令和6(2024)年度の税制改正において、国際的な税務コンプライアンスを強化するため、暗号資産等取引に関する新しい報告制度を整備しました。この制度は、暗号資産等取引の透明性を確保し、国際的な税務情報の交換を促進することを目的としています。令和8年1月1日から施行されるため、国内の暗号資産交換業者等は同年12月末までに顧客の暗号資産取引に関する情報を収集し、税務当局へ報告する義務を負います(提出期限は翌年4月末)。

暗号資産の売買、交換、移転、受入れなどの暗号資産等取引を取引する者は、自身の居住地国や納税者番号を明示する「届出書」を事業者に提出する必要があります。届出情報に変更があった場合は、速やかに「異動届出書」を提出することが求められます。

他方、税務当局との関係では、暗号資産交換業者や電子決済手段等取引業者、金融商品取引業者といった暗号資産交換業者等は、顧客の暗号資産取引に関する情報を適切に収集し、所定の期日までに税務当局へ報告する義務を負います。報告内容には、取引を行った者の名前や住所、納税者番号、暗号資産の種類ごとの取引量や総額、売買や移転の履歴が含まれますが、ウォレットアドレスは含まれていません。ただし、報告義務者には別途ウォレットアドレスの保存義務があります。

これにより、非居住者が日本国内の事業者を利用して行った取引に関する詳細なデータが国際的に共有されます。


国際的な背景

経済のグローバル化に伴い、国を越えた資産取引が増加していますが、各国の税務当局は脱税や租税回避を防ぐための情報交換が必要不可欠です。OECD(経済協力開発機構)は2022年に「暗号資産報告枠組み(CARF)」を策定し、2027年までに参加国が情報交換を開始することを目指しています。日本でもこの方針に基づき国内法の整備が進められました。

納税環境整備に関する研究会第3回令和5年11月9日CARF暗号資産等報告枠組み

財務省「令和6年度 税制改正の解説」696頁以下

⑴ 制度整備の背景・趣旨等
① 租税条約等に基づく税務当局間の情報交換の概要
 経済取引のグローバル化が進展する中で、国境を越える取引が恒常的に行われ、資産の保有・運用の形態も複雑化・多様化していますが、租税の賦課徴収を確実に行うためには、国内で入手できる情報だけではなく、国外にある情報を適切に入手することが重要です。しかしながら、この国外にある情報を入手するには外国の主権(執行管轄権)により制約を受けます。このため、我が国を含め、各国の税務当局は租税条約等に基づき租税に関する情報を互いに提供する仕組み(情報交換)を設け、国際的な脱税及び租税回避に対処しています。
 我が国は、令和6年6月1日現在、86の租税条約等を締結し、155か国・地域に適用されていますが、全ての租税条約等に情報交換に関する規定が定められています。
 この租税条約等に基づく税務当局間の情報交換には、①自動的情報交換、②自発的情報交換、及び③要請に基づく情報交換の3つの形態があり、近年、我が国では、年間数百万件の情報交換を実施しています。
(注) 「租税条約等」には、租税条約のほか、我が国が締結したその他の国際約束(行政取極)で租税に関する情報を相互に提供することを定める規定を有するものが含まれます(実特法2二)。

② 暗号資産等取引情報の自動的交換を巡る国際的な取組みの経緯
 暗号資産等を利用した脱税等のリスクが顕在化したことを受け、2022年(令和4年)、OECDにおいて、各国の税務当局が自国の暗号資産交換業者等から報告される非居住者の暗号資産等取引情報を租税条約等に基づいて税務当局間で自動的に交換するための国際基準として「暗号資産等報告枠組み(CARF:Crypto-Asset Reporting Framework)」が策定され、承認・公表されました。
 2023年、G20ニューデリー首脳宣言において、「税の透明性と情報交換に関するグローバル・フォーラム(171か国が参加するOECDの関連組織)」に対し、2027年(令和9年)の情報交換開始を原則とするCARF実施スケジュールの検討を要請しました。
(参考) G20ニューデリー首脳宣言(和文仮訳抜粋)
 我々は、暗号資産等報告枠組(CARF)及びCRSの改訂の迅速な実施を求める。我々は、著しく多くのこれらの法域が2027年までにCARFによる情報交換を開始するという強い願望を踏まえ、税の透明性及び情報交換に関するグローバル・フォーラム(「グローバル・フォーラム」)に対して、関連する法域による情報交換を開始する適切かつ調整されたタイムラインを明らかにし、その作業の進展について我々の将来の会合に報告することを要請する。
③ CARFの実施スケジュール及び我が国の対応
 このような経緯を経て、各国はCARFを実施するための国内法制を整備する段階に移行することとなり、我が国においては、今般の改正において、このCARFに従った情報交換を実施する観点から、非居住者に係る暗号資産等取引情報の自動的交換のための報告制度を整備することとされました。
 なお、本制度の施行に当たっては、暗号資産交換業者等のシステム整備等の準備期間を考慮して、我が国においては、2026年(令和8年)から本制度が施行され、2027年(令和9年)に2026年(令和8年)分の報告を暗号資産交換業者等から受け、租税条約等に基づき、CARFに従った税務当局間の情報交換を開始することとしています。

