記事の紹介

コロナ禍の事業継続を支えた「事業復活支援金」。しかし、後に受給要件を満たさないことが判明し、自主返還を行うケースが増えています。ここで大きな問題となるのが、「返還した金額を、受給した年の所得から差し引けるのか(更正の請求ができるのか)」という点です。

令和6年5月20日の国税不服審判所裁決では、この点について厳しい判断が下されました。審判所は、一度受領した支援金は「担税力」を増加させているため受給年の収入とすべきであり、返還による損失は「現実に返還した年」の必要経費にするのが正当であると結論づけました。本記事では、なぜ「更正の請求」が認められなかったのか、所得税法上の「資産損失」の考え方とともに確認します。

裁決要旨

国税不服審判所ホームページの裁決要旨

請求人は、令和4年分に事業所得の総収入金額に算入した事業復活支援金(本件支援金)を翌年に返還した(本件返還金)から、本件返還金の額を請求人の令和4年分の事業所得の金額の計算上控除することができ、国税通則法第23条《更正の請求》第1項第3号に規定する更正の請求ができる場合に該当する旨主張する。

しかしながら、請求人は、本件支援金を受給したことにより、現実に利得を支配管理し自己のために享受して担税力を増加させたといえるから、本件支援金は令和4年分の事業所得の計算上総収入金額に算入すべきである。

また、中小企業庁長官が本件支援金の給付決定を取り消したことにより、請求人の本件支援金を受給する権利は消滅し、本件支援金は実際に支援金事務局に返還されたのであるから、経済的効果(純資産の増加)が現実に消滅したといえる。

したがって、本件返還金は、所得税法施行令第141条《必要経費に算入される損失の生ずる事由》第3号が規定する事由によって生じた損失として、所得税法第51条《資産損失の必要経費算入》第2項に基づき現実に返還された日の属する年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入すべきであって、令和4年分の必要経費に算入することはできない。したがって、請求人の令和4年分の確定申告書の内容に誤りはないから、更正の請求ができる場合に該当しない。(令6. 5.20 大裁(所)令5-48)


事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、令和4年分の事業所得の総収入金額に算入した事業復活支援金を、翌年に返還したことを理由として、当該返還額を令和4年分の事業所得の金額の計算上控除できるか、また、その結果として、国税通則法第23条第1項第3号に規定する「更正の請求」ができる場合に該当するか否かが争われた事案である。

請求人は、原処分庁がした「更正をすべき理由がない旨の通知処分」の取消しを求めた。


基礎事実

当事者の属性

請求人は、スナックを営む個人事業者である。《OR0548》裁決書

事業復活支援金の受給

請求人は、令和4年3月23日、事業復活支援金事務局に対し給付を申請し、同月末頃に500,000円の事業復活支援金(以下「本件支援金」という。)を受領した。

事業復活支援金は、新型コロナウイルス感染症の拡大や長期化に伴う需要の減少又は供給の制約により大きな影響を受け、自らの事業判断によらず売上げが大きく減少している個人事業者等に対して、令和3年11月から令和4年3月までの期間における影署を緩和して事業の継続及び立て直しのための取組を支援するため、事業全般に広く使える支援金を給付することを目的として中小企業庁が策定した「事業復活支援金給付規程」に基づく給付金である。中小企業庁は、同規程に基づき、給付に必要な事務を行う支援金事務局を設置している。

確定申告の内容

請求人は、令和5年2月22日、令和4年分の所得税等について確定申告書を提出した。請求人は、支援金事務局から受領した本件支援金について、当該青色申告決算書(一般用)の「本年中における特殊事情」欄に、雑収入で計上している旨記載し、事業所得の金額の計算上、総収入金額に算入していた。

本件支援金の返還

請求人は、令和5年9月11日、本件支援金と同額の500,000円を給付金返還窓口事務局名義の???の指定口座に振り込み、同月12 日に本件支援金は支援金事務局に返還された(以下、本件支援金に係る返還金を「本件返還金」という。)

更正の請求

請求人は、本件支援金を返還したことを理由として、令和4年分の事業所得の金額を500,000円減額すべきであるとして、更正の請求を行った。

しかし、原処分庁は、更正をすべき理由がない旨の通知処分を行った。


争点

本件の争点は、以下の点である。

本件返還金の額を、請求人の令和4年分の事業所得の金額の計算上控除することができるか

(=国税通則法23条1項3号に規定する更正の請求ができる場合に該当するか)


