平成30年頃に、大阪国税局が受けていた事前照会に対する文書回答手続の事案を紹介します。
情報公開請求により入手した資料は黒塗り部分(「???」で表記された部分)が多いので所々わかりませんが、おおむね次のような内容になっています。なお、最終的には文書回答の要件を満たさず、口頭回答で終わっているようです。
「回答要旨等」の「照会内容について」の「1」は、仮想通貨交換業者から同種の仮想通貨が返還された場合には課税関係は生じず、「2」は、金銭の支払いによる補償を行った場合は、雑所得の課税の対象となるということでしょうか。
照会事項
仮想通貨交換業者から、流出した仮想通貨の補償として、顧客が同種同額の仮想通貨又は金銭の支払いによる補償を受けた場合の課税関係について
事実関係
外部からの不正アクセスにより仮想通貨取引所が管理する仮想通貨が流出したため、同取引所を運営する仮想通貨交換業者が「???」補償(仮想通貨の返還及び金銭により支払い)を行うことになったが、その場合の顧客の課税関係について
照会要旨
仮想通貨交換業者が顧客に対して行った同種同額の仮想通貨による補償は、流出した仮想通貨を返還したものにすぎないため課税関係は生じず、また、金銭の支払いによる補償は、雑所得と解してよいか。
回答要旨等
〇照会内容について
1 流出した仮想通貨「???」は、「???」が、その義務を履行した(仮想通貨)にすぎないため、顧客に課税関係は生じない。
2 流出した仮想通貨「???」に代えて金銭の支払いによる行った場合、顧客がその補償金と同額で仮想通貨を売却したことにより金銭を得たのと同一の結果を得たことになるため、原則として「???」が日本円で補償された日の属する年分の雑所得として課税の対象となる。
検討
(1)「???」(流出しなかった分)について
顧客が「???」に仮想通貨を預託していた場合、顧客は同社に対して仮想通貨の返還を求める権利を有しているところ、不正アクセスによる仮想通貨の流出の前後においても、顧客は「???」に対して仮想通貨の返還を求める権利を引き続き有していることから、その流出時において、顧客に課税関係は生じない。
(2)「???」(流出した分)について
「???」を売却した場合と同一の結果を得たことになるから、原則として「???」が日本円で補償された日の属する年分の雑所得として課税の対象となる。
暗号資産取引所ZaifにおけるMONAの流出事件
参考として、平成30年9月に暗号資産取引所ZaifにおけるMONAの流出事件の対応に係る情報を掲載しておきます。
「平成30年9月に、テックビューロ株式会社が運営する暗号資産取引所Zaifでは、外部からの不正アクセスによりハッキング被害を受け、同社が管理する暗号資産(ビットコイン、ビットコインキャッシュ、MONAコイン)のうちの一部が外部に不正流出した。同社は、補償の内容等について次のとおり説明している。「MONAコインにつきましては、市場流通量がビットコイン等と比較して乏しく、今回の流出事件により消失した分量に相当する仮想通貨を市場から調達することが著しく困難な状態でした。そこで、弊社は株式会社フィスコ仮想通貨取引所と協議の上、MONAコインを保有されるお客様に対しては、仮想通貨の価値に相当する日本円をお支払いする方法による補償をさせていただくこととなりました。そして、補償金額は『1MONAコイン当たり144.548円』とさせていただきます。この金額は平成30年10月9日午前9時のビットフライヤー社、及びビットバンク社における相場の中間値を採用させていただきました。なお、同時刻の本取引所における相場は128円であり、この金額を上回る補償をさせていただくこととなります。また、お客様への補償は、お客様が保有されるMONAコインの全部について日本円に転換してお支払をするというものではありません。弊社は今回の流出事件により、弊社が預かり保管するMONAコインの約4割の部分が消失しました。従って、消失せずに残った約6割の部分についてはお客様に対してMONAコインそのものを返還させていただき、約4割の消失した部分について日本円に換えてお支払いをさせていただきます。」
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000098.000012906.html.
すでに上記のページが削除されてしまったようなので、上記は、拙稿「個人が受領する損害賠償金・補償金等と所得課税 : ハッキング被害にあった暗号資産交換業者から金銭の補償を受けた場合を素材として」千葉商大紀要58巻2号からの引用です。また、論文発表当時、国税庁タックスアンサーNo.1525「仮想通貨交換業者から仮想通貨に代えて金銭の補償を受けた場合」において、次の見解が示されています。
問
仮想通貨を預けていた仮想通貨交換業者が不正送信被害に遭い、預かった仮想通貨を返還することができなくなったとして、日本円による補償金の支払を受けました。
この補償金の額は、預けていた仮想通貨の保有数量に対して、返還できなくなった時点での価額等を基に算出した1単位当たりの仮想通貨の価額を乗じた金額となっています。この補償金は、損害賠償金として非課税所得に該当しますか。答
一般的に、損害賠償金として支払われる金銭であっても、本来所得となるべきもの又は得べかりし利益を喪失した場合にこれが賠償されるときは、非課税にならないものとされています。
ご質問の課税関係については、顧客と仮想通貨交換業者の契約内容やその補償金の性質などを総合勘案して判断することになりますが、一般的に、顧客から預かった仮想通貨を返還できない場合に支払われる補償金は、返還できなくなった仮想通貨に代えて支払われる金銭であり、その補償金と同額で仮想通貨を売却したことにより金銭を得たのと同一の結果となることから、本来所得となるべきもの又は得られたであろう利益を喪失した部分が含まれているものと考えられます。
したがって、ご質問の補償金は、非課税となる損害賠償金には該当せず、雑所得として課税の対象となります。
なお、補償金の計算の基礎となった1単位当たりの仮想通貨の価額がもともとの取得単価よりも低額である場合には、雑所得の金額の計算上、損失が生じることになりますので、その場合には、その損失を他の雑所得の金額と通算することができます。
(所法35、36)