2023年11月10日 アルメニア、オーストラリア、オーストリア、バルバドス、ベルギー、ベリーズ、ブラジル、ブルガリア、カナダ、チリ、クロアチア、キプロス、チェコ、デンマーク、エストニア、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、アイスランド、アイルランド、イタリア、日本、韓国、リヒテンシュタイン、リトアニア、ルクセンブルク、マルタ、メキシコ、オランダ、ノルウェー、ポルトガル、ルーマニア、シンガポール、スロバキア、スロベニア、南アフリカ、スペイン、スウェーデン、スイス、英国、米国、(英)ガーンジー、(英)ジャージー、(英)マン島、(英)ケイマン諸島及び(英)ジブラルタルによる暗号資産等報告枠組みの実施に向けた共同声明(仮訳) 暗号資産市場の急速な発展に遅れをとらずに対応し、かつ、国際的な税の透明性に関する近年の発展が徐々に損なわれることのないようにするため、我々は、OECDが作り上げた、税務当局同士の自動的情報交換に関する新たな国際標準である、暗号資産等交換枠組み(CARF)を歓迎する。CARFの広汎、整合的かつ適時の施行は、租税コンプライアンスの確保及び脱税(これは、国庫収入の減少及び納税者負担の増加につながる。)の取締りに係る我々の能力をさらに増大させることとなるだろう。 それゆえ、我々は、アクティブな暗号資産市場のホスト国として、必要な国内立法手続の下で、CARFを迅速に国内法に落とし込み、かつ、2027年までの情報交換開始に間に合うように情報交換に係る合意を施行するよう努める意向である。CRSの署名国は、改訂CRSについても、国際的な整合性並びに産業界及び政府によるスムーズな導入を確実なものとするため、本年にOECDにおいて合意されたとおり、上記のタイムライン及び必要な国内立法手続に従って施行する。 我々は、脱税の抜け穴をなくすための国際的な自動的情報交換の仕組みを強化する考えの下、他国にも是非この声明に加わっていただきたいと考えている。

概要:居住地国の特定手続

※ 主な用語の意義は「4.用語の意義」を確認してください。

 ①令和8年1月1日以後に報告暗号資産交換業者等との間でその営業所等を通じて暗号資産等取引を行う者
と②令和7年12月31日において報告暗号資産交換業者等との間でその営業所等を通じて暗号資産等取引をしている者
は、特定対象者の氏名又は名称、住所又は本店等の所在地、居住地国、外国の納税者番号等の所定の事項を記載した新規届出書を、所定の期限までに、報告暗号資産交換業者等の営業所等の長に提出しなければならないこととされました(実特法10の9①)。

法令上、新規届出書には所定の事項を記載しなければならないこととされていますが、その様式は定められていません。

イ. 新規届出書の提出義務
  • 対象者:
    • 令和8年1月1日以降に暗号資産取引を行う者。
    • 令和7年12月31日時点で既に取引を行っている者。
  • 提出内容:
    • 氏名、住所、居住地国、外国の納税者番号等。

「外国納税者番号等」とは、特定対象者の住所等所在地国と認められる国・地域(外国に限ります。)として特定された国・地域においてその特定対象者が有する納税者番号又は内国法人である特定法人のうちその特定法人に係る実質的支配者(住所等所在地国と認められる国又は地域が外国であるものに限ります。)があるものが有する法人番号をいいます(実特規16の16⑥による準用後の実特規16の3⑩)。

ロ. 異動届出書の提出義務
  • 新規届出書提出後、居住地国等に変更が生じた場合、異動届出書を提出。
ハ. 居住地国の再特定手続
  • 報告暗号資産交換業者等は、新規届出書等の記載内容と異なる情報を取得した場合、居住地国の再特定手続を実施。

