記事の紹介

本記事では、共同住宅の新築に伴う消費税の仕入税額控除(全額控除)の可否が争われた裁判例を紹介します。

原告は、新築した共同住宅を法人へ一括で貸し付ける際、用途を「居住用・事業用を問わない」とする覚書を作成し、これを「課税資産の譲渡(課税売上)」に該当するとして消費税の還付申告を行いました。しかし税務署側は、実態は居住用の貸し付け(非課税売上)であるとして更正処分を行いました。

裁判所の判断のポイントは、消費税法別表第一13号の「契約において人の居住の用に供することが明らかにされているもの」の解釈です。

裁判所は、契約書面への明記がなくても、当事者間で居住用とする「合意」があれば要件を満たすと判示。本件では一括借上の計画段階から居住用転貸が前提であった実態を重視し、原告の請求を棄却しました。不動産オーナーや税理士にとって、形式的な書面作成だけでなく、実態を伴う合意の重要性を再認識させる重要な事例です。

主文

原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。


請求

原告は、桐生税務署長が令和4年2月25日付けで原告に対してした、平成28年12月1日から同月31日までの課税期間に係る消費税及び地方消費税の更正処分のうち、
納付すべき消費税額マイナス675万0387円、納付すべき地方消費税額マイナス182万1533円となる部分並びに過少申告加算税賦課決定処分を取り消すよう求めた。


事案の概要

原告は、平成28年12月1日から同月31日までの課税期間において、共同住宅2棟(本件各建物)を取得が消費税法(平成24年法律第68号3条による改正前のもの。以下、特に断らない限り同じ。) 30条2項1号にいう「課税資産の譲渡等にのみ要する」課税仕入れに当たるなどとして、上記取得に係る消贅税額の全額を本件課税期間の課税標準額に対する消費税額から控除して消費税及び地方消費税の確定申告をした。

他方で、桐生税務署長は全額控除はできないなどとして更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(本件各処分)を行ったため、原告が被告を相手に、更正処分のうち申告額を超える部分及び賦課決定処分の取消しを求めた。

関係法令等の定め


(1) 課税資産の譲渡等の意義等についての定め
消費税法において、資産の譲渡等とは、事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供をいい(2条1項8号)、課税資産の譲渡等とは、資産の譲渡等のうち、6 条1 項の規定により消費税を課さないこととされるもの以外のものをいうとされている(2条1項9号)。
また、消費税法において、課税仕入れとは、事業者が、事業として他の者から資産を譲り受け、若しくは借り受け、又は役務の提供を受けることをいうとされている(同項12号)。


(2) 仕入れに係る消費税額の控除についての定め
消費税法30条1項1号は、事業者が国内において行う課税仕入れについては、当該課税仕入れを行った日の属する課税期間の課税標準額に対する消費税額から、当該課税期間中に国内において行った課税仕入れに係る消贅税額を控除する旨を規定している。
同条2項1号は、当該課税期間における課税売上高が5億円を超える場合又は当該課税期間における課税売上割合が10 0分の95に満たない場合において、当該課税期間中に国内において行った課税仕入れにつき、課税資産の譲渡等にのみ要するもの(以下「課税対応課税仕入れ」という。)、課税資産の譲渡等以外の資産の譲渡等にのみ要するもの.(以下「非課税対応課税仕入れ」という。)及び課税資産の譲渡等と課税資産の譲渡等以外の資産の譲渡等に共通して要するもの(以下「共通対応課税仕入れ」という。)の区分(以下「用途区分」という。)が明らかにされているときは、控除する課税仕入れに係る消費税額(以下「控除対象仕入税額Jという。)は、同条1項の規定にかかわらず、課税対応課税仕入れに係る消費税額に、共通対応課税仕入れに係る消費税額に課税売上割合を乗じて計算した金額を加算する方法(以下「個別対応方式」という。)により計算した金額とする旨を規定している。