争点についての請求人の主張

請求人は、次のように主張した。

すなわち、通則法第23条は、課税所得金額を本来あるべき金額に正すための規定であり、暦年課税の原則から判断しても、本件返還金の額を令和4年分の事業所得の金額の計算上、控除したものとしなければならないとした。

したがって、同条第1項第3号に規定する「更正の請求ができる場合」に該当すると主張した。



審判所の判断

認定事実

原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

本件支援金の給付決定

本件支援金は、請求人の給付の申請により、支援金事務局を通じて、中小企業庁長官が給付額を決定(以下「給付決定」という。)したものである。

請求人による自主返還

請求人は、中小企業庁が受給資格等に関する調査を委託した法律事務所から、給付要件に該当しない可能性がある旨の通知を受けたため、令和5年8月21日、支援金事務局に対し、本件支援金を自主返還する旨を電話連絡し、その後、本件支援金を返還した。

給付決定の取消しと返還手続の完了

中小企業庁長官は、本件支援金の返還を受けた後、上記給付決定を取り消し、支援金事務局は、令和5年9月26日、請求人に対し、本件返還金を中小企業庁長官に返還し、返還手続が完了した旨通知した。


法令解釈

収入金額該当性(所得税法36条1項)

所得税法第36条第1項は、その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額とする旨規定している。

ここにいう「収入金額とすべき金額」又は「総収入金額に算入すべき金額」について、所得税基本通達36-1は、その収入の基因となった行為が適法であるか否かを問わない旨定めている。

これは、課税所得は専ら経済的に、又は実質的に把握すべきものであり、その原因となる行為が有効なものか無効なものか等には関係なく、現実にその利得を支配管理し、自己のためにそれを享受して、その担税力を増加させている以上は、課税の対象とすべきであるとの考え方によるものと解される。

すなわち、税法の見地においては、課税の原因となった行為が、厳密な法令解釈の見地から不適法又は無効とされるかどうかは問題ではなく、当該行為が関係当事者間で有効なものとして取り扱われ、現実に課税要件事実が満たされていると認められる場合には、当該行為が有効であることを前提として租税を賦課徴収することは妨げられない。

当審判所も、このような取扱いが相当であると認める。


損失の必要経費算入時期(所得税法51条2項・施行令141条3号)

所得税法第51条第2項は、事業所得を生ずべき事業について、その事業の遂行上、政令で定める事由により生じた損失の金額は、その損失の生じた日の属する年分の事業所得の金額の計算上、必要経費に算入する旨規定している。

これを受けた所得税法施行令第141条第3号は、政令で定める事由として、

  • 無効な行為により生じた経済的成果が、その行為の無効に基因して失われた場合
  • 取り消すことのできる行為が取り消された場合

を掲げている。

これは、事業所得に対する課税が納税者の担税力に着目してなされるものであるところ、無効又は取消し得る行為により得られた利得であっても、現実に返還されるまでは担税力を有するとの考え方に基づくものである。

このような立法趣旨に照らせば、施行令141条3号のいう「経済的成果がその行為の無効であることに基因して失われ」、「取り消すことのできる行為が取り消された」とは、経済的成果(純資産の増加)が現実に消滅した場合をいうと解するのが相当である。


検討

請求人の主張の位置づけ

請求人は、令和4年分の事業所得の金額の計算上、本件返還金の額を控除しなければならない旨主張するのみであり、本件確定申告書に記載した課税標準等又は税額等の計算が、どの国税関係法令の規定に違反していたかについて具体的な主張をしていない。

