「e-Taxで税金の支払いは終わった。これで確定申告も完璧だ」……そう思い込んでいた納税者に、無申告加算税の魔の手が迫りました。
令和6年5月20日の国税不服審判所裁決では、クレジットカード納税のための「納付情報データ」は送信したものの、肝心の「申告書データ」を送信し忘れたケースが争われました。納税者は、申告なしでも納税できてしまうシステム側の不備を指摘し、「正当な理由がある」と主張。しかし審判所の下した判断は、納税者にとって非常に厳しいものでした。なぜ「納税済み」という事実があっても救済されなかったのか。e-Tax利用者が絶対に確認すべき「受信通知」の重要性と、加算税を免れるための要件を徹底解説します。
裁決要旨
国税不服審判所ホームページの裁決要旨
請求人は、法定申告期限内に所得税等の確定申告書の提出がなかったことについて、確定申告書のデータ(申告データ)をe-Taxにより送信して納付が正常に完了したにもかかわらず、①申告データの送信が完了しないこと、②申告データの送信が完了していなくても納付できる仕組みとなっていること、③納付が申告データや申告者にひもづいていないといったe-Taxのシステム上の不具合が原因であるから、国税通則法第66条《無申告加算税》第1項ただし書に規定する「正当な理由があると認められる場合」に該当する旨主張する。
しかしながら、①については、e-Taxにおける請求人のメッセージボックスの格納状況や国税庁の受付ファイルの記録状況からすれば、請求人は、法定申告期限までに上記所得税等の確定申告に係る申告データを送信していなかったものと認められ、②及び③については、電子納税サービスがe-Taxにより納付のみを行う利用者をも対象としていることを踏まえれば、e-Taxのシステム上の不具合とはいえない。そして、法定申告期限までの間にe-Taxにおいてシステム上の障害は発生していないと認められることからすれば、期限内申告書の提出がなかったのは、請求人が、所得税等の確定申告に係る納付情報のデータの送信しか行っていなかったにもかかわらず、確定申告書の提出が完了したと誤って認識したいう請求人の主観的な事情が原因であるといわざるを得ず、期限内申告がなかったことについて、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があったとはいえず、無申告加算税の趣旨に照らしても、なお、納税者に無申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合に当たるとはいえないから、「正当な理由があると認められる場合」には該当しない。(令6. 5.20 東裁(所)令5-106)
請求人は、法定申告期限までに確定申告書を提出していないが、当該確定申告書に係る納付すべき税額の全額を法定納期限までに納付していること、当該確定申告に係る納付情報のデータ送信できていることから、期限内申告書を提出する意思があったことは明らかであり、国税通則法第66条《無申告加算税》第7項の適用がある旨主張する。
しかしながら、当該確定申告書の提出は、法定申告期限から約3か月後になされたものであり、同項に規定する「法定申告期限から1月を経過する日までに行われたもの」に該当せず、同項所定の要件を満たさないことから、当該確定申告書の提出について、同項の規定の適用は認められない。(令6. 5.20 東裁(所)令5-106)
事案の概要
本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」という。)の期限後申告書を提出したことから、原処分庁が無申告加算税の賦課決定処分をしたのに対し、請求人が、期限内申告書の提出がなかったのは国税電子申告・納税システム(e-Tax)の不具合に起因するから「正当な理由があると認められる場合」に該当するなどとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。
関係法令
イ 国税通則法(令和4年法律第4号による改正前のもの。以下「通則法」という。)第66条《無申告加算税》第1項本文及び同項第1号は、期限後申告書の提出があった場合には、当該納税者に対し、その申告に基づき納付すべき税額に100分の15の割合を乗じて計算した金額に相当する無申告加算税を課する旨規定し、同項ただし書は、期限内申告書の提出がなかったことについて正当な理由があると認められる場合は、無申告加算税を課さない旨規定している。
また、通則法第66条第6項は、期限後申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について決定があるべきことを予知してされたものでない場合において、その申告に係る国税についての調査通知がある前に行われたものであるときは、上記の納付すべき税額に係る同条第1項の無