概要:報告暗号資産交換業者等による報告事項の提供

 報告暗号資産交換業者等は、その年の12月31日において、その報告暗号資産交換業者等との間でその営業所等を通じて暗号資産等取引を行った者(報告対象外の者を除きます。)が報告対象契約を締結している場合等には、特定対象者の氏名又は名称、住所又は本店等の所在地、居住地国、外国の納税者番号等及びその年において行われた暗号資産等売買等に係る暗号資産等の種類ごとの名称、その種類ごとの暗号資産等の売却又は購入の対価の額の合計額等の所定の事項(報告事項)を、その年の翌年4月30日までに、その報告暗号資産交換業者等の本店等の所在地の所轄税務署長に提供しなければならないこととされました(実特法10の10①)。

CARFにおいては、CRSと同様に、脱税リスクの低いと考えられる事業体(上場法人等、上場法人の関連会社等及び国等)に関する報告事項の提供は不要とされています。そこで、今回日本で導入した制度においても、一定の者については「報告対象外の者」とすることで、報告事項の提供は不要とすることとされました(実特法10の10①)

  • 報告内容:
    • 氏名、住所、居住地国、外国の納税者番号、暗号資産取引の種類や対価の合計額。
  • 報告期限:
    • 翌年4月30日まで。
  • 注意点:
    • 日本のマイナンバーは報告事項に含まれない。

財務省「令和6年度 税制改正の解説」717頁以下

ニ 報告事項の範囲
(イ)報告事項の内容

ⅴ その年において報告暗号資産交換業者等との間でその営業所等を通じて行われたその報告対象契約に係る暗号資産等売買等に係る暗号資産等の種類ごとの次に掲げる事項
ⅰ 暗号資産等の名称


ⅱ 暗号資産等の売却(本邦通貨又は外国通貨を対価として行われるものに限るものとし、特定電子支払手段(次に掲げるものをいいます。⑵において同じです。)との交換による暗号資産等の譲渡を含みます。⑵において同じです。)の対価の額(その売却に係る取引手数料がある場合には、その取引手数料の額を控除した残額)の合計額、売却をした暗号資産等の総数量及び暗号資産等の売却の件数の合計数
a  資金決済に関する法律第2条第5項第1号から第3号までに掲げるもの
b  物品等を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために特定の者に対して使用することができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されている通貨建資産に限るものとし、上記aに掲げるもの、有価証券(金商法2①②)、電子記録債権その他これらに類するものを除きます。)であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの

ⅲ 暗号資産等の購入(本邦通貨又は外国通貨を対価として行われるものに限るものとし、特定電子支払手段との交換による暗号資産等の取得を含みます。ⅵを除き、⑵において同じです。)の対価の額(その購入に係る取引手数料がある場合には、その取引手数料の額を控除した残額)の合計額、購入をした暗号資産等の総数量及び暗号資産等の購入の件数の合計数


ⅳ 他の暗号資産等との交換による譲渡をした暗号資産等の公正市場価値額(その譲渡に係る取引手数料がある場合には、その取引手数料の額を控除した残額)の合計額及び総数量並びにその譲渡の件数の合計数


ⅴ 他の暗号資産等との交換による取得をした暗号資産等の公正市場価値額(その取得に係る取引手数料がある場合には、その取引手数料の額を控除した残額)の合計額及び総数量並びにその取得の件数の合計数


ⅵ 移転をした暗号資産等ⅱの売却及びⅳの交換による譲渡をした暗号資産等のいずれにも該当しないものであり、かつ、物品購入等(物品その他の財産的価値の購入、譲受け、借受けその他の方法による受入れ又は役務の提供を受けることをいいます。ⅵにおいて同じです。)の対価の額(その対価の支払が外国通貨で行われる場合には、その物品購入等の時における外国為替の売買相場により、本邦通貨表示の金額に換算した金額)が500万円を超える場合におけるその物品購入等の対価として支払われるものに限ります。の公正市場価値額の合計額及び総数量並びにその移転の件数の合計数
(注) 上記の「移転をした暗号資産等」は、CARF上の「報告対象リテール決済取引(Reportable Retail Payment Transaction)」に対応する観点から規定されています。なお、上記の閾値を超えない物品購入等の対価として支払われた暗号資産等については、上記の移転をした暗号資産等に該当しないこととなる一方、下記ⅶの移転をした暗号資産等に該当することとなり、報告の対象となります。