(3) 非課税となる住宅の貸付けについての定め
上記(1)のとおり、課税資産の譲渡等には、消費税法6条1項の規定により消費税を課さないこととされるものは含まれないところ、同項は、国内において行われる資産の譲渡等のうち、別表第一に掲げるものには、消費税を課さないと規定し、同法別表第一13号は、「住宅(人の居住の用に供する家屋又は家屋のうち人の居住の用に供する部分をいう。)の貸付け(当該貸付けに係る契約において人の居住の用に供することが明らかにされているものに限るものとし、一時的に使用させる場合その他の政令で定める場合を除く。) 」を掲げている。なお、同号は、令和2年法律第8号により改正されたところ、同改正後、平成28年法律第15号による改正(令和5年10月1日施行)前の消費税法別表第一13号は、「住宅(人の居住の用に供する家屋又は家屋のうち人の居住の用に供する部分をいう。)の貸付け(当該貸付けに係る契約において人の居住の用に供することが明らかにされている場合(当該契約において当該貸付けに係る用途が明らかにされていない場合に当該貸付け等の状況からみて人の居住の用に供されていることが明らかな場合を含む。)に限るものとし、一時的に使用させる場合その他の政令で定める場合を除く。)」を掲げている。


前提事実

原告の地位・事業

原告は、???(以下「本件法人」という。)の代表取締役であるとともに、個人事業者として不動産賃貸業を営む者である。

本件各建物の新築・引渡し等

原告は、???に対し、本件各建物(各6戸から成る共同住宅2棟)の新築工事を注文し、同工事が完成した本件各建物の引渡しを平成28年12月1日に受け、同月2日、本件各建物の所有権保存登記手続をした。

本件賃貸借契約・覚書

原告は、本件各建物の完成に先立ち、平成28年11月30日、原告を賃貸人、本件法人を賃借人とする本件各建物に係る賃貸借契約(本件賃貸借契約)を締結した。
本件賃貸借契約書には、貸付けに係る用途についての明示的な定めはない。

他方、原告と本件法人は、同日、本件各建物の賃借人の用途については居住用及び事業用を問わない旨の記載のある覚書(本件覚書)を作成した。

申告内容(個別対応方式・用途区分)

原告は、法定申告期限までに、本件課税期間に係る消費税及び地方消費税の確定申告をした。
原告は、当該申告において、控除対象仕入税額の計算につき個別対応方式を採用し、原告の本件法人に対する本件各建物の貸付けが課税資産の譲渡等に該当することを前提に、本件各建物に係る課税仕入れ(本体工事等、外構工事等)の用途区分を課税対応課税仕入れとした。

税務署長の更正等

桐生税務署長は、令和4年2月25日付けで、原告の本件法人に対する本件各建物の貸付けは「住宅(中略)の貸付け」に該当し、消費税法6条1項により消費税を課さない(非課税)から、課税資産の譲渡等に該当しないことを前提に、用途区分を見直して控除対象仕入税額を再計算し、本件各処分を行った。
(なお、差引納付すべき消費税及び地方消費税の合計税額は770万5500円とされた。)

不服申立て等

原告は、令和4年5月18日、本件各処分を不服として審査請求をしたが、令和5年2月20日付けで棄却の裁決を受けた。
原告は、令和5年8月10日、本件訴えを提起した。


争点

原告の本件法人に対する本件各建物の貸付けが「住宅(中略)の貸付け」(消費税法別表第一13号)に当たるか否かであり、より具体的には、「当該貸付けに係る契約において人の居住の用に供することが明らかにされているもの」に当たるか否かである。


争点に関する当事者の主張

被告の主張

「当該貸付けに係る契約において人の居住の用に供することが明らかにされているもの」とは、当該貸付けに係る契約の当事者間において、人の居住の用に供することを合意して契約を締結したことを意味し、その合意が契約書において明らかにされていることまでは要しない。
そして、本件では、原告及び本件法人は、最終的に入居する消費者が居住の用に供することを合意して本件賃貸借契約を締結したから、本件貸付けは上記要件を満たし、
「住宅(中略)の貸付け」に当たる。

