結論
- 国内取引所の利用は、支払調書や「特定事業者等への報告の求め」に加え、新たな報告書制度により、ほぼ確実に把握されます。
- 海外取引所についても、CRS(共通報告基準)や令和8年施行のCARF(暗号資産報告フレームワーク)により、把握範囲が拡大しています。
- DEX・プライベートウォレットは、ブロックチェーン分析で追跡可能ですが、身元特定には制度的・技術的な限界も存在します。
- 「バレない」ことを前提とした無申告は、重加算税や刑事罰(脱税)を科される極めて高いリスクを伴います。
本記事は、法令・一般公開情報・情報公開請求で入手した内部資料に基づき、税理士・東洋大学法学部教授の泉絢也が解説しています。
この記事でわかること
- ✔ 国税庁が暗号資産取引を把握する5つの手段
- ✔ 取引パターン別(国内取引所・海外CEX・DEX・ウォレット)のリスク
- ✔ AIによる調査対象選定の仕組み
- ✔ 暗号資産の税務調査で確認される資料
- ✔ 制度的限界はどこにあるか ― 専門家の視点
国税庁が暗号資産取引を把握する5つの手段
国税庁は近年、暗号資産取引の把握能力を飛躍的に向上させています。一般公開されている資料及び情報公開請求等で確認した、当局が利用する主な5つの手段を解説します。
① 国内取引所からの情報(反面調査資料・支払調書・報告書)
国税庁は国内の暗号資産交換業者に対し、特定の納税者の取引関係資料の提出を依頼することが可能です。また、暗号資産デリバティブ取引については、所得税法に基づき「先物取引に関する支払調書」の提出が義務化されており、顧客の損益やマイナンバーが直接報告されています。さらに、令和8年(2026)度税制改正により、新しい報告制度が国内取引所に課されますので、国内取引所を経由した取引の把握態勢が確立します。
② 特定事業者等への報告の求め
令和元(2019)年度税制改正により、国税通則法第74条の7の2(特定事業者等への報告の求め)が新設されました。これにより、国税局長は取引所等に対し、特定の個人を指定せず、「一定金額以上の取引を行った顧客全員のリスト」を報告させることが可能です。正当な理由なく拒否した事業者には罰則(1年以下の懲役又は50万円以下の罰金)があるため、極めて実効性の高い手段となっています。
③ 国外送金等調書・CRSによる自動的情報交換
100万円を超える国外への送金等があった場合、金融機関から「国外送金等調書」が税務署へ提出されます。また、日本を含む100以上の国・地域が参加するCRS(共通報告基準)により、非居住者の金融口座情報が各国の税務当局間で自動的に交換されています。これにより、海外の銀行口座を介した資金の動きが捕捉されます。
④ CARF(暗号資産報告フレームワーク)
OECDが策定した暗号資産専用の国際的な情報交換枠組みです。日本では令和6年度税制改正により「日本版CARF」として導入され、令和8(2026)年から施行されます。これにより、CARF参加国の海外取引所を利用する日本居住者の氏名、住所、取引金額等の情報が、日本の税務当局に自動で共有されることになります。
⑤ ブロックチェーン分析ツール・情報提供ライセンスの購入
国税庁査察部は、令和4(2022)年に「暗号資産関連情報提供ライセンス」を一般競争入札で調達しました。これは、Chainalysis(チェイナリシス)社のような高度なツールを使用する権利であり、複数のブロックチェーンを対象に、匿名化されたアドレスの背後にいる人物の特定や、取引フローの可視化を組織的に行っています。
取引パターン別:税務署にバレる可能性
取引の場所や方法によって、税務署に把握されるリスクは異なります。
| 取引パターン | バレる可能性 | 理由 |
|---|---|---|
| 国内取引所のみ | 極めて高い | 本人確認(KYC)が必須であり、取引所から支払調書・報告書や顧客リストが提出されるため。 |
| 海外取引所(CEX) | 高い | CRSに加え、今後はCARFによって国際的な情報交換の網がかかり、身元や取引額が自動共有されるため。 |
| DEX(分散型取引所) | 中〜高 | トランザクション履歴は公開されています。一度でも本人確認済みの口座と送受金があれば、分析ツールで芋づる式に紐付けられます。 |
| プライベートウォレット | 中 | 資金の「流れ」は可視化されています。国内取引所との接点を完全に断たない限り、身元特定のリスクは常に存在します。 |
AIによる調査対象の選定
