記事の紹介

「福利厚生や接待、あるいは会社の商品として、高級な宝飾品や服飾品を会社の経費で落とす」——。もしその支出が、事業上の必要性を欠き、特定の役員個人のためだけのものと判断されたら、会社はどのような代償を払うことになるでしょうか。

今回ご紹介する大阪地裁令和7年5月23日判決は、年商1,000億円規模を誇る企業の創業家一族である副社長が、年間2億円以上にのぼる宝飾品や衣料品、さらには英会話レッスン代までを会社負担にしていた事案です。

税務署は、これらを「事業用の支出」とは認めず、副社長に対する「給与(役員賞与)」と認定。消費税の仕入税額控除の否認に加え、源泉所得税の追徴処分を行いました。裁判所が支出の「私的流用」をどのように見抜き、会社の反論を退けたのでしょうか。

事案の概要

原告は、取締役副社長が購入した宝飾品、衣料品その他の物品(以下「本件各物品」)の代金を会社が負担し、これらを事業用の支出として経理処理したうえ、消費税の仕入税額控除及び法人税の損金算入を行っていた。

これに対し税務署長は、本件各物品の購入代金の支払は、原告の事業のための支出ではなく、副社長に対する給与等(経済的利益の供与)に当たるとして、仕入税額控除を否認し、法人税の更正処分、源泉所得税の納税告知処分等を行った。

原告(株式会社)は、消費税等、法人税及び源泉所得税について受けた更正処分並びに過少申告加算税賦課決定処分等(以下「本件各処分」)の取消しを求めた。

主文

原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。


請求

第1事件(令和3年2月24日付け)

南税務署長が令和3年2月24日付けで原告に対してした、平成27年1月1日から同年12月31日までの課税期間に係る消費税及び地方消費税の更正処分(納付すべき消費税額につき7057万6700円を超える部分、地方消費税額につき1904万7200円を超える部分)並びにこれらに係る過少申告加算税の賦課決定処分の取消し。

第2事件(令和3年12月13日付け・令和4年2月24日付け)

南税務署長が令和3年12月13日付けで原告に対してした、平成28年12月から平成30年12月までの各月分の源泉徴収に係る所得税及び復興特別所得税の各納税告知処分並びにこれらに係る不納付加算税の各賦課決定処分の取消し。

南税務署長が令和4年2月24日付けで原告に対してした、平成28年・平成29年各事業年度の法人税更正処分(それぞれ所得金額・納付税額が一定額を超える部分)及び過少申告加算税、平成28年・平成29年各課税事業年度の地方法人税更正処分(課税標準法人税額・納付税額が一定額を超える部分)、平成28年~平成30年各課税期間の消費税等更正処分(各納付税額が一定額を超える部分)及び過少申告加算税の取消し。


前提事実

当事者・会社の概要

原告は、古鉄、古非鉄金属及び機械物の売買等を目的とする株式会社である。
本件各課税期間における課税売上高は約705億円から約1255億円で推移し、いずれも5億円を超えていた。

役員等の状況

原告代表取締役(会長)は創業者の孫で、継続して代表取締役の地位にある。
副社長は会長の妻で、継続して取締役副社長の地位にある。

副社長による購入等(本件各購入品等)

副社長は、平成27年~平成30年にかけて、原告の費用負担で宝飾品・服飾品等を多数購入し、また各種物品の購入や役務提供(健康食品等、英会話レッスン等)を受けて支払を行った。

特に平成27年12月期の本件各購入品等①は、支出合計額が約2億5859万円であり、原告は当初「交際接待費」として計上していたが、一部を棚卸資産(商品)・仮払消費税等として振り替え、残部を副社長に対する貸付金とする決算修正(本件振替経理処理)をした。

平成28年~平成30年も同様に、宝飾品・服飾品等の支出が各期で約2億円超の規模で継続していた。

本件各確定申告・税務調査・各処分

原処分庁は令和元年10月頃から法人税等・消費税等・源泉所得税等の税務調査(本件調査)を行い、その結果に基づき本件各処分(消費税等更正・法人税等更正・源泉所得税等納税告知等)をした。

審査請求・提訴

原告は国税不服審判所への審査請求を経た上で、本件訴え(第1事件・第2事件)を提起した。

争点

争点1

本件各処分の理由提示に、取消事由となる違法があるか。

争点2

税務調査の手続に違法があり、それが本件各処分の取消事由となるか。

争点3

副社長に係る支出が、事業のための支出(課税仕入れ等)に当たるか、又は副社長に対する給与等に当たるか。


当事者の主張

原告の主張

原告は、本件各処分の通知書には判断の根拠となる事実や理由が十分に記載されておらず、行政手続法14条1項に反する違法があると主張した。

また、税務調査の方法や過程にも問題があり、適正な調査を欠くものであるとした。

さらに、本件各物品の購入は、原告の事業活動の一環として行われたものであり、副社長個人の利益と評価すべきではなく、消費税の課税仕入れ及び法人税の損金として認められるべきであると主張した。

被告の主張

被告は、本件各処分の通知書には、対象となる取引や判断過程が具体的に記載されており、理由提示として十分であると主張した。

また、税務調査は必要な範囲で実施されており、手続上の違法はないとした。

本件各物品については、原告の事業のための支出とはいえず、副社長に対する給与等として取り扱うのが相当であると主張した。


裁判所の判断

争点1(理由提示の違法)

行政手続法14条1項の趣旨は、行政庁の判断の恣意を抑制し、処分の相手方に不服申立ての便宜を与える点にあるとされた。

本件各処分の通知書には、対象となる取引が別表等により特定され、給与等に該当するとする理由や課税仕入れに当たらないとする理由が、判断過程に即して記載されていると認められた。

これらの記載により、原告は処分の理由を了知し、不服申立てをすることが可能であったといえるから、理由提示に違法はないとされた。


争点2(税務調査手続の違法)

税務調査の手続に瑕疵があったとしても、それが直ちに課税処分の取消事由となるのは、当該瑕疵が重大であり、社会通念上著しく相当性を欠く場合に限られるとされた。

本件においては、税務署職員が帳簿書類の確認、関係者への質問、物品の保管状況の確認等を行っており、調査が全く行われていないとはいえないとされた。

したがって、税務調査の手続に本件各処分を取り消すべき違法は認められないとされた。


争点3(給与等該当性)

本件各物品は、副社長が主として個人的に使用又は管理していたものであり、事業として販売又は事業用資産として管理されていた事実は認められなかった。

また、購入の態様や数量、保管状況等からみて、原告の事業活動に直接必要な支出であるとはいえず、副社長個人が受ける経済的利益と評価するのが相当であるとされた。

以上から、本件各物品の購入代金の支払は、副社長に対する給与等に当たり、消費税の課税仕入れや法人税の損金としては認められないとされた。


結論

以上のとおり、本件各処分はいずれも適法であり、原告の請求は理由がないとして棄却された。

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