「1台10万円未満のタブレットを大量に購入し、一括で経費(少額減価償却資産)に算入して大幅な節税を狙う」——。かつて流行した、あるいは今も目にすることがある「節税スキーム」ですが、これには大きな税務リスクが潜んでいます。
今回ご紹介する大阪地裁令和6年11月28日判決は、公認会計士・税理士である原告が、訪日外国人向け決済端末のレンタル事業を開始し、購入費用約490万円を「事業所得」の必要経費として申告したものの、税務署から「それは事業ではなく雑所得だ」として更正処分を受けた事案です。
裁判所は、帳簿の保存や一定の反復性があったとしても、その実態が「節税目的の投資商品」にすぎず、原告の本業は飽くまで税理士業等や会社役員としての業務であり、本件レンタル業はそれらの本業の片手間に行っていたにすぎないなどとして、事業所得としては認められないと判断。
副業での節税を検討している方はもちろん、関与先へのアドバイスを行う専門家にとっても見逃せない判決です。
事案の概要
原告(公認会計士・税理士で、税理士業等を営む個人事業主)は、訪日外国人向けキャッシュレス決済サービスに使用されるタブレット端末50台を約490万円で購入し、これを事業者に賃貸する形で「タブレット端末レンタル業」を開始しました。原告は、購入費用(490万円)を少額減価償却資産として平成29年分の事業所得の必要経費に算入して確定申告をしました。
しかし、税務署長は、当該レンタル業は所得税法上の「事業」に当たらず、所得区分は事業所得ではなく雑所得であるとして、購入費用を事業所得の必要経費にできない、また雑所得の損失は損益通算できないとして、更正処分および過少申告加算税の賦課決定処分を行いました。
本件は、原告が「レンタル業は事業に当たるので購入費用は事業所得の必要経費だ」と主張して、更正処分(申告額を超える部分)と過少申告加算税賦課決定処分の取消しを求めた事案です。
なお、令和4年政令第136号による改正前の所得税法施行令138条は、居住者が不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務の用に供した減価償却資産でく使用可能期間が1年末満であるもの又は取得価額が10万円未満であるものについては、その取得価額に相当する金額を、その者のその業務の用に供した年分の不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は雑所得の金額の計算上、必要経費に算入する旨規定する。
タブレット端末オーナーの募集パンフレットには、購入するタブレット端末の単価は、1台当たり9万8000円であるところ、これは10万円未満の少額減価償却資産(いわゆる消耗品)であることから、決算時には全額損金加算入が可能であり、全額損金算入された少額資産(消耗品)がさらなる収益を生み出すことが期待できるといった謳い文句が記載されていました。
主文
結論
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
請求
茨木税務署長が令和3年7月21日付けで原告に対してした平成29年分の所得税及び復興特別所得税に係る更正処分のうち、申告額を超える部分および過少申告加算税の賦課決定処分の全部の取消しを求める。
前提事実
原告の属性・収入状況
- 原告は公認会計士及び税理士の資格を有し、税理士業及び公認会計士業(税理士業等)を営む個人事業主。
- 平成29年当時、会社(現在の商号:???)の取締役の地位にあり、税理士業等の収入のほか、同社および監査法人から給与収入も得ていた。
タブレット端末に関する契約(本件各契約)
- 原告は平成29年12月28日、事業者(以下「???」)との間で、当初の「売買契約及び運用委託契約確認書」による契約を経て、平成30年4月頃に売買契約と賃貸借契約に差し替えた。
売買契約の要点
- 原告が、キャッシュレス決済サービスに使用されるタブレット端末50台(本件決済端末)を、代金合計490万円(1台当たり9万8000円)で購入する内容。
賃貸借契約の要点
- 原告が本件決済端末を事業者へ賃貸する内容。
- 契約期間は原則1年、解約申出がない限り最大4回更新され得て、最長5年間存続し得る。
- 事業者による店舗等への転貸を包括承諾し、転貸内容は事業者が自由に決定できる。
- 賃料は算定方法により定まり、原告は算定方法1を選択。**最低保証額(年額73万5000円:1万4700円×50台)**が定められていた。
本件購入費用の支出と「レンタル業」の開始
- 原告は平成29年12月28日、本件端末代金490万円を支払い、同日以降、本件決済端末の賃貸を開始(本件レンタル業)。
