前の記事では税理士実務へのAI活用の現状を整理しました。この記事では、生成AIと税理士法の制度的な関係に焦点を当てます。弁護士法72条をめぐる議論は、税理士法が規定する税理士業務の無償独占と生成AIの関係という問題と構造的に共通しており、その経緯が税理士法を考える上で重要な示唆を与えてくれます。

Q. 弁護士法とAIをめぐる議論は、税理士法にどう関係するのですか?

弁護士法72条とAIをめぐる制度論争は、税理士法が規定する独占業務と生成AIの問題と構造的に共通しています。その経緯を整理することで、税理士法をめぐっても同様の問題が起こりうることが見えてきます。

弁護士法 第72条(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。

弁護士法72条は、弁護士や弁護士法人以外の者が報酬を得る目的で法律事務を取り扱うこと(いわゆる非弁行為)を禁止しており、違反した場合には2年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金が課される可能性があります。条文に列挙されている「鑑定・代理・仲裁・和解その他の法律事務」のうち、AIとの関係で特に問題になるのが「鑑定」(法律上の専門的知識に基づき、法律事件について法律的見解を述べること)と「その他の法律事務」(法律上の効果を発生・変更・保全・明確化する事項の処理)です。AIを活用した法務サービスがこの規定にどう関係するかは、以下のように段階的に議論が積み上げられてきました。

【令和4年6月】グレーゾーン解消制度における最初の回答

AIを用いた契約書審査サービスについて、法務省は「弁護士法72条本文に違反すると評価される可能性がある」と回答。AI契約書審査サービス業界に広く衝撃を与えました(非弁行為の問題については以前から議論がありました)。

【令和5年8月】法務省ガイドライン公表——一定の整理

規制改革推進会議の指摘を受け、法務省がガイドラインを公表。ひな形照合・一般的な条項表示はOK、個別の法的リスク・修正案の表示はNG、弁護士が自ら精査する場合はOKという整理が示されました。ただし生成AIの登場により、新たな問題が生じることになります。

【令和7年8月】生成AIの要約回答はNG——人事労務AI問題

Labor Field株式会社が人事労務・労働法務の質問にAIが要約回答する機能について確認を求めたところ、法務省は「弁護士法72条に違反すると評価される可能性がある」と回答(詳細はこちら)。情報の一覧表示はOK。「AIが要約する」こと自体が非弁行為に当たり得るという判断が示されました。

【令和8年1月・2月】制度的な再整理を求める動き

法務省が「ガイドラインがかえって萎縮を招いている可能性」を認め再整理の必要性を指摘。規制改革推進会議の中間答申は、LLM・RAG等の技術進展に既存の整理が追いついていないとして、令和8年度上期中の結論を法務省に求めました。ハードロー(法改正)かソフトロー(ガイドライン改定)か、議論が続いています。

「鑑定」に当たるかどうかの判断基準——「一般的」か「具体的」か

ここで問題になるのは、AIによる法律的見解の提供がどの時点で「鑑定」や「その他の法律事務」に該当するかです。この点について、松尾剛行弁護士による先駆的な学術論文(「リーガルテックと弁護士法に関する考察」情報ネットワーク・ローレビュー18号、2019年)が問題の構造を整理しています。

同論文は、法律相談システムが「鑑定」に該当するかの判断基準として「一般的」か「具体的」かという区別が提唱されてきたことを紹介しつつ、この基準には具体的な場面で判断することの困難さが残ると指摘します。Q&A集を紙媒体でなく電子媒体で提供しキーワード検索できるようにする程度であれば違反しない可能性があるものの、「Q&Aの数が増えれば増えるほど、当該ユーザーの個別具体的な問題意識に近づく」という問題があります。

AIの精度が上がれば上がるほど違反リスクが高まるという逆説があります。AI契約書レビューが「専門的法律知識に基づくものではない」から今は適法でも、精度が向上した瞬間に「鑑定」該当性を否定できなくなる——この構造は、税務AIにも同様に当てはまります。(松尾論文より)