ⅶ 移転をした暗号資産等その報告対象契約に係る暗号資産等取引を行った者の暗号資産等勘定(その報告暗号資産交換業者等の営業所、事務所その他これらに類するものに設定される暗号資産等の管理に係る勘定をいいます。ⅶ及びⅷにおいて同じです。)からその者の他の暗号資産等勘定への移転をしたものを除くものとし、上記ⅱの売却、上記ⅳの交換による譲渡及び上記ⅵの移転をした暗号資産等のいずれにも該当しないものに限ります。ⅶにおいて同じです。に係る次に掲げる事項
a  移転をした暗号資産等の公正市場価値額の合計額及び総数量並びにその移転の件数の合計数
b  移転をした暗号資産等のその移転の種類(その報告暗号資産交換業者等がその移転の種類を把握するために必要な情報を保有している場合におけるその移転の種類に限ります。)ごとに、その名称及び上記aに掲げる事項


ⅷ 受入れをした暗号資産等その報告対象契約に係る暗号資産等取引を行った者の他の暗号資産等勘定からその者の暗号資産等勘定に受入れをしたものを除くものとし、上記ⅲの購入及び上記ⅴの交換による取得をした暗号資産等のいずれにも該当しないものに限ります。ⅷにおいて同じです。に係る次に掲げる事項
a  受入れをした暗号資産等の公正市場価値額の合計額及び総数量並びにその受入れの件数の合計数
b  受入れをした暗号資産等のその受入れの種類(その報告暗号資産交換業者等がその受入れの種類を把握するために必要な情報を保有している場合におけるその受入れの種類に限ります。)ごとに、その名称及び上記aに掲げる事項


ⅸ 移転をした暗号資産等が次に掲げる暗号資産等の区分に応じそれぞれ次に定める勘定に受入れをされたものである場合(その報告暗号資産交換業者等がその受入れをされたものであることを把握するために必要な情報を保有している場合に限ります。)には、それぞれ次に掲げる暗号資産等の公正市場価値額の合計額及び総数量
a  暗号資産等(上記④ハ(イ)に掲げるものに限ります。aにおいて同じです。)…… 資金決済に関する法律第2条第16項に規定する暗号資産交換業者及び同条第17項に規定する外国暗号資産交換業者以外の者において設定される暗号資産等の管理に係る勘定
b  暗号資産等(上記④ハ(ロ)に掲げるものに限ります。bにおいて同じです。)…… 資金決済に関する法律第2条第12項に規定する電子決済手段等取引業者(同法第62条の8第2項の規定により電子決済手段等取引業者とみなされる者を含みます。)及び同法第2条第13項に規定する外国電子決済手段等取引業者以外の者において設定される暗号資産等の管理に係る勘定
c  暗号資産等(上記④ハ(ハ)に掲げるものに限ります。cにおいて同じです。)…… 金融商品取引法第2条第9項に規定する金融商品取引業者及び外国金融商品取引業者(同法に相当する外国の法令の規定によりその外国において同法第29条の登録と同種類の登録(その登録に類するその他の行政処分を含みます。)を受けて金融商品取引業を行う者をいいます。)以外の者において設定される暗号資産等の管理に係る勘定
(注) 上記の「移転」は、CARF上の「外部ウォレットアドレスへの移転(Transfers to External Wallet Addresses)」に相当するものとして規定されています。


ⅵ 上記ⅴに掲げる事項の金額を表示する通貨の種類


ⅶ その他参考となるべき事項

財務省「令和6年度 税制改正の解説」720頁以下

(ロ)公正市場価値額の意義
 上記(イ)ⅴ(ⅳ)から(ⅸ)までの公正市場価値額とは、次に掲げる暗号資産等の区分に応じそれぞれ次に定める金額をいいます(実特規16の19⑤)。この「公正市場価値額」は、CARF上の「公正市場価値(fair market value)」に相当するものとして規定されています。
ⅰ 上記(イ)ⅴ(ⅳ)の交換による譲渡をした暗号資産等…… 次に掲げる場合の区分に応じそれぞれ次に定める金額
(ⅰ)その譲渡をした暗号資産等に係るその譲渡の時における売買価格(その報告暗号資産交換業者等が暗号資産等の種類ごとにその売買の価格として合理的な方法(その方法が2以上ある場合には、いずれかの方法に限ります。)を継続して適用することにより算出した金額をいいます。(ロ)において同じです。)がある場合…… その売買価格
(ⅱ) その譲渡により交換した他の暗号資産等に係るその譲渡の時における売買価格がある場合(上記ⅰに掲げる場合を除きます。)…… その売買価格


ⅱ 上記(イ)ⅴ(ⅴ)の交換による取得をした暗号資産等…… 次に掲げる場合の区分に応じそれぞれ次に定める金額
(ⅰ) その取得をした暗号資産等に係るその取得の時における売買価格がある場合…… その売買価格
(ⅱ) その取得により交換した他の暗号資産等に係るその取得の時における売買価格がある場合(上記(ⅰ)に掲げる場合を除きます。)…… その売買価格


