記事の紹介

籍を入れない「内縁関係」にあるカップルの間で、一方が他方の生活費や子の教育費を負担した場合、それは「贈与」として税務署に課税されてしまうのでしょうか。

今回ご紹介する東京高裁令和6年12月12日判決は、そんな不安を抱える納税者にとって大きな希望となる逆転勝訴の事例です。一審の静岡地裁令和6年3月14日判決では「内縁関係は非課税の配偶者には当たらない」として一部課税が維持されましたが、控訴審である東京高裁は、驚くべきことに合計1億8,000万円を超える入金のすべてについて、贈与税の課税を認めませんでした。

判決の鍵となったのは、男性側の「圧倒的な資産規模」と、支出が「そのカップルの暮らし振りとして妥当か」という視点です。なぜ高裁はこれほど巨額の資金移動を「贈与ではない」と断じたのか。

一審静岡地裁令和6年3月14日

事案の概要

本件は、原告名義の複数の普通預金口座に入金された金員について、沼津税務署長が、これらは相手方???から原告への贈与によって取得した財産であるとして、平成24年分から平成29年分までの贈与税の決定処分および無申告加算税の賦課決定処分を行ったところ、原告がその取消しを求めた事案である。

原告は、本件各金員は贈与ではなく、生活費、教育費、住居賃料等の支払のために原告名義の口座が利用されたにすぎないと主張した。また、仮に贈与に該当するとしても、原告と相手方は内縁関係にあり、本件各金員は生活費又は教育費の贈与として相続税法21条の3第1項2号により非課税であると主張した。


主文

沼津税務署長が平成30年12月19日付けで、原告に対してした各処分のうち、

平成24年分の贈与税についてした決定および無申告加算税の賦課決定のうち、
課税価格2158万円、納付すべき税額799万円および無申告加算税額157万3000円を超える部分を取り消す。

平成25年分の贈与税についてした決定および無申告加算税の賦課決定のうち、
課税価格1187万3341円、納付すべき税額313万6500円および無申告加算税額60万1000円を超える部分を取り消す。

平成26年分の贈与税についてした決定および無申告加算税の賦課決定のうち、
課税価格2826万円、納付すべき税額1133万円および無申告加算税額224万1000円を超える部分を取り消す。

原告のその余の請求はいずれも棄却する。
訴訟費用は、これを5分し、その3を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。


請求

原告は、沼津税務署長が平成30年12月19日付けで行った、平成24年分から平成29年分までの贈与税の決定処分および無申告加算税の賦課決定処分の全部について、その取消しを求めた。


前提事実

当事者の関係

原告は、本件各年分当時、無収入であった。
原告と相手方との間には、婚姻の届出はされていなかった
原告には子が2人いるが、相手方はこれらの子について養子縁組又は認知をしていなかった

訴訟に至る経緯

原告は、本件各年分の贈与税について、いずれも法定申告期限までに申告書を提出しなかった
税務調査の結果に基づき、沼津税務署長は、原告名義の複数の普通預金口座に入金された金員を、相手方からの贈与により取得した財産として、本件各処分を行った。
原告は、再調査の請求および審査請求を経た後、本件訴訟を提起した。


争点

本件の争点は、次の2点である。

争点1:本件各金員が、原告が相手方から贈与により取得した財産であるか
争点2:相続税法21条の3第1項2号(扶養義務者相互間の生活費・教育費の非課税規定)が適用されるか


争点に関する当事者の主張

贈与該当性について

被告は、普通預金口座は口座開設者に帰属し、原告名義で開設された口座に入金された金員は、原告が支配・管理できる状態に至った時点で贈与により取得したものであると主張した。

これに対し原告は、本件各金員は、相手方が実質的に管理する資金を、生活費、教育費、賃料等の支払のために原告名義口座を利用して振り込んだにすぎないとして、贈与には当たらないと主張した。

相続税法21条の3第1項2号の適用について

被告は、同号にいう「配偶者」は民法上の配偶者(法律婚)に限られ、内縁関係は含まれないと主張した。

これに対し原告は、内縁関係にある者同士も扶養義務を負うとして、生活費・教育費として支払われた本件各金員は非課税とされるべきであると主張した。


裁判所の判断

贈与該当性について

裁判所は、贈与税の課税原因となる「贈与」は民法上の贈与と同義であり、実質に着目して判断すべきであるとした。

その上で、原告名義の各預金口座は、原告が開設し、通帳や届出印の管理、入金・支払の実態等から、原告に帰属し、原告が支配・管理していたと認定した。

したがって、原則として、これらの口座に入金された金員は、原告が贈与により取得した財産に当たると判断した。

もっとも、住居賃料については、賃貸借契約の当事者や支払義務の帰属等から、相手方自身が負う賃料支払債務の履行のために、原告が振込みを受託したにすぎないと認定した。
そのため、住居賃料相当分については、原告への贈与とは評価できず、課税価格から除外すべきと判断した。