課税経緯
- 原告は平成30年3月16日、平成29年分の確定申告を提出し、本件購入費用490万円を事業所得の必要経費として全額算入した。
- 税務署長は令和3年7月21日付で、更正処分および過少申告加算税の賦課決定処分を行った。理由は、本件レンタル業は事業に当たらず雑所得であり、購入費用は事業所得の必要経費に算入できず、また雑所得の損失は損益通算できないというもの。
- 原告は審査請求をしたが棄却され、原告は訴えを提起した。
争点
本件購入費用(タブレット端末購入費用)は、原告の平成29年分所得税等の計算において、事業所得に係る必要経費に該当するか。
言い換えると、本件レンタル業が所得税法上の「事業所得を生ずべき事業」に該当するか。
争点に関する当事者の主張
被告の主張(要旨)
- 本件レンタル業は事業に該当せず、所得は事業所得ではなく雑所得。
- 賃料は、事業者が得る利益等を基礎に算定されるため、事業該当性判断では店舗への転貸関係も考慮すべき。
- 原告は本件購入費用を拠出しただけで、端末の運用・設置・保守管理・営業等は事業者側が行い、原告には重要な判断権限がない。よって、自己の危険と計算による企画遂行性がない。
- 原告が費やした精神的・肉体的労力は小さく、人的・物的設備も備えていない。
- 収益の安定性も乏しく、パンフレットには節税効果が謳われており、実質は節税効果を想定した投資商品にすぎない。
原告の主張(要旨)
- 本件レンタル業と、事業者が店舗へ転貸して決済手数料等を得る事業は別個であり、転貸関係は考慮すべきではない。
- 原告はレンタル料で収益を得る意図があり、開業届も提出しており、営利性・有償性・反復継続性がある。
- 原告は他者の指揮命令に服さず、端末購入や賃料算定方法の選択等の意思決定をし、回収不能リスクを負っているから、自己の危険と計算による企画遂行性がある。
- システムで端末設置状況等を確認し、事業者側へ意見を伝えるなどの関与もしていた。
- 帳簿書類への記録・保存等からも事業該当性が肯定されるべき、など。
裁判所の判断
判断枠組み(事業所得該当性)
裁判所は、事業所得とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性・有償性があり、反復継続して遂行する意思と社会的地位が客観的に認められる業務から生ずる所得であるとし、該当性は、営利性・有償性・継続性・反復性のほか、自己の危険と計算による企画遂行性、労力の程度、人的・物的設備、資金調達方法、職業・経歴・社会的地位、生活状況、安定収益可能性等を総合的に、社会通念に照らして判断すべきとした。
各要素の検討
営利性・有償性・反復継続性
- 490万円の支出があり、賃料は一定の算定基礎利益に連動し得るため、利益を得る構造がある。
- 契約は更新により最長5年続き得る。
- 開業届の提出もある。
→ 以上から、一定の営利性・有償性、反復継続性は認められる。
自己の危険と計算による企画遂行性
- 原告は購入費用490万円を支出し、賃料が最低保証額の継続でも購入費用の75%しか回収できず、支払不能等により損失拡大もあり得るため、一定のリスクを負う。
- しかし、契約は事業者側のオーナー募集に応じたもので、契約条項も事業者側が策定し、原告に実質的協議の余地は乏しい。
- 賃料算定基礎利益(端末利用粗利益やそれ以外の利益)の獲得に原告が積極関与する余地はなく、転貸内容も事業者が自由に決定し、修繕・アップデート等も事業者負担である。
- 通常のレンタル業で想定される、仕入れ・借手獲得の営業、契約条件の交渉、保守管理等の積極的活動や経営判断を行う余地が乏しく、実際にも行っていない。
- 原告が負う損失リスクは本件購入費用を限度とし、株式や不動産などの投資商品に類似する面があり、実質は投資商品の購入と大きく異ならない。
→ よって、原告が自らの責任で企画を立てて遂行していたとはいい難く、企画遂行性は否定。
(原告の「賃借人選択」「意見具申」「解除判断」等の主張についても、裁判所は、実質的には投資商品の選択にとどまり、意見は法的拘束力のない事実上の要望にすぎず、解除も実際上困難で現実に解除していないなどとして、判断を左右しないとした。)
精神的・肉体的労力
- 原告が行った活動は、説明会参加、プレスリリース確認、報告受領、照会システムで設置状況確認などにとどまり、通常のレンタル業と比べても軽微。
→ 労力の程度は軽微。
人的・物的設備
- 490万円の拠出以外に、従業員雇用、事務所・倉庫設置等はなく、事業該当性を基礎付ける設備はない。
