この記事では、国税査察官(マルサ)の研修資料「令和6年度短期研修 査察(新任)教材」を基に、国税査察の強制調査に関する実務的なポイントを〇×問題形式で解説します。

以下の設例では、法人税の脱税が疑われる企業に対する強制調査の過程で発生する様々な問題について、

  • 施錠されたドアの開錠・破壊の可否
  • 警察官の援助の範囲
  • 捜索許可状の効力範囲
  • 公道に投げ捨てられた物件の扱い
  • 郵便物の差押えと開封の可否
  • 新たに判明した物件の捜索と夜間執行の可否

などの査察実務における重要な論点について、判例や国税通則法の規定をもとに正誤を検証しています。

国税査察の実務や法律の適用範囲を詳しく知りたい方は、ぜひご覧ください。

以下、国税査察官(いわゆるマルサ)研修資料(「令和6年度短期研修 査察(新任)教材」)より抜粋。

問 次の設例を読んで、以下の文章が正しければ〇、間違っていたらX を記入しなさい。なお、X を
記入した場合はその理由を簡記しなさい。解答をご覧になりたい方は、問題の横にある「+」ボタンを押してください。

設例

A国税局査察部は、㈱税大サービスの内偵調査の結果、多額の法人税を脱税している疑いが濃厚となったことから、裁判所から関係箇所の「臨検・捜索・差押許可状」の発付を受け、強制調査に着手することとなった。


着手日、A国税局査察官10名が代表者居宅に臨場し、インターホンで呼び出したところ、代表者本人が応答するも「俺は関係ない」と告げ、その後の呼び出しに一切応じなかった。


そこで、所轄警察署に調査の立会いを要請するとともに、開錠業者に依頼して玄関ドアの鍵を開錠し居宅内に入室したところ、部屋の奥に潜んでいた代表者が、抱えていたノートパソコンを窓から外の公道に投げ捨て、査察官の制止を振り切って玄関から外に逃走した。


逃走した代表者を査察官2名が追尾することとし、その他の査察官は、警察官の立会いの下、同居宅内の捜索を開始した。


捜索中に、代表者宛の未開封の郵便物を発見し、査察官が開封したところ、内偵調査では未把握であった代表者名義のマンション(代表者居宅とは別)に係る賃貸借契約書が確認された。


Q
①施錠されているドア等については、捜索等をするために必要があるときは、通則法137条の「錠をはずし、封を開き、その他必要な処分をすることができる」との規定により、開錠することはできるが、チェーンロック等を破壊することまではできない。
Q
②強制調査の着手にあたって、相手方から暴行脅迫のおそれが認められる場合には、警察官に援助を要請することができるが、捜索等の立会人が不在の場合には、同警察官を立会人として捜索等を開始することができる。
Q
③許可状の効力は、当該許可状に記載された捜索等をすべき物件又は場所にしか及ばないため、公道に投げ捨てられたノートパソコンについては、差し押さえることができない上、所有者が不在のため任意調査として取得することもできない。
Q
④捜索場所に存在した末開封の郵便物は、通信の秘密の保障が及ぶものの、郵便物等の差押えの規定(通則法133条)により差し押さえることができるため、差押えに必要な処分(通則法137条)として、査察官が開封することができる。
Q
⑤捜索中にそれまで未把握であった代表者名義のマンションの存在を新たに把握し、同マンションの強制調査を実施する必要が生じた場合には、裁判所から新たに許可状の発付を受ける必要があるが、許可状の請求等に時間を要し、許可状の執行が日没に間に合わない場合には、当日の捜索を行うことはできない。