作成の手引」の構成と概要
  • ✔ 「手引」が調査官に指示している作成手法の核心
  • ✔ 署名を求められたときに確認すべき5つのポイント
  • ✔ 署名を拒否した場合にどうなるか

質問応答記録書とは何か ― 調査報告書との決定的な違い

税務調査において、調査官は納税者との質問のやり取りを記録することがあります。この記録には「質問応答記録書」と「調査報告書」の2種類がありますが、両者の性質はまったく異なります。

国税庁の「手引」は、この違いを明確に説明しています。

質問応答記録書:「その記載内容について、答述したとおり誤りがない旨の回答者による確認を経た上で、その確認作業の証として回答者による署名を受けるもの」

調査報告書:「回答者の答述内容を調査担当者が記載したに過ぎず、その記載内容について、回答者の確認を何ら経ていないもの」

この違いは決定的です。質問応答記録書は納税者の署名があるために証拠としての価値(証明力)が高く、後の不服申立てや訴訟において調査報告書よりも信用できる証拠として扱われます。だからこそ、署名の前に内容を慎重に確認する必要があるのです。

なぜ質問応答記録書が作成されるのか ― 重加算税との関係

質問応答記録書が作成される最も典型的な場面は、調査官が重加算税の賦課を検討しているときです。

「手引」は、質問応答記録書の目的を「課税要件事実の立証」と明記しています。課税要件事実とは、課税が適法であることを裏付ける具体的な事実のことです。

重加算税は、単なる申告の誤りではなく、「隠蔽(隠すこと)」や「仮装(でっち上げること)」があった場合に課される、35%(無申告の場合は40%)という極めて重いペナルティです。しかし、「手引」も認めるとおり、どのような「具体的事実」が「隠蔽又は仮装」に該当するかは法律に何ら規定がなく、ケースバイケースです。

だからこそ、調査官は質問応答記録書を通じて、納税者から「わざと領収証を破棄した」「意図的に除外した」という趣旨の発言を引き出し、それを「隠蔽・仮装」の証拠として固めようとするのです。

ここだけの話ですが、「調査官は三度の飯よりも重加算税が好き」と言われるほど、重加算税を課すことは調査官にとって大きな「実績」になります。質問応答記録書は、その実績を確保するための証拠固めの手段として利用されている側面があるのです。

なお、「手引」は、「納税者が過少申告を自認しているような基本的な事案」においても質問応答記録書の作成を実践すべきとしています。つまり、争いになりそうな事案だけでなく、一見円満に進んでいる調査であっても、質問応答記録書が作成されることがあるのです。

国税庁「質問応答記録書作成の手引」の構成と概要

情報公開請求により入手した国税庁課税総括課「質問応答記録書作成の手引」(令和5年12月)は、調査官向けの内部マニュアルです。「はしがき」には、「ベテランのみならず、若手の職員も、審判や訴訟の場において信用性に疑問を持たれない質問応答記録書を作成すること」を目標にすると記されています。

同手引は以下の5章で構成されています。

I 質問応答記録書作成のフロー
質問応答記録書の作成に関する全体的な流れを示すもの。
II 質問応答記録書作成における重要事項(12項目)
(1) 質問応答記録書を作成することの重要性
(2) 事前準備(課税要件事実の分析)の重要性
(3) 事実の要素を明らかにすること(誰が・いつ・どこで・誰と・何を・なぜ・どのように)
(4) 「評価」ではなく「具体的事実」を記載すること
(5) 答述が変遷した場合の対応(変遷理由の録取)
(6)〔不開示〕前後の項目の流れから、回答者が非協力的な対応をとった場合の具体的な対処方法が記載されていると推測される
(7) 客観的証拠との整合性に留意すること
(8) 証拠物を示す場合の録取方法
(9) 問答形式と物語形式の選択
(10) 不相当な誘導尋問を問として記載しないこと
(11) 読みやすく、理解しやすい記載を心掛けること
(12) 回答者が外国人である場合の留意点
III FAQ(41問)
総論、冒頭部分・本文の記載要領、読み上げ・閲読、署名、完成後の対処、その他に関する実務的なQ&A。
IV 奥書・その他
署名及び奥書の記載例、文字の挿入・削除の記載例、添付資料の記載例。
V 質問応答記録書作成事例集
収入・売上げの除外、架空外注費、架空人件費、水増し仕入れ、棚卸除外、相続財産の帰属、無申告など、具体的な事例に基づく作成例と注釈。