ⅲ 上記(イ)ⅴ(ⅵ)、(ⅶ)若しくは(ⅸ)の移転又は上記(イ)ⅴ(ⅷ)の受入れ(ⅲにおいて「移転等」といいます。)をした暗号資産等…… 次に掲げる場合の区分に応じそれぞれ次に定める金額
(ⅰ) その移転等をした暗号資産等に係るその移転等の時における売買価格がある場合…… その売買価格
(ⅱ) その移転等の時において報告暗号資産交換業者等の会計帳簿にその移転等をした暗号資産等と同種類の暗号資産等の価額が記載されていた場合(上記(ⅰ)に掲げる場合を除きます。)…… その記載されていたその同種類の暗号資産等の価額
(ⅲ) 上記(ⅰ)及び(ⅱ)に掲げる場合以外の場合…… その移転等をした暗号資産等に係るその移転等の時における売買価格に準ずるものとして暗号資産等の種類ごとに合理的と認められる方法(その方法が2以上ある場合には、そのうち最も合理的と認められる方法)により算出した金額
(注) なお、上記(ⅲ)に掲げる場合については、CARFのコメンタリーにおいて、報告暗号資産サービス・プロバイダは、次に掲げる評価方式により、順次依拠しなければならない旨が定められています。
a  会計上の簿価を用いることができない場合には、第三者である会社又はウェブサイトが提供する、関連暗号資産の最新の価格を集計した価値を用いなければならない(ただし、その第三者が用いる評価方式が信頼できる価値の指標を提供するものであると合理的に期待できる場合に限る。)。
b  上記aに掲げる評価方式を用いることができない場合には、報告暗号資産サービス・プロバイダによる関連暗号資産の最新の評価価値を用いなければならない。
c  上記a及びbに掲げる価値がまだ付されていない場合には、最終手段として、合理的な見積額を用いることができる。

財務省「令和6年度 税制改正の解説」721頁
(ハ) 暗号資産等の売却等該当性の判定
 上記(イ)ⅴにおいて、暗号資産等の移転又は受入れがそれぞれⅰ若しくはⅲ又はⅱ若しくはⅳに掲げるものに該当するかどうかの判定は、その移転又は受入れの時において上記(イ)ⅴの報告暗号資産交換業者等が入手可能な情報に基づきその移転又は受入れがそれぞれⅰ若しくはⅲ又はⅱ若しくはⅳに掲げるものに該当すると認められるかどうかにより行うものとされています(実特規16の19⑥)。
ⅰ 暗号資産等の売却
ⅱ 暗号資産等の購入
ⅲ 暗号資産等の他の暗号資産等との交換による譲渡
ⅳ 暗号資産等の他の暗号資産等との交換による取得


(ニ) 外国通貨で表示された金額等の取扱い
 報告対象契約に係る次に掲げる行為の区分に応じそれぞれ次に定める額(外国通貨で表示されたものに限ります。)は、外国通貨で表示された金額又は外国通貨で表示された金額を本邦通貨表示に換算した金額(特定電子支払手段のうちその価額が外国通貨で表示されたものにあっては、その価額をその表示された外国通貨の金額とみなして、本邦通貨表示に換算した金額とされます。)とされています(実特規16の19⑦前段)。
ⅰ 上記(イ)ⅴ(ⅱ)又は(ⅲ)の暗号資産等の売却又は購入…… これらの対価の額
ⅱ 上記(イ)ⅴ(ⅳ)から(ⅸ)までの交換による譲渡若しくは取得又は移転若しくは受入れ…… これらの行為をした暗号資産等の上記(イ)ⅴ(ⅳ)から(ⅸ)までの公正市場価値額
 なお、上記の外国通貨の本邦通貨への換算は、上記ⅰ又はⅱに掲げる行為の時における外国為替の売買相場により行うものとされています(実特規16の19⑦後段)。

その他の規定

イ. 報告事項の提供回避に対する特例
  • 報告事項の提供を回避する目的で行われた行為は無効化される。
ロ. 報告暗号資産交換業者等による記録の作成及び保存
  • 報告暗号資産交換業者等は、新規届出書等の記録を保存する義務がある。

財務省「令和6年度 税制改正の解説」723頁以下

ロ 報告暗号資産交換業者等による記録の作成及び保存
(イ)記録の作成
 報告暗号資産交換業者等は、新規届出書の提出若しくは異動届出書の提出を受けた場合、上記③ロロによる要求をした場合又は上記③ロハによる特定対象者の住所等所在地国と認められる国若しくは地域の特定を行った場合には、特定対象者の特定居住地国に関する事項等一定の事項に関する記録を、文書、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいいます。以下同じです。)又はマイクロフィルムを用いて作成しなければならないこととされました(実特法10の12①、実特規16の20①)。