相続税法21条の3第1項2号の適用について

裁判所は、同号にいう「配偶者」は、民法上の婚姻関係にある者に限られ、内縁関係は含まれないと解するのが相当であるとした。

したがって、本件において、原告と相手方が内縁関係にあったとしても、同号の非課税規定は適用されないと判断した。

「相続税法21条に定める贈与税の課税原因となる「贈与」とは、民法が定める贈与(民法54 9条以下)と同義に解するべきであり、贈与君手がある財産を無償で相手方に与える意思を表示し、受贈者が受諾をすることによって成立する契約をいうと解される。そして、贈与税が、相続税の補完として、贈与によって財産が移転する機会にその財産に対して課税する趣旨であることからすると、贈与に該当するか否かに関しては、その実質に着目して判断するのが相当である。」

「原告は、原告と???が内縁関係であることを前提として、本件各預金口座に入金された金員が、婚姻費用分担義務又は扶養義務の履行として行われたものであると主張する。

内縁関係は夫婦ではないものの、準婚関係として法的に保護に値する場合があり、その場合には婚姻費用分担義務(民法760条)も類推適用されるべきである。他方において、贈与は片務性や無償性から、内縁関係を含む親密な関係の者の間で行われることが多く、租税回避の手段として用いられる危険性もあることからすると、納税者が財産の移転を内縁関係に基づく婚姻費用分担義務の履行であると認めるには、納税者は、当該財産移転当時、交付者と被交付者との間で内縁関係が成立していることに加え、当該財産移転当時、交付者が被交付者に対して内縁関係に基づく婚姻費用分担義務を負っており、かつ、移転財産額が、同義務の範囲内(具体的分担額内)であること及び交付者が、実際に同義務の履行として当該財産を移転したことを認めるに足りる特別の事情があることを要するというべきである。」

「(1) 贈与税の非課税財産について定める相続税法21条の3第1項2号は「扶養義務者相互間において生活費又は教育費に充てるためにした贈与により取得した財産のうち通常必要と認められるもの」と定める。
そして、同号にいう「扶養義務者」とは、配偶者及び民法877条に規定する親族をいうところ(相続税法1条の2第1項1号)、ここにいう「配偶者」とは、租税法律主義や法的安定性の見地から民法における「配偶者」と同義に解すべきである。民法は、婚姻は、戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、その効力を生ずる旨規定し(民法739条1項)、そのような法律上の婚姻をした当事者の一方を「配偶者」と規定していること(民法725条、732条、744条2項、751条、770条1項等参照)などからすると、相続税法1条の2第1項1号の「配偶者」も、納税義務者と法律上の婚姻関係にある者に限られると解するのが相当である(このことは、同法38条1項が委任する相続税法施行令12条1項2号が「その者及びその者と生計を一にする配偶者その他の親族〔その者と婚姻の届出をして
いないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者及び当該事情にある者の親族を含む。〕」と規定し、「配偶者」に内縁関係を含めていないものと解されることの反対解釈からも導くことができる。)。
そうすると、本件において、???が原告と法律上の婚姻関係にある者ではない以上、相続税法21条の3第1項2号が適用されるものとはいえない。


(2) なお、相続税法21条の3第1項2号は、扶養義務者相互間において生活費又は教育費に充てるためにした贈与により取得した財産のうち通常必要と認められるものを非課税財産とするところ、本件各金員(原告???銀行口座に対する入金を除く。) の使途には、前記2で説示したとおり、???が扶養義務を負わない???や???(前提事実(1)イ、認定事実(1)イ) の教育費等も含まれる上、原告は、本件各年分当時における収入がない原告と(前提事実(1)ア)収入に関する資料のない???間における生活費又は教育費に充てるためにした贈与により取得した財産のうち、通常必要と認められる範囲がどのようなものなのかについて、具体的な主張も立証もしていない。


(3) したがって、いずれにしても、???から原告に対する贈与につき、相続税法21条の3第1項2号が適用されるとする原告の主張を採用することはできない。」


結論

以上のとおり、本判決は、原告名義口座に入金された金員については、原則として贈与税の課税対象となるとしつつも、相手方自身の債務履行に充てられた賃料相当分については贈与に当たらないと判断しました。

ただし、控訴審では、国が全面敗訴になりました。

二審・東京高裁令和6年12月12日判決

結論


・原判決を変更。
・沼津税務署長が控訴人に対して行った【平成24年分~平成29年分】の贈与税の各決定処分および無申告加算税の各賦課決定処分を、いずれも取り消した。
・訴訟費用は第1審・第2審とも被控訴人(国)が負担。