「手引」が調査官に指示している作成手法の核心

「手引」の内容を納税者の側から読み解くと、調査官がどのような手法で質問応答記録書を作成しようとしているかが見えてきます。以下の5つのポイントは、納税者として知っておくべき重要事項です。

(1)「事実の要素」を徹底的に明らかにする

「手引」は、質問応答記録書に「①誰が、②いつ、③どこで、④誰と、⑤何を、⑥なぜ、⑦どのようにしたか」という7つの「事実の要素」を可能な限り明らかにするよう指示しています。特に「主体(誰が)」と「日時(いつ)」が重要とされています。

つまり、調査官は「あなたが」「いつ」「何を」したかを、曖昧さなく特定しようとします。回答する際は、記憶が曖昧な部分は「記憶にありません」「正確にはわかりません」と答えて構いません。推測で答えると、それが「事実」として記録されるリスクがあります。

(2)「評価」ではなく「具体的事実」を記載する

「手引」は、「評価」(例:「隠蔽した」「仮装した」)ではなく、「具体的事実」(例:「請求書を破棄した」「二重帳簿を作成した」)を記載すべきとしています。

しかし、「手引」自身も「評価」と「具体的事実」の区別は難しいことが少なくないと認めています。納税者としては、自分の回答が「評価」として記録されていないか ― 例えば「わざと」「故意に」「知っていたが」などの表現が含まれていないか ― を注意深く確認する必要があります。

(3)答述の「変遷」を証拠化する

調査の過程で回答者の説明が変わった場合、「手引」は変遷の理由を聴取して質問応答記録書に記録するよう指示しています。

最初の説明と後の説明が異なると、「嘘をついていた」と推認される材料になりかねません。一貫した説明ができるよう、事前に事実関係を整理しておくことが重要です。

(4)「誘導尋問」の問題

「手引」は、「不相当な誘導尋問を問として記載しないこと」と明記しています。誘導尋問とは「質問者が回答者に期待する答が質問の中に示されている質問」のことです。

特に「手引」が問題視しているのは、「それまでの回答者の答述を質問者が要約し、これを認めさせたり、質問者の『評価』を回答者に認めさせる内容のもの」です。つまり、調査官が自分の見立てを質問の形にして押し付け、納税者に「はい」と言わせる手法です。

「手引」自身がこれを「差し控えるべき」としているにもかかわらず、現場ではこのような質問が行われることがあります。「はい」「いいえ」で答えさせる質問が続いた場合は特に注意が必要です。

(5)「問答形式」と「物語形式」の使い分け

「手引」によれば、質問応答記録書には「問答形式」(質問と回答の両方を記載)と「物語形式」(回答者が自ら物語っている形で記載)の2種類があります。

「手引」は両形式の証明力に差はないとしつつも、問答形式には「問の記載内容によっては、不適切な質問が行われていたと疑われ、答述の信用性が低下する危険がある」という短所を認めています。そのため、「物語形式を積極的に用いること」を推奨しています。

物語形式の場合、納税者が自発的に語ったかのような文章になりますが、実際には調査官が質問し、その回答を調査官がまとめたものです。署名前に「自分がこのように語った覚えはない」と感じたら、修正を求めてください。

署名を求められたときに確認すべき5つのポイント

(1)署名は「任意」であり、拒否できる

「手引」のFAQ問27は「回答者が署名を拒否した場合はどのように対応すべきか」という問いを立てており、署名拒否が想定されるケースとして扱っています。署名を強制する法的根拠はありません。

(2)読み上げ・閲読の手続を求める

「手引」のFAQ問18によれば、完成した質問応答記録書は回答者に対して読み上げた上で閲読させる手続が定められています。この手続をスキップされた場合は、必ず「読み上げてください」「自分で読ませてください」と求めてください。

(3)内容を隅々まで確認する

特に以下の表現が含まれていないか注意してください:

・「故意に」「意図的に」「わざと」「知っていたが」→ 隠蔽・仮装の認定に直結
・「間違いありません」「そのとおりです」→ 調査官の要約をそのまま認めたことになる
・記憶にないことが断定的に記述されている → 「記憶にありません」に修正を求める

(4)追加・削除・変更を申し立てる

「手引」のFAQ問19によれば、読み上げ・閲読後、署名前に回答者から記載内容について追加・削除・変更の申立てがあった場合の対応手続が定められています。自分の意図と違う表現があれば、遠慮なく修正を求めてください。

(5)税理士の助言を受けてから判断する

可能であれば、署名の前に税理士に内容を確認してもらうことを強く勧めます。「持ち帰って検討したい」と伝えることは、何ら問題のない対応です。

完成後に訂正・変更を求めることはできるか

「手引」のFAQ問34は「質問応答記録書を完成させた後に、回答者から訂正・変更・削除の申立てがあった場合、どのように対応すべきか」という問いを扱っています。

つまり、制度上は完成後の訂正申立て自体は想定されています。しかし、一度署名してしまった質問応答記録書の内容を後から覆すことは、実務上極めて困難です。審判官や裁判官は「署名した以上、内容を確認した上で同意したはずだ」と推認するからです。

このため、署名の段階で慎重に対応することが決定的に重要なのです。

質問応答記録書の写しは交付されるか

「手引」のFAQ問40は「回答者や税理士から質問応答記録書の写しの交付を求められた場合、どのように対応すべきか」を扱っています。

これによると、回答者や税理士に交付することを目的とした行政文書ではないことから、調査時に写しを交付したり、撮影をさせてはならないとされています。ただし、別途、保有個人情報の開示請求をすることで開示されます。

納税者としては、署名した質問応答記録書の写しを手元に保管しておくことが望ましいです。後日、内容について争いが生じた場合に、自分がどのような内容に署名したかを確認できるからです。

専門家の視点 ― 質問応答記録書の構造的問題

「手引」は、調査官向けの内部マニュアルとしては非常に精緻に作られており、「不相当な誘導尋問を差し控えるべき」「客観的証拠と矛盾する答述を記載しないよう留意すべき」など、適正な手続への配慮も見られます。

しかし、私は以下の構造的問題を指摘せざるを得ません。

第一に、質問応答記録書はあくまで調査官が作成する書類であり、納税者が自ら記述するものではないという非対称性です。調査官の「聞き取り方」「まとめ方」によって、同じ発言でもニュアンスが大きく変わります。「手引」は、「評価」ではなく「具体的事実」を記載すべきと強調しており、このこと自体が、現場でその区別が守られていない実態を示唆しています。

例えば、売上の計上漏れに対して重加算税を賦課しようとする調査官にその根拠を尋ねたところ、「売上を隠蔽したため」という回答が返ってきたことがあります。これでは、具体的にどのような事実をもって、売上の計上漏れが「隠蔽」と評価されたのか、わかりません。

納税者が争わなければ、このような「緩い」判断によって重加算税が賦課されてしまうのが税務調査の現実です。

第二に、「手引」のはしがきが「審判や訴訟の場において、審判官や裁判官が質問応答記録書の記載内容に疑念を持ち、その結果、重要な証拠であった質問応答記録書の信用性が否定され、課税処分が取り消されることもある」と率直に認めている点です。これは裏を返せば、問題のある質問応答記録書が実際に作成されてきたという事実を国税庁自身が認識していることを意味します。

このことの背後には、「重加算税ノルマ重視」、「納税者が争わなければ事実に即した処理であるか否かは問わない」、「効率的調査」、「調査重視・法律軽視」といった組織風土があると考えます。

第三に、近年の税務調査では調査官の経験やスキルの低下が指摘されており、「手引」が整備されていること自体は評価できますが、現場でその手続が遵守されているかの外部検証は不十分です。

納税者が不服を申し立てなければ、会計検査院によるチェックは別としても、当局の処理に裁判所などの外部機関のチェックが入らないという仕組み自体にも問題があるかもしれません。

納税者としては、質問応答記録書の存在と目的を事前に知っておくこと、そして署名の際には必ず税理士の助言を受けることが、自分の権利を守る最善の方法です。

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