国税庁は調査対象者の選定にAI(人工知能)を本格活用しています。申告された所得と、当局が保有する各種資料から推測される申告漏れのリスクをスコアリングし、優先的に調査すべき者を自動的に検出しています。AIの活用により、申告漏れ所得金額等は過去最高を記録しており、暗号資産取引の選定精度も向上しています。
→ 詳しくは:AI税務調査とは?国税局の選定システム「RIN」と調査対象になるリスク【令和7年版】
暗号資産の税務調査で確認される資料
税務調査が開始されると、調査官(情報技術専門官等)は主に以下の資料・情報を詳細に確認します。
- 取引所の取引履歴データ(CSVファイル)やAPI連携内容
- 損益計算ソフト(クリプタクト等)の計算結果データおよび設定内容
- 全ウォレットのアドレスおよびオンチェーンのトランザクション記録
- 銀行口座の入出金記録(取引所への振込履歴)
- スマートフォンやPC内の資産管理画面、約定メール、スクリーンショット
- 「特定事業者への報告の求め」に基づき収集された高額取引顧客リスト
税務職員には強力な質問検査権があり、提示を拒否したり虚偽の回答をした場合には罰則が適用されるリスクがあります。
→ 詳しくは:暗号資産・仮想通貨の税務調査の新手法|国税庁が取引所・NFTマーケットプレイスに顧客情報を求める「特定事業者等への報告の求め」を税理士が解説
専門家の視点:制度的限界はどこにあるか
暗号資産の税務執行における「制度的限界」について、私は以下のように考えています。
第一に、DEX(分散型取引所)やDeFi取引に関する情報収集の制度的空白です。質問検査権やCARF、特定事業者への報告の求めといった現行制度は、国内やCARF参加国に「情報提供義務を負う主体」(中央集権型の暗号資産取引所等)が存在する場合にのみ有効です。しかし、管理主体が存在しない完全に分散化されたDEXや、プライベートウォレットのみを利用する取引では、情報を提出させる相手が存在しないため、CARF等の枠組みでも実効性を確保できない領域が残ります。
第二に、CARF非参加国の問題です。CARFには多くの国が参加を表明していますが、非参加国にある本人確認の甘い海外取引所は、依然として税務当局にとってのブラックボックスとなり得ます。
第三に、損益計算の困難性です。暗号資産の損益計算は極めて複雑で、データの欠落、不適切な取り込み、年末数量の理論値と実数値の不一致といった問題が常につきまといます。取引当事者ではない国税庁が、膨大なトランザクションを一つ残らず正確に再計算し、更正処分を維持できるだけの証拠を確保することは、現実的には相当な困難を伴います。
第四に、ブロックチェーン分析の技術的限界です。分析ツールは「資金の流れ」を可視化できても、本人の身元と紐付いた取引所等の「オフチェーン情報」との接点が一切ない場合、ウォレットの管理者を特定することは極めて困難です。
このように、当局の監視網は強化されていますが、制度的・技術的な限界は依然として存在しているのが実態です。
よくある質問(FAQ)
Q. DEXを使えば暗号資産の税務調査でバレないか?
いいえ。DEX自体は本人確認を行いませんが、例えば、そのDEXで利用しているウォレットが、一度でも国内取引所や本人確認済みの口座と送受金を行っていれば、税務当局は、ブロックチェーン分析によって同一人物の取引として把握できます。適正に申告しましょう。そうすれば余計な心配やストレスを抱えなくて済みます。
Q. 海外取引所だけを使っていれば安全か?
いいえ。CRSによる銀行口座情報の共有に加え、CARFによって海外取引所の口座情報も自動的に日本へ送られるようになります。当局の把握能力を過小評価するのは危険です。適正に申告しましょう。そうすれば余計な心配やストレスを抱えなくて済みます。
Q. 暗号資産の税務調査はいつ来るのか?
具体的な時期は決まっていませんが、申告漏れ所得金額が高額な事案や、過去数年分の無申告が溜まっている事案などが優先的に選定される傾向にあります。数年経ってから、多額の延滞税とともに通知が来るケースも少なくありません。
Q. マイニングやステーキングの所得も調査対象か?
はい、対象です。ステーキング報酬やマイニング収益は、取得時の時価で雑所得(または事業所得)として課税されます。当局は取引所のデータ又はブロックチェーン上でこれらの報酬受取を容易に確認できるため、申告漏れは容易に発覚します。
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