原告の主張

上記要件該当性は、当該契約に係る契約書等により判断されるべきである。
これは、令和2年法律第8号による改正で別表第一13号に「(当該契約において当該貸付けに係る用途が明らかにされていない場合に当該貸付け等の状況からみて人の居住の用に供されていることが明らかな場合を含む。)」との文言が追加されたことからも明らかである。
そして、本件覚書の記載に照らせば、上記要件を満たさないから、原告の本件法人に対する本件各建物の貸付けは「住宅(中略)の貸付け」に当たらない。


裁判所の判断

消費税法別表第一13号の解釈

規定の趣旨

消費税法別表第一13号は、住宅の貸付けを非課税とすることにより、住宅の貸付けを行う者が居住者に対して消費税相当額を賃料に上乗せする事態を避け、居住者の経済的負担を軽減し、逆進性を緩和する趣旨の規定であると解される。

「契約において明らかに」の意味

同号の文理及び上記趣旨に照らすと、賃借人が転貸する場合等であっても、賃貸人の賃借人に対する貸付け契約において、転借人等の直接占有者が居住の用に供することが明らかにされているときは、当該貸付けは同号の「住宅(中略)の貸付け」に含まれる。

そして、同号にいう「当該貸付けに係る契約において人の居住の用に供することが明らかにされているもの」は、契約当事者間で、当該建物を人の居住の用に供することを合意した場合をいうものと解され、その旨が契約書等の書面に明記されていなくとも要件に当たると解される。

「消費税法別表第一13号は、国内において行ゎれる資産の譲渡等のうち、消費税を課さないものとして、「住宅(中略)の貸付け(当該貸付けに係る契約において人の居住の用に供することが明らかにされているものに限るも のとし、一時的に使用させる場合その他の政令で定める場合を除く。)」を掲げているところ、同号は、上記の住宅の貸付けにつき消費税を課さないこととすることにより、住宅の貸付けを行う者が当該住宅の賃借人である居住者に対して消費税相当額を賃料に上乗せするという事態を避け、消費者である居住者の経済的負担を軽減し、逆進性を緩和する趣旨の規定であると解される。

同号の文理及び上記のような同号の趣旨に照らせば、賃借人が当該建物を、転貸する場合や、転借人が再転貸をする場合等であっても、賃貸人の賃借人に対する当該建物の貸付けに係る契約において転借人や再転借人等の当該建物を直接占有する者の居住の用に供することが明らかにされているときは、賃貸人の賃借人に対する当該建物の貸付けは、当該貸付けに係る契約において「人の居住の用に供する」ことが明らかにされているものとして、同号に規定する「住宅(中略)の貸付け」に含まれるものと解される。
そして、同号にいう「当該貸付けに係る契約において人の居住の用に供することが明らかにされているもの」は、その文理及び上記のような同号の趣旨からすれば、当該貸付けに係る契約の当事者間で、当該契約において、当該建物を人の居住の用に供することを合意した場合をいうものと解され、上記合意した場合には、当該契約に係る契約書等の書面にその旨が明記されていなくとも、上記要件に当たるものと解される。
そうすると、賃借人が当該建物を転貸する場合等であっても、賃貸人の賃借人に対する当該建物の貸付けに係る契約において転借人等の当該建物を直接占有する者の居住の用に供することを合意したときは、「当該貸付けに係る契約において人の居住の用に供することが明らかにされているもの」として、同号iコ規定する「住宅(中略)の貸付け」に含まれるものと解される。」

原告の文理解釈・予測可能性の主張について

裁判所は、同号は「契約において(中略)明らかにされているもの」と規定しているのであって、「契約書等の書面において明らかにされていること」を要するものとは規定していないとして、原告の解釈を採用しなかった。
また、合意があれば非課税となるとしても、事業者の予測可能性を害するものとは解されず、消費税の間接税・付加価値税としての性質に反するものともいえないとして、原告の主張を退けた。