- 本件決済端末は賃貸目的物そのもので、原告は現物確認もしておらず、「物的設備」として重視できない。
→ 人的・物的設備は否定方向。
資金の調達方法並びに原告の職業、経歴及び社会的地位について
- 原告の本業は税理士業等および会社役員業務であり、本件レンタル業は本業を圧迫しない範囲の余裕資金で行った。
→ 本件レンタル業は片手間の副業にすぎない。
収益の安定性その他の事情について
- 収益は事業者の経営状況に依存し、最低保証額すら支払われない可能性がある。実際に最低保証額の支払は一度のみで、その後支払不能となった。
- オーナー募集のパンフレットでは節税効果が謳われ、原告が積極的に収益拡大努力をする余地も乏しい。契約終了後の端末転用可能性も乏しい。損失は購入費用を上限として限定される。
→ 裁判所は、実質として節税効果を想定した投資商品を購入する行為にすぎないと評価した。
また、原告の職業(税理士)や開始時期等から、節税目的は推認でき、これに反する供述は信用できないとした。
「原告は、「節税商品」という被告の主張は事業該当性の判断において意味を持つものではないとか、節税目的で本件レンタル業を開始したというのは被告の憶測にすぎないとか、原告には「節税商品」を購入したという認識はないなどと主張し、原告もこれに沿う供述をする(原告本人)。
しかし、事業該当性の判断における考慮事情は、前記(1)の判断枠組みにおいて列挙した事情に限定されるものではなく、諸般の事情を総合的に検討し、社会通念に照らして判断すべきものである。そして、本件オーナー募集において節税効果が謳われていたことなど上記(ア)で指摘した事情は、本件レンタル業の経済的活動としての実質が、節税効果を想定した投資商品(節税商品)の購入であることを裏付けるものであり、このことは、社会通念上「事業」と評価できる経済的活動であるかを判断する上で、意味のないものではないし、むしろ重要な事情の一つであるといえる。また、本件オーナー募集のパンフレットの内容のほか、原告の職業(税理士)や本件レンタル業を開始した時期等からすれば、原告が節税目的を有していたことは優に推認されるところであって、これに反する原告の供述等は信用することができない。」
総合評価(結論)
裁判所は、営利性・有償性・反復継続性は一定程度認めつつも、
- 企画遂行性がない
- 自己の危険と計算による企画遂行性があったとはいえない
- 原告の本業は飽くまで税理士業等や会社役員としての業務であり、本件レンタル業はそれらの本業の片手間に行っていたにすぎず
- 本件レンタル業を遂行するための人的及び物的設備もなく
- 原告が費やした精神的及び肉体的労力の程度も軽微で、収益は???の経営状況に依存し、その実質において、節税効果を想定した投資商品を購入(投資)する行為にすぎない
ことなどを総合考慮し、社会通念に照らして、本件レンタル業は所得税法上の事業に該当しないと結論づけた。
「原告は、国税庁長官が令和4年10月に発出した所得税基本通達の改正の解説において、その所得に関する取引を帳簿書類に記録し、かつ、記録した帳簿書類を保存している場合には、当該所得を得る活動について、社会通念での判定において、事業所得に区分される場合が多いとされているところ、原告は、本件購入費用や本件レンタル業による賃料(本件レンタル料)収入について、帳簿書類に記録し保存しているから、本件レンタル業は原則として事業に該当することとなる旨主張する。
しかし、上記解説の内容は、事業該当性に関する一般的な経験則を述べたものにすぎず、事業該当性に関する前記(1)の判断枠組み自体を実質的に変更するものではない(乙4)。そして、前記(1)で述べた判断枠組みに基づいて検討すると、本件レンタル業が所得税法上の事業に該当しないことは前記(2)及び(3)で詳述したとおりであって、かかる認定判断は、原告が<本件購入費用や本件レンタル料による収入について、帳簿書類への記録及びその保存をしていたことにより左右されるものではない。」
裁判所の判断(処分の適法性)
更正処分について
本件レンタル業は事業に当たらず、所得は雑所得。したがって、本件購入費用は事業所得の必要経費にならず、雑所得の計算上の損失(収入0円-購入費用490万円)は、雑所得の損失であるため損益通算できない。
その結果、原告の平成29年分の総所得金額・納付すべき税額は更正処分の内容と同額となり、更正処分は適法とした。
過少申告加算税について
更正に伴う過少申告加算税の額も賦課決定処分と同額となり、賦課決定処分も適法とした。
結論
以上より、原告の請求はいずれも理由がないとして棄却された。
