給与所得について源泉徴収票や給与明細の内容が食い違っていた場合、納税者はどのように申告すべきなのでしょうか。仮に誤った資料に基づいて確定申告を行い、後日修正申告をしたとしても、過少申告加算税は免れないのでしょうか。
国税不服審判所裁決令和6年 4月18日は、複数の法人から給与の支払を受けていた医師が、給与所得を過少に申告したことを理由に過少申告加算税を賦課された事案です。
請求人は、調査手続の違法性や、正しい源泉徴収票が交付されなかった事情を理由に「正当理由」があると主張しましたが、国税不服審判所はこれを退けました。実務上も極めて重要な「正当理由」の判断枠組みが示されています。
国税不服審判所ホームページの裁決要旨
請求人は、給与所得が過少申告となったことについて、給与の支払者から交付された複数の源泉徴収票や給与明細(源泉徴収票等)に相違があり、何を根拠に確定申告すればいいのか分からなかったこと、また、給与の支払者に正当な源泉徴収票等を交付するよう求めても交付されなかったこと等の事情は、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項第1号に規定する「正当な理由」があると認められる場合に該当する旨主張する。
しかしながら、申告納税制度の下では、納税者が十分な検討をした上で、自身の判断と責任において、法令の規定に従って適正な申告をすることが期待されているところ、請求人は、確定申告期限までに弁護士を通じて給与の支払者から入手した正当なものとみることが相当な給与明細に基づき確定申告ができたにもかかわらず、請求人は、当該給与明細によらず、相違する複数の源泉徴収票等に基づいて、収入金額が過少、社会保険料控除額が過大になるよう選択して確定申告をしているから、過少申告となったのは請求人自らの判断によるものといわざるを得ない。
よって、請求人の主張する事情は、請求人の主観的事情にすぎないから、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情には当たらず、過少申告加算税の趣旨に照らしても、なお、納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合には当たらないから、「正当な理由」があるとは認められない。(令6. 4.18 大裁(所)令5-44)
事案の概要
本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、令和3年分の所得税及び復興特別所得税について確定申告を行った後、修正申告書を提出したところ、原処分庁が過少申告加算税の賦課決定処分をしたことから、その取消しを求めて審査請求をした事案である。
請求人は、原処分庁の調査手続には違法があり、また、確定申告書に添付した源泉徴収票が誤っていたことや、正当な源泉徴収票が交付されなかった事情があることから、過少申告加算税が課されない「正当な理由」があると主張した。
基礎事実
請求人等の状況
請求人は医師であり、令和3年分において、複数の法人等から給与の支払を受けていた。
本件関係法人(以下「本件各法人」という。)は、???が代表取締役を務める法人であり、医療事務代行等を事業目的としていた。
源泉徴収票と給与明細の状況
請求人は、令和3年11月頃、本件各法人から、以下の源泉徴収票を郵送により受領した。
・支払者Aが記載された源泉徴収票
・支払者Bが記載された源泉徴収票
これらの源泉徴収票に記載された給与支払金額(以下「本件給与所得」という。)と、毎月交付されていた給与明細の記載内容との間には、金額の不一致が存在していた。
請求人は、代理人を通じて、本件各法人に対し、源泉徴収票と給与明細の整合性を確認し、修正するよう依頼した。
争点
本件の争点は、次の3点である。
争点1
本件調査の調査手続に、原処分を取り消すべき違法があるか否か。
争点2
本件修正申告書の提出が、通則法65条5項に規定する「調査通知がある前にされたもの」であり、かつ、「更正があるべきことを予知してされたものでない場合」に該当するか否か。
争点3
本件確定申告が過少申告となったことについて、通則法65条4項1号に規定する正当な理由があると認められる場合に該当するか否か。
争点についての主張
請求人の主張
請求人は、原処分庁から適法な事前通知を受けておらず、調査手続は違法であると主張した。
また、源泉徴収票と給与明細の内容が一致せず、正当な源泉徴収票が交付されなかったため、正確な給与所得額を把握することができなかったことから、過少申告については正当な理由があると主張した。
さらに、修正申告は自発的に行ったものであり、過少申告加算税は免除又は軽減されるべきであると主張した。
原処分庁の主張
原処分庁は、本件調査は適法に行われており、請求人に対して調査通知もされていると主張した。
また、請求人は修正申告時点で、更正がされることを予知していたと認められることから、通則法65条5項の適用はないとした。
さらに、源泉徴収票の誤り等は、納税者の責めに帰すことのできない客観的事情には当たらず、正当理由は認められないと主張した。
審判所の判断
争点1について
国税不服審判所は、修正申告は納税者の意思により行われるものであり、調査手続に違法があったとしても、修正申告自体が無効となるものではないと判示した。
その上で、本件調査において、調査担当者が違法な行為を行ったと認めるに足りる証拠はなく、調査手続に原処分を取り消すべき違法はないとした。
「(1) 争点1 (本件調査の調査手続に原処分を取り消すべき違法があるか否か。)について
イ 通則法第65条に規定する過少申告加算税は、期限内申告書が提出された場合において、修正申告書の提出(調査による更正があるべきことを予知してされたものでないときを除く。)又は更正があったときに賦課されるものである。
また、通則法第24条《更正》は、税務署長が、調査により、課税標準等又は税額等を更正する旨規定している一方、同法第19条《修正申告》は、納税申告書を提出した者は、更正があるまでは修正申告書を税務署長に提出することができる旨規定している。
そうすると、更正に基づき過少申告加算税の賦課決定処分が行われた場合においては、当該更正は「調査により」行わなければならないことから、仮に、調査手続に重大な違法があり調査が無いに等しいと評価された場合には、更正の取消事由となり、それらに基づき行われた賦課決定処分も取り消されることとなる。
他方、修正申告は、税務署長の調査の有無にかかわらず、納税者が自己の意思により行うものであって、更正と異なり、調査が要件になっているものではない。
したがって、修正申告が課税庁の調査を受けてなされた場合であっても、当該調査の手続上の違法を理由に、その申告が無効になることはなく、当該申告に基づき行われた過少申告加算税の賦課決定処分が取り消されることもないと解すべきである。
よって、請求人によって本件修正申告書の提出がされている本件においては、そもそも、本件調査の調査手続に違法があることを理由に原処分を取り消すことはできない。」
争点2について
審判所は、請求人に対して令和4年7月29日に調査通知がされており、本件修正申告書はその後に提出されていると認定した。
また、請求人は、遅くとも調査結果の説明を受けた時点で、更正がされる可能性を認識していたといえることから、本件修正申告は「更正があるべきことを予知してされたもの」に該当すると判断した。
したがって、通則法65条5項の適用はないとした。
「(2) 争点2 (本件修正申告書の提出は、通則法第65条第5項に規定する、調査通知がある前にされたものであり、かつ、その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでない場合に該当するか否か。)について
イ 法令解釈
修正申告審の提出があった場合には、通則法第65条第1項の規定により、その修正申告により納付すべき税額に100分の10の割合を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を賦課するのが原則であるが、同項括弧書は、修正申告書の提出があった場合であっても、申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知することなく自発的に修正申告書を提出した者に対しては、その修正申告に基づき納付すべき税額に100分の5の割合を乗じて計算した金額に減額した過少申告加算税を課する旨を定めており、さらに、その提出が調査通知がある前に行われたものであるときは、同項の規定を適用しないこととされている。その趣旨は、課税庁において課税標準を調査する等の事務負担等を軽減することができることも勘案して、自発的に修正申告を決意し修正申告書を提出した者に対しては例外的に一段低い水準の加算税を課すこと、あるいは、免ずることをもって納税者の自発的な修正申告を奨励することを目的とするものと解するのが相当である。
通則法第65条第1項括弧書の趣旨などからすると、修正申告書の提出が「その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでない場合」というのは、税務職員がその申告に係る国税についての調査に着手してその申告が不適正であることを発見するに足るかあるいはその端緒となる資料を発見し、これによりその後の調査が進行し先の申告が不適正で申告濡れの存することが発覚し更正に至るであろうということが客観的に相当程度の確実性をもって認められる段階(いわゆる「客観的確実時期」)に達した後に、納税者がやがて更正に至るべきことを認識した上で修正申告を決意し修正申告書を提出したものでないことをいうものと解するべきである。
そして、「客観的確実時期」が到来していたか否か、「納税者がやがて更正に至るべきことを認識した上で修正申告を決意し修正申告書を提出したものでない」といえるか否かについては、調査の内容や進捗状況、それに関する納税者の認識、修正申告に至る経緯、修正申告と調査の内容との関連性等の事情を総合考慮して判断すべきである。
なお、通則法第65条第1項括弧書及び第5項に規定する「調査」とは、課税標準等又は税額等を認定するに至る一連の判断過程の一切を意味し、課税庁の証拠資料の収集、証拠の評価あるいは経験則を通じての課税要件事実の認定、租税法その他の法令の解釈適用を含む税務調査全般を指すものと解するのが相当である。」
「本件調査担当者は請求人に調査通知を行った上で、請求人の本件年分の所得税等の課税標準等及び税額等の認定を目的とした調査を行っていたものと認められるし、請求人においても、遅くとも本件調査担当者の調査結果の説明を受けた時点において、本件調査の内容及び進捗状況を認識し、その上で本件修正申告書を提出していることからすると、本件修正申告書は、本件修正申告書を提出しなければ、更正される可能性があることが客観的に相当程度の確実性をもって認められる段階に達した後に、やがて更正に至るべきことを認識した上で提出されたものであると認めるのが相当である。」
「したがって、本件修正申告書の提出は、通則法第65条第5項に規定する、調査通知がある前にされたものであり、かつ、その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでない場合に該当しない。」
争点3について
過少申告加算税にいう「正当な理由」とは、真に納税者の責めに帰することのできない客観的事情があり、加算税を課すことが不当又は酷となる場合をいうとした。
本件では、請求人は確定申告時点で複数の給与明細及び源泉徴収票を入手しており、一定の判断に基づき申告することは可能であったといえる。
そのため、源泉徴収票等に不整合があったことのみをもって、正当理由があるとはいえず、過少申告加算税の賦課は相当であると判断した。
「???を通じて本件給与支払者から入手した本件各給与明細2に記載された各金額が正当なものであったとみるのが相当であり、請求人においても、本件確定申告書を提出する時点においては、そのような認識を持つことが十分に可能であったということができる。
そして、請求人は、本件各給与明細2を本件確定申告の法定申告期限までに入手していたのであるから、請求人が主張する事情があったとしても、正当なものであると考えられる本件各給与明細2に基づいて本件確定申告書を作成することができたといえる。
申告納税制度の下では、納税者が十分な検討をした上で、自身の判断と責任において、法令の規定に従って適正な申告をすることが期待されているところ、請求人は上記口の(二)のとおり、正当な本件各給与明細2に基づくことなく、請求人自身の判断で、支払金額及び社会保険料の金額については本件各給与明細1に、源泉徴収税額については本件源泉徴収票1に、それぞれ基づいて本件確定申告を行ったことにより、給与の支払金額が過少、社会保険料控除額が過大となったのであるから、本件確定申告が過少申告となったのは、請求人自身が独自の判断によって、上記のような選択を行ったことによるものといわざるを得ない。」
結論
審査請求を棄却する。