申告加算税の額は、同項の規定にかかわらず、当該納付すべき税額に100分の5の割合を乗じて計算した金額とする旨規定している。
ロ 通則法第66条第7項は、同条第1項の規定は、期限後申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について決定があるべきことを予知してされたものでない場合において、期限内申告書を提出する意思があったと認められる場合として政令で定める場合に該当してされたものであり、かつ、法定申告期限から1月を経過する日までに行われたものであるときは、適用しない旨規定している。
ハ 国税通則法施行令(令和4年政令第147号による改正前のもの)第27条の2《期限内申告書を提出する意思等があったと認められる場合》第1項は、通則法第66条第7項に規定する期限内申告書を提出する意思があったと認められる場合として政令で定める場合は、①同項に規定する期限後申告書の提出があった日の前日から起算して5年前の日までの間に、当該期限後申告書に係る国税の属する税目について、同条第1項第1号に該当することにより無申告加算税又は重加算税を課されたことがない場合であって、同条第7項の規定を受けていないとき(第1号)、②上記①に規定する期限後申告書に係る納付すべき税額の全額が法定納期
限(当該期限後申告書に係る納付について、通則法第34条の2 《口座振替納付に係る通知等》第1項に規定する依頼を税務署長が受けていた場合には、当該期限後申告書を提出した日)までに納付されていた場合(第2号)のいずれにも該当する場合とする旨規定している。
ニ 情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律第6条《電子情報処理組織による申請等》第1項は、申請等のうち当該申請等に関する他の法令の規定において書面等により行うことその他のその方法が規定されているものについては、当該法令の規定にかかわらず、主務省令で定めるところにより、主務省令で定める電子情報処理組織(行政機関等の使用に係る電子計算機(入出力装置を含む。以下同じ。)とその手続等の相手方の使用に係る電子計算機とを電気通信回線で接続した咤子情報処理組織をいう。以下同じ。)を使用する方法により行うことができる旨規定し、同条第3項は、同条第1項の電子情報処理組織を使用する方法により行われた申請等は、当該申請等を受ける行政機関等の使用に係る電子計算機に備えられたファイル(以下「受付ファイル」という。)への記録がされた時に当該行政機関等に到達したものとみなす旨規定している。
基礎事実
e-Tax(確定申告書等作成コーナー)の仕組み
- 納税者は、国税庁HPの「確定申告書等作成コーナー」で申告データを作成し、e-Taxで送信することで確定申告書を提出できる。
- 送信が完了すると、受付システムから即時通知がされ、受付日時・受付番号等が表示される(正常受信できない場合はその旨が表示)。
- 即時通知の後、利用者ごとのメッセージボックスに、申告データの審査結果である受信通知が格納される(受付日時、年分、種目、所得金額、納める税金の額等が表示)。
電子納税サービスの仕組み
- 申告データを送信している場合は、受信通知とは別に「納付区分番号通知」がメッセージボックスに格納され、利用可能な納付方法が表示される。
- 申告データを送信していない場合でも、利用者が納付情報のデータを新規に作成し送信すれば、「納付区分番号通知」が格納され、納付方法が表示される。
本件の経緯
- 請求人は令和5年3月4日、令和4年分所得税等の確定申告に係る納付情報のデータ(本件納付情報データ)を作成し、e-Taxで送信するとともに、クレジットカードにより納付した。
- 原処分庁職員が令和5年6月14日、納付理由等の照会を行い、確定申告書の提出が確認できない旨を伝えたところ、請求人は同日、本件申告データをe-Taxで送信して申告した(本件確定申告書)。
- 原処分庁は令和5年7月28日付で、無申告加算税の賦課決定処分(本件賦課決定処分)をした。請求人は令和5年8月7日に審査請求をした。
争点
争点1
期限内申告書の提出がなかったことについて、通則法第66条第1項ただし書に規定する「正当な理由があると認められる場合」に該当するか否か。
争点2
請求人の本件確定申告書の提出について、通則法第66条第7項の規定が適用されるか否か。
争点についての主張
争点1(「正当な理由」)について
請求人の主張