当審の審理対象(控訴審で問題となった範囲)

当審では、原審が課税価格から除いた住居賃料相当額部分を除く「残りの本件各金員」を贈与税の課税財産とできるか(=贈与か、婚姻費用か)が中心。

被控訴人(国・税務署側)の主張の要旨

・夫婦(内縁を含む)間の財産移転が婚姻費用の履行か贈与かは、具体的事情(経緯、資力、認識、使途等)で判断すべき。
・【重要】夫婦等の密接な関係では租税回避のおそれもあるので、婚姻費用の履行と認めるには「内縁関係の成立」+「義務を負うこと」+「範囲内の額」+「実際に履行として移転したことを認めるに足りる特別な事情」が必要。
・本件では内縁関係自体が疑わしい(共同生活の客観的裏付け等が乏しい)。仮に内縁関係があっても、入金が不定期・不定額、理由不明、使途も生活費といえないものが多いから婚姻費用とはいえず贈与だ。

控訴人の主張の要旨

・内縁にも婚姻費用分担義務(民法760条の準用)が及び、婚姻費用は衣食住に限らず医療費・娯楽費・交際費・老後の準備・未成熟子の養育費や教育費まで含み得る。
・婚姻費用かどうかは、本来は夫婦間合意の内容などの事実認定の問題で、「租税回避」一般論から「特別の事情」を要求すべきではない。
・本件各金員は、生活費・教育費・住居関連費・旅行費等に充てられており、(相手方男性)の資産規模から見れば不相当に高額ではなく、合意に基づく婚姻費用分担の履行である。

当裁判所の判断

原審と異なり、控訴人の請求は【全面的に理由がある】として、各処分は取り消すべきと判断。

内縁関係の成否(前提判断)

・内縁成立には「婚姻の意思(社会通念上の夫婦になる意思)」と「夫婦共同生活(社会観念上夫婦共同生活といえる共同生活)」が必要。
・写真・手紙等や関係者の供述、生活実態等から、控訴人と(相手方)に婚姻意思と共同生活があったと認め、内縁関係にあったと判断。

婚姻費用の範囲(何が「婚姻費用」になり得るか)

・内縁にも婚姻費用分担義務(民法760条)が準用される(最高裁昭和33年4月11日判決を引用)。
・婚姻費用は「夫婦及び末成熟子を含む婚姻共同生活を営む上で必要な一切の費用」であり、衣食住だけでなく、医療費・娯楽費・交際費・老後準備、未成熟子の養育費・教育費まで含み得る。
・連れ子や未認知の子について、法律上の扶養義務がない場合でも、夫婦の収入・資産に照らし、夫婦間の合意に基づく「共同生活に必要な費用」として婚姻費用に当たり得る。

贈与か婚姻費用かの判断枠組み

・書面合意がないことも多いので、財産移転の経緯、額・頻度、各当事者の収入・資力、認識、移転後の使途等を総合して判断するのが相当。
・国側が主張する「特別の事情」要件については、一般的に租税回避の危険があること自体は考慮しつつも、結局は個別具体的事情(資産との対比・移転の内実)で判断し、外形上は婚姻費用でも【不相当に過大】又は【目的外】なら贈与に当たる、という形で整理。

本件各金員への当てはめ(重要:金額・使途・資産との対比)

・本件各金員は、各年で多額(平成24年3890万円、平成25年2942万3341円、平成26年3366万円、平成27年1673万円、平成28年3734万円、平成29年3008万円、合計1億8613万3341円)で、一般的な婚姻費用として高額であることは否めない。
・しかし、控訴人は無収入であり、(相手方男性)は少なくとも50億円超の資産を有する旨の供述等も踏まえ、資産規模との対比から直ちに「不相当に過大」とはいえない。
・入金は毎月ではないが、1か月~数か月単位でまとまって定期的に行われ、使途も生活費・教育費・旅行費・クレジットカード支払等として相当程度具体的に認定された。
・これらの支出は、夫婦の資産状況等により定まる暮らし振りに照らし、婚姻費用の概念から「格別に外れる」とはいえない。
・さらに、支出合計が本件各金員合計と近似し、全体として生活費・養育費等の支出にとどまることから、夫婦間合意に基づく婚姻費用として支払われたと認めるのが相当。

結論

・本件各金員は、(相手方)から控訴人に対する【合意に基づく婚姻費用分担義務の履行】として支払われたもので、贈与により取得した財産とは認められない。
・したがって、贈与を前提にした各処分は違法であり、取り消されるべき。

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