さらに同論文は、弁護士がリーガルテックを利用する場合でも「実質的な指揮監督」が必要だとした上で、「人間ではないAIないしソフトウェアに対してどのような実質的『監督』をすべきかは問題」だと指摘します。法律相談チャットボットが一定の領域で正しい回答を出すことを確認すれば、その範囲で依頼者への直接回答をさせてよいのか、100%の正解率を求めるべきなのか、「まだ議論が蓄積されておらず、判断基準が不明確」だとするのです。税理士がAIを利用する場合も、この問題はそのまま当てはまります。

同論文は、正当業務行為(刑法35条)による違法性阻却についても、「サービスを開始するかの局面では機能しない」と述べます。グレーゾーンのままにしておくことは、萎縮を招き、適正なAI活用を妨げる障害になりえます。

税理士法との構造的な類比

税理士法 第52条(税理士業務の制限)
税理士又は税理士法人でない者は、この法律に別段の定めがある場合を除くほか、税理士業務を行つてはならない。

税理士法においても、同様の問題が浮上しつつあります。税理士法第2条は税務代理・税務書類の作成・税務相談を税理士の独占業務と定め、第52条は無資格者によるこれらの業務取扱いを禁止しています。ところが、条文や通達を参照しながら個別の税務上の質問に答える生成AIサービスは、機能面ではこの「税務相談」に近い働きをしています。

この境界線については、税理士法の解釈上、一定の基準が示されています。

税理士法基本通達2-6:「相談に応ずる」とは、課税標準等の計算に関する事項について「具体的な質問に対して答弁し、指示し又は意見を表明すること」をいう。

実務上の解釈例として、「当社の車両(100万円)の減価償却費はいくらですか?」は個別・具体的な相談として税務相談に該当するが、「車両の法定耐用年数は何年ですか」は一般的な情報提供として非該当とされています。生成AIが前者のような個別の質問に対して税額等を計算して答えるサービスは、この基準に照らすと税務相談に該当しうることになります。

税理士法基本通達2-5:「作成する」とは、税務書類を「自己の判断に基づいて作成すること」をいい、単なる代書は含まれない。

生成AIが個別の事実関係に基づいて税務書類の内容を判断・生成する場合、それが「単なる代書」にとどまるのか「自己の判断に基づく作成」に当たるのかは、AIの機能・精度が向上するほど曖昧になっていきます。前述の「AIの精度が上がるほど違反リスクが高まる」という逆説は、税務AIにもそのまま当てはまります。

税理士法違反(いわゆる「にせ税理士」)への対応は制度上かなり厳格です。国税庁は課税調査担当者を含む局署職員に「税理士等情報せん」の作成・提出を義務付け、違反行為を把握した場合は税理士監理官に速やかに連絡するよう指示しています(令和5年事務年度・国税庁長官指示)。弁護士法72条とは異なり、税理士法では当局が能動的に違反を摘発する体制が整っています。
比較項目弁護士法(リーガルテック)税理士法(AI税務サービス)
独占業務法律事務(72条)税務代理・書類作成・相談(2条)
AIの限界個別具体的な権利義務の判断個別具体的な税額計算・有利不利判定
リスクの性質非弁行為(刑事罰の可能性)にせ税理士(当局による能動的摘発)
今後の鍵ガイドラインの再整理・新法の可能性業界による主体的な制度議論の開始

一方で、法人の経理担当者が使用者のために申告書を作成することは「使用者の手足として行動しているものであって、税理士業務を行っていることにはならない」(日税連・新税理士法83頁)とされているように、「誰のための行為か」「どこまで判断に踏み込んでいるか」という観点からの個別判断が不可欠です。一般的な生成AIサービスと税務に特化したAIサービスの間で、税理士法の適用についてイコールフッティング(同一条件での競争)が確保されるべきかという問題も、同様の観点から検討が必要です。