令和2年改正を根拠とする反対解釈について

本件は改正前規定の解釈・当てはめが争点であり、改正後の文言は、用途が契約で明らかでない場合に関するものであって、改正前の「明らかにされているもの」の解釈を左右しないとして、原告の主張を採用しなかった。


本件各建物の貸付けが「住宅(中略)の貸付け」に当たるか

認定事実

裁判所は、前提事実に加え、証拠及び弁論の全趣旨により、概ね次の事実を認定した。

当初の計画・契約書面の内容(居住用一括借上)

原告が新築工事を注文した注文書には、「一括借上」の記載があり、計画建物につき居住用(各棟6戸、計12戸)である旨の記載があるなど、居住用としての一括借上を前提とする記載がされていた。

原告と???との一括賃貸借契約等(居住用転貸)

原告と???は、原告を賃貸人、???を賃借人とする本件各建物に係る賃貸借契約(原告各一括賃貸借契約)を締結し、その契約書等には、本件各建物の居住用総部屋数(各6戸)の転貸借を目的とする旨が記載され、約款上も居住用部屋として転貸できる旨が定められていた。
また、原告は契約時に重要事項説明を受け、転貸条件等についても居住用転貸を前提とする説明内容が記載されていた。

本件賃貸借契約・本件各一括賃貸借契約の関係

原告と本件法人は平成28年11月30日に本件賃貸借契約を締結し、本件覚書も作成した一方、同日、本件法人と???も、本件各建物に係る賃貸借契約(本件各一括賃貸借契約)を締結し、その契約内容や重要事項説明書の内容は、原告各一括賃貸借契約と同旨であった。

さらに、???は、本件各一括賃貸借契約の締結前から、契約期間を平成28年12月1日からとする転貸借契約を入居希望者と順次締結し、平成29年1月19日付けで入居状況(全12戸中11戸入居等)を記載した定期報告書を原告に交付していた。

判断

本件賃貸借契約の実質

裁判所は、上記の一連の経緯から、原告は本件各建物を「一括借上」として賃貸し、???において本件各建物を人の居住の用に供するものとして転貸することを予定していたと認め、原告と一の間でも本件各建物を人の居住の用に供することを合意していたと認めた。

そして、平成28年11月30日に締結された本件賃貸借契約及び本件各一括賃貸借契約は、実質的には、本件各建物との関係での賃貸人を原告から本件法人に変更するにすぎないと認められるとした。

覚書(居住用・事業用を問わない)について

本件覚書には「用途は居住用及び事業用を問わない」旨の記載があるものの、裁判所は、これまで述べたところに照らし、原告と本件法人との間において、この記載に係る合意があったものと認めることはできないとした。

結論(非課税=住宅の貸付け該当)

以上を踏まえ、裁判所は、原告と本件法人は本件賃貸借契約において、本件各建物を人の居住の用に供することを合意していたと認められるから、原告の本件法人に対する本件各建物の貸付けは、「当該貸付けに係る契約において人の居住の用に供することが明らかにされているもの」に当たり、したがって、「住宅(中略)の貸付け」に当たるというべきであると判示した。


本件各処分の適法性

上記のとおり、本件各建物の貸付けが非課税(住宅の貸付け)に当たることを前提にした更正等は是認され、裁判所は、本件各処分は適法であるとした。


口頭弁論再開の申立てについて(補足)

原告は、令和6年12月19日、被告の主張が「事実認定ないし法律構成による否認の法理」に基づく主張であり、その適用可否について審理を尽くすべきであるとして口頭弁論の再開を求めた。

しかし裁判所は、被告の主張はその内容に照らせば私法上の法律関係として上記合意が成立した旨をいうものと解されるし、裁判所自身も同様に認定判断するから、「事実認定ないし法律構成による否認の法理」の適用可否について審理をするために口頭弁論を再開する必要があるとは認められないとした。


結論

以上により、裁判所は、原告の請求を棄却した。

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