そこで当審判所は、請求人の主張を、

  • 本件支援金を総収入金額に算入すべきでない
  • 又は、本件返還金を必要経費に算入すべきである

との趣旨であると解して、以下検討する。


本件支援金は令和4年分の総収入金額に算入すべきか

請求人は、令和4年3月末日頃、本件支援金を受領し、その時点で、

  • 現実にこれに係る利得を支配管理し
  • 自己のために享受し
  • 担税力を増加させた

といえる。

したがって、本件支援金は、受給日の属する令和4年分の事業所得の金額の計算上、総収入金額に算入すべきである。

なお、後述のとおり給付決定は取り消されているが、総収入金額に算入すべきか否かは、原因行為の有効・無効とは無関係であるから、この点は上記結論を左右しない。


本件返還金は令和4年分の必要経費に算入できるか

請求人は、令和5年8月21日に自主返還の意思を表示し、同年9月12日に本件支援金は実際に返還された。
その後、中小企業庁長官は給付決定を取り消した。

この結果、

  • 請求人の本件支援金を受給する権利は消滅し
  • 経済的成果(純資産の増加)は現実に消滅した

といえる。

したがって、本件返還金は、所得税法施行令141条3号が規定する事由によって生じた損失に該当し、所得税法51条2項に基づき、現実に返還された日(令和5年9月12日)の属する年分(令和5年分)の必要経費に算入すべきである。

令和4年分の必要経費に算入することはできない。


請求人の反論について

請求人は、施行令141条3号は「資産損失」に係る規定であり、銀行口座に振り込まれた支援金は売掛金のような「資産」には該当しないと主張する。

しかしながら、当該規定が適用されることは上記のとおりであり、請求人の主張には理由がない。


まとめ

請求人は、確定申告において、本件支援金を令和4年分の総収入金額に算入しているところ、

  • 本件支援金は、令和4年分の総収入金額に算入すべきであり
  • 本件返還金は、令和4年分の必要経費に算入することはできない

以上から、本件確定申告書に記載した課税標準等又は税額等の計算が、国税関係法令の規定に従っていなかったとはいえず、誤りがあったともいえない。

よって、本件更正の請求は、通則法23条1項3号に規定する「更正の請求をすることができる場合」には該当しない。


本件通知処分の適法性

上記のとおり、本件更正の請求は、通則法23条1項3号に該当しない。

また、本件通知処分のその他の部分について、請求人は争っておらず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

したがって、本件更正の請求に対し、更正をすべき理由がないとした本件通知処分は適法である。



「(1) 認定事実

原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

イ 本件支援金は、請求人の給付の申請により、支援金事務局を通じて、中小企業庁長官が給付額を決定(以下「給付決定」という。)したものである。

ロ 請求人は、中小企業庁が受給資格等に関する調査を委託した法律事務所から、給付要件に該当しない可能性がある旨の通知を受けたため、令和5年8月21日、支援金事務局に対し本件支援金を自主返還する旨を電話連絡の上、上記1の(3)の二のとおり本件支援金を返還した。

ハ 中小企業庁長官は、本件支援金の返還を受けた後、上記イの給付決定を取り消し、支援金事務局は、令和5年9月26日、請求人に対し、本件返還金を支援金事務局から中小企業庁長官に返還し、返還手続が完了した旨通知した。

(2) 法令解釈

イ 所得税法第36条第1項は、その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額とする旨規定しているところ、ここにいう「収入金額とすべき金額」又は「総収入金額に算入すべき金額」について、所得税基本通達36-1は、その収入の基因となった行為が適法であるか否かを問わない旨定めている。

これは、課税所得は専ら経済的に、又は実質的に把握すべきものであり、その原因となる行為が有効なものか無効なものか等には関係なく、現実にその利得を支配管理し、自己のためにそれを享受して、その担税力を増加させている以上は、担税力に即した公平な税負担の配分という見地から、課税の対象とすべきであるとの考え方によるものと解される。

すなわち、税法の見地においては、課税の原因となった行為が、厳密な法令の解釈適用の見地から客観的評価において不適法又は無効とされるかどうかは問題ではなく、当該行為が関係当事者の間で有効なものとして取り扱われ、これにより、現実に課税の要件事実が満たされていると認められる場合である限り、当該行為が有効であることを前提として租税を賦課徴収することは何ら妨げられないものである。以上の取扱いは、当審判所においても相当であると認められる。

ロ 所得税法第51条第2項は、事業所得を生ずべき事業について、その事業の遂行上政令で定める事由により生じた損失の金額は、その損失の生じた日の属する年分の事業所得の金額の計算上、必要経費に算入する旨規定し、これを受けた所得税法施行令第141条第3号は、政令で定める事由について、事業所得の金額の計算の基礎となった事実のうちに含まれていた無効な行為により生じた経済的成果がその行為の無効であることに基因して失われ、又はその事実のうちに含まれていた取り消すことのできる行為が取り消されたことと規定している。