(ロ)記録事項の範囲
 報告暗号資産交換業者等が記録すべき事項は、次に掲げる事項とされています(実特規16の20②)。
ⅰ 新規届出書等の提出に関する次に掲げる事項
(ⅰ) その新規届出書等の提出を受けた年月日
(ⅱ) その新規届出書等に記載された事項(その新規届出書等を文書、電磁的記録又はマイクロフィルムを用いて上記イの記録に添付する場合を除きます。)
(ⅲ) その新規届出書等の提出が上記③ロロによる異動届出書の提出の要求によるものである場合には、その旨


ⅱ 特定対象者の住所等所在地国と認められる国又は地域の特定に関する次に掲げる事項
(ⅰ) 上記③ロロによる異動届出書の提出の要求に関する次に掲げる事項
a  その要求の基因となった新情報を取得した年月日その他新情報に該当することとなる事情の詳細
b  その要求を行った年月日及び行った手続の内容
c  その要求を行った新規届出書等を提出した者の氏名又は名称及び住所又は本店若しくは主たる事務所の所在地
d  報告暗号資産交換業者等が上記cの新規届出書等を提出した者に係る暗号資産等取引に係る契約を識別するために用いる番号、記号その他の符号
e  その要求を行った場合において、その異動届出書の提出がなかったときは、その旨
(ⅱ) 特定対象者の住所等所在地国と認められる国又は地域の特定に関する次に掲げる事項
a  その特定を行った年月日及び行った手続の内容
b  その特定を行った暗号資産等取引に係る特定対象者(上記ⅰcの新規届出書等を提出した者を除きます。)の氏名又は名称及び住所又は本店若しくは主たる事務所の所在地
c  その特定が行われた場合には、その特定が行われた国又は地域の名称及びその特定の基礎となった情報
d  その特定が行われなかった場合には、その旨
(ⅲ) 報告事項を提供した年月日及びその報告事項
(ⅳ) 上記⑤ニ(イ)ⅴ(ⅸ)の受入れに係る識別子又はその識別子を特定するに足りる記号番号
(注) 上記の「外部ウォレットアドレス(external wallet addresses)」は、報告事項とはされていませんが、CARFのコメンタリーにおいて記録の作成・保存が要求されています。

(ⅴ) 上記(ⅰ)から(ⅳ)までに掲げる事項のうち上記イの特例の適用に係るものがある場合には、次に掲げる事項
a  その事項につき上記イの暗号資産等取引を行った者等による報告事項の提供の回避を主たる目的とする行為等があった場合の特例の適用がないものとした場合における上記(ⅰ)から(ⅳ)までに掲げる事項
b  その事項に係る特定行為(上記イ(イ)によりなかったものとされた行為又は上記イ(ロによりあったものとされた行為を行わなかったことをいいます。⑵において同じです。)の内容及びその特定行為が上記イイ又はロの主たる目的の一つとして行われたものであることについての事情の詳細
(ⅵ) その他参考となるべき事項

(ハ) 記録の保存期間
 報告暗号資産交換業者等は、上記イにより作成した記録を、その記録に係る暗号資産等取引に係る契約が終了した日の属する年の翌年から5年間、保存しなければならないこととされました(実特法10の12②)。

ハ. 税務職員の質問検査権
  • 税務職員は必要に応じて質問や帳簿書類検査を実施可能。

財務省「令和6年度 税制改正の解説」724~725頁

ハ 報告暗号資産交換業者等による報告事項の提供に係る税務職員の質問検査権
 国税庁、国税局又は税務署の当該職員は、報告事項の提供に関する調査について必要があるときは、その報告事項の提供をする義務がある者に質問し、その者の報告対象契約に関する帳簿書類その他の物件を検査し、又はその物件(その写しを含みます。)の提示若しくは提出を求めることができるほか、報告事項の提供に関する調査について必要があるときは、その調査において提出された物件を留め置くことができることとされました(実特法10の13①②、実特規16の21)。
(注1) 「帳簿書類」には、その作成又は保存に代えて電磁的記録の作成又は保存がされている場合におけるその電磁的記録を含むこととされています(実特法9①)。
(注2) 上記の当該職員の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解してはならないこととされています(実特法10の13③)。
 その際、国税庁、国税局又は税務署の当該職員は、上記の質問、検査又は提示若しくは提出の要求をする場合には、その身分を示す証明書を携帯し、関係人の請求があったときは、これを提示しなければならないこととされています(実特法10の14、国税質問検査章規則2⑥、別表第六)。

