暗号資産(仮想通貨)取引において、ドバイ法人のスキームを利用して、所得を正しく申告せず、脱税を図ったとして有罪判決を受けた事件がありました。この判決では、被告人が雑所得にあたる暗号資産の取引を隠し、虚偽の確定申告を行ったどうかが争点となりました。
事件の概要
本件は、被告人が保有する暗号資産取引に係る所得を隠すため、複雑なスキームを用いたケースです。具体的には、暗号資産が他社に属しているかのように装い、虚偽の確定申告を行うことで所得税を免れようとしました。結果として、被告人には懲役1年2ヶ月(執行猶予3年)と1100万円の罰金が科されました。
この事件の争点は、被告人が取引を通じて得た所得を意図的に隠したかどうか、またそれが脱税目的であったかにあります。以下では、裁判で扱われた主要な点を整理します。
共謀と所得の隠蔽
被告人は、アラブ首長国連邦ドバイに本店を置くA General Trading LLC(以下「A社」)の業務執行社員E、および同社の取引を仲介していたLと共謀して、暗号資産の取引に関する所得を隠蔽しました。被告人が保有する暗号資産がA社に帰属しているかのように見せかけることで、実際には自らの所得を除外し、税務当局への報告を避けようとしました。
虚偽の確定申告と免れた税額
被告人は、平成29年と平成30年分の所得に関して、虚偽の確定申告を行いました。以下の額の所得税を免れたとされています。
- 平成29年分:9,380,901円
- 平成30年分:30,373,653円
これにより、国に対する租税負担を不正に軽減しようとしたことが明らかにされています。
裁判所の判断
裁判所は、被告人が暗号資産取引に関する課税に精通していたことを認め、意図的に虚偽の申告を行ったと判断しました。平成29年分のほ脱所得については、被告人が国税庁のガイドラインや税理士からの助言を受けていたにもかかわらず、取引の一部を隠し、虚偽の申告を行ったことが確認されています。
暗号資産譲渡スキーム
平成30年分においても、被告人は複数の暗号資産取引を行い、所得を得ていました。特に注目すべきは、暗号資産譲渡スキームの利用です。このスキームでは、暗号資産を他の資産や株式と交換する手法を使い、所得を隠蔽する試みが行われました。
具体的には、被告人は暗号資産をA社関連会社の株式と交換し、その後A社を通じて日本円に換金してもらう形をとっていました。この取引によって得た金額から一定の手数料を差し引いた金額が、事業資金や貸付金の名目で被告人に送金されていました。
裁判所は、このスキームを課税対象の取引と見なし、被告人がその事実を認識していたと判断しました。暗号資産の交換により、含み益が発生し、その時点で課税対象となるべきであったとしています。
判決の結論
裁判所は、暗号資産譲渡スキームを含む一連の取引が、被告人の所得を意図的に隠蔽するためのものであったと認定しました。被告人は、暗号資産取引によって得た所得を認識していながら、それを確定申告から除外し、虚偽の申告を行っていたことが明白であるとされました。
さらに、A社が提供したスキームは経済的に不合理であり、単に暗号資産の換金による利益を隠すための仮装行為であったと結論付けています。これにより、被告人は意図的な脱税行為を行ったと認定されました。