これは、事業所得に対する課税は納税者の担税力に着目してなされるものであるところ、当該所得が無効あるいは取り消すことのできる行為により得られた利得であるときであっても、少なくともそれが現実に返還されるまでは担税力を有するものであり、その担税力が失われるまでは損失が生じたということはできないのであり、このような立法趣旨に鑑みれば、所得税法施行令第141条第3号の規定する「経済的成果がその行為の無効であることに基因して失われ」た及び「取り消すことのできる行為が取り消された」とは、経済的成果(純資産の増加)が現実に消滅した楊合をいうと解するのが相当である。

(3) 検討

請求人は、上記3の「請求人」欄のとおり、令和4年分の事業所得の金額の計算上、本件返還金の額を控除したものとしなくてはならない旨主張するのみで、本件確定申告書に記載した課税標準等又は税額等の計算が国税に関するどの法律の規定に従っていなかったかなど、通則法第23条第1項第3号の規定に定められた更正をすべき理由についての具体的な主張をしていない。そこで、請求人の当該主張は、令和4年分の事業所得の金額の計算上、本件返還金と同額である本件支援金を総収入金額に算入すべきでない又は本件返還金を必要経費に算入すべきであるとの趣旨であると解して、以下、この点について検討する。

イ 本件支援金を令和4年分の総収入金額に算入すべきでないか否かについて

上記1の(3)のロのとおり、請求人は、令和4年3月末日頃、本件支援金を受領したことにより、同日頃、現実にこれに係る利得を支配管理し、自己のために享受して担税力を増加させたといえる。そうすると、本件支援金は、受給日の属する令和4年分の事業所得の金額の計算上、総収入金額に算入すべきである。なお、後述のロのとおり、給付決定が取り消されたことにより請求人の本件支援金を受給する権利は消滅しているが、上記(2)のイのとおり、総収入金額に算入すべき金額は、その原因となる行為が有効なものか無効なものかは関係ないのであるから、上記の事実は当該結論を左右するものではない。

ロ 本件返還金を令和4年分の必要経費に算入すべきか否かについて 

請求人は、上記1の(3)の二及び上記(l)の口のとおり、令和5年8月21日に自ら本件支援金を返還する旨の電話連絡をし、同年9月12日に本件支援金は支援金事務局に返還され、その後、上記(1)のハのとおり、中小企業庁長官は給付決定を取り消した。

そうすると、請求人は、本件支援金の給付を受けることによって経済的成果を取得していたところ、中小企業庁長官が給付決定を取り消したことにより、請求人の本件支援金を受給する権利は消滅し、また、上記(1)のロのとおり、本件支援金は、実際に支援金事務局に返還されたのであるから、当該経済的成果(純資産の増加)が現実に消滅したといえる。

したがって、上記(2)のロのとおり、本件返還金は、所得税法施行令第141条第3号が規定する事由によって生じた損失として、所得税法第51条第2項に基づき現実に返還された日(令和5年9月12日)の属する令和5年分の事業所得の金額の計算上、必要経費に算入すべきであって、令和4年分の必要経費に算入することはできない。

なお、請求人は、所得税法第51条第2項及び所得税法施行令第141条3号は資産損失に係る規定であるところ、銀行口座に振り込まれた本件支援金は、例えば売掛金のような「資産」には該当しないから、当該規定は適用できない旨主張する。しかしながら、当該規定が適用できることは、上記で述べたとおりであるから、請求人の主張には理由がない。

ハ まとめ

請求人は、上記1の(3)のハのとおり、本件確定申告書において、本件支援金を令和4年分の事業所得の金額の計算上、総収入金額に算入しているところ、上記イのとおり、本件支援金は、令和4年分の事業所得の金額の計算上、総収入金額に算入すべきであり、他方、上記口のとおり、本件返還金は令和4年分の必要経費に算入することはできない。

したがって、本件確定申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったとはいえないし、当該計算に誤りがあったともいえないのであるから、本件更正の請求は、通則法第23条第1項第3号に規定する更正の請求をすることができる場合に該当しない。

(4) 本件通知処分の適法性について

上記(3)のハのとおり、本件更正の請求は、通則法第23条第1項第3号の規定に該当しない。また、本件通知処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

したがって、本件更正の請求に対し、更正をすべき理由がないとした本件通知処分は適法である。」

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