ニ. 罰則
  • 新規届出書の提出義務違反や報告義務違反に対する罰則が規定される。


財務省「令和6年度 税制改正の解説」725頁

ニ 罰則
 新規届出書等及び報告事項の提供に関しては、本制度の実効性を担保するため、次のいずれかに該当する場合には、その違反行為をした者は、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処することとされました(実特法13④)。
(イ) 上記ハの当該職員の質問に対して答弁せず、若しくは偽りの答弁をし、又は上記ハの検査を拒み、妨げ、若しくは忌避したとき。
(ロ) 上記ハの物件の提示又は提出の要求に対し、正当な理由がなくこれに応じず、又は偽りの記載若しくは記録をした帳簿書類その他の物件(その写しを含みます。)を提示し、若しくは提出したとき。
(ハ) 新規届出書を暗号資産等取引の際若しくは令和8年12月31日までに報告暗号資産交換業者等の営業所等の長に提出せず、若しくは新規届出書若しくは異動届出書に偽りの記載をし、若しくは特定行為に係る記載をして報告暗号資産交換業者等の営業所等の長に提出し、又は電磁的方法により偽りの事項若しくは特定行為に係る事項を提供したとき(これらの違反行為に係る届出書提出義務者が租税条約等実施特例法第10条の9第5項第7号イ又はロに掲げる者に該当する場合(その届出書提出義務者が特定組合員等である場合には、その特定組合員等が同号イに掲げる法人等に該当する信託以外の信託の受託者であるときを除き、その特定組合員等に係る組合等の居住地国が外国である場合におけるその特定組合員等に該当するとき)に限ります。)。
(注) 「届出書提出義務者」とは、暗号資産等取引実施者又は異動届出書を提出した者をいいます(実特法10の9⑥、13④五)。
(ニ) 報告事項をその提供の期限までに上記⑤ヘ(イ)若しくは(ロ)に掲げる方法により税務署長に提供せず、又は上記⑤ヘ(イ)若しく(は)ロに掲げる方法により偽りの事項若しくは特定行為に係る事項を税務署長に提供したとき。

ホ.  適用関係


 上記の改正は、令和8年1月1日から施行されます(改正法附則1六ロ、令和6年6月改正実特令附則1、令和6年6月改正実特規附則1、令和6年6月改正国税質問検査章規則附則)。

用語の意義


財務省「令和6年度 税制改正の解説」711頁以下

イ 暗号資産等
 「暗号資産等」とは、次に掲げるものをいいます(実特法10の9⑤三、実特令6の19①)。この「暗号資産等」は、CRAF上の「暗号資産(Crypto-Asset)」に相当するものを規定する観点から定義されており、「暗号資産(Crypto-Asset)」の性質を有するものとして我が国の国内法において規定されているものが列挙されています。
(イ)暗号資産
 具体的には、資金決済に関する法律第2条第14項⦅定義⦆に規定する暗号資産をいい、この「暗号資産」とは、次に掲げるものをいいます。ただし、下記ハに掲げる電子記録移転有価証券表示権利等は除かれます。
ⅰ 物品等を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されているものに限り、本邦通貨及び外国通貨、通貨建資産並びに電子決済手段(通貨建資産に該当するものを除きます。)を除きます。ⅱにおいて同じです。)であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの
ⅱ 不特定の者を相手方として上記ⅰに掲げるものと相互に交換を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの


(ロ)4号電子決済手段
 具体的には、資金決済に関する法律第2条第5項第4号に掲げるものをいい、具体的には、物品等を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されているものに限ります。)であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの(1号電子決済手段又は3号電子決済手段(資金決済法2⑤一・三)に該当するものを除きます。)のうち、その代価の弁済のために使用することができる範囲、利用状況その他の事情を勘案して金融庁長官が定めるものをいいます(電子決済手段等取引業者内閣府令2③)。
(注) 4号電子決済手段については、通貨建資産に該当しない一定の暗号資産型デジタル資産が想定されていることを踏まえ、本制度の対象とれていますが、他方、資金決済に関する法律上の他の電子決済手段(資金決済法2⑤一~三)については、下記Ⅱ1の非居住者に係る金融口座情報の自動的交換のための報告制度の対象となる「特定電子決済手段等」に該当することとされています(実特令6の8一ニ⑴)。