Q. 税理士・納税者・制度は、これからどう変わるべきですか?

AIを「脅威」ではなく「協働者」として捉えながら、税理士個人・業界・制度のそれぞれが、異なる次元での危機感を持つことが求められています。

税理士個人として:

生成AIを、税理士の仕事を奪う存在として「過度に」恐れる必要はありません。むしろ、記帳・書類処理・定型的なリサーチといった作業をAIに委ねることで、税理士は本来の専門性——複雑な税務判断、納税者への説明と納得の形成、税務調査対応、資産承継の戦略立案——に集中できるようになります。

AIを使いこなす前提として、「何を自動化すべきか」「どこで人間が介入すべきか」を判断できる現場の知識こそが、AIには代替できない税理士の核心的価値です。AIが作業をするほど、専門家としての判断力の重要性は増します。

業界・制度として:

弁護士法72条とAIをめぐる議論が示すように、専門職の独占業務規定とAIの機能的な重複という問題は、法曹界にとどまらず、税理士業界にとっても喫緊の課題です。現状では、税理士法とAIの関係について体系的な議論は十分に行われていません。

その背景には、税理士という職業の特殊性があります。税は国家財政を支える根幹であり、申告納税制度は国民が主体的に義務を履行することを前提としています。この制度を支える専門職としての税理士の無償独占業務が、直ちに見直されるべきかどうかは、慎重な検討を要する問題です。一方で、「現行制度の維持」を理由に議論を先送りすることもまた、適切ではありません。

生成AIが「税務相談に近い機能」を果たしている現実を直視した上で、次のような問いに向き合うことが求められます。

  • 税理士法が保護しようとしている「納税者の利益」とは何か。AIの普及後においても、その保護の必要性は変わらないか。
  • 税理士業務の無償独占は、誰のための規制か。納税者の保護のためか、税理士業界の保護のためか。
  • AIが税務相談を行う場合に、情報セキュリティ、ハルシネーションへの対応、説明責任の所在について、どのような制度的担保が必要か。
  • 税理士とAIの協調によってより良い税務サービスが生まれるような枠組みをどう設計するか。松尾論文が弁護士法について述べるとおり、「資格独占がイノベーションを阻害するような立法」ではなく、専門家とAIが協調する積極的な発想で議論すべきです。

弁護士法の議論では、規制改革推進会議が「業界全体として主体的に検討を進め、必要なガイドラインや運用枠組みを整備すること」を求めました。税理士業界においても、受け身ではなく主体的に、この問いに向き合うことが必要な時期に来ています。

AIが税務の世界を変える速度は、制度の議論のペースをはるかに超えています。その現実を見据えながら、「税制は誰のためにあるのか」「専門家の役割は何か」という根本的な問いを、今改めて問い直すことが求められています。

弁護士法72条とAIをめぐる一連の議論——グレーゾーン解消制度の回答、法務省ガイドライン、人事労務AIへの見解、そして規制改革推進会議の中間答申——は、税理士法とAIの関係を考える上での重要な先例です。「AIの精度が上がるほど違反リスクが高まる」という逆説、「グレーゾーンのままでは萎縮が起きる」という現実は、いずれも税理士法にも当てはまります。

そして業界・制度としての危機感は、弁護士法における議論を他山の石として、税理士法とAIの関係について、納税者の利益を中心に据えながら、主体的に問い直していくことにあります。

この記事の3つのポイント

  • 弁護士法72条のAI議論(令和4年〜令和8年)は、税理士法52条の問題と構造的に共通している
  • 「AIの精度が上がるほど違反リスクが高まる」という逆説は、税務AIにもそのまま当てはまる
  • 税理士業界が受け身ではなく主体的に、税理士法とAIの関係を問い直すことが急務

この問いは、研究者や政策立案者だけが向き合うものではありません。現場で日々AIを活用している税理士一人ひとりが、「自分の事務所のAI活用は税理士法と整合しているか」「どこまでAIに任せ、どこから自分が判断するか」を意識し続けることが、制度の議論を動かす原動力になります。

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