期限内申告書の提出がなかったのは、国税庁のシステムを活用して申告データを作成・送信し、納付も正常に完了したにもかかわらず、
①申告データの送信が完了しないこと
②申告データの送信が完了していなくても納付できる仕組みとなっていること
③納付が申告データや申告者にひもづいていないこと
といったe-Taxのシステム上の不具合が原因であるから、通則法第66条第1項ただし書の「正当な理由があると認められる場合」に該当する。
原処分庁の主張
期限内申告書の提出がなかったのは、請求人が申告データを送信していなかったにもかかわらず、期限内に適正に送信されたと誤認していたことが原因であり、請求人自身の主観的な事情にほかならないから、「正当な理由」には該当しない。
争点2(通則法66条7項の適用)について
請求人の主張
法定申告期限までに確定申告書を提出できていないが、納付情報データを送信できており、期限内申告書を提出する意思があったことは明らかであるから、通則法第66条第7項の適用がある。
原処分庁の主張
請求人による本件確定申告書の提出は、法定申告期限から1月を経過するまでに行われたものに該当しないこと等から、通則法第66条第7項の適用は認められない。
審判所の判断
争点1:通則法66条1項ただし書「正当な理由」該当性
ア 法令解釈
無申告加算税は、期限後申告書を提出したという事実があれば原則として課され、適法に申告・納税した者との不公平の是正、無申告による義務違反の防止、適正な申告納税の実現等を図る行政上の措置である。
そして「正当な理由があると認められる場合」とは、例えば災害、交通・通信の途絶等、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、無申告加算税の趣旨に照らしてもなお、無申告加算税を課すことが不当又は酷になる場合をいう。
イ 認定事実
- メッセージボックスには、令和5年3月4日受付の納付区分番号通知、令和5年6月14日受付の本件申告データの受信通知は格納されていたが、本件申告期限以前を受付日時とする令和4年分の申告データの受信通知は格納されていなかった。
- 受付ファイルには、令和5年6月14日付で本件申告データを受け付けた記録はあるが、本件申告期限以前に令和4年分申告データを受け付けた記録はなかった。
- 令和5年2月15日から本件申告期限までの間、e-Taxで申告データが正常に受信されないといったシステム上の障害は生じていなかった。
ウ 検討(結論)
- e-Taxで申告データを送信した場合、申告データが受付ファイルに記録された時に提出があったものとみなされる。
- 本件では、受信通知の格納状況及び受付ファイルの記録状況から、請求人は本件申告期限以前に申告データを送信していなかったと認められる。よって本件確定申告書は期限後申告書に該当し、原則として無申告加算税が課される。
- 請求人の①については、送信したのは申告データではなく本件納付情報データであると認められ、主張に理由はない。②③も、電子納税サービスが納付のみの利用者も対象としていることから、システム不具合とはいえない。さらに、申告期限までにシステム障害もない。結局、期限内申告がなかったのは、請求人が納付情報データの送信しか行っていないのに、提出を完了したと誤認したという主観的事情が原因である。
- したがって、真に納税者の責めに帰することのできない客観的事情があったとはいえず、「正当な理由があると認められる場合」には該当しない。
(参考)審判所は、e-Taxの改善に関する意見・要望は、当審判所の審理の限りではない旨も述べた。
争点2:通則法66条7項の適用の可否
通則法第66条第7項は、期限内申告の意思があり、法定申告期限後速やかに申告書が提出された場合にまで無申告加算税を課すと誠実な申告納税意欲をそぐおそれがあることから、例外として一定の要件を満たす場合に限り無申告加算税を課さない趣旨である。
本件では、請求人は令和5年6月14日に本件申告データを送信して提出しており、これは通則法66条7項の「法定申告期限から1月を経過する日までに行われたもの」に該当しないことが明らかである。したがって、同項所定の要件を満たさず、同項の適用は認められない。
請求人は、納付済みであり納付情報データも送信できているから期限内申告意思は明らかだと主張するが、提出時期が要件を満たさない以上、その事情は判断を左右しない。
本件賦課決定処分の適法性
上記(1)のとおり「正当な理由」には該当せず、上記(2)のとおり第7項の適用も認められない。加えて、無申告加算税額の計算の基礎・方法は争いがなく、当審判所も同額と認められるため、本件賦課決定処分は適法である。
結論
よって、審査請求は理由がないから、これを棄却する(主文どおり)。