(ハ)電子記録移転有価証券表示権利等
 具体的には、金融商品取引法第29条の2第1項第8号⦅登録の申請⦆に規定する権利を表示するもの(資金決済に関する法律第2条第14項各号に掲げる財産的価値に限ります。)をいいます。
(注) なお、本制度の対象となる電子記録移転有価証券表示権利等は、暗号資産の性質を有するものを報告対象とする観点から、「資金決済に関する法律第2条第14項各号に掲げる財産的価値」に限定しています。


ロ 暗号資産等取引
 「暗号資産等取引」とは、次に掲げる行為(⑵において「暗号資産等売買等」といいます。)を行うことを内容とする契約の締結をいいます(実特法10の9⑤三、実特令6の19②)。
(イ) 暗号資産等の売買
(ロ) 暗号資産等と他の暗号資産等との交換
(ハ) 上記イ又はロに掲げる行為の媒介、取次ぎ又は代理
(ニ) 暗号資産等の移転又は受入れ

ハ 報告暗号資産交換業者等
 「報告暗号資産交換業者等」とは、次に掲げる者(上記ロイからハまでに掲げる行為のいずれかを業として行う者に限ります。)をいいます(実特法10の9⑤一、実特令6の18)。この「報告暗号資産交換業者等」は、CRAF上の「報告暗号資産サービス・プロバイダ(Reporting Crypto-Asset Service Provider)」に相当するものを規定する観点から定義されており、顧客との間で暗号資産等取引をすることが想定される者として我が国の国内法において規定されているものが列挙されています。
なお、CARFにおいては、暗号資産の「保管」や「移転」のみを行う事業者は報告義務者とはされないため、本制度においても、暗号資産等の「保管」や「移転」のみを行う事業者を報告暗号資産交換業者等の範囲から除外する観点から、「上記ロイからハまでに掲げる行為のいずれかを業として行う者」に限定しています。
(イ) 資金決済に関する法律第2条第16項⦅定義⦆に規定する暗号資産交換業者
(注) 暗号資産交換業者は、暗号資産交換業として暗号資産の売買及び交換並びにこれらの行為の媒介、取次ぎ又は代理を行うことができることから(資金決済法2⑮一・二)、暗号資産に係る暗号資産等取引を行う者との関係において報告暗号資産交換業者等として本制度の対象となることが想定されています。
(ロ) 資金決済に関する法律第2条第12項に規定する電子決済手段等取引業者(同法第62条の8第2項⦅電子決済手段を発行する者に関する特例⦆の規定により電子決済手段等取引業者とみなされる者を含みます。)
(注) 電子決済手段等取引業者は、電子決済手段等取引業として、4号電子決済手段の売買及び交換並びにこれらの行為の媒介、取次ぎ又は代理を行うことができることから(資金決済法2⑩一・二)、4号電子決済手段に係る暗号資産等取引を行う者との関係において報告暗号資産交換業者等として本制度の対象となることが想定されています。
(ハ) 金融商品取引法第2条第9項⦅定義⦆に規定する金融商品取引業者
(注) 金融商品取引業者は、金融商品取引業として電子記録移転有価証券表示権利等の売買及び売買の媒介、取次ぎ又は代理を行うことができることから(金商法2⑧)、電子記録移転有価証券表示権利等に係る暗号資産等取引を行う者との関係において報告暗号資産交換業者等として本制度の対象となることが想定されています。


ニ 特定対象者
 「特定対象者」とは、暗号資産等取引実施者(ただし、①暗号資産等取引実施者が特定法人である場合において、その特定法人に係る実質的支配者があるときは、その特定法人及びその実質的支配者とされ、②暗号資産等取引実施者が特定組合員等(信託の受託者にあっては、その信託が外国に税務上の居住地を有する法人等に該当する場合におけるその受託者に限ります。)である場合には、その暗号資産等取引をその業務として行うその特定組合員等に係る組合等とされます。)をいいます(実特法10の9①)。なお、「特定対象者」の意義は、下記Ⅱ1の非居住者に係る金融口座情報の自動的交換のための報告制度における「特定対象者」の意義(実特法10の5①)と基本的に同様とされています。



制度の意義と影響

この報告制度の施行により、日本国内の暗号資産取引の透明性が向上し、国際的な税務コンプライアンスの促進が期待されます。暗号資産市場が拡大する中で、脱税や違法取引のリスクを軽減し、税収の適正確保を図るための重要な一歩です。

一方で、暗号資産交換業者などの事業者には、報告義務を果たすための体制整備やシステム対応が求められるため、初期投資や運用負担が増大する可能性も指摘されています。

以下では、立案時の資料で有益と思われるものを抜粋してご紹介します。