この記事の結論
米国では確定申告にAIを使う人が増加する一方で、AIへの信頼度は低下しています。最大の障壁はハルシネーションではなくプライバシーへの懸念です。AIが誤った申告を導いた場合、責任を負うのは納税者自身であり、「AI利用の増加と信頼の低下」という乖離は制度的な対応を要する課題です。

📋 この記事でわかること

  • ✔ 2026年最新調査が示すAI利用増加・信頼低下の実態
  • ✔ AIを最も信頼している年齢層(35〜44歳)の特徴
  • ✔ 最大の障壁がハルシネーションではなく「プライバシー」である理由
  • ✔ AIによる申告ミスの責任を誰が負うべきかという制度論
  • ✔ 日本の確定申告AI活用への示唆

(4)「正しくない申告の責任」は誰が負うのか

CBS Newsの記事では、元財務省副首席補佐官のJulie Siegel氏が、AIが政府ウェブサイトの情報を誤って解釈するリスクについて具体例を挙げています。たとえば、IRSの書式に「残業代非課税(No tax on overtime)」と記載されていた場合、LLMがそれを文字通りに受け取り、残業代に一切税金がかからないと計算してしまう可能性があるというのです。

同氏は、AIが誤った解釈をして過少申告になった場合でも、最終的に責任を負うのは納税者自身だと指摘しています。この問題は、日本においても同様です。AIチャットボットの回答を鵜呑みにして誤った申告をした場合、加算税や延滞税を課されるのは納税者です。「AIが言ったから」は抗弁にならない以上、AIを利用する際には、最終的な判断を専門家に委ねるか、少なくとも専門家のレビューを受けることが重要です。

📋 この記事でわかること

  • ✔ 米国の2026年確定申告シーズンにおけるAI利用の最新動向(Qlik社調査・Forbes報道)
  • ✔ AI利用率は増加しているが、AIへの信頼度は前年から低下しているという矛盾
  • ✔ 最もAIを信頼しているのはZ世代ではなく35〜44歳のミッドキャリア層
  • ✔ AIに税務データを入力しない理由は「ハルシネーション」より「プライバシー」
  • ✔ 日本の税務実務・税理士業務への示唆

2026年の米国確定申告シーズンに合わせて、AIと税務申告に関する注目すべき調査結果が相次いで公表されました。データ分析企業Qlik社の調査(2026年3月11日公表)と、Forbes誌のKelly Phillips Erb記者の報道(2026年3月12日)です。

CBS Newsの取材に対し、American University税法教授のCaroline Bruckner氏は、AIは単独で正確な申告書を作成する能力を持っていないと指摘しています。同氏によれば、IRS.govを含む政府のウェブサイトには古い情報が残っており、大規模言語モデル(LLM)がそれを最新の情報として提示してしまうリスクがあるといいます。税法は年々変わるため、たとえば控除について一般的な質問をしただけで、すでに適用されていない控除の一覧が返ってくる可能性があると警告しています。

いずれも共通して示しているのは、AIの利用は着実に増えているが、信頼はむしろ低下しているという、一見矛盾した現実です。本稿では、これらの調査結果を紹介しつつ、日本の税務実務への示唆を考えます。

1. AI利用は増加、しかし信頼は低下

Qlik社が米国の成人2,001名を対象に実施した調査(Censuswide社による、2026年2月25〜27日実施)によると、確定申告にAIを利用する米国人は前年から増加しています。特に18〜24歳の若年層では、AI利用率が前年の17%から23%に上昇しました。全世代でみても、7%の回答者が「昨年の申告方法に加えてAIを使う」と答えています。

一方で、別の調査(Invoice Home社、約2,000名対象、2026年1月実施)では、「AIに税務申告を任せてもよい」と答えた割合が43%(2025年)から37%(2026年)に低下したことが報告されています。この低下は全世代に共通しており、ミレニアル世代(54%→50%)、Z世代(49%→46%)、X世代(43%→40%)のいずれも減少しました。

Forbes誌のKelly Phillips Erb記者は、この状況を端的に表現しています。納税者はAIに助けを求めているが、AIを信頼するかは別の話だ、と。

2. 最もAIを信頼しているのは「35〜44歳」

CBS Newsの報道(2026年3月27日)によると、Adobe社の調査では、2025年分の確定申告にAIを利用している米国人は26%に達し、前年の11%から急増しています。Elon Musk氏がX上で自社のAIチャットボット「Grok」が税務に役立つと発信するなど、AIと確定申告の結びつきはメディアでも大きな話題になっています。

Qlik社調査で注目されるのは、AIに最も積極的に機密データを提供しているのが35〜44歳のミッドキャリア層であるという発見です。

AIに入力してもよいと回答した項目35〜44歳全体平均(推定)
収入情報(W-2等)36%
社会保障番号(SSN)26%
確定申告書全体25%以下

Qlik社CEOのMike Capone氏は次のように述べています。Z世代が実験しているのは驚くことではない。注目すべきは、ミッドキャリアの大人が最もAIに機密データを共有する意思を示していることだ。忙しく、金融取引が活発で、迅速な判断を求めている人々が、コントロールを感じられる限りにおいてAIを活用している、と。

3. 最大の障壁は「ハルシネーション」ではなく「プライバシー」

AIを税務申告に信頼しない理由として、回答者が最も多く挙げたのはプライバシーへの懸念でした。

AIを信頼しない理由割合
データの漏洩・保存・ハッキングへの懸念(プライバシー)48%
ハルシネーション・回答の根拠が不明(正確性)16%

40%の回答者は「個人情報や財務情報をAIツールに入力することは絶対にしない」と回答しています。

この結果は、AIの技術的な正確性の問題(いわゆるハルシネーション)よりも、データがどこに保存され、誰がアクセスできるのかという問題のほうが、一般の納税者にとってはるかに大きな障壁であることを示しています。

4. AIは「代替」ではなく「補助」として定着しつつある

Qlik社調査が示すもう一つの重要な知見は、AIが税務申告の「代替手段」ではなく「補助ツール」として位置づけられていることです。回答者がAIに期待する役割は以下のとおりです。

CBS Newsの取材でも、専門家たちはAIの役割を「補助」に限定すべきだという見解で一致しています。会計事務所Porte BrownのMark Gallegos氏は、AIが申告書を作成できる段階には達していないと述べています。TurboTaxを提供するIntuit社のLisa Greene-Lewis氏は、無料の汎用AIを税の概念を学ぶ目的で使うことは問題ないとしつつも、申告書の作成にそのまま使うことは推奨していません。汎用AIと、数億件の申告データで訓練され税務専門家が検証している税務専用AIとの違いを強調しています。

  • 控除や税額控除の見落としチェック(26%)
  • 完成した申告書のエラー・不備の確認(25%)
  • 一般的な税務上の質問への回答(25%)
  • 申告書の一部のセクションの記入補助(23%)

一方で、25%の回答者は「AIが自分の税務に役立つとは思わない」と回答しています。

これらの結果から浮かび上がるのは、「税務ソフト+専門家+AIによるレビュー」という三層構造です。AIは税理士や税務ソフトを置き換えるのではなく、その上に重ねる確認・補助のレイヤーとして使われ始めています。

2023〜2025年にIRS長官を務めたDanny Werfel氏もCBS Newsに対し、ChatGPTなどの汎用AIは税務に特化したものではなく、正確性の検証も十分ではないと述べた上で、入力した情報が商業目的で利用されないかどうかの保証を求めるべきだと警告しています。

5. 日本の税務実務・税理士業務への示唆

米国の動向は、日本の税理士や税務実務にも重要な示唆を含んでいます。というより、日本もこういう調査を進めてほしいですね。AIは申告納税制度や税理士そのものの存在意義を問う可能性を秘めています。今後、エビデンスに基づく議論が求められます。

(1)「AIに相談する納税者」は確実に増えている

日本でも、確定申告に関する質問をChatGPTやPerplexityに投げかける個人は増加していると考えられます。税理士がAIの回答を「誤りを含む可能性がある」と切り捨てるだけでは、納税者との認識のギャップが広がるリスクがあります。AIがどのような回答をしがちか、どこで間違えやすいかを把握しておくことが、専門家としての付加価値につながります。

(2)信頼の源泉は「正確性」よりも「データの安全性」

米国の調査で「プライバシーへの懸念」がハルシネーションの3倍の回答を集めたことは示唆的です。日本においても、マイナンバーや所得情報をAIに入力することへの抵抗感は強いでしょう。税理士に対する信頼は、「正しい答えを出す」だけでなく、「機密情報を安全に管理する」という点にも基づいていることを再認識すべきです。

(3)「AI+専門家」の組合せが最適解

米国公認会計士協会(AICPA)のTom Hood氏は、「AIに申告を任せるか、CPAに任せるか、CPAがAIを使って任せるか。答えは明白だ」と述べています。AIを道具として活用しつつ、最終的な判断と責任は専門家が担うという構造は、日本の税理士業務においても目指すべき方向です。

出典

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(注)本稿で紹介した調査はいずれも米国の納税者を対象としたものであり、日本の税制・確定申告制度とは異なる点があります。日本における示唆は筆